魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第49陣魔法使いの追憶 桜の章

 手遅れだった。

 もう少し早ければヒスイ様を助けられた。

 それなのに、今彼は大きな怪我を負って、今私の目の前で眠っている。

「ヒスイ様、一体何が……」

 彼が倒れていた周辺に敵軍がいた気配はしたかった。誰かが通ったような形跡すらも。

 一体あの場で何が起きたのか?

 そして何故彼は姿を消していたのか?

 謎ばかりが残っていた。

「ノブナガ様、サクラギヒスイの容態の方は」

 目を覚ましてくれるその時を待っていると、ミツヒデが部屋に入ってくる。何だかんだで彼女も彼のことを心配していたのだろう。

「未だ目を覚ます様子はありません。かなり傷が深いせいだと思います」

「そうですか。でもノブナガ様もそろそろ寝ないと、体調を崩してしまわれますよ?」

「心配してくれてありがとうミツヒデ。でも私は大丈夫ですから」

「無理だけはしないでください」

 そう言ってミツヒデは部屋から出て行く。彼女には城の警備を任せてあるので、多少私が無理しても大丈夫のはず。だから私は、全てを任せてひたすら彼が目を覚ますのを祈り続けていた。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
『忘れないでサッキー……。私はいつでも……』

 どうしても思い出せない。サクラの偽物が言っていた言葉の意味が示すものを。でもあくまであれは、あいつが見せた幻みたいなもので、それが本当なのかは定かではない。

 それなのに俺は……。

(サクラ! どこにいるんだ、サクラ!)

 彼女をひたすら求め続けていた。アテも何もないけど、いつかもう一度会えるのではないかと、彼女を追い求めていた。

 だからあの頃の夢を見た。

 だから俺は、あそこでサクラの幻を見た。

 だから俺は……。

 俺の事情を全く知らないはずの、今川義元に騙された。

 何故彼女はあの場にいたのか?

 何故彼女は知らないはずのサクラの幻を出せたのか? そしてどうやってあの空間を作り出したのか?

 この時代の深まる謎と何か関係しているならば、恐らく彼女は只者ではない。

(誰かその答えを……)

 教えてほしい!

『教えてあげるよ』

「え?!」

 誰かが俺の言葉に対して、返事をしたような気がする。だが目を開いた先に俺を待っていたのは、

「あれ? ここは?」

 俺がかつて旅した異世界、ディリアモンデだった。

「な、何で?」

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 本来目を覚ましたなら、ここではなく戦国時代のはず。それなのに何故今俺はディリアモンデにいるんだ? いや、戦国時代にいることも本来は変なんだけど。

「しかもここって……」

 今俺が立っているこの場所に見覚えがあった。ここは全ての終わりを告げたあの場所。サクラが俺を庇って、倒れたあの場所。

『何でだよ、何で俺なんかを庇ったんだよ……サクラ!』

 そして目の前では、思い出してくないあの忌まわしき記憶が再生されている。

(何で今こんな物を……)

 思い出したって何も得にならない。ただ苦しくなるだけ。

『どうして……かな。体が勝手に……動いちゃってた』

『だからって、こんな俺のために命を張る必要なんてないのに……』


 そう、こんな俺なんかのために、英雄が命を張る必要なんてなかった。

 彼女は世界を救った英雄。

 俺はそれを支えただけの魔法使い。

 どちらの命が大切なのか? そんなの言わなくても分かる。それなのに彼女は、俺の命を守った。

『サッキーの……命だから守ったんだよ……』

『え?』

『サッキーは……私にとって大切な存在……だから守ったの……。それにサッキーには帰る世界がある……でしょ?』

『確かに俺にはある。だけどお前にだってあるだろ!』

 どんどん声が弱々しくなるサクラに、その時の俺は号泣しながら叫んでいた。

 そして今の俺も……。

『私には……帰る場所……ないからいいの。ここだけが帰る場所……だったから……』


『どういう意味だよ、それは』

『私にとって……皆が家族だった……。そしてサッキーは……その中でも一番大切な……人だった……』

『それは俺も一緒だ。だからお前がいなくなるのは、考えられないんだよ。頼むから……死なないでくれ、サクラ!』


『大丈夫……。サッキーの側に私はずっといるから。だからこれは……おまじない……』

 その言葉とともに、サクラは弱い力で俺にキスをしてきた。

 それは愛しい人からの最初で最後のキス。

 それは彼女が俺にかけた、小さなおまじないの魔法だった。

『ありがとう……サッキー……』

 そして彼女は、笑顔で最後にそう言って力尽きた。俺の腕の中で。

『サク……ラ?』

 その瞬間、全てが終わりを告げた。

 一つの命を引き換えに。

(そうか、思い出した……)

 忘れようとしても、忘れられなかった。毎晩のようにあの頃の夢を見せさせられ、俺が異世界にいたことを忘れないようにされていた。だからこの二年間、一度も記憶からあの異世界での出来事が消えることはなかった。

 楽しい思い出。

 悲しい思い出。

 全てを忘れられなかった。

 それは何故か。

『やっと思い出してくれたんだね、サッキー』

「ああ。思い出したよ」

 彼女が全てを忘れないように、おまじないの魔法をかけてくれていたから。そして、

「今度こそ本物なんだよな、サクラ」

『うん……』

 姿形が見えなくても、彼女がずっと側にいてくれたから。

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