異世界で魔法兵になったら、素質がありすぎた。

きのえだ

街を抜けて

「はぁ、はぁ、はぁ。まっ……て。これ以上は、キツい……」
「目的地まであとちょっとよ! 踏ん張って!」
カザトとアカリは、相変わらず走り続けていた。アカリに連れられて脱走したまではいいが、目的地がとてつもなく遠く、ここ一番の長距離走だ。向こうでは、もうカザトの脱走がバレているだろう。追っ手が来るのも、時間の問題だ。
「あとちょっとって……ってか、何だよここは?!」
カザトたちが走っていた場所は、いつの間にか街を抜け、貧相な住宅街に来ていた。
まるで、スラム街のような街並み。決して、経済状況はいいとは言えないのだろう。

その街の中を走り抜ける二人は、街の人の目に付く────こと無く、目的地へと向かっていく。人影どころか、人の気配すらしないこの街。どこか、不気味な雰囲気を漂わせていた。
「だいじょーぶ! もう、すぐそこだから!」
そう言ったアカリが、徐々に足の回転を速めていき、また走り出す。
「まだ走んのかよ……」
仕方なく、カザトも走り出すが、体力は、もう既にほとんど残ってなかった。

そして、数十メートル走ったところで、アカリが急ブレーキをかける。カザトが、二分ぐらい遅れて到着。
「もー、遅い!」
「もー、じゃねぇーよ! 普通にキツすぎるっつーの!」
「やれやれ。まぁいいよ。さぁ、入って」
アカリが顎で、カザトの前にある建物を指す。
外見は、他のと同じようにボロく、今にも倒れそうだ。当然、人が住んでるような気配はないし、人が住めるような状況の家ではなかった。
「まさか、目的地ってここか?」
「ははっ! まさか! ここは『入口』だよ」
「『入口』?」
「いいから、入った、入った!」
アカリに強引に中に入れられる。
「おっ、お邪魔します……」
中は薄暗く、明かりは窓から差し込む、外の光だけだった。夜はもっと暗いのだろう。
カザトの後ろから、アカリも中に入ってくる。
「なっ、なぁ、これはどうすれば?」
「奥に行って。そしたら分かるから」
カザトが、言われたとおりに、奥の部屋へと向かった。廊下の床は、足を乗せるたびに、ギシッと不快な音をあげる。後ろを振り向いてはないが、後ろにアカリが、着いてきているのが足音で分かった。
少し歩くと、一番奥と思われる部屋の前に来た。
「そこの扉よ。入って」
「あ、あぁ」
ドアノブに手をかけ、扉を開ける。
部屋に入ると、カザトの目に見覚えのあるものが。
「えっ? これって……」
「そ! 魔道門よ。さ、早くくぐるわよ」
カザトたちが入った部屋にあったのは、王都に来る時にもくぐった、魔道門だった。
王都の時のものと比べると、三十分の一ぐらいのスケールだが、見事な装飾が施されていた。
「くぐるって、どこに行くんだよ?」
「どこって、私も知らないわよ」
「はっ?」
アカリの答えに、カザトが困惑する。
当然だ。目的地に向かって、走っていたはずが、その肝心な目的地がどこか分からない。
とぼけた話だ。いや、話にならない。

「おい! お前、俺をおちょくってんのか! ふざけるのもたいがいに」
「私は! 本気でカザトを助けたいと思ってるよ! だから、お願い。私を信用して。確かに、いきなり信じろって言われても、無理かもしれない。だって、私は一回、あなたを裏切ったもの。でも、あの時はそうするしかなかったの。私が今カザトを助けているのは、私のためになるのかもしれない。でも、カザトを助けたいって純粋な気持ちはあるの。だから、お願い! 私を信じて……」
アカリが、半泣きになりながら頭を下げる。
カザトも流石にここまで言われて、無理だなんて言えない。そもそも、疑ったりはしていないわけてわけではなかったが、信じ切ってないわけでもなかった。
カザトは、アカリは自分を助けてくれると、確信がもてていた。理由はわからない。 
「いや、その……だな。俺も別に信用してなかったわけじゃ……」
カザトが、少し小さい声で、もごもご言いながら、アカリに右手を差し出す。
「────っ! ……ありがとう」
アカリが泣きながら、カザトの手をとる。

二人の握手が交わされたあと、アカリが服の袖で、目の涙を強引に拭き、カザトに向き直る。
「さぁ、行こう!」
「おう!」
カザトが魔道門を開け、中から漏れる光に目を半開きにしながら、門へ一歩踏み出す。入った瞬間、カザトには目眩のような感覚が遅い、それが三秒ほど続くと、ようやく、まともな感覚に戻る。地面に足がついているか確認して、カザトが辺りを見回す。
「あり? ここは……」
「私の故郷よ」
遅れてきたアカリが、カザトの後ろから声をかける。
カザトたちがいたのは、村のような場所の一角にある、一軒家のなかだった。

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