異世界で魔法兵になったら、素質がありすぎた。

きのえだ

休息

「魔法兵になるまでの道のり……」
 カザトが、座った状態から前のめりになって、詳しく聞こうとする。
「そうじゃ。カザト、おぬしはマナを使ったことがなかろ? それならまずは、マナに慣れんといかん。そのうえで、武器のマナと共鳴させるんじゃ」
「共鳴?」
 カザトが、手元のナイフをみて、もう一度、コハクに視線を戻す。

「カザト、あのね、人にはマナが存在するって言ったでしょ? あれはね、この武器なんかも例外じゃないの。正確には、職人が作った武器に、専門の人が『魔核』を埋め込んで、武器がマナを宿すの。そして、それを一般的に魔道具って言うのよ。そして、魔法兵や私みたいな、魔道具を使う人は、自分のマナと武器のマナを共鳴させて、より強い魔法を使うの。私は、自分自身のマナが生まれつき少なくて、ほとんど武器のマナに頼っちゃってるけどね」
 アカリが、「あはは」と笑いながら照れくさそうに頬をかく。
 確かに実際、アカリは属性が付与されたような攻撃ではなかった。しかし、それ以外にもカザトには、気になる点が一つだけあった。
「じゃあさ、さっきの婆ちゃんの魔法とか、アカリの『テレポート』? はどうゆう分類なの?」
 そう、このふたつの魔法だ。とても属性があるようには思えない。特別なものに分類されるか、あるいは……
「あぁ、それ。それはね、マナさえあって、修行したら誰でも使えるやつよ。いわゆる無属性魔法。どんな属性のマナを使っても発動できるの。でも、魔道具とは連携できるものじゃないわ」
 やはり、カザトの目測は正しく、カザトは少しだけ自分の手を見つめる。
「無属性……」
 無属性。つまり、属性魔法と組み合わせて使うことで、戦況をより有利な方向へと持って行けるものと、カザトは確信する。
「なぁ、魔法って誰かに教えられて覚えるもんなのか?」
「いんや。詠唱さえ唱えれば使える。そして、同じ魔法を何度も使うことで、熟練度が上がり、より強力になる訳じゃ。あぁ、それと、言い忘れとったが、武器の手入れは欠かすなよ?」
 コハクが、カザトの質問に答えながら、付け加える。
「手入れ?」
「マナを体と武器で行き来させて、循環させるんじゃ。これを怠ると、武器との共鳴が咄嗟にできん」
「はぁ」
 気だるそうな返事をするカザトをよそに、アカリとコハクが、カザトに聞こえない声量で何かを話す。とても重要なことらしく、二人の顔は険しくなっている。
 その後、しばらくして話が終わり、二人がカザトに向き直る。
「待たせちゃってごめんね。よし、今日はここでお開きね! カザトもゆっくり休んだ方がいいし」
 アカリの提案に、双方同意でアカリとカザトは、後方のドアから部屋をあとにする。アカリは、出る前に就寝の挨拶をかける。
 外はもう既に、暗くなっており、月明かりがさしていた。肌寒い感覚にカザトが顔を顰めて歩き出す。

 アカリに案内されて宿につき、部屋まで案内させられる。
「えっーと、五、六、七、八、ここね」
 アカリが、カザトの読めない文字で九と書かれた部屋のドアを開ける。
 中にはベッドとタンスのようなもの、机、椅子と簡素な家具がいくつか置かれていた。
 広さはそこそこあり、一人で泊まるには充分すぎるぐらいだった。
「じぁ、私はまた後で来るから。それまで休んでていいよ」
「おー。ありがと。また後で」
 アカリが部屋をあとにするのを見送って、カザトは部屋の物色に入った。

 机や椅子、タンスなんかは全て木製で、ベッドもこれといった特徴もない普通のもの。カザトが気になったタンスの引き出しを開けると、そこには、身に覚えのない服が大量に入っていた。
「えっーと、なんだこれ? 俺の……じゃないよな? ん? これは……」
 服の上に一枚だけ置かれた紙切れに気づき、手に取る。そこには、文字が書かれていた。
 しかし、
「あー、そういや、俺、この世界の文字読めなかったな。これも、なんて書いてあんのかさっぱり分かんねぇな。ま、後回しでいいかな?」
 紙切れをタンスの引き出しに戻して、引き出しを閉める。そして、ずっと着ていた制服を脱いで、畳んでタンスの上に置く。ティーシャツとズボンだけの楽な格好になって、ベッドに腰をかける。そして、先程コハクから貰った箱を手に取る。
「手入れって言ってたよな」
 そう言って、カザトが箱を開けて中身を取り出した。

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