異世界で魔法兵になったら、素質がありすぎた。

きのえだ

ワルモノをするのも、今だけで。Ⅱ

「はぁー、どうして、こんなことに……」
深いため息を吐き、カザトは暗い牢で、独り黄昏ていた。
「異世界に来て、一日も立たずに牢屋行きってどーよ? そもそも、神様どこよ? どう考えても、俺のは転移だろ! こーゆー時に出てこないと、俺みたいなのは、納得しないよ!」
カザトは、怒りの矛先をいつの間にか、神に向けて喚いていた。しかし、カザトが言う事も正しかった。カザトは、異世界転移なのか、異世界転生なのか。どちらにしろ、それには、神という存在を通して行われる。しかし、カザトは神などというものに会ってもないし、話してもない。

カザトが喚き散らしていると、奥の方から、硬い床の上を歩く靴の音が聞こえてきた。
「────?」
カザトが、その音に耳を立てて、警戒していた。ふと、その音が止まった。
「ふふっ、実に興味深いねぇ。この者達がぁ。ここに派遣してくれた団長には、感謝だねぇ。特に……」
若い男性のような声が聞こえる。少しでも姿を見ようと、カザトは牢に顔を押し付けていた。苦労の末、カザトはその男の背中を捉えることが出来た。年齢は若そうだが、異様に腰が曲がっているなが、不気味だった。
すると、突然、男の姿が見えなくなり、カザトが目を見開く。
辺りをキョロキョロ見回していると、
「君にはねぇ、とっても興味があるんだよ」
「どわぁぁぁ!」
カザトの目の前に突然、男が現れた。
仰天したカザトが、勢いのあまり、後ろに尻もちをつく。
「あっははははははっ! 君、面白い反応するね。ま、驚くのも無理はないだろうけどね」
目の端に涙を浮かべながら、男が腹を抱えて笑う。

なんだ、こいつ! 俺の目の前にいきなり現れやがった! これも、魔法……?

「ん? あぁ、失礼。まだ、名乗ってなかったね。僕の名前は、ジャクト。魔法兵団の研究を担当しているんだよ。そこで、君を調べてほしいと団長から、要望があったからねぇ。ふんふん、本当だぁ。ブラックマナを宿しているみたいだねぇ? 面白い、実に面白くなってきたよ! ま、今日は様子見だけだから、ゆっくりしててくれ。じゃあ、また明日」
意味不明なことばかりを言い残して、ジャクトと名乗った男が去っていく。カザトはその背中を見つめることしか出来なかった。
「なん……だったんだ?」

何時間経っただろうか。
全くすることの無いカザトは、大の字になって寝転んでいた。
「あーあー、裁判所で証言できなかったし、見張りの兵に言っても、うんともすんとも言わないし。誰か、俺の無実を証明してくれねぇーのかよぉー」
見張りの兵がいなくなり、いよいよ本格的に一人になったカザトは、気だるそうに言った。
時刻はわからない。しかし、空の様子からして、四時~五時といった所だろう。
カザトは、起き上がって、壁にある鉄格子から外を見上げる。
「向こうの世界の俺ってどうなったのかな? あいつらに迷惑かけたな……」
カザトが元の世界のことを考えていると、このままならいっそ、元の世界に戻りたいと思い始めた。

その時、鉄格子の向こうから、ガサガサと音が聞こえてきた。
「ん? 誰かいんのか?」
カザトが、もっと下を覗けないかと、背伸びして踏ん張っていたところ、音が急に止んだ。
すると、カザトの目の前に、見覚えのある人物が、現れた。
「わっ! ドンピシャだよ! 良かった。大丈夫? カザト、助けに来たよ!」
「どわぁぁぁ! あや、じゃなくて、アカリ?! どうしてここに……」
カザトの前に現れたのは、アカリだった。会った時とは、格好が変わっていた。
「いや、今言ったじゃん。助けに来たよって」
「いやいや、お前も俺の事捕まえようとしてたじゃん! 今更助けるって……」
「事情は後で説明するから! それとも、逃げたくないの?」
「うっ! わかったよ。でも、後でちゃんと説明してもらうからな!」
カザトの答えに満足そうに頷くと、アカリが鉄格子に手をかざす。
そして、
「『ウィンドブレス』これでよし!」
詠唱とともに、アカリの手に発生した風が、鉄格子を根元から切っていく。
カザトがその光景に圧倒していると、後ろから足音が聞こえ出す。
「まずい。きっと、見回りだ! ってか、なんで夕方に来たの? 夜中の方が良くない?」
「そんな事言ってないで、早くこの鉄格子を外しなさいよ! もう根元は切ってあるんだから」
アカリの言う通り、鉄格子は簡単に外れた。人一人ぐらいは入れる。
カザトが縁にぶら下がり、体を持ち上げて、体を外へ投げ出した。
「プハァー、やっと出れた。ありがとな、アカリ。で、事情を説明してもらおうか」
「何言ってんの? まだよ。安全な所まで逃げるわよ!」
そう言うと、アカリが走り出す。
「へっ? ちょっ、待って!」
完全に出遅れたカザトが、体を起こして、アカリを全力で追いかける。

カザトの脱獄がバレたのは、カザトが逃げ出して、間もない頃だった。

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