魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第86陣時と時の狭間にて

 身体に痛みが走らない。死んだからなのだろうか?

(いやそれにしたって、瞼が軽い)

 一度閉じた目を開く。するとそこに待っていたのは、先程の剣。だけどそれは俺の目の前で止まったままだ。

「何が起きたんだ?」

 どうやら時間が止まっているらしく、マルガーテの動きも止まっていた。

「ようやくあなたに巡り合えました、光の魔法使いよ」

 どこからか聞いた事がない声が聞こえる。

「誰だ?」

「敵ではないのでご心配なく。ただ、あなたを助けるなら今しかないと思い、時を止めさせていただきました」

「時を止めるって、魔法が使えるのか?」

 未だに声しか聞こえない謎の存在。だが時を止められるほどの魔力を持っているという事は、かなりの実力を持ち主。俺も時間の概念を少しは動かせるものの、ここまでハッキリと人の動きを止める事はできない。

(敵でもなさそうだし、頼っても大丈夫かな)
 しかし一つ疑問なのは、それが何故今俺の目の前に現れたのか、そして何故俺を知っているのか。

「確かにこれは、あなたが言う魔法という力かもしれません。しかし私はこの力を天の力、天力と呼んでいます」

「てんりょく? 何だよそれ」

「実際使ってみればわかります。この力はあなたが使うに相応しい力。きっと使いこなせるでしょう」

「俺が使うに相応しいって、お前は一体何者なんだ」

「通りすがりの神様、とでもお呼びください。それでは」

 それを境に声は聞こえなくなった。

(一体何だったんだ今のは)
 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 ともあれ死を回避する事ができた俺は、何故か止まっている時間の中を動けるので、とりあえず目の前の刃をどこかへ捨てる。そこまではいいのだか、

(これどうやって戻すの?)

 時間の元の戻し方も教えてもらわずに、声は消え去ってしまったので、この後どうすればいいかを聞いていない。実際に使ってみれば分かるとは言っていたけど、どうするのだろう。

(とりあえず時よ戻れ!)

 当てずっぽうでそんな事を頭の中で考えてみる。特に呪文とか無さそうな説明のしかただったし、試せることは試してみる。すると、俺が思ったように時間が再び動き出した。

「あれ? 何であなた避けられているんですか?」

 マルガーテの第一声は、先程と違うことが起きていることに対する、当たり前の反応だった。

「残念だけどマルガーテ、俺だってこんな所で倒れたくないんだよ」

「束縛の魔法もかけたのに、これは予想外です。ざんねんですけど、ここは手放すしかないみたいですね」

 流石にこの展開は予想していなかったよか、この場から退こうとするマルガーテ。だがまたとないチャンスを俺は、逃さずにはいられない。

「師匠の仇、取らせてもらう」

 太刀を抜き、全力で斬りかかる。だがそれを、マルガーテは何と素手で受け止めた。

「なっ!」

「あなたが私に挑むにはまだ早いと、前にも言ったはずです」

 だが俺も、前のままではいない。もしその天力と言うのが、考えたことを具現化させる力なら、もう一撃いけるはずだ。

(この太刀を大きくしてくれ)

 そう考えた直後、太刀の大きさが倍増する。

「す、すげぇ」

「な、どうして突然そんな事が……」

「俺だっていつまでも弱いままじゃないんだよ!」

 倍近くの大きさになったそれは、マルガーテの手では抑えられるような大きさを超え、そして彼女の腕を切断した。

「きゃぁぁ!」

「悪いなマルガーテ、これで終わりだ」

 ここが好機と言わんばかりに、俺はもう一撃を加えようとする。だが決着がつかんとした途端、何故か俺の身体の動きが止まる。

「なーんてね、残念だけどあなたに私を倒す事はできません。何故なら……」

 そこからどんどん力が抜けていき、ついにその場でに膝をついてしまう。

「あなたにはもう一つ、特殊な魔法をかけさせてもらったからです。と言う事でさようなら」

「おい、待てマルガーテ!」

 あと一歩なのに、身体が動かない。何で……。

「ちくしょぉぉ!」

 俺の叫びも虚しく、マルガーテは目の前から消えていった。
 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 その後自力でノブナガさんの元に戻ろうとした俺だが、異空間から抜け出すとそこは全く知らない森の中だった。

「どこだここ?」

 どこかの領地であるのは確かだが、果たしてそこがどこなのかは分からない。

(マルガーテも逃したし、最悪だなおい)

 とりあえず歩き出す。しばらく歩けば誰かしらには会えると思ったが、場所が森なだけあって人の姿すら見えてこない。

(まずいな)

 ここがもし織田軍の領地でなければ、敵に遭遇してしまう可能性がある。ただでさえマルガーテとの戦いで疲弊しているのに、続けざまの戦いは勘弁してほしい。

「あれ? そこにいるのは……ヒスイ?」

 どこからか声が聞こえる。その声の主が誰なのかすぐに分かった俺は、とりあえず一安心。

「その声ネネか?」

「そうでですよ。お姉様から行方不明だって聞いていたんだけど、どうしてこんな所に?」

 木の上から姿を現わすネネ。

「マルガーテの手から逃げてきたんだよ。てか、そういうお前はどうしてここにいるんだよ」

「お姉様達があなたを探しているので、その手伝いを仕方なくしていたんです。でも、見つかったならよかったんですけど」

「けど?」

「今あなたを捜索中に面倒事に巻き込まれてしまいまして。大変不本意なんですけど、助けてくれませんか?」

「相変わらず一言多いな。まあ仲間だから当然助けるけど、何があった?」

「今私の元々住んでいた里の忍びに追われているんです。追っ手を払うのを手伝ってくれませんか?」

「忍の追っ手?」

 何でまたそんな面倒な事を、このタイミングで巻き込まれるんだよこいつ。
 だがネネに言われて改めて気づく。明らかにこちらに向けられた殺気が、近づいてきていることを。

「とりあえずここにいるのも危ないから逃げるぞ」

「は、はい」

 しかもその数はかなりのもの。これかなりマズイんじゃないのか?

(この殺気、かなりやばいぞ)

 とりあえず俺は、ネネを連れてその場から逃げることにした。

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