異世界で魔法兵になったら、素質がありすぎた。

きのえだ

武器とともに命あれ

 これって、転移のこと話しちゃまずいよな……
お決まりだもんな。よし、黙っとこう。

 転移については触れずに、カザトは平原にいつの間にかいたというていで話した。
 牢で出会った、あのジャクトという男のところまで話したところで、区切りをつけた。
「そして、アカリに連れられて逃げてきたわけ」
「……まず引っかかるのが、平原にいたというとこじゃな。記憶を消されていたり、無くなっているとしたら、マナの痕跡があるはずじゃが……主には見られんからのぉ。となると……無くはないか……」
 一人でブツブツと喋る老婆を横目に、カザトはアカリに耳打ちしていた。
「思い当たる節があんの? ってか、怖いんだけど。めっちゃ、一人で喋ってるんですけど」
「あはは……おばあちゃんね、考え事してると独り言言っちゃうの」
 見れば、老婆は今でもブツブツ言っている。
 考えているのだろうが、やはりカザトには、気味が悪かった。

「そうじゃ、裁判にかけられたのじゃろ?」
「ん? あぁ、まぁ、一応。成り立ってなかったけどな。全部一方的で、俺がま……ま、ぞく? とかに決めつけられた」
 カザトは、裁判で下された結果にもちろん、納得していなかった。
 魔族というものを理解していないカザトには、理不尽極まりない裁判だったからだ。
「んー。今の王は、魔族に怯えすぎているんじゃ。だから、少しでも魔族の疑いがある者は、監禁したがる。主のときもそうじゃったのだろう。何があっても主を牢に入れろみたいな令が降っとるに違いない。裁判なんて、形だけじゃ」
 老婆が顎を触りながら、カザトに向き直る。

 カザトは、自分がまともに証言出来なかった理由にやはり、納得がいかない。
 最初から、無意味な裁判にかけられ、自分を弁護する者もいない。カルガスも、王とやらの命令を受けてたのだろう。
 つい数時間前、異世界にきたばかりのカザトには、荷が重すぎる出来事だった。
 しかし、現状、カザトにはどうすることも出来ない。
 カザトは、握りしめた拳にさらに力を入れる。

「……どうすればいいってんだよ。もう、前科ついちまってんだろ? この街に俺の居場所はないってことか」
 カザトが、「はぁ」と、小さなため息をつく。
「おばあちゃん……」
アカリが、老婆と顔を見合わせ、なにか頼み込むように手を合わせる。
「わかっておる。ワシもそうしようとしたところじゃけの。……カザトと言ったな? 主、うちの村の『魔法兵』ならんか?」
「────ワット?」
老婆の言った意味が理解できずに、口から下手な発音の英語が出てきた。
「まぁ、正確には、王に使える形になるんじゃが、それだったら、魔族じゃないとも証明出来るじゃろ。そして、我々の村の専属の兵になれば、ワシたちの目的にも適う」
ニヤニヤ笑いながら語る老婆とは、反して、アカリは顔が青ざめていた。

「おっ、おばあちゃん? カザトを魔法兵にさせるつもり?!」
同意の上での提案だったはずが、二人の意図は互いに、伝わっておらず、アカリが驚いた声を上げる。
「なんじゃ? 違かったのか? 気づいておらんだろが、こやつのマナの量はとてつもないぞ。並の二倍以上はある。微かに魔のマナもあるが、殆どは『風』のマナが適正じゃな。それ、これを持て」
そう言って、老婆が細長い箱をカザトに投げ渡す。
あたふたしてカザトが受け取ると、ズシッとした重みが腕に伝わる。その箱には、何か書かれているが、カザトにはその字を読むことが出来なかった。
「おっ、おい、なんだよこれ?」
「魔法兵になるのに、魔道具のひとつも持ってないのはおかしかろ。それは、ワシの先代から受け継いだものじゃ。どうせ、ワシも使うことないしな。やるわい」
カザトが恐る恐る箱を開け、中身を確認する。アカリも気になったらしく、カザトの横から箱を覗く。

箱の中に入っていたのは、二つのナイフだった。ただ、普通のものの形とは少しだけ、変わった点があった。
持ち手の部分が、真っ直ぐではなく、完全に逆手持ちようになっていた。
「ナイフ? ……はいんだけど、これ、完全に逆手専用だよね? つーか、俺、ナイフなんて握ったことないよ。使い切れない」
「おばあちゃん、これ、私、知ってる気がする。魔道具……だよね? 何でこれを?」
ナイフを取り出し、眺めているカザトを隅に、アカリが、疑問を口にする。
「ん? 気になるか? そうじゃな……まぁ、大した理由はないな。なんとなくじゃ。そうじゃ、ワシの名前を言っとらんかったな。コウカじゃ。まぁ、好きなように呼べ」
そう言って、コウカがカザトに手を差し伸べ、握手を求める。
「んー、なんかな……ばーちゃんでいいかな?」
カザトが、その手を握り返し、握手を交わす。



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