世界呪縛

六月 純

13話 好敵手





 先輔の金狼と銀狼、グローの両手の爪が何度も重なり合い、互いに音を立てて弾かれる。
 だが、先ほどとは違い、様子を見るでもなく、互いに離れずに必死の攻防を繰り返す。
 刃と爪が重なる音が森に響き渡る。
 もし、誰かがそれを観戦していたら興奮を抑えられないだろう。
 だが、それを観戦する者はいない。
 先輔とグローは誰にも邪魔されないこの状況を少しずつ楽しみだしていた。
 本来、戦いは楽しむようなものではない。互いに真剣になり、一瞬の油断が死を招く命の取り合いだ。だが、二人はその命の取り合いを真剣に取り組む中、笑いを堪え切れなくなった。
「はは、はははは!」
「くはははははは!」
 二人は望んでいたのだ。こんな戦いを。
 先輔は、意志のある敵との戦いを。
 グローは、ただ殺すだけではない。より抗ってくれる相手を。
 互いに、望んでいたのだ。
 先輔は魔法を出し惜しみなく使う。[魔力放出]でグローの攻撃、防御を無視しようとしたが、グローは再生能力があるので御構い無しに爪を振るう。
 辺りには落ちた爪が無数に転がっている。だが、グローの爪は今も鋭く長い。グローの再生能力は魔物にしてみれば異常だ。
 先輔とグローの頭にこの戦いは終わらないのではないか。そんな予感が横切る。
 だが、この二人は本当はこの戦いが終わることを望んでいない。
 唯一無二の好敵手だとさえ思い、この戦いを楽しんでいる。
 二人にとっては自分の実力を精一杯出せる最高の時間だった。
 終わって欲しくない!
 二人は心から願う。
 決着をつけたい!
 二人は心から願う。
 この二つの願いのどちらかが叶うのだろうか。
 だが、この戦いもいつか必ず終わりを告げる。
 先輔の魔力や体力は無限ではない。必ず限界が訪れる。
 そしてグローの再生能力は自身の体力に依存するものだ。こちらも限界が存在する。
 そう、つまり、この戦いは・・・



 先に限界を迎えた方が敗北するのだ。



 血湧く!!
 肉踊る!!
 二人は笑みをこぼしながら刃と爪で戦い続ける。
 終わりが訪れた時、後悔しないように。









 島崎が作り出した光のドームの限界が訪れる。ドームは中心から徐々に光の泡となり、消え始めた。
 クロノ・アサシンの1体がドームの中に入ってくる。
「えいっ!」
 音緒が限界まで引き絞った矢を放つ。
 音緒の弓矢は引けば引くほど威力が増すという特殊な弓矢だ。
 音緒の放った矢はクロノ・アサシンをあっけなく貫通し、入り込もうとしたもう1体のクロノ・アサシンをも貫いた。
「今です!皆さん!!」
「「「「「了解!!」」」」」
 ドームの中で魔力をこめた渾身の一撃を各々の隊員が放つ。
 それは凄まじい威力となり、クロノ・アサシンの目の前で一気に爆発した。
 その爆風に吹き飛ばされそうになり、皆必死で踏ん張る。
「おおおおおおお!!!!!」
「うううううううっ!!!!!」
 全員[身体強化]の魔法を使っているので、そう簡単には吹き飛ばない。
 爆発に呑み込まれ、クロノ・アサシン達は一気に全体消滅した。
 その爆風に戦いに夢中になっていた先輔とグローも巻き込まれる。
「おわっ!?」
「ぬぅ!!」
 二人は宙に舞い上がる。
 二人は一瞬、爆発の元を見たがすぐに互いに向き直る。
 一瞬、グローの方が向き直るのが遅かった。
 それを見逃さなかった先輔は自由に身動きの取れない空中で銀狼を横に振った。
「風の刃アアアアアアァァァ!!!!!!」
 先輔の放った全力の[風の刃]はグローの左腕を切り裂いた。
 先輔は首を狙ったつもりだったが、爆風の影響で狙いがずれたようだ。
「ぐうっ・・・!」
 だが、グローも負けてはいない。千切れた左腕を右腕で掴む。
「これでも喰らえやァァァ!!!」
 そして、左腕を先輔目掛けて投げ飛ばした。
「なっ・・・!?」
 先輔は飛んできた左腕に反応しきれず、否、空中で身動きを取れず、右腕の筋の部分を爪で裂かれる。
「ぐあぁっ!!」
 右腕の筋肉が使えなくなり、先輔の右腕がブラブラと揺れる。おそらく右腕自体がもう使えなくなった。
 グローの左腕はそのまま回転しながら、爆発に巻き込まれていく。
 数十メートルほど吹っ飛んだところで二人は地面にゴロゴロと転がった。




 
 爆風が収まり、黒い煙が辺りを立ち込める。
 ドームにいた人達は全員無事のようだ。喜びの声を上げている。
 先輔とグローはボロボロになりながらも互いに立ち上がる。
「ハァハァ・・・。」
「ゼェゼェ・・・。」
 先輔は右腕の筋肉が機能せず、右腕が使用できない。右手に持っていた銀狼は手から離れたので元あった場所に戻ってしまった。先輔は左腕で金狼を構える。
 グローは左腕が切られ、血がポタポタと垂れている。だが、グローは痛みを堪え、残った右腕を前に伸ばす。

 左腕が生えてくるまでは流石に時間が必要だ。さっさとあいつを仕留めて止血しないと、俺が死んじまうな。

 グローは先輔を次の一手で確実に殺すために覚悟を決める。

 次の一手が決まれば俺の勝ち。決まらなかったら俺の負けだ。キレーに終わらせなきゃな。

「互いに・・・もう限界だな。グロー。」
 先輔が口を開く。
「そうだな。俺も次の一手が・・・多分最後だ。」
 グローは先輔に答える。
「あにいく、それは俺も同じだ。魔力が無くなっちまった。[魔力放出]ももう出来ない。[風の刃]ももう出せない・・・。第一、体力もほとんど残ってないよ。フラフラだ。これで・・・最後だな。」
 グローは静かに微笑む。
「サスケ。お前と戦えて楽しかったぜ。最後は俺がキレーに決めてやるよ。」
 その言葉に先輔も微笑む。
「ああ。俺もここまで楽しいと思えた戦いは初めてだ。グローは他の魔物と違って、理性があるからな。戦いを必死になってやってくれる。楽しんでんでくれている。」
 この際、魔物がどうして理性を持っているのかはもうどうでもいい。魔物でもグローはどこか憎めない。仲間を殺したはずなのに。何故だろうか。いや、あとで考えよう。今はどうでもいいことだ。俺は今、この戦いに・・・決着をつけたい!
「はっ、上から目線なことで。」
「正直に言ったんだよ。それに実際、俺の方が強いだろ。」
 互いに笑顔を見せる。俺たちはもう・・・ただの敵ではない。
「はっ!言ってろ!俺がキレーに殺してやるよ!」
 そして二人は互いの目を見て、構え直す。
「じゃあな!サスケ!!俺の唯一無二の好敵手!戦えて最高だったぜ!」
「じゃあな!グロー!お前との戦い。最高に楽しかった!」
 俺達は・・・戦友だ!!
 そして二人は踏み込み、走り出す。地面を思い切り、蹴る。そして前方にいるお互いに向けて跳躍する。俺の金狼とグローの右手の爪は重ならず、互いの体に突き刺さった。




コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品