世界呪縛

六月 純

19話 風景画





 あれから数日が経った。
 俺達は、悟と佐藤隊の人達と合流して、臨楽へと戻った。
 後日、別の任務で森林に調査に行った隊が変わり果てた姿の佐藤隊長と佐藤隊の隊員を発見した。
 それを聞いた時の愛依は酷くショックを受けている様子だった。
 だが、しばらくして立ち直ったそうで、いつも通りの様子に戻れたようだ。
 隊長を失った佐藤隊は解隊。残った隊員は他の隊に移動することになった。
 愛依は、防衛隊隊長に石川隊に入りたい、と志願したところ、見事に許可をされ、晴れて石川隊の一員になった。
 俺達は、過酷な任務だったという理由で、防衛隊隊長から、3日の休暇をもらえた。
 今日は休暇の最終日で、愛依が石川隊に正式に加入したお祝いで城下町を回ることになった。










 荒灼は、自分の部屋のベットの上で目覚めた。
 目をこすりなごら、ベットから立ち上がり、隣の部屋へ向かう。
 コンコン、とドアをノックする。
「冬樹。起きてるか?入るぞ。」
「うん。いいよ。」
 荒灼は、ドアノブを捻りドアを開ける。
 部屋の中には、1人の少年がベットの上にいた。
「や、おはよう。にいちゃん。」
「おはよう。」
 少年は病院の患者が着る青い服を着て、ベットの上に横になっている。
 布団をかけていて、下半身の姿は見えない。
 15歳前後であろうか。髪は黒で、体は少し痩せている。
「調子はどうだ。」
「うん。悪くはないよ。」
 少年は笑顔を見せる。
「そうか。」
 そう言って荒灼も少し笑顔になる。
 少年の名前は、関口 冬樹せきぐち ふゆき。生まれ付き病弱で現在、とある病を発症し、ベットから出られない状態なのだ。
「外の様子を見てきてよ。にいちゃん。」
「おう。待ってろ。」
 荒灼はそう言って、冬樹の部屋から出て行く。
 冬樹は病のせいで足が全く動かず、かといって運び出したり、動き出そうとすると、病がそれに反応し、悪化してしまうのだ。
 だから、冬樹はベットから外に踏み出せない。
 この狭い空間が、冬樹のいることが許された小さな、小さな世界なのだ。
 荒灼が戻ってくる。
「まだ朝だからな。人通りは少なかったぜ。天気は快晴!雲一つないぜ。」
「そう。それは良かった。今日もみんなが元気に過ごせそうだ。」
 冬樹は、極端に他人思いな少年だ。
 昔から、困っている人を見ると放って置けず、助けに行ってしまうのだ。
 それには荒灼も困っていて、すぐに、誰かを助けに行くと、自分の時間が削られるぞ、と言ってやるのだが、冬樹は、僕の力で誰かが救われるなら喜んで助ける。助けたいんだ。と、返してくるのだ。
 誰彼構わず、人を助ける様は、まるで正義の味方のように見えた。
 荒灼は、そんな弟が自慢であった。
 彼らの親は、2人が幼い時に魔物討伐に行ったきり、帰って来なかった。
 それから2人はバイトなどでお金を稼ぎ、暮らしてきたのだ。
 だがある日、冬樹が病気にかかってしまい、動けなくなってしまう。
 荒灼はバイトではお金が足りないと思い、現在の役職、防衛隊に入隊したのだ。
 この役職であれば、冬樹の病気を治す為のお金も十分に手に入る。
「相変わらずのお人好しだな。そこはいつまで経っても変わんねぇな。冬樹。」
 荒灼はベットの横にある椅子に座る。
「む。誰かを思うのは大事なことだろう?それが間違いなわけないさ。にいちゃんだって、誰かのことを思って生活してるだろ?僕も同じ。誰かの幸せを思っているからこそ、今日も生きていけるんだ。」
 荒灼は、そうだな、と言って顔を曇らせる。
「どうしたの?にいちゃん。」
 荒灼は顔に出してしまっていたのか、と少し後悔する。
 だが、冬樹には思っていたことを隠さず伝える。
「実はな、今日。新しく隊に入った奴の入隊祝いで城下町に行くことになってたんだが・・・行こうか迷っててな。」
 それを聞くと、冬樹は少し強い口調で答える。
「それ、僕を心配してるから?」
 荒灼は図星を突かれ、苦笑いをする。
「あ、はは。まあ、そうだ・・・うん。」
 冬樹はため息をつく。
「にいちゃん、そういうお祝いから、人間の関係は始まるんだよ。それは大切なことだよ。増して、それがこれから任務を一緒にする仲間なら尚更。だから、僕のことは気にせず、行ってきな。」
 荒灼は、だけど、と言う。
 追い討ちをかけるように冬樹が付け加える。
「にいちゃん。僕はここから動けない。でも、にいちゃん。にいちゃんはここから動けるじゃないか。僕よりも世界が広いじゃないか。なら、こんな狭い場所に留まらないで、広い世界を楽しんできてよ。にいちゃんが僕のせいで世界を狭めていっちゃうのは嫌なんだ。だから、楽しんできてくれていいんだよ?」
「・・・・・・分かったよ。行くよ。」
 荒灼は参った、と手を振りながら答える。
 冬樹はそれを聞いて笑顔になった。
 荒灼はそらを見て、少し笑う。
「え。今なんで笑ったの?」
「別に。お前の善人さはうざったいくらいすごいな、と思ってよ。」
「それ褒めてんのか。褒めてないのかハッキリしないな〜。」
「褒めてんだよ。さて、朝ご飯にするか。」
「うん!」
 荒灼は立ち上がり台所へ向かった。










 朝は、決して良い目覚めではなかった。
 夢の中であいつが囁くのだ。カラダヲヨコセ、カラダヲヨコセ、と。
 孤独に勝つためにあいつを受け入れたのに、これじゃあ孤独となんら変わんないじゃないか。
 俺は母さんから貰った時計に触れる。時計は肌身から離さないよういつも首からかけている。
 今まで話してこなかったが、時計は昔の金色の時計で、中を開くと写真が入るようになっていて、時計も中に入っているというタイプのものだ。
 写真には俺達4人家族。母さん、父さん、優花、俺が写っている。
「・・・・・・。」
 写真を見て今は会えない家族を想う。
 必ず、優花だけでも助けてみせる。
 そう改めて決意する。
 時計を閉じて、今日の予定を確認する。
 そうだ。今日は愛依の入隊祝いがあったか。
 たまには、こういうのも悪くないな、と思う。
 集合時間は10時。現在時刻は8時半。城下町までは歩いて10分程だ。
 この時間、俺としては完全に寝坊だが、今日は休暇だから助かった。
 さて、まずは朝ご飯を食べるとしよう。
 俺は昨日から作り置きしておいたハンバーグを冷蔵庫から取り出す。
 この時代は、俺のいた時代の文明からかなり衰退してしまっているようだったが、冷蔵庫やエアコン、炊飯器、水道など、生活必需品などはほとんどそのまま残っているのだから驚いた。
 だが、この時代では流石にテレビは無いようだ。
 電気は定期的に魔法で作っているそうだ。どれだけの魔法を使ったら、家庭に普及できる電気がまわるのだろう。
 この時代はよく分からないな・・・。
 では、逆に何が衰退したか。
 まず、ガスは無くなってしまったようだ。
 昨日作ったハンバーグは[火炎放射]で炎を使いながら作った。
 言い忘れていたが、俺の母さんから貰った起源は徐々に覚醒してきており、現在、[火炎放射]や[光の槍]など、あの化け物と戦っていた時の母さんの魔法はほとんど使えるようになった。
 話を戻そう。
 他に、子供が遊ぶようなオモチャ、という物が無くなってしまったようだ。
 だが、それもすぐに改善されるだろう。
 先日、約束通り定期的に王に、俺のいた時代の話をする日が来て、オモチャの事を話したのだ。
 王は子供のように目を輝かせていた。
 他にも公園や遊具のような子供が遊べるものをたくさん教えてあげた。
 この時代は子供にとことん優しく無いな、と思った。
 他にはガスの話もしたし、魚を捕る釣りという話もした。
 この時代の人は魚を知らなかった。
 なんでも、海までは少し距離があり、過去数回しか探索したことがなかったらしい。
 話に聞いた海は、どうやらかなり増水しているようだ。
 海には高層な建物が水没していると聞いた。
 相当増水したのだな、と思った。
 その地域は王から[水没都市]と呼ばれていることが分かった。
 いつか探索に行くことになるかもしれない。
 ハンバーグを食べ始める。
 うむ。ふつうにおいしい。
 特に感想はなかった。
 俺はこの時代に来て、料理があまり好きではなくなってしまったのだろうか。
 俺のいた時代で楽しめた料理が今では全然楽しくない。
 作っていても、やりがいを感じない。食べても感想が思い浮かばない。
 ああ、どうやら俺はこの時代で狂っているのかもしれない。
 とすると、果たして今日の祝いを俺は楽しむことが出来るのか?
 分からない。とりあえず期待はしないでおこう。




 ハンバーグを食べ終わり、歯磨きなどを全て終わらせた。もちろん出かける準備も。時間は9時10分。
 ・・・・・・暇だ。
 5分後、やることが無いので、散歩をする事にした。
 そのまま城下町へ行けるように祝いの品を持って、家を出る。
 ガチャッと鍵を回し、鍵をしめる。
 季節は春から夏の節目。外はまだ朝なので涼しい。半袖で出て来てよかった。
 先輔の服装は黒い半袖のTシャツに黒いジーンズ。肩掛けバックをかけたシンプルな服装だ。
 家がアパートなので廊下を抜けて、うっすら草が生えた道路に飛び出る。
 周りに住宅はあるが、一軒家が少なく、どれもマンションやアパートだ。
 そのどれもに草や蔦が生えていえ、家の歴史を感じさせる。
 それを見ると少し涼しい気分になった。
 都会の様な場所なのに、草木がたくさんある。変な感じだ。
 家を出てとりあえず城下町に向かう左側の方向へ歩き出す。
 考えてみれば、よくこの道路の周りを見ていなかった。
 毎回、任務明けには夜になっているので周りの景色を見ることはなかった。だから今日はゆっくり眺めながら城下町へ行くとしよう。
 人通りは少なく、歩いている人はみんな中年以上の人だ。
「おはようございます。」
 挨拶をすると、向こう側も
「おはようございます。」
 と返してくれた。
 道路には雑草がかなり生えていて、整備はあまりされていないようだ。
 しばらく歩くと、マンションが立ち並ぶ団地のような場所に着いた。
 歩いていた足を止め、団地を眺める。
 団地はやはり蔦や草が生えていて、歴史的建造物を思わせる。さらに、団地の中心には巨大な木が生えている。その木は、団地の中心のマンションを飲み込み、天に高く高く生えている。その高さは東京タワーと同等かそれ以上だと見える。
 一見住みにくそうなこんな団地にもちゃんと人は住んでいるようだ。
 人がマンションの廊下を歩いているのが見えた。
 あんなに大きな木があると生活に支障をきたすかもしれないのにな。
 俺は団地を後にして、城下町への道路をまた歩き始めた。
 時刻は9時半。
 もうそろそろ待ち合わせ場所に向かっても良い時間であろう。
 俺は待ち合わせ場所の城下町のとある店前へ向かった。




コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品