魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第74陣もう一度あの場所へ①

 桜の後を追うために、手がかりでもある勾玉を探し始めてはや二日。思い当たる場所は探し回ったのだが、結局何一つ手がかりを見つける事はできなかった。

(何でこういう時に限って、見つからないんだよ)

 たった一つの手がかりと言えるのものなのに、それを見つけ出せずにもどかしい日々だけが過ぎていく。桜の事もそうなのだが、ノブナガさん達との約束もある。何としても見つけなければ……。

『全く。他に頼るべき仲間がいるのを、忘れていませんか?』

 突然久しぶりに聞く声がどこからか聞こえてくる。この声は……。

「師匠?」

 何度も助けてもらった俺の恩人でもあり、師匠でもあるノア師匠の声だった。でもどうして急に?

『大切な弟子がまた困っているみたいなので、助けに来ました、というのは建前上ですけど。ヒスイも何かを感じ取っているのではないですか』


「何かって……。もしかして桜の事ですか?」

『そのサクラという方は私は存じませんが、異変は起きてしまったのですね?』

「はい。実は……」

 声は聞こえても、姿は見えない師匠に、ここまでの事と考えられるある可能性を話した。

『やはりそうでしたか』

 全て話した後、何かを予知していたかのようにそう答えた師匠。もしかして向こうでも何かが起きているのだろうか?

『正直なところヒスイが言っていることに、確実性な答えは出せません。ですが、再び異変が起こってしまったのは間違いではないかもしれません』

「でも、あいつは死んだはずでは?」

『本来なら倒したはずなんですよ。私もそれを目視していますから。ただ……』

「ただ?」

『私達の想像以上に、魔族というのは強力な蘇生力を持っているかもしれません』


「強力な……蘇生力?」

 師匠の話を聞いているうちに、頭が段々こんがらかってくる。でもあいつが生きていると仮定すれば、ここまでの事の辻妻が合ってしまう。

「じゃあやっぱりあいつは……」

『生きている可能性は非常に高いかもしれません』

 それは再び訪れる、悪夢の始まりでもあった。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 それが事実だとしたら、このまま無視することなんてできないので、どうにか出来ないかと俺は尋ねてみた。

『その為に再びヒスイの前に現れたんですけどね。ただ、それをするならいくつか条件があります』

「条件?」

『まずはもう一度私達の世界へやって来る事。そのゲートは私が繋ぎますから』

「分かりました」

 多少の遠回りになってしまうが、確実に向かえるなら少しだけ時間を使ってもいいと思う。

『次に二つ目、前回とは違って私は手助けに向かえません。今度はあなた自身で、最後の闇を払ってください』

「俺だけで、ですか」

『そんな不安がる必要なんてありませんよ。あなたには仲間がいるじゃないですか』

「でもノブナガさん達は……」

 先の戦いで俺逹はミツヒデを失いという大きな事件にあってしまった。ノブナガさんにとっても、俺や皆にとっても大切な仲間を失うという事は、かなり辛いものだった。
 それがもしもう一度起きてしまったら、と考えるとノブナガさん達に協力してもらう事は、気が引けてしまう。

『いいですか、ヒスイ。あなたが挑もうとしている相手は、一人で挑めるようなものではないんですよ? 逆にあなたが命を失ったら、皆が悲しんでしまいます。それでもいいのですか?』

「それは……」

『それも含めて三つ目の条件です。一年前のように過度な魔法を使いすぎると次何が起きるかわからないので、魔法の使用を禁止します』

「え?」

 その条件は予想外だった。確かに一年前は魔法の使いすぎで倒れてしまったけど、今回は魔法を使わないで済みそうな相手ではない。そうだと師匠だって分かっているはずなのにどうして……。

『詳しい理由については、こちらの世界に来てから説明します。以上のことを踏まえた上で、明日世界をつなげますので、それまでに覚悟をしておいてください』


「あ、ちょっと、師匠」

 色々聞きたいことがあったが、その前に師匠との会話が切れてしまった。彼女はどんな真意があって、今の三つの条件を出したのか、俺には分からない。
 魔法でしか挑めない相手に、どうして魔法の使用を禁止にするのか、本当は答えて欲しかった。一体何を彼女は隠しているのだろうか?

(とりあえず明日を待つしかないよな)

 師匠と話しているうちに、すっかり外は夜になってしまったので、明日の準備だけを整えて俺は早めに就寝する事にした。

◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 一方その頃、

「ヒスイ、ごめんなさい」

 翡翠との会話を切ったノアは一言そう謝罪を述べた。確かに魔法を一切使わないという条件は、かなり厳しい話だ。だけど彼には、魔法以上の力をあの世界で学んでいた。
 仲間を失うのだって、簡単な出来事ではない。ましてや好きな人ですら失っている彼にとっては、もう誰かを失うのは嫌なはずだ。だから一人で挑みたいという彼の気持ちも理解できる。

(でもそうしないと、あなたは……)

 大きなため息を吐いて空を見上げる。すっかり暗くなってしまった空には、綺麗な月だけが彼女を照らしていた。

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