妖怪狩人

千紘

第1話 ぬりかべ伝説

夕暮れ時の山道に、男が1人家路イエジを急ぎ歩いていた。東の空からは闇がせまり気持ちをアセらせたが、長い距離を歩いてきた為、男の足は気持ちとはうらはらに動きを遅くしていた。

ーーどんっーー

男は何かとぶつかり尻もちをついた。

「???」

ぶつかった"何かナニカ"を目視しようと男は目をらしたが、どうにも確認できない。というのも、確かに尻もちをつくほど頑丈で大きな"何か"とぶつかったはずなのに、目の前には何もないのだ。家へと続く道がただただ広がっていた。
男はオソオソるぶつかった辺りに手を伸ばした。すると指先が硬い"何か"に触れた。何も見えないが、確かにそこには透明な"何か"があるのだ。
恐怖よりも不思議に思う気持ちがまさった結果、男はベタベタと"何か"を触り、大きさや形状を確認しようとした。

飛び跳ねながら上方向に手を伸ばしても"何か"に終わりはない。おそらく2.5m以上はある。硬く、重厚感がある"何か"は決して動きそうにない頑丈な壁だった。
よけて進もうにも、なんと両側にも全く同じ透明な壁が隙間なく置かれている。さっきまでの好奇心が一気に不安に変わった。

「もしかして・・・」

後ろ方向へ慌ててかけだす。

ーーどんっーー

「まずい、囲まれてる。・・・でられない!」

辺りを見渡すと、もう陽は落ち暗闇になりかけていた。男は一気にとてつもない恐怖に襲われ、一心不乱に見えない壁に体当たりをはじめた。

でられない・・でられない・・でられないッ!!

焦りで痛覚は麻痺し、肩の骨にヒビがはいったことにも気づかずに透明な壁に体当たりを続けた。

〈・・・ぁ・・ーぁぁぁああ〉

遠くから近づいてくる叫び声とも唸り声ウナリゴエとも取れる声に気づき、男は動きをとめた。
声から意識をそらせない。どんどん、どんどん近づいてくる。そのスピードはかなり早い。
遠くから聞こえていたはずなのに、今は数m先から聞こえる。

〈あ"ーあ"ーあ"ーあ"ーあ"ー〉

・・・まずいっ!もうすぐそこにいる!

男の体から冷や汗がどっと吹きでた。心拍数が上がり、鼓動の音がうるさい。

〈あ"あ"!!!・・・〉

声は男の頭上までくるとピタッと止まった。
男は恐怖でおかしくなりそうな精神状態のまま、意を決して頭上を見上げた。

「ぅわぁあ"ぁ〜〜!!!!」

そこにはなんと、3m近くある大柄な老婆が男を覗き込むように見下ろしていた。目を見開き、子山羊なら一飲み出来そうな大きな口から黄緑色のヨダレを垂らしている。
男の絶叫が終わると同時に、老婆は男の体を引き裂き、大きすぎる両手に上半身と下半身を別々に握りしめて山奥へ消えていった。


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中学生A「これが、ここの裏山に伝わる"ぬりかべ"と"山姥ヤマンバ"の伝説だよ!」

中学生B「40年に一度だけ現れるんだって!」

中学生C「この辺のじじばばがみんな話すから、町の住民なら幼稚園児でも知ってるよ。」

男子中学生3人が、1人の男を囲み嬉々として話をしていた。

男「ありがとう。ついでに頼みたいんだが、俺の名刺に電話番号を書いておく。他の人から伝説について違った情報を聞いたら、どんなことでもいいから電話くれないか?」

中学生に差し出した名刺には

山泉出版  月刊【怪奇現象】
記者  大地 正宗だいち まさむね
080-XXXX- XXXX

と書いてある。

中学生A「いいよ!この辺のことが記事になったら嬉しいし!じゃーね!」

中学生C「じゃーねー!イケメンおじさん!」

中学生B「イケおじ!笑」

大地「おいコラ!おじさんは余計だぞ!まだ21だ!」

中学生達が笑いながら立ち去った後、大地は路肩ロカタに停めたレンタカーに乗り込みタバコに火をつけた。


ふーー・・・

「この辺の伝承は大体他県と同じなようだが、違うのは40年に一度ってとこか。気になるがまずはぬりかべと関わりの深い山姥だな。以前に近くの病院で山姥の狩りをしたが、それが関係してるかもしれないな・・・。一応行ってみるか。」

ブロロロ…

大地はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。

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