最も美しい楽器とは……
丹生雅臣の挑戦と、一条那岐の成長。
声優の仕事を始め、最初はぽっと出の新人に大仕事がぁぁと思っていたのだが、元々慌ててどうなるものでもないと分かりきっていた為に、
「まぁ、事務所から貰えるのをありがたいと思おう」
とこなしていった。
本名の一条雅臣で、デビューしようかと思ったのだが、
「『一条』と言うのは何人かいるからね。もっと目立つ名前の方がいいかもしれないね」
と先輩に言われ、しばらく考え込み、
「じゃぁ、丹生雅臣はどうでしょうか?」
「にゅう?」
「丹頂鶴の丹に生きるで丹生。丹生などとも呼ばれます。俺の旧姓なんです」
「……嫌そうだけど?」
「いえ、普段は本名で、声優としては丹生雅臣としてやります。でも、会社には迷惑をかけることがあるかもしれませんが、よろしくお願い致します」
と伝えた。
すると、何かあったようだが、雅臣の元には届かなかった。
のだが、デビューが18歳で、当たり役があの清廉実直なウェインの声である為に、動きが取れない……もどかしさもあった。
そんな時に、最近ではツイッターやFacebook、Instagramなどが多いが、雅臣宛に手紙が届いた。
小学生位だろうか、女の子の可愛いレターセットである。
自分にこの封筒……?
と思いながら開けると、
『丹生雅臣さま
初めまして。私は結城 瞬と言います。瞬と書いて、まどかと読みます。
お父さんが前に、映画の『封神演義』を見せてくれました。何人もの人に変身する楊戩の声は、みんな、それぞれの声優さんかと思っていたのですが、丹生さんがほぼ一人で演じられたと聞いてびっくりしました。それに、お母さんが大好きな『アーサー王物語』のランスロットも丹生さんだと聞いて、大ファンになりました。
でも、丹生さんの演じられるのは小学6年生の私には、ちょっと難しいです。
丹生さんの声を色々なところで聞きたいです。
私は丹生さんが大好きです。
これからも、丹生さん、風邪とか怪我とかされずに元気で声を聞かせてください。
まどか』
一所懸命難しい漢字も書いてあり、本当に可愛らしく、その上真剣なのだなぁ……と見入っていると、後輩の高凪光流が、
「どうしたんですか?臣さん」
「いや……ファンレター」
「ファンレター……可愛いファンレターですね〜。最近珍しい。僕の所なんて、LINEは友人でも怖い、手紙も結構きつい……どんな内容ですか?」
「小学校の子だけど、両親の影響で俺の出ているDVDを見たらしい。でも、俺が出ているのは難しい内容が多いだろう?自分の分かるような所で聞きたいって……うーん……そうだなぁ……」
雅臣は考えるのだった。
そして、相談すると、
「うーん、アニメは難しいよ。ゲームのキャラはどうだい」
と言われ、光流が、
「でも、その方がいいんじゃない?臣さん。ドラマCDだとちょっとねぇ……」
苦笑する。
「その女の子の夢を壊すよ?」
「でも、この声だが……」
「ゲームなら幾つか決まってないのならすぐにあるよ。声を当てて見たらどうだい」
と渡されたのは、一つは17歳の少年の声。
のんびりとした主人公らしくない小柄でドジな男の子。
そして、男装の戦士……こちらは20代前半で、サバサバした姉御タイプ。
「……良いんですか?俺、もう、おっさんですけど。ちなみに甥たち……このファンの瞬ちゃんより年上。夢を壊したらどうしよう」
「七色の声で対処すれば良いんだよ。ほら行ってきな」
「あぁ、臣さんの封印してきた声が公開されちゃう〜」
「公開処刑か!光流。覚えてろ」
と、資料と台本を手にして、家に帰ったのだった。
そして、次々と発売されたゲームは、
「えぇぇ!この主人公の声、本当にあの臣さまの声〜?」
「信じらんない!でも、ドジだけど、やる時にはやる……かっこかわいい!臣さま素敵だわ!」
「それに、この戦士って女の人が当ててるんじゃないの?」
「ううん、本物よ!だって、初回限定版のアテレコ場面で、『……これで良いですか〜?もう少し、高い声がいいですか?』って」
「いやぁぁ、素敵!」
とファン層が広がり、瞬の元にはサインとともに、
『瞬ちゃんへ
お手紙ありがとう。
君のくれた手紙で僕にも色々な役、声にチャレンジしたいと思えるようになりました。
君のおかげです。
これからも応援してください。
丹生雅臣』
と手紙と、特別に焼いてもらったアテレコシーンと、メッセージのDVDが贈られた。
瞬は大喜びし、
『丹生雅臣さま
本当に、本当にありがとうございます。
丹生さんの声がたくさん聞けて、とても嬉しいです。
これからも丹生さんのファンの一人として、応援してます。
一生宝物にします。
結城瞬』
と返し、不定期ではあるのだが、文通をするようになったのは別の話。
そして、高校を卒業した下の甥が、突然田舎から出て来た。
「おーい!叔父貴!」
「叔父貴言うな。全く、突然どうしたんだ?」
「へぇ、臣さんの甥っ子?」
付いて来ていた光流がキョトンとする。
「あぁ、下の甥。上の甥は近畿の医大生。コイツは小さい頃からヤンチャなんだ。兄さんや姉さんに聞いてないけど、どうしたんだ?那岐」
「ん?親父に追い出された〜。叔父貴〜。親父に無理やり猟銃免許取らされてさぁ?『お前は風早のように賢くないし、穐斗のように不器用でも真面目に努力もできない。二つに一つ!ここで猟師になるか、農家しろ!』だって……嫌だっつうの!あんな田舎」
雅臣は、まだ結婚しておらず、そんなに大きなマンションには住んでいない。
しかし、田舎暮らしもいいなぁと思っているのだが、実家の両親も今は孫のいる関西に転居している。
「で、俺の家に居候か?」
「お願い!ね?」
「って、仕事や学校も行かず、だらだらさせてたら、兄さんと姉さんが泣くわ!あの二人の息子が!」
「あの二人の息子?」
「本当にこい!」
甥を引っ張り、歩きながら、答える。
「コイツ、一条那岐。18歳。母親が『日向糺』。俺の姉。父親が『糺日向』ほら、少しヨーロッパ風のゲームやアニメで使われている読本、あるだろう?あれ、兄の。二人の次男なんだが……本当に、姉に似たのか突拍子も無い……」
「えーと、一条……って事は、姓は……」
「ん?言ってなかったか?光流。俺の旧姓が丹生。姉も丹生糺が旧姓。兄さんと結婚したんだ。で、俺は、兄さんの両親が養子にしてくれたんだ」
「はぁ……大変な」
「姉と兄が駆け落ちしたんだ。で、俺は実家で。後で、両親が、当時は兄達とまだ連絡がつかなくて、跡取りのいない一条家に養子にと言ってくれたんだ。後で姉達と再会した時は、確か、那岐は生まれてなかったな。風早がニコニコキャハキャハ笑ってた……風早は可愛かった、うん」
思い出す雅臣に、
「風早?名前?」
「そう。那岐の二つ上の兄。風が早いと書くんだ。確か地名で、綺麗な名前だとつけたらしい。それに、姉さんが姉のように慕う兄の悪友の奥さんが、風に遊ぶで風遊さんと言うんだ」
「へぇ。綺麗な名前。那岐は、海が凪いでいる方?」
「いや、那岐だこっちも地名」
車に押し込め、走り出す。
「で、那岐は何したいんだ」
「……親父にぶん殴られた。でてけって」
「何したんだ?」
「……穐斗をからかったら、ぶん殴られた。皆、あいつばっかり……」
「あぁ、穐斗な」
ふっと家に飾る家族写真を思い出す。
昔、両親と共に姉夫婦の家に行き、姉達の家族達と交流した時、一人、本当に可愛い子供がいた。
茶色のフワフワの髪に、大きな瞳のあどけない幼児。
「お兄ちゃん!」
風早に近づこうとしていたが、雅臣に驚き立ち止まる。
「……えっと……ご、ごめんなさい」
「良いよ?」
腰をかがめ、視線を近づけ、微笑む。
「初めまして。お兄ちゃんは、雅臣。臣兄ちゃんって呼んでくれるかな?」
「臣お兄ちゃん……?」
「穐斗。臣兄ちゃんは、母さんの弟なんだ。時々遊びにくるだって」
「すぅちゃんの弟?じゃぁ、風早お兄ちゃんや穐斗のお兄ちゃん?」
「そうそう」
風早が近づくと、安心したのかニコニコと笑う。
その愛らしさに、
「穐斗って言うの?」
「うん。ママのお兄ちゃんとおんなじ名前なの」
「……え、じゃぁ、お母さんって蛍さん?お父さんは祐也さん?」
「うん!パパはゆーや。ママはほーちゃん!」
「お?穐斗。臣兄ちゃんと仲良しだな」
後ろから近づき、息子の頭を撫でる。
「久しぶり。臣。大きくなったなぁ」
「祐也兄さんもお変わりなく……可愛い息子さんですね」
「あはは……そう。皆が残念がるんだ。女の子だったらって。杏樹は、俺に似てお転婆で……こら、大人しくしろ。ちょっとでも、他の人と話すとすぐこれだ……」
肩車をした娘が髪を引っ張るのを、祐也がなだめている様子を羨ましそうに見ていた穐斗を、
「祐也兄さんとお話しするのに、穐斗も風早も上を見上げなきゃいけないから、ほら、風早、肩車。で、穐斗おいで」
風早を肩車し、腕に穐斗を抱き上げた雅臣は、
「ほーら、どう?」
「うわぁ!ほら、すごい!すごい!穐斗!」
「お兄ちゃんすごい〜!わぁぁ、パパの顔もお兄ちゃんのお顔も近い!」
喜ぶ二人に、祐也はホッとしたように、
「良いなぁ?穐斗に風早。臣に遊んでもらって」
「ちゃぁぁ!」
杏樹は好奇心旺盛なのか、手を伸ばすのを、
「だ、ダメ〜。今日は穐斗、臣お兄ちゃんと遊ぶの。杏樹はパパと、ねー?お兄ちゃん」
「そうだね〜。穐斗」
「こーら、杏樹。あんまりわがまま言うと、お部屋行きだよ?」
めっと叱ると、祐也は笑いかける。
「穐斗。お兄ちゃん達と写真撮ろうか?」
「あ、俺も撮って良いの?嬉しいなぁ」
「あはは、臣は、絶対子煩悩な父親になるんじゃないのかな?」
「穐斗や風早みたいな可愛い息子や、杏樹ちゃんでしたっけ?お転婆な女の子も良いですね」
と、雅臣は冗談じゃなく心底返す。
後日送られた写真を数枚手帳に挟むと、それを見つけた事務所に、
「誰?臣の隠し子〜?」
「って、息子の方は似てるけど、娘って、いやぁぁ!めっちゃくっちゃ可愛い!子供モデルでもこんな可愛い子いないわよ!デニムだけどそれでも!」
写真を取り合うメンバーに、
「破らないでくださいね。それ、俺の甥です。肩車しているのが風早で、抱き上げてるのが穐斗です」
「えっ、男の子ぉぉ!」
「そうですよ。で、そっちのが、那岐。風早、穐斗、那岐が年子なんです。って、穐斗の写真盗まない!真之さん!他のは良いけど、穐斗のは絶対にあげませんよ!」
「何でさ〜」
「……穐斗の名前は伯父さんから貰っています。穐斗は清水穐斗。姉の書いた小説が実話を許可を得て書いたとご存知でしょう。名前だけは変えてますが、秋良と言うのは、穐斗です。穐斗兄さんは本当に行方不明になりました。その事件の研究、情報を調べて、穐斗兄さんの妹の蛍姉さん達を守るのが兄さんの決意なんです。穐斗は本当に伯父さんに瓜二つなんです。だから、やめてください」
雅臣は一枚だけ残して、後は家に置いた。
拗ねている甥をちらっと見、
「お前なぁ。穐斗にお前は何を求めているんだ?」
「何って、びえびえ泣くな。お前は俺より年上のくせに、何で人形だ、テディベアだって。それに、大学もあいつ行かなかったし、俺みたいに銃の免許取らなかった。車も!あいつだけ特別なんだ!皆甘やかしてる!」
「あのなぁ……おい、光流。そこのボックスから出してくれ。箱」
「あぁ、あれですか?」
箱を出すと、一通の手紙を確認して渡す。
「確か、その穐斗君のお父さんって清水祐也さんだよね?一回講演聞きに行った」
「あ、伯父さんからだ」
封筒を開けると、那岐は便箋を無造作に広げて読み始めるが、次第に顔色が悪くなる。
「……ど、ど、言うこと?どう言うこと?臣兄ちゃん!これ、何?穐斗が病気だって、何!」
「……穐斗の伯父さん……穐斗さんは生まれつき原因不明の病気を持って生まれたそうだ。定期的に県庁所在地の病院にかかって、診て貰っていた。血を引いている穐斗を、大原のじいちゃんに診て貰って、穐斗さんの診断書と照らし合わせて……同じ病の可能性が高いと結果が出て、定期的に京都に行っては入院していた……悪化したらしい」
「何で!聞いてない!」
「穐斗が黙っていてくれと、大人以外は知らせていない。風早だけだな。とろくさいんじゃなく、体がもたないんだ。身体も大きくならないのも、力がお前よりも弱いのも、本人がどれだけ努力しても、ダメだったんだ。本人は自分が医者になりたいと望んでも、身体がもたないと反対するほどに」
カーブを曲がりながら、ちらっと甥を見る。
「……自分の常識を、穐斗に当てはめるな。ついでに、お前は穐斗よりも優れているのか?兄さんは言ってたぞ?お前はムラがありすぎる。集中しない。穐斗は力仕事は無理だが、姉さん達と料理や炊事、洗濯に、畑仕事……調子が悪く、止められても行くんだと言い張っていた。今はほとんど部屋にいるのは、何かを作っているだけじゃなく、入院の準備をしているんだ。……本人は、もう悟っていると言っていた」
「そ、そんな……」
「……兄さんがお前に出て行けと言ったのは、お前の為だし、穐斗の為だ。穐斗には最後まで自由に、お前も、穐斗を妬みながら、自分の道に進めないお前を自立しろと言いたかったんだろう」
すすり泣く声を聞きながら、自分のマンションに入っていったのだった。
「まぁ、事務所から貰えるのをありがたいと思おう」
とこなしていった。
本名の一条雅臣で、デビューしようかと思ったのだが、
「『一条』と言うのは何人かいるからね。もっと目立つ名前の方がいいかもしれないね」
と先輩に言われ、しばらく考え込み、
「じゃぁ、丹生雅臣はどうでしょうか?」
「にゅう?」
「丹頂鶴の丹に生きるで丹生。丹生などとも呼ばれます。俺の旧姓なんです」
「……嫌そうだけど?」
「いえ、普段は本名で、声優としては丹生雅臣としてやります。でも、会社には迷惑をかけることがあるかもしれませんが、よろしくお願い致します」
と伝えた。
すると、何かあったようだが、雅臣の元には届かなかった。
のだが、デビューが18歳で、当たり役があの清廉実直なウェインの声である為に、動きが取れない……もどかしさもあった。
そんな時に、最近ではツイッターやFacebook、Instagramなどが多いが、雅臣宛に手紙が届いた。
小学生位だろうか、女の子の可愛いレターセットである。
自分にこの封筒……?
と思いながら開けると、
『丹生雅臣さま
初めまして。私は結城 瞬と言います。瞬と書いて、まどかと読みます。
お父さんが前に、映画の『封神演義』を見せてくれました。何人もの人に変身する楊戩の声は、みんな、それぞれの声優さんかと思っていたのですが、丹生さんがほぼ一人で演じられたと聞いてびっくりしました。それに、お母さんが大好きな『アーサー王物語』のランスロットも丹生さんだと聞いて、大ファンになりました。
でも、丹生さんの演じられるのは小学6年生の私には、ちょっと難しいです。
丹生さんの声を色々なところで聞きたいです。
私は丹生さんが大好きです。
これからも、丹生さん、風邪とか怪我とかされずに元気で声を聞かせてください。
まどか』
一所懸命難しい漢字も書いてあり、本当に可愛らしく、その上真剣なのだなぁ……と見入っていると、後輩の高凪光流が、
「どうしたんですか?臣さん」
「いや……ファンレター」
「ファンレター……可愛いファンレターですね〜。最近珍しい。僕の所なんて、LINEは友人でも怖い、手紙も結構きつい……どんな内容ですか?」
「小学校の子だけど、両親の影響で俺の出ているDVDを見たらしい。でも、俺が出ているのは難しい内容が多いだろう?自分の分かるような所で聞きたいって……うーん……そうだなぁ……」
雅臣は考えるのだった。
そして、相談すると、
「うーん、アニメは難しいよ。ゲームのキャラはどうだい」
と言われ、光流が、
「でも、その方がいいんじゃない?臣さん。ドラマCDだとちょっとねぇ……」
苦笑する。
「その女の子の夢を壊すよ?」
「でも、この声だが……」
「ゲームなら幾つか決まってないのならすぐにあるよ。声を当てて見たらどうだい」
と渡されたのは、一つは17歳の少年の声。
のんびりとした主人公らしくない小柄でドジな男の子。
そして、男装の戦士……こちらは20代前半で、サバサバした姉御タイプ。
「……良いんですか?俺、もう、おっさんですけど。ちなみに甥たち……このファンの瞬ちゃんより年上。夢を壊したらどうしよう」
「七色の声で対処すれば良いんだよ。ほら行ってきな」
「あぁ、臣さんの封印してきた声が公開されちゃう〜」
「公開処刑か!光流。覚えてろ」
と、資料と台本を手にして、家に帰ったのだった。
そして、次々と発売されたゲームは、
「えぇぇ!この主人公の声、本当にあの臣さまの声〜?」
「信じらんない!でも、ドジだけど、やる時にはやる……かっこかわいい!臣さま素敵だわ!」
「それに、この戦士って女の人が当ててるんじゃないの?」
「ううん、本物よ!だって、初回限定版のアテレコ場面で、『……これで良いですか〜?もう少し、高い声がいいですか?』って」
「いやぁぁ、素敵!」
とファン層が広がり、瞬の元にはサインとともに、
『瞬ちゃんへ
お手紙ありがとう。
君のくれた手紙で僕にも色々な役、声にチャレンジしたいと思えるようになりました。
君のおかげです。
これからも応援してください。
丹生雅臣』
と手紙と、特別に焼いてもらったアテレコシーンと、メッセージのDVDが贈られた。
瞬は大喜びし、
『丹生雅臣さま
本当に、本当にありがとうございます。
丹生さんの声がたくさん聞けて、とても嬉しいです。
これからも丹生さんのファンの一人として、応援してます。
一生宝物にします。
結城瞬』
と返し、不定期ではあるのだが、文通をするようになったのは別の話。
そして、高校を卒業した下の甥が、突然田舎から出て来た。
「おーい!叔父貴!」
「叔父貴言うな。全く、突然どうしたんだ?」
「へぇ、臣さんの甥っ子?」
付いて来ていた光流がキョトンとする。
「あぁ、下の甥。上の甥は近畿の医大生。コイツは小さい頃からヤンチャなんだ。兄さんや姉さんに聞いてないけど、どうしたんだ?那岐」
「ん?親父に追い出された〜。叔父貴〜。親父に無理やり猟銃免許取らされてさぁ?『お前は風早のように賢くないし、穐斗のように不器用でも真面目に努力もできない。二つに一つ!ここで猟師になるか、農家しろ!』だって……嫌だっつうの!あんな田舎」
雅臣は、まだ結婚しておらず、そんなに大きなマンションには住んでいない。
しかし、田舎暮らしもいいなぁと思っているのだが、実家の両親も今は孫のいる関西に転居している。
「で、俺の家に居候か?」
「お願い!ね?」
「って、仕事や学校も行かず、だらだらさせてたら、兄さんと姉さんが泣くわ!あの二人の息子が!」
「あの二人の息子?」
「本当にこい!」
甥を引っ張り、歩きながら、答える。
「コイツ、一条那岐。18歳。母親が『日向糺』。俺の姉。父親が『糺日向』ほら、少しヨーロッパ風のゲームやアニメで使われている読本、あるだろう?あれ、兄の。二人の次男なんだが……本当に、姉に似たのか突拍子も無い……」
「えーと、一条……って事は、姓は……」
「ん?言ってなかったか?光流。俺の旧姓が丹生。姉も丹生糺が旧姓。兄さんと結婚したんだ。で、俺は、兄さんの両親が養子にしてくれたんだ」
「はぁ……大変な」
「姉と兄が駆け落ちしたんだ。で、俺は実家で。後で、両親が、当時は兄達とまだ連絡がつかなくて、跡取りのいない一条家に養子にと言ってくれたんだ。後で姉達と再会した時は、確か、那岐は生まれてなかったな。風早がニコニコキャハキャハ笑ってた……風早は可愛かった、うん」
思い出す雅臣に、
「風早?名前?」
「そう。那岐の二つ上の兄。風が早いと書くんだ。確か地名で、綺麗な名前だとつけたらしい。それに、姉さんが姉のように慕う兄の悪友の奥さんが、風に遊ぶで風遊さんと言うんだ」
「へぇ。綺麗な名前。那岐は、海が凪いでいる方?」
「いや、那岐だこっちも地名」
車に押し込め、走り出す。
「で、那岐は何したいんだ」
「……親父にぶん殴られた。でてけって」
「何したんだ?」
「……穐斗をからかったら、ぶん殴られた。皆、あいつばっかり……」
「あぁ、穐斗な」
ふっと家に飾る家族写真を思い出す。
昔、両親と共に姉夫婦の家に行き、姉達の家族達と交流した時、一人、本当に可愛い子供がいた。
茶色のフワフワの髪に、大きな瞳のあどけない幼児。
「お兄ちゃん!」
風早に近づこうとしていたが、雅臣に驚き立ち止まる。
「……えっと……ご、ごめんなさい」
「良いよ?」
腰をかがめ、視線を近づけ、微笑む。
「初めまして。お兄ちゃんは、雅臣。臣兄ちゃんって呼んでくれるかな?」
「臣お兄ちゃん……?」
「穐斗。臣兄ちゃんは、母さんの弟なんだ。時々遊びにくるだって」
「すぅちゃんの弟?じゃぁ、風早お兄ちゃんや穐斗のお兄ちゃん?」
「そうそう」
風早が近づくと、安心したのかニコニコと笑う。
その愛らしさに、
「穐斗って言うの?」
「うん。ママのお兄ちゃんとおんなじ名前なの」
「……え、じゃぁ、お母さんって蛍さん?お父さんは祐也さん?」
「うん!パパはゆーや。ママはほーちゃん!」
「お?穐斗。臣兄ちゃんと仲良しだな」
後ろから近づき、息子の頭を撫でる。
「久しぶり。臣。大きくなったなぁ」
「祐也兄さんもお変わりなく……可愛い息子さんですね」
「あはは……そう。皆が残念がるんだ。女の子だったらって。杏樹は、俺に似てお転婆で……こら、大人しくしろ。ちょっとでも、他の人と話すとすぐこれだ……」
肩車をした娘が髪を引っ張るのを、祐也がなだめている様子を羨ましそうに見ていた穐斗を、
「祐也兄さんとお話しするのに、穐斗も風早も上を見上げなきゃいけないから、ほら、風早、肩車。で、穐斗おいで」
風早を肩車し、腕に穐斗を抱き上げた雅臣は、
「ほーら、どう?」
「うわぁ!ほら、すごい!すごい!穐斗!」
「お兄ちゃんすごい〜!わぁぁ、パパの顔もお兄ちゃんのお顔も近い!」
喜ぶ二人に、祐也はホッとしたように、
「良いなぁ?穐斗に風早。臣に遊んでもらって」
「ちゃぁぁ!」
杏樹は好奇心旺盛なのか、手を伸ばすのを、
「だ、ダメ〜。今日は穐斗、臣お兄ちゃんと遊ぶの。杏樹はパパと、ねー?お兄ちゃん」
「そうだね〜。穐斗」
「こーら、杏樹。あんまりわがまま言うと、お部屋行きだよ?」
めっと叱ると、祐也は笑いかける。
「穐斗。お兄ちゃん達と写真撮ろうか?」
「あ、俺も撮って良いの?嬉しいなぁ」
「あはは、臣は、絶対子煩悩な父親になるんじゃないのかな?」
「穐斗や風早みたいな可愛い息子や、杏樹ちゃんでしたっけ?お転婆な女の子も良いですね」
と、雅臣は冗談じゃなく心底返す。
後日送られた写真を数枚手帳に挟むと、それを見つけた事務所に、
「誰?臣の隠し子〜?」
「って、息子の方は似てるけど、娘って、いやぁぁ!めっちゃくっちゃ可愛い!子供モデルでもこんな可愛い子いないわよ!デニムだけどそれでも!」
写真を取り合うメンバーに、
「破らないでくださいね。それ、俺の甥です。肩車しているのが風早で、抱き上げてるのが穐斗です」
「えっ、男の子ぉぉ!」
「そうですよ。で、そっちのが、那岐。風早、穐斗、那岐が年子なんです。って、穐斗の写真盗まない!真之さん!他のは良いけど、穐斗のは絶対にあげませんよ!」
「何でさ〜」
「……穐斗の名前は伯父さんから貰っています。穐斗は清水穐斗。姉の書いた小説が実話を許可を得て書いたとご存知でしょう。名前だけは変えてますが、秋良と言うのは、穐斗です。穐斗兄さんは本当に行方不明になりました。その事件の研究、情報を調べて、穐斗兄さんの妹の蛍姉さん達を守るのが兄さんの決意なんです。穐斗は本当に伯父さんに瓜二つなんです。だから、やめてください」
雅臣は一枚だけ残して、後は家に置いた。
拗ねている甥をちらっと見、
「お前なぁ。穐斗にお前は何を求めているんだ?」
「何って、びえびえ泣くな。お前は俺より年上のくせに、何で人形だ、テディベアだって。それに、大学もあいつ行かなかったし、俺みたいに銃の免許取らなかった。車も!あいつだけ特別なんだ!皆甘やかしてる!」
「あのなぁ……おい、光流。そこのボックスから出してくれ。箱」
「あぁ、あれですか?」
箱を出すと、一通の手紙を確認して渡す。
「確か、その穐斗君のお父さんって清水祐也さんだよね?一回講演聞きに行った」
「あ、伯父さんからだ」
封筒を開けると、那岐は便箋を無造作に広げて読み始めるが、次第に顔色が悪くなる。
「……ど、ど、言うこと?どう言うこと?臣兄ちゃん!これ、何?穐斗が病気だって、何!」
「……穐斗の伯父さん……穐斗さんは生まれつき原因不明の病気を持って生まれたそうだ。定期的に県庁所在地の病院にかかって、診て貰っていた。血を引いている穐斗を、大原のじいちゃんに診て貰って、穐斗さんの診断書と照らし合わせて……同じ病の可能性が高いと結果が出て、定期的に京都に行っては入院していた……悪化したらしい」
「何で!聞いてない!」
「穐斗が黙っていてくれと、大人以外は知らせていない。風早だけだな。とろくさいんじゃなく、体がもたないんだ。身体も大きくならないのも、力がお前よりも弱いのも、本人がどれだけ努力しても、ダメだったんだ。本人は自分が医者になりたいと望んでも、身体がもたないと反対するほどに」
カーブを曲がりながら、ちらっと甥を見る。
「……自分の常識を、穐斗に当てはめるな。ついでに、お前は穐斗よりも優れているのか?兄さんは言ってたぞ?お前はムラがありすぎる。集中しない。穐斗は力仕事は無理だが、姉さん達と料理や炊事、洗濯に、畑仕事……調子が悪く、止められても行くんだと言い張っていた。今はほとんど部屋にいるのは、何かを作っているだけじゃなく、入院の準備をしているんだ。……本人は、もう悟っていると言っていた」
「そ、そんな……」
「……兄さんがお前に出て行けと言ったのは、お前の為だし、穐斗の為だ。穐斗には最後まで自由に、お前も、穐斗を妬みながら、自分の道に進めないお前を自立しろと言いたかったんだろう」
すすり泣く声を聞きながら、自分のマンションに入っていったのだった。
「現代ドラマ」の人気作品
-
-
363
-
266
-
-
208
-
139
-
-
159
-
143
-
-
139
-
71
-
-
139
-
124
-
-
111
-
9
-
-
39
-
14
-
-
28
-
42
-
-
28
-
8
コメント