魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した
第71陣果てしない約束
目覚めは悪くはなかった。ただ、この部屋で朝を迎えるのも今日が最後かと考えると、少しだけ寂しさを感じる。
「ふわぁ、おはよう」
「おはようございます、ヒスイ様」
「お、おはようヒスイ」
「おはようございますぅ」
今日は珍しく朝から全員が集まっていた。ただ一人、ヒデヨシだけは除いて。
「ヒデヨシがいないみたいですけど、まだ起きてないんですか?」
「それが朝起こしに行ったら、既にいなかったみたいなんですよ」
「朝からどこかへ出かけるような奴じゃないのに、どうしたんだろ」
まさかのヒデヨシの行方不明に俺は動揺を隠せない。こんな大事な日に何やっているんだヒデヨシは。
「お姉様の事は私に任せてもらえない?」
そんなヒデヨシを探そうと一番に名乗り上げたのはネネだった。何か心当たりでもあるのだろうか?
「本当はあんたの為なんかに動くのは少し癪だけど、このままだとお姉様はきっと後悔すると思うから。だから私に任せてもらえないかしら」
一々棘のある言い方だが、やはりネネは一番にヒデヨシの事を思っているからこそ、こういう行動に移せるのかもしれない。
(やっぱり仲良しだよな二人は)
「じゃあ頼んだぞネネ」
「あんた何かに頼まれなくても、やるわよ」
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
とりあえずヒデヨシの事はネネに任せる事にして、朝食を済ませた俺は、帰り支度(とは言っても何も持ってきていないのだが)をしていた。
「ヒスイ、入りますよ」
大方片付けや準備を済ました頃、タイミングを見計らったかの様に師匠が俺の部屋を訪ねてきた。
「どうしたんですか師匠。準備とかなら終わりましたけど」
「一応確認だけしに来たんですよ。ヒスイの準備は終わっているのかって」
「いや、だから終わっているって言ったじゃないですか」
「私は心の準備について尋ねているんですよ」
「心の準備?」
この世界から離れる事に対しての事だろうか? それならもう俺は出来ているのだけど。
「この世界から離れる事に対してではありません。あなたがもう一度私達の世界へ来るという事に対しての心の準備です」
「え? それって別に心の準備が必要な事ではないかと……」
別に魔力を回復させて、元の体に戻る為に行くだけだし、それに対しての準備は必要はないと俺は思うのだけれど。
「いいですかヒスイ、今からあなたが私達の世界へやって来るという事はですね……」
だがその次に彼女の口から語られたのは、俺の一種の覚悟が必要になるものであった。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
そしてついに迎えた最後の時間。先程の話で俺はかなり迷う事になってしまったけれど、最終的には一つの大きな決意として固まった。だからもう、心の準備も含めて全ての準備が整った。
「こちらの準備も整いました。あとはその時間まで皆さんと話すだけ話していてください」
あちらの世界への転送として用意された魔法陣(転移魔法の一種なのだろうか)は、全ての始まりとなったあの場所にあった。
「いよいよ、ですねヒスイ様」
「はい。ノブナガさん」
そしてその場所に集まったのは織田軍の面々。ただしその中にネネとヒデヨシの姿は見当たらない。
「寂しいですよぉ、ヒスイさぁん」
珍しくリキュウさんは号泣している。まさかここまで泣かれるとは思っていなかったので、俺は涙もらいしそうになる。
「泣くなよリキュウさん。俺まで悲しくなるからさ」
「でもぉ、ヒスイさぁんがぁいなくなるとぉ、私のぉお茶を毒味……飲んでくれる人がいないんですよぉ」
「今明らかに毒味って言ったよね? せっかくの感動が台無しだよ!」
そんなやり取りを見ていた他の人達から、笑いが込み上がる。これで少しは湿っぽさがなくなったのかな?
「もう最後の最後までおかしなやり取りしないでくださいよ、ヒスイ様」
「そう思うならノブナガさんがお茶を飲めばいいじゃないですか」
「それは嫌です。大将の権限としてらヒスイ様には一生リキュウさんのお茶を飲んでもらいます」
「まさかの職権乱用ですか?!」
少しずつ場が和み始める。だがもうその時間も残されてはいない。
「ヒスイ、そろそろ行きますよ」
「え、あ、でも……」
ついに師匠にそう言われ、俺は少しだけ戸惑ってしまう。このまま帰るのはいい、だけど、
「ヒッシー!!」
だけど……。
「ヒデヨシさん?! よかった、来てくれたんですね」
こいつが来ないと、帰ろうにも帰れないだろう。
「馬鹿野郎、遅いぞヒデヨシ」
「ごめんねヒッシー。私……」
俺の前までやって来たヒデヨシが何かを言おうとしているが、なかなか言い出せない。そんな彼女の頭に俺は手を置いて、こう一言だけ言った。
「ありがとうな、ヒデヨシ」
そして俺は皆に背を向けた。もうこれで思い残すことはない。
「じゃあ行きましょうか、ヒスイ」
「はい。師匠」
後ろから沢山俺を呼ぶ声が聞こえる。それでも俺は、もう……もう……。
「ヒスイ様! 絶対帰ってきてくださいね!」
その中でハッキリとしたノブナガさんの声が聞こえてくる。そうか、絶対帰ってくるんだよな俺、この世界に。たとえリスクを背負う事になったとしても、もう一度この世界に帰ってくるんだよな。
だったら、最後に一言だけ。
「ノブナガさん、ヒデヨシ、リキュウさん、ネネ。そして、皆。行ってきます!」
それは必ず帰ってくるという意を込めた一言。そしてここで会った沢山の人達への、一時的な別れを告げる最後の言葉だった。
(いつか必ず戻ってくるから、その時まで)
さようなら、戦国の乙女達、
第一部 完
そして時は少し過ぎて。
「そういえば桜、お前が手に持っているその勾玉ってさ」
師匠のおかげで自分のあるべき場所へと戻ってきた俺が、高校の同級生の日向桜があの勾玉を持っていることに気がついたのはあれから約一年が経った頃だった。何故今まで気がつかなかったのか少し不思議だが、その勾玉はどこか見覚えがあった。
「あ、これ? これはね」
桜がそれについて説明をしようとしたその直後、その異変は起きた。
「な、何だ?」
突然勾玉が発光するなり、周囲を光で包み込んだ。
「桜!」
「翡翠!」
俺は彼女が離れない為に手を引こうとするが、その手は届かず……。
「嘘だろ、おい」
桜は俺の前から消えていった。もうすでに光を失った勾玉だけを残して……。
「この勾玉、まさか……」
かつてノブナガさんが、失くしたって言っていた物じゃ……。
(じゃあ桜は……)
もしかして、俺と同じようにあの世界へ?
To be continue……
「ふわぁ、おはよう」
「おはようございます、ヒスイ様」
「お、おはようヒスイ」
「おはようございますぅ」
今日は珍しく朝から全員が集まっていた。ただ一人、ヒデヨシだけは除いて。
「ヒデヨシがいないみたいですけど、まだ起きてないんですか?」
「それが朝起こしに行ったら、既にいなかったみたいなんですよ」
「朝からどこかへ出かけるような奴じゃないのに、どうしたんだろ」
まさかのヒデヨシの行方不明に俺は動揺を隠せない。こんな大事な日に何やっているんだヒデヨシは。
「お姉様の事は私に任せてもらえない?」
そんなヒデヨシを探そうと一番に名乗り上げたのはネネだった。何か心当たりでもあるのだろうか?
「本当はあんたの為なんかに動くのは少し癪だけど、このままだとお姉様はきっと後悔すると思うから。だから私に任せてもらえないかしら」
一々棘のある言い方だが、やはりネネは一番にヒデヨシの事を思っているからこそ、こういう行動に移せるのかもしれない。
(やっぱり仲良しだよな二人は)
「じゃあ頼んだぞネネ」
「あんた何かに頼まれなくても、やるわよ」
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
とりあえずヒデヨシの事はネネに任せる事にして、朝食を済ませた俺は、帰り支度(とは言っても何も持ってきていないのだが)をしていた。
「ヒスイ、入りますよ」
大方片付けや準備を済ました頃、タイミングを見計らったかの様に師匠が俺の部屋を訪ねてきた。
「どうしたんですか師匠。準備とかなら終わりましたけど」
「一応確認だけしに来たんですよ。ヒスイの準備は終わっているのかって」
「いや、だから終わっているって言ったじゃないですか」
「私は心の準備について尋ねているんですよ」
「心の準備?」
この世界から離れる事に対しての事だろうか? それならもう俺は出来ているのだけど。
「この世界から離れる事に対してではありません。あなたがもう一度私達の世界へ来るという事に対しての心の準備です」
「え? それって別に心の準備が必要な事ではないかと……」
別に魔力を回復させて、元の体に戻る為に行くだけだし、それに対しての準備は必要はないと俺は思うのだけれど。
「いいですかヒスイ、今からあなたが私達の世界へやって来るという事はですね……」
だがその次に彼女の口から語られたのは、俺の一種の覚悟が必要になるものであった。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
そしてついに迎えた最後の時間。先程の話で俺はかなり迷う事になってしまったけれど、最終的には一つの大きな決意として固まった。だからもう、心の準備も含めて全ての準備が整った。
「こちらの準備も整いました。あとはその時間まで皆さんと話すだけ話していてください」
あちらの世界への転送として用意された魔法陣(転移魔法の一種なのだろうか)は、全ての始まりとなったあの場所にあった。
「いよいよ、ですねヒスイ様」
「はい。ノブナガさん」
そしてその場所に集まったのは織田軍の面々。ただしその中にネネとヒデヨシの姿は見当たらない。
「寂しいですよぉ、ヒスイさぁん」
珍しくリキュウさんは号泣している。まさかここまで泣かれるとは思っていなかったので、俺は涙もらいしそうになる。
「泣くなよリキュウさん。俺まで悲しくなるからさ」
「でもぉ、ヒスイさぁんがぁいなくなるとぉ、私のぉお茶を毒味……飲んでくれる人がいないんですよぉ」
「今明らかに毒味って言ったよね? せっかくの感動が台無しだよ!」
そんなやり取りを見ていた他の人達から、笑いが込み上がる。これで少しは湿っぽさがなくなったのかな?
「もう最後の最後までおかしなやり取りしないでくださいよ、ヒスイ様」
「そう思うならノブナガさんがお茶を飲めばいいじゃないですか」
「それは嫌です。大将の権限としてらヒスイ様には一生リキュウさんのお茶を飲んでもらいます」
「まさかの職権乱用ですか?!」
少しずつ場が和み始める。だがもうその時間も残されてはいない。
「ヒスイ、そろそろ行きますよ」
「え、あ、でも……」
ついに師匠にそう言われ、俺は少しだけ戸惑ってしまう。このまま帰るのはいい、だけど、
「ヒッシー!!」
だけど……。
「ヒデヨシさん?! よかった、来てくれたんですね」
こいつが来ないと、帰ろうにも帰れないだろう。
「馬鹿野郎、遅いぞヒデヨシ」
「ごめんねヒッシー。私……」
俺の前までやって来たヒデヨシが何かを言おうとしているが、なかなか言い出せない。そんな彼女の頭に俺は手を置いて、こう一言だけ言った。
「ありがとうな、ヒデヨシ」
そして俺は皆に背を向けた。もうこれで思い残すことはない。
「じゃあ行きましょうか、ヒスイ」
「はい。師匠」
後ろから沢山俺を呼ぶ声が聞こえる。それでも俺は、もう……もう……。
「ヒスイ様! 絶対帰ってきてくださいね!」
その中でハッキリとしたノブナガさんの声が聞こえてくる。そうか、絶対帰ってくるんだよな俺、この世界に。たとえリスクを背負う事になったとしても、もう一度この世界に帰ってくるんだよな。
だったら、最後に一言だけ。
「ノブナガさん、ヒデヨシ、リキュウさん、ネネ。そして、皆。行ってきます!」
それは必ず帰ってくるという意を込めた一言。そしてここで会った沢山の人達への、一時的な別れを告げる最後の言葉だった。
(いつか必ず戻ってくるから、その時まで)
さようなら、戦国の乙女達、
第一部 完
そして時は少し過ぎて。
「そういえば桜、お前が手に持っているその勾玉ってさ」
師匠のおかげで自分のあるべき場所へと戻ってきた俺が、高校の同級生の日向桜があの勾玉を持っていることに気がついたのはあれから約一年が経った頃だった。何故今まで気がつかなかったのか少し不思議だが、その勾玉はどこか見覚えがあった。
「あ、これ? これはね」
桜がそれについて説明をしようとしたその直後、その異変は起きた。
「な、何だ?」
突然勾玉が発光するなり、周囲を光で包み込んだ。
「桜!」
「翡翠!」
俺は彼女が離れない為に手を引こうとするが、その手は届かず……。
「嘘だろ、おい」
桜は俺の前から消えていった。もうすでに光を失った勾玉だけを残して……。
「この勾玉、まさか……」
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