世界呪縛

六月 純

15話 作戦





 黒い嵐に近付くにつれ、風が強くなる。強風で華澄達がバランスを保てなくなる。
 華澄達は目に風やゴミが入らないよう腕で顔を隠し、下を見ながら進んでいた。
「目的地はこっちであってるよな!?」
 荒灼が叫ぶ。大声を出さないと風で声が掻き消されてしまうから、皆、大声で会話をする。それに、腕で前を隠しているので周りの様子を見れない。状況は間違いなく最悪だ。
「合ってる、と思う!でも正直自信はない!前を見たいけど、この風じゃ前も向けない!」
「仕方ないよ!進まないと魔物の正体がわからないんだから!」
「でもよ!この風じゃ魔物に出くわした時戦えないぜ!?」
 華澄の足がピタリと止まる。
 止まった華澄に気付かず、天利が歩き続け、華澄の背中にぶつかる。
「あいた!・・・どうしたんです?華澄さん。」
 天利は腕で目を半分隠しながら華澄を見る。
「どうしよう・・・。」
「えっ!?」
 天利の頭に嫌な予感がよぎる。
「も、もしかして戦うこと考えてなかったんですか!?」
 華澄が天利の方に顔だけ向ける。
 その顔は不安と申し訳なさそうな表情が混ざった顔だ。
「ご・・・ごめん。」
 華澄にしては珍しい失態だ。一体何があったのだろうか。
「どどどどうしよう!!この状況で魔物に出くわしたら戦うどころじゃないですよ!それにレベル1の魔物にも負けたりして・・・!」
 あたふたする天利に莉亜が近付き、肩を叩く。
「落ち着け天利。この風じゃ魔物達も動けないと思うぞ。」
「あ。」
 考えてみればそうだ。場が恵まれていないのは人間も魔物も同じだ。
 天利までこんなことを忘れてるなんて、と莉亜がため息をつく。
 とにかく皆冷静じゃないのだ。石川隊は新人が集う小隊。実戦で取り乱すことだってある。それはいつかあると分かっていた。だが、ここが敵地であり、ベテランの隊員がいないというのが想定外だ。
 せめて1人でも佐藤隊のベテランの人を連れてくるべきだったのだ。(島崎は新人らしい)
 そうすれば、ベテランの方にこういった状況でどのような行動をしたらいいのか指示を出していただけ、次回からこの状況でも対応できるように新たに学ぶことができる。
 莉亜は思考する。
「あ。」
 思いついた考えを出そうと決意する。
「華澄!」
 驚いたのか、華澄は少し肩をビクッと上げてから振り返る。
「何!?」
「作戦がある。みんなを集めて!」
「本当!?」
 華澄が喜んだような表情をする。
「ええ!」
 莉亜は力強く頷く。
「わかった!皆!集まって!!」
 華澄の声に従い、全員集まりだす。そして全員の顔が見えるように円になった。
「これから莉亜が思い付いた作戦を皆で出来るか思案する。莉亜、作戦の説明を。」
「ああ。まず、荒灼。お前に土の壁を作って欲しいんだが、出来るか?」
「突然だな。・・・壁の大きさにもよるな。どんぐらいの壁を作るんだ?」
「この5人が入れるだけでいい。それと、そんなに高さはいらない。」
「なら、楽勝だな。」
 荒灼が余裕そうな顔をする。
「それじゃあ、加えて風除けの壁を作ってもらおうか。」
 荒灼の顔に曇りがさす。
「お、おい。それって目的地に向かって作るのか?」
「もちろんだ。出来るよな?」
 荒灼の顔に焦りが見える。
「え、えーと。」
 荒灼が目線を莉亜から外す。
 だが、莉亜はそれを追いかけるように顔を荒灼の顔の前まで近付け、恐ろしい形相で話しかける。
「出来るよな??」
 訂正。脅しだ。
「やります。」
「よし。」
 脅しに負けた荒灼がブツブツと呟く。
「やべーよ。魔力切れで死ぬやつなんじゃね?これ。だって遠すぎるって。目的遠すぎだって。壁そんな作ったら絶対魔力切れするって。」
 そんな荒灼を無視し、莉亜は話を続ける。
「天利。[脳内会話]は今、この状況で使える?」
 天利は少し困った顔をする。
「うーん。多分出来るけど・・・この風じゃあどこまで[脳内会話]が繋がるか分かんないし・・・少なくともそんな広範囲までは使えないと思う。」
 莉亜はそれを聞いて笑みを浮かべる。
「大丈夫だ。ある程度の範囲で使えれば。」
 そして次に音緒の方を向く。
「音緒。音緒はこの壁の中で出来るだけ弓矢を構え続けて、合図で打てるようにしてくれ。目的の相手が魔物だったらすぐに殺せるように。」
「・・・う、うん。分かった。頑張ってみる。」
 音緒は自信がなさそうだが、頷いてくれる。
 だが、この風では狙撃はまず決まらないだろう。
 音緒はあくまで予備だ。
 そして、最後に、と華澄の方を向く。
「華澄。私と一緒に目的の相手を観察して、それが先輔だったら、即回収しに行く。魔物だったら即殺しに行く。それでいい?」
「待って。それって、ようは作戦じゃなくてゴリ押しじゃあ・・・。」
 莉亜の顔が赤くなる。図星だった。
「し、仕方ないだろ!華澄がちょっと調子悪そうだったから、私なりに頑張って考えてみたんだ!わ、悪かったなゴリ押しで・・・。」
 華澄は驚きの表情を隠しきれない。
「私のために・・・。」
 莉亜が目線をそらす。
 莉亜は怒られる、と予感した。だが、現実は別だった。
「わたしの・・・ために・・・。」
 華澄から涙声がする。慌てて莉亜は華澄の方を向く。そこには、涙を零している華澄の姿があった。
「か、華澄!?ごめんね!わ、私のせいで!!ま、まさか!な、泣くなんて思ってなくて!!」
 莉亜はめちゃくちゃな言葉で華澄に謝る。伝わったかどうかも分からない。だが、
「謝らなくていい。嬉しかっただけだから・・・。」
「へ・・・?うれしい・・・?なんで・・・?」
 莉亜は驚き、首をかしげる。
 華澄は少し顔を赤らめる。
「ひ、人から心配されたの、ここで、初めて、だから・・・。」
 莉亜は華澄の表情を見、声を聞き、心から思う。
 可愛い。
「へ、へー。は、初めてだったんだ!し、知らなかった!」
 莉亜は緊張して変な言葉遣いになる。
 華澄は少し気になったがあえて見過ごす。
「あのー」
 華澄がそう言いかけた時だ。島崎が口を挟む。
「ねえ!ちょっといい!?女子同士で盛り上がるのはいいんだけど今はやめてもらえる!?」
「も、申し訳ない!」
 莉亜と華澄は島崎に謝る。
「それで、結局はどうするの?」
 島崎の問いに莉亜とは顔を合わせ頷く。
「「ゴリ押しで!!」」




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