世界呪縛

六月 純

20話 御前





 待ち合わせ場所に着いたのは9時55分。ちょうどいい時間だ。
 待ち合わせ場所には既に荒灼と悟が来ていた。
「あ!先輔、おはよう!」
 悟が挨拶をしてくる。
「おはよう。」
「おお、来たか。先輔。今日は楽しもうぜ!」
 荒灼はニッと笑ってみせる。
「うん。」
 荒灼は黒の、ライダースーツ?みたいな・・・とにかくワイルドな格好で来ていた。その姿はヤンキーを思わせる。多分下にはもっとマシな服を着ているはず。
 悟は青いTシャツの上から水色の薄い上着を着ている。ジーンズをはいていて、全体的に青好きな人を思わせる。
 俺は2人がよっかかる店の壁の隣のベンチに座る。
「ん、ベンチに座んのか。」
「悪かったか?」
「いや、同じ男として隣に並ぶのかと思った。」
「朝、散歩してそのまま来たから疲れててな。」
「あ、なるほど。」
「お前も散歩すんのか〜。」
「それ、どういう意味だ?」
「いや、お前って前よりはマシになったけど、緊張が解けないっていうかさ、無駄な事はしない奴なのかな、って思ってよ。」
「無駄な事って・・・、散歩は無駄な事なのか?」
「いんや?」
「なんだよ。」
 荒灼はケラケラ笑っている。
 その様子を見ていた悟が口を挟む。
「でも、最初の出会った時は臆病な奴だな、って思った。」
 ギクリ。
 そういえば、あの時、俺は早く誰かに会いたいって思ってて、やっと会えたこいつらに情けない姿を見せてしまっていたか。一生の不覚。
「ああ、そんなこともあったな!あん時は俺も先輔が臆病な奴だって思ってたわ!」
「それは悪かったな。ずっと誰にも会ってなくて不安だったんだよ。」
「ふ〜ん。でもお前、今までずっと1人で暮らして来たんじゃないのか?」
「ん?なんでだ?」
「いや、だって、壁の外にいる人間なんて初めてだったしよ、てっきり1人ぼっちで生きて来たのかと。まさか、他にも仲間がいたのか!?」
 なるほど。そういえば俺は王様と福沢さんにしか過去から来たことを話してなかったか。と、いうか過去から来たことを言うな、とも言われてたっけ。
 上手いこと嘘をつくか。
「仲間はいないよ。気付いたら外にいただけだ。」
 荒灼と悟がキョトンとする。
「なんだそりゃ。」
 まずい。ドジったか。だが、上手い嘘が思いつかない。
「まあ、そのことについてはあんまり詮索しないでくれ。」
 俺は嫌な事を思い出した、というフリをする。
 それを見て荒灼と悟は、まずいことを聞いたか。という雰囲気になり、ごめん、と言ったきり、そのことには詮索してこなかった。
 上手くいったみたいだ。
 だが、その場に沈黙が訪れる。
 ・・・まずい。これは気まずいぞ。
 自分から場の雰囲気を悪くしたのだが、この空気に俺が耐えられそうにない。
 何か、何か喋らなければ・・・。
「荒灼達は家族構成は・・・どんな感じなんだ?俺は・・・4人家族だったんだが・・・。」
 一瞬、2人はきょとんとしたが、すぐに答えてくれた。
「俺は弟1人だけだ。」
「俺はパパ、ママ、姉ちゃんの4人家族だ!」
 悟・・・。この歳でパパママって・・・。まあいいや。
「荒灼、どんな弟なんだ?」
「うーん。そうだな。イメージ的には正義の味方、だな。うん。」
「正義の味方?」
「おう。あいつは自分のことより他の人のことを心配してよ、あの他人優先ぶりは、異常というか。まあ、そこがあいつの超良いところなんだがな。」
「ふーん。」
「冬樹君は良い子だよな〜!」
「悟の姉はどんな人なんだ?」
「自分勝手でイライラする。」
 突然冷めた声で悟が言う。
「お、おう。そうか。」
 怖い。悟の冷めた声は怖い。これから怒らせないように注意しよう。
 俺は苦笑いをした。
「あ、もう来てる!」
 突然女子の声がして、その方向を見る。そこには、華澄、莉亜、音緒、愛依の女子組が立っていた。
 華澄は黒色の服で身を包み、その姿はやはりドレスを思わせる。夏前で午後からは気温も上がるのに長袖だ。素肌を見せたくないのだろうか。
 莉亜は白い薄手の服に赤いサスペンダーでズボンを吊っている。髪はポニーテールで、いかにも東京にいそうな女子だ。
 音緒は莉亜とは対照的で、緑の長袖の服に白の長めのスカートをはいている。髪は流したままで、束ねていない。彼女のことだ。目立たないように印象は地味を意識しているのだろう。それか、地味な服が好きなのか。
 愛依は今日の主役とだけあって、白いワンピースに白い帽子、首から茶色の可愛らしいネックレスを付け、とても目立つ。実際に、通り過ぎる男の人達がチラチラと見ている。
「ごめん。遅くなった?」
 莉亜が手を合わせてごめんなさい、というポーズをする。
 俺は時計を開けて時間を確認する。
 10時2分。遅くなってるな。
 荒灼は両手を振り、いやいや、と表す。
「いや、遅くないぜ。俺達もちょうど来たところだ。」
 嘘つけ。俺が来る前から待っていたのに。・・・まあ、これは男の決まり文句みたいなものだ。あえて指摘しないでおこう。
「そっか。良かった!」
 莉亜は笑顔になる。
 その笑顔に俺は自分の母を重ねる。
 同じ名前の人だとどうしても意識してしまう。
 だが、やはり別人だ。母は100年前に死んでいるのだから。それに生きていても、こんな若々しくないし、そもそも面影が重ならない。
「そういえば、天利君は?」
 愛依がキョロキョロと首を振り天利を探す。
 たしかに。天利がまだ来ていなかったな。
 俺も周りを見る。
「あー天利ならー」
 悟が言いかけた時、店のドアが開いた。
「ま、間に合った!?」
 中から天利が出てきた。
「なんで店の中入ってんだ?お前。」
 俺が尋ねると天利は髪をわしゃわしゃしながら歩いて来る。
「いやー、実はですね、愛依さんに渡すプレゼントを探していたんですが、なかなか見つからなくて。今日朝から探してたんですけど、やっぱり見つかんなくて・・・。」
 天利は申し訳なさそうに愛依に頭を下げる。
「ごめんなさい。愛依さん。愛依さんが気に入りそうな物を探していたんですけど、見つけられなくて、もしよかったら今日、城下町を見て回って、欲しいものがあったら言ってください。どれだけ高額なものでも買いますので!」
「え、ええ!?そんな無理しないでもいいから・・・!私は別に無理してプレゼント貰わなくてもいいし・・・。」
「いえ!これから一緒に任務を行う仲間なのです!是非僕に買わせて下さい!!」
 天利が愛依に顔を近付け、真っ直ぐ愛依を見る。
 もちろん愛依は顔を赤らめて、視線を天利からそらしている。
「え、ええ・・・?」
「愛依、無理して決めなくても大丈夫だよ・・・。天利、顔が近い・・・。」
「ああ!すみません!!」
 フォローに入ったのは華澄だ。
 天利は慌てて愛依から離れる。
「ああ、うん・・・。」
 愛依は少し残念そうだ。
 荒灼は一連の流れを見て笑う。
「はは、とりあえずどこ行くか決めようぜ?」
「はいはいはーい!」
 莉亜が声を上げる。
「私、行きたいところがあるの!」
「どこに行きたいの?」
「フッフッフ〜、それはね〜!」









「ほお〜。ここが莉亜の来たかった場所か〜。」
 荒灼が顔を上に上げて看板を見る。そこには、「ファッション・ブランド」と書いてある。要は、服屋のようだ。女子の着る服が立ち並んでいる。
「愛依に似合う服をみんなで選びたかったんだよね〜!」
 莉亜が目をキラキラと光らせる。
 それを聞いた愛依は驚く。
「えっ!?私の・・・!?」
 莉亜はきょとんとし、首をかしげる。
「そうだけど・・・。」
 愛依はあたふたしだす。
「え、えーと、ど、どうせなら!みんなに似合う服も選ばない!?ほら!私のだけ選ぶのも勿体無いし!みんな可愛いし!!」
「うん!それもそうね!」
 莉亜が即答する。
「じゃ!入ろ入ろ!」
 女子達はゾロゾロと店の中へと入っていく。
 愛依がこちら(天利)をチラッと見るが、莉亜に押されて店内へと入っていってしまう。
 だが、音緒がこちらに振り返って言う。
「?・・・あの、男子は入らない・・・の?」
 いや、女子・・の服の店に堂々と男子が入るのはどうかと思う。
 荒灼はポリポリと頭をかいて目をそらす。多分、俺と同じ気持ちなんだろうな。
「その・・・ね。えーと、僕達は向かいの本屋で待ってるよ。」
 俺達の気持ちを察したのか、それとも自分もそんな気持ちなのか分からないが天利が俺達のフォローをしてくれた。
「・・・そう。」
 音緒は少し残念そうだ。
「どうしたの?音緒?」
 華澄が戻ってきて、音緒の顔色を伺う。
「気分・・・悪い?」
「う、ううん。大丈夫だよ。」
 そう言って音緒と華澄は店内に入っていった。
 俺達はしばらくその場から動かなかったが、いつのまにか店に入ろうとする人の邪魔になっていたので、向かいの本屋へ向かった。
 莉亜。最初から、男女が別れるような店を選択するのは、無いと思うぞ。(愛依は天利と一緒にいたかったはずだ。)










 俺達は本屋に入ってこれからどうしようか、と話し合っていた。
「で、どうする?」
 悟が「ファッション・ブランド」の方向を見て舌打ちする。
「チッ。女子の着替えを見れるとおもったのに。」
「悟。お前絶対殺されると思う。」
 俺はツッコミをいれたが、悟には聞く気がないようだ。
 悟はもしかしたらこの中で一番子供、というか変態かもしれない。
「まあ、本屋でゆっくり女子達の帰りでも待とうや。」
 そう言う荒灼だが、そのワイルドな服装にビビって本屋の人達が逃げているから俺達も気まずい。
 ゆっくりどころかビクビクするぞ。
「そうですね。じゃあみんなそれぞれ好きな本のコーナーのところへ行きましょうか。一応集合の時間を決めておきます?」
「30分くらいでいいんじゃないか?」
「そうですね。じゃあ、30分後に店先で待ち合わせを。」
「「「了解。」」」
 それで俺達は各々の興味のある本のコーナーへと向かう。
 天利は歴史や魔物についての事を書いてある本のコーナーへ。
 荒灼は意外にも医学についての本のコーナーへ。
 悟は・・・子供の本のコーナーへ。って・・・マジか。
 ・・・さて、俺は面白そうな小説でも探しにいくとしよう。
 俺は小説コーナーへと歩き始めた。・・・が。
 突然聞き覚えのある男の声が聞こえた。
「気に入ったぞ。ここの小説、全て買うことにする!」
「え、ええ!?全て、ですか!?」
「うむ。俺が興味を持ったからな!なに、読まないとは言わぬ!時間は掛かるだろうが、全て読むと約束しよう!」
 ・・・は?
 俺は目を疑った。
 金色の装束に包まれた豪華な格好をした男。これはまさか。
「いや、そんなわけ・・・。」
 すると男は俺に気付いたのか、俺の名前を大きな声で呼ぶ。
「おお!先輔ではないか!こんなところで会うとは奇遇だな!」
 俺が口をあんぐり開けていると、男は俺の元にズカズカと歩いてくる。
「お前も本を探しに来たのか?あいにくだが、小説は俺が全て買う。故に他を当たるといい。」
「い、いや、待ってくださいね。なんでこんなところにいるんですか?王様。」
 そう、この男は紛れも無いこの臨楽の王であるのだ。










「ここにいたらまずくないですか?仕事は?」
「仕事が一段落したのでな。たまには民の姿を見るのも良いと思い、街の様子を見に来たというわけだ。」
 この人はなんて行動力のある王様なんだ・・・。それを容認する家来の人達もすごいな。ボディガードすら付かせてない。普通、俺の知ってる王様は仕事が忙しくてお城から抜け出せないとかいう感じなのだが・・・。
「え、ええ!?王様なのですか!?」
 今更店員がこの王様を王様だと気付く。
「む?そうか。この国で俺の顔を知らぬ者がいたか。」
 そう言って王様は店員の方に向き直る。
 それを無礼な事と判断したのか店員は床に膝をつき、土下座の姿勢を作る。
「も、申し訳ありません!王様!王様の顔を知らぬ私めが馬鹿でした!どうか、どうかお許しを!」
 周りの人もまさか王様だとは思っていなかったのか慌てて土下座する。
 多分、偉い人を見ると土下座をするのがこの国のルールなんだろう。多分。・・・いや、そんなこともないか。この人達が緊張してるだけか。
 王様の前で話してた時に誰も土下座まではしてなかったしな。
 気付けば土下座してないのは俺だけという事に気付く。
「・・・あ。」
 だが、王様はそんなことにも気をかけず、土下座している人達に話しかける。
「顔を上げよ。皆の衆。俺が顔を知られていないのは当たり前だ。なんせ、俺は国の民全員に俺の顔を覚えろと言った覚えは無いからな。」
 その言葉で土下座をしていた人達が顔を上げ、王様の方を見る。
 王様はそれを見て、うむ。と言った後、腕を組む。
「故に、今改めて自己紹介をするとしよう。皆の衆。よく聞いておくがよい。」
 ゴクリ、とその場にいた人達が唾を飲む。
 そして、王様は周りを見渡してから大声で言い放った。
「我が名は、坂田 貴信さかた きしん!崩壊した世界を統べる国の一つ、臨楽を統べる王であり、我は3代目臨楽王である!!この名をしかと胸に刻み、ここで俺を拝謁したことを誇り、生きていくが良い!」
 店中に響くその声はいかにも王であるという威厳があり、これこそが王である、ということを存分に示していた。その声を耳にした者全員がその光栄さに目を輝かせた。
「さて、これで俺の名と顔を知る事が出来たな。これからは俺を忘れずに生きていくが良い。俺も今日ここで出会った者の顔を覚えてこれからを生きていこう。民は俺の大事な家族だ。故に忘れるな。この臨楽に生まれた事こそ、貴様達の最高の至福であることを!!」
 その言葉と共に大きな歓声が上がる。
 ここはもはや本屋ではなく、王の御前屋だ。
「いつもこんな感じなのですか?」
「いいや。俺が街に来るのは初めてだぞ?」
「・・・はあ。」
 15分ほどこの空気は続き、王様が去ってもこの空気は冷めることが無かった。
 ちなみに、王様はきちんと小説の本を全部買い、本は王様の魔法の力で全て持っていかれた。
 まるでどこかのクラブの様な雰囲気だった。
 俺は見たい本が無くなったので、一足先に店先で天利達を待つことにした。




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