魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した
第109陣その想いは涙となりて
「見事に大きな穴が空いてしまいましたね」
「修繕もかなり厳しいですよねノブナガ様」
マルガーテの襲撃から二日後。私はヒデヨシさんと共にボロボロになってしまった安土城を回っていた。
「損害もかなり大きいですし、これだともう城としての機能も果たせないかもしれませんね」
「この後の事いかがなさいますかノブナガ様」
「しばらく考えさせてもらいます。それより気がかりなのは……」
「ヒッシーの事ですか?」
「はい……」
あれから二日も経っているのに、未だにヒスイ様は部屋に閉じこもっていた。ノアさんを自分の手で斬ってしまったことが余程彼にショックを与えてしまったらしく、何を言っても彼の耳には届かない。
(ヒスイ様が気に病む必要なんてないのに……)
当のノアさんはというと、リアラさんの治療もあって無事に回復している。失われた右腕には治療が施され、何かで巻かれている。
「でもノブナガ様、まだ戦いは終わってないんですよね」
「はい。マルガーテは傷を負ったまま逃走してしまったので」
「私、もうこんな戦いを続けるのは嫌です。普通の戦よりも、理不尽なくらいに人が傷つく。今回の戦いで平民の人達も怪我を負っています。このまま戦いを続けたら」
最近こんな戦いばかりが続いていることに、ついにヒデヨシさんも弱音が出てしまう。いつもなら我が強い子なのに、こんなにも不安を露わにする彼女を見るのは初めてだった。
(ヒデヨシさん……)
彼女が何を言いたいのかは私にも理解できる。けれど、このまま何もしないとかえって傷ついてしまうだけだ。
「ヒデヨシさんが不安な気持ちは理解できます。しかし、何もしなかったら意味がありません」
「そうですけど、もう私戦うのだけは」
「だから私決めました。ヒデヨシさん」
「何をですか?」
「次マルガーテの居場所が分かるか、もしくは襲撃してきた場合、こちらも総力戦で挑みます。あの傷ですからマルガーテもすぐには動けないでしょうから、こちらも万全の準備をして私達の未来を守りましょう」
「ノブナガ様……」
「勿論戦いたくなければ、私は無理に戦わせようとしません。それがその人の決意なら、私は止めません。たとえそれがヒデヨシさんであっても」
「私は……」
ヒデヨシさんはその後答えを出そうとはしなかった。今回の襲撃で、多くの人が傷ついた事に彼女は心を痛めているのかもしれない。それは勿論私もだ。
だから次で全てを終わらせる。たとえこの命が果てようとも、必ずマルガーテを倒す。それが私の決意だった。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
誰が悪いとかないのは分かっている。
俺もいつまでもグダグダ言っている場合ではないのも分かっている。
ノブナガさん達にも迷惑かけているのが分かっている。
だけど俺は、未だに外へ出る事が怖いままだった。外で師匠と会えば、罪悪感だって沸くし、顔だって合わせられない。それがただ俺は怖かった。
(俺はこの後どうすれば……)
マルガーテを倒す事が優先なのは理解している。でももし、また同じ事が起きたらって思うと、身体が震える。
今度は師匠ではなかったら、俺はどうなる。
もし、ノブナガさんだったら?
もし、桜だったら? 
まだ右腕だけで済んだけど、今度はその命を奪ってしまったら俺は……。
「ヒスイ、いつまで部屋でこもっているつもりですか?」
「その声は師匠ですか?」
そんな葛藤ばかり続けていると、部屋の外から師匠の声が聞こえる。こうして声を聞くのは、あの戦い以来だ。
「皆さんが心配していますよ」
「それは分かっているんです。でも俺、師匠に合わせる顔がなくて……」
「ヒスイは何も悪くありません。いずれにせよ私は亡くなる身だったのですから、腕の一本くらい平気ですよ」
「そんな事言わないでください! 片腕だけじゃ魔法もろくに使えないじゃないですか」
「確かに魔法の威力は弱まりますけど、ただそれだけの話じゃないですか」
「それだけって……。俺はこんな事をするためにここまで来たんじゃないんです。どうして師匠が傷つかなければいかないんですか。だったら俺の方が」
「ヒスイ!」
突如声を上げる師匠。俺は思わず驚いてしまう。
「あなたが弱気になってどうするんですか! 私はそんな風になる為にあなたに魔法を教えたんじゃないんですよ」
「誰かを守る為に、ですよ。でも俺は、師匠に教えてもらってからろくに誰かを守れた記憶がないんですよ。サクラもミツヒデも、師匠のその腕も……。俺は何一つ魔法使いとして仕事ができてないんですよ」
「それでもあなたのおかげで救えた命だってあるじゃないですか!」
その言葉と共に扉が開かれる。開かないようにしておいたのに破られてしまっらしい。部屋に入った師匠は、俺の元へとやって来ると、俺を強く抱きしめた。だけど右腕は包帯か何かで巻かれていて、抱きしめたのは左手のみ。
「師匠、俺は……」
「もしあなたがいなければ、今この世界は存在していないかもしれないんですよ。それだけでも充分命を救ったじゃないですか」
「でも、俺が来なければこの世界はここまで来る事はなかった。こうなったのは俺のせいでもあるんですよ」
「だったらその分魔法で取り返せばいいじゃないですか。私も勿論力になりますから」
「師匠……」
目頭が熱くなる。師匠だって本当は右腕を失って辛いのに、どうして彼女はここまで優しくできるのだろうか。俺なんてこんなに挫けそうなのに……。
(俺なんか全然強くないですよ……)
涙が溢れる。何もかもが悔しくて、それが涙となって流れる。それを師匠はいつまでも強く受け止めてくれていた。
「あの時本当は言いたかったんですけど、今この言葉をあなたに贈ります」
少しして、俺の身体を離した師匠は突然そんな事を言い出した。
「何ですか?」
「ヒスイ、私はあなたの師匠になれて誇りに思います。だからこそ、この想いも強いんです」
「想い?」
「私はヒスイを、弟子としてではなく一人の人として好きです。戦いが終わった後でも、私と一緒にいてくれませんか?」
師匠から、いやノアさんから俺に贈られた言葉は、師弟としてではなく、一人の人として贈る思わぬ愛の言葉だった。
「えぇ、えぇぇぇ!」
三つ世界を股にかけた俺の物語は、いよいよ終盤へと走り始める。
「修繕もかなり厳しいですよねノブナガ様」
マルガーテの襲撃から二日後。私はヒデヨシさんと共にボロボロになってしまった安土城を回っていた。
「損害もかなり大きいですし、これだともう城としての機能も果たせないかもしれませんね」
「この後の事いかがなさいますかノブナガ様」
「しばらく考えさせてもらいます。それより気がかりなのは……」
「ヒッシーの事ですか?」
「はい……」
あれから二日も経っているのに、未だにヒスイ様は部屋に閉じこもっていた。ノアさんを自分の手で斬ってしまったことが余程彼にショックを与えてしまったらしく、何を言っても彼の耳には届かない。
(ヒスイ様が気に病む必要なんてないのに……)
当のノアさんはというと、リアラさんの治療もあって無事に回復している。失われた右腕には治療が施され、何かで巻かれている。
「でもノブナガ様、まだ戦いは終わってないんですよね」
「はい。マルガーテは傷を負ったまま逃走してしまったので」
「私、もうこんな戦いを続けるのは嫌です。普通の戦よりも、理不尽なくらいに人が傷つく。今回の戦いで平民の人達も怪我を負っています。このまま戦いを続けたら」
最近こんな戦いばかりが続いていることに、ついにヒデヨシさんも弱音が出てしまう。いつもなら我が強い子なのに、こんなにも不安を露わにする彼女を見るのは初めてだった。
(ヒデヨシさん……)
彼女が何を言いたいのかは私にも理解できる。けれど、このまま何もしないとかえって傷ついてしまうだけだ。
「ヒデヨシさんが不安な気持ちは理解できます。しかし、何もしなかったら意味がありません」
「そうですけど、もう私戦うのだけは」
「だから私決めました。ヒデヨシさん」
「何をですか?」
「次マルガーテの居場所が分かるか、もしくは襲撃してきた場合、こちらも総力戦で挑みます。あの傷ですからマルガーテもすぐには動けないでしょうから、こちらも万全の準備をして私達の未来を守りましょう」
「ノブナガ様……」
「勿論戦いたくなければ、私は無理に戦わせようとしません。それがその人の決意なら、私は止めません。たとえそれがヒデヨシさんであっても」
「私は……」
ヒデヨシさんはその後答えを出そうとはしなかった。今回の襲撃で、多くの人が傷ついた事に彼女は心を痛めているのかもしれない。それは勿論私もだ。
だから次で全てを終わらせる。たとえこの命が果てようとも、必ずマルガーテを倒す。それが私の決意だった。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
誰が悪いとかないのは分かっている。
俺もいつまでもグダグダ言っている場合ではないのも分かっている。
ノブナガさん達にも迷惑かけているのが分かっている。
だけど俺は、未だに外へ出る事が怖いままだった。外で師匠と会えば、罪悪感だって沸くし、顔だって合わせられない。それがただ俺は怖かった。
(俺はこの後どうすれば……)
マルガーテを倒す事が優先なのは理解している。でももし、また同じ事が起きたらって思うと、身体が震える。
今度は師匠ではなかったら、俺はどうなる。
もし、ノブナガさんだったら?
もし、桜だったら? 
まだ右腕だけで済んだけど、今度はその命を奪ってしまったら俺は……。
「ヒスイ、いつまで部屋でこもっているつもりですか?」
「その声は師匠ですか?」
そんな葛藤ばかり続けていると、部屋の外から師匠の声が聞こえる。こうして声を聞くのは、あの戦い以来だ。
「皆さんが心配していますよ」
「それは分かっているんです。でも俺、師匠に合わせる顔がなくて……」
「ヒスイは何も悪くありません。いずれにせよ私は亡くなる身だったのですから、腕の一本くらい平気ですよ」
「そんな事言わないでください! 片腕だけじゃ魔法もろくに使えないじゃないですか」
「確かに魔法の威力は弱まりますけど、ただそれだけの話じゃないですか」
「それだけって……。俺はこんな事をするためにここまで来たんじゃないんです。どうして師匠が傷つかなければいかないんですか。だったら俺の方が」
「ヒスイ!」
突如声を上げる師匠。俺は思わず驚いてしまう。
「あなたが弱気になってどうするんですか! 私はそんな風になる為にあなたに魔法を教えたんじゃないんですよ」
「誰かを守る為に、ですよ。でも俺は、師匠に教えてもらってからろくに誰かを守れた記憶がないんですよ。サクラもミツヒデも、師匠のその腕も……。俺は何一つ魔法使いとして仕事ができてないんですよ」
「それでもあなたのおかげで救えた命だってあるじゃないですか!」
その言葉と共に扉が開かれる。開かないようにしておいたのに破られてしまっらしい。部屋に入った師匠は、俺の元へとやって来ると、俺を強く抱きしめた。だけど右腕は包帯か何かで巻かれていて、抱きしめたのは左手のみ。
「師匠、俺は……」
「もしあなたがいなければ、今この世界は存在していないかもしれないんですよ。それだけでも充分命を救ったじゃないですか」
「でも、俺が来なければこの世界はここまで来る事はなかった。こうなったのは俺のせいでもあるんですよ」
「だったらその分魔法で取り返せばいいじゃないですか。私も勿論力になりますから」
「師匠……」
目頭が熱くなる。師匠だって本当は右腕を失って辛いのに、どうして彼女はここまで優しくできるのだろうか。俺なんてこんなに挫けそうなのに……。
(俺なんか全然強くないですよ……)
涙が溢れる。何もかもが悔しくて、それが涙となって流れる。それを師匠はいつまでも強く受け止めてくれていた。
「あの時本当は言いたかったんですけど、今この言葉をあなたに贈ります」
少しして、俺の身体を離した師匠は突然そんな事を言い出した。
「何ですか?」
「ヒスイ、私はあなたの師匠になれて誇りに思います。だからこそ、この想いも強いんです」
「想い?」
「私はヒスイを、弟子としてではなく一人の人として好きです。戦いが終わった後でも、私と一緒にいてくれませんか?」
師匠から、いやノアさんから俺に贈られた言葉は、師弟としてではなく、一人の人として贈る思わぬ愛の言葉だった。
「えぇ、えぇぇぇ!」
三つ世界を股にかけた俺の物語は、いよいよ終盤へと走り始める。
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