世界呪縛
4話 遭遇
街の中に広がる緑。荒廃したビルや家。道路に落ちている瓦礫。100年前の人から見たらきっと、異様な光景なのだろう。だけど、私達にとっては、街の中に緑が無くて、ボロボロじゃない綺麗な街の方が、逆に異様だろう。
空は、青い。どこまでもどこまでも青い空。雲は滅多に出てこないから雨もなかなか降らない。雨は降らないのに、植物は、すくすくと育って、街や森の緑の面積を日に日に増やしていく。
植物は、この世界で生きることをのびのびとしていて、植物にとってはもはや楽園であろう。
だけど、私達は、きっとこの世界で生きることを許されていないのだろう。
その証拠に、人間が住める環境は減り、魔物が人間を食べようと、常に世界中そこいらで歩き回ってる。人間はのびのびと生きる植物とは違い、日々生きることに必死なのだ。
私達は、魔物から私達の国を守るために作られた防衛部隊。防衛部隊とは言うが、基本何でもやる便利屋みたいなものだ。人のために働いたり、危険な魔物を倒しに行ったり、未開拓地に遠征に行ったり。壁を修理したり。
私達は、今日も壁の周辺の安全調査の為に、私達の国[臨楽]から、北の方向にある廃墟都市にやってきた。
「んー!今日もいい天気!北の廃墟都市はいいねー!空気が綺麗!それに昔の人の使ってた物が何か手に入るかも!」
そう言ったのは、うちの部隊の短気で熱血バカの 松本 悟である。
「ちょっと!そういうのやめてよね!昔の人が使ってた物は何に使うのか分からないから危ないし!そもそも昔の人のことを調べる研究にもなるんだから勝手に持っていかない!」
「えー・・・。じゃあ暇じゃん・・・俺やだよ?ただただ時間を潰すだけの暇な時間は。」
私は、悟に注意をする。悟は、短気だが、物分かりは良く、うまく説得すれば、大抵のことは聞いてくれる。
今もああ言っているが、ちゃんと廃墟都市に転がってる物に触れないよう注意して足元を見ながら歩いている。
「まあ、そんなガッカリすんな!どうだ、俺と一緒におもしれー話でもしようぜ?」
「そうだな!荒灼!そういえばさ、例のあの人のことでわかったことがあるんだよ!」
「おっ!なんだなんだ?詳しく聞かせろ!」
流石・・・。悟と気が合うだけあるなー。すぐに悟が荒灼に食いついてしまった。
彼は、関口 荒灼。茶髪でみんなから頼りにされる兄貴みたいな人。赤い鎌を背中に背負って、ワイルドな服装を着ている。戦闘の時は、あの長い鎌で、敵を次々と倒していく。そのかっこよさで男子からも女子からも彼に憧れてる人はたくさんいるらしい。
「萩野さん。周辺に敵はいる?」
「う、ううん。いないよ・・・?大丈夫・・・。」
「了解。」
「音緒。無理しないで定期的に休んでね。」
「う、うん。ありがとう・・・。じゃあ後で少しだけ休むね・・・?」
「うん。」
見張りをしている女の子は、萩野 音緒。武器は弓矢。遠距離まで見渡せる特殊な魔法を使える女の子。体力があまりなくて、すぐにバテてしまうけれど、頼りになる仲間だ。
音緒を心配していた女性は、石川 華澄。白髪でとても美人。黒い服を着ているから、白い髪が余計に綺麗に感じる。面倒見が良くて、みんなから姉みたいに慕われてる。武器は、剣で、剣術の天才。魔法は、平均以上に使えるらしいけれど、彼女だけしかもっていない特異な魔法があるらしい。
先ほどから、周辺の敵を気にしている男の子は、朝義 天利。黒い髪で緑の服を着ている。頭がすごく良くて、魔物の種類、弱点、本能とか全部暗記していて、うちの部隊の分析担当。武器は日本刀だけど、戦闘は苦手らしくて、基本は後方で[脳内会話]の魔法で、私達のサポートをしてくれてる。
「なるほどなー!そんなことになってたのか!面白味があるじゃねぇか!いい情報をもらったぜ!ありがとよ!悟!」
「いや!俺もこのこと話せてほんと嬉しいわ!いや〜共感できる人がいるって大事だなぁ!」
「ハハ!気が合う奴がいると、危険な状況でも安心できるなぁ!」
そう言って、荒灼と悟の二人は笑い出した。
一体何の話をしていたんだか。
私は、二人が何を話しているのか少し気になった。いつも二人でコソコソと話して、最後に大声で笑い出す。
何か、楽しい話なのかな?まさか、変な話、じゃないよね?
私は、首を左右に振って変な方向へと傾いた思考を消す。
危険な場所で何考えてるのよ、私。
自分に言い聞かせる。任務に集中して、任務に集中して、と。
「魔物発見です!12時の方角!距離500!」
一度音緒が休憩してから、見張りに復帰して15分後くらいのことだった。
「数は?」
「10・・・20・・・そ・・・そんな・・・」
「どうした!?数は!!」
音緒が恐怖で押しつぶされそうになっている。
「れ、レベル1級の魔物が52体・・・レベル2級の魔物が6体・・・レベル3級の魔物が1体です・・・!」
「「「「!?!?」」」」
全員の体が硬直したのが分かった。
私達は、魔物の強さをレベルで判断している。
1人で複数体相手にできるほどの大した強さでもないレベルが1級。
1人で戦って対等な強さの魔物をレベル2級。
複数人でかかっても倒せるかどうか危ういのがレベル3級。
何十人でかかっても倒せるか分からないレベルがレベル4級。
災害を起こしたり、地形を破壊したり、およそ人の手ではおえないレベル。レベル5級。
今回、レベル2級とレベル3級がいるのが一番最悪だ。
私達のような新米では、まだレベル2級1体でも複数人で倒すのがやっとなのに、レベル2級が6体。そして、私達じゃあ到底勝てないレベルの魔物、レベル3級の魔物がいる。荒灼さんと華澄さんでレベル2級は1対1で戦えば勝てると思う。だけど、レベル3は別だ。それに私達が足手まといになってしまうだろう。
正直、誤算だ。国の周辺だから、ある程度レベルの高い魔物は討伐されているかと思ったが、こんな手強いのが生き残っていたなんて。
私達は、息を呑んだ。恐怖が、私達を襲う。
「ど、どうすれば・・・。」
「こんな、こんなのって・・・!」
みんな恐怖で震えていて、その場から離れようともしない。いや、できない。
私も、予想外の出来事やこれから死ぬかもしれない恐怖でいっぱいだ。体が言うことを聞かない。
「もう、無理だよ・・・。」
私は、そんな言葉を漏らしていた。
「みんな、落ち着いて下さい。考えがあります。」
そう言ったのは、天利だ。この状況。恐怖で押しつぶされそうな中でも、必死になにかを考えてくれていたんだ。
「何か策があるの?」
「はい、単純なことですが。僕が[脳内会話]で、国の人と通話可能な場所までみんなで退避します。それで、救援を要請します。」
救援を要請するのはいいが、ここから[臨楽]までは5㎞はある。
「簡単に言うね〜。それって結構難しいよ。あいつら、走ると速いし。いざとなったら戦って足止めくらいはできるけど、すぐにあいつらにパックンされちゃうよ?」
「そうですね。だから、みなさん。陣形を組んで移動しましょう。」
「陣形って、いつもの訓練の?」
いつもの訓練では、先頭と真ん中に戦う人が配置されて、後方から支援するタイプの人は後方に、という陣形だ。
「いいえ、今回はいつもの陣形ではありません。先頭と最後尾に近距離戦ができる人を配置します。先頭は1人でいいです。残った近距離戦の出来る人は最後尾へ。これは撤退戦みたいなものです。なので一番この陣形が最適だと思います。」
「なるほどな。」
「それで、萩野さんは特に陣形の中央にいて下さい。萩野さんは、敵に僕達がバレたら弓で出来るだけ魔物を迎撃して下さい。いざという時に、敵は少ない方がいいですからね。」
「う、うん・・・。わかった・・・。」
天利は、この状況でみんなを勇気付ける最善の策を出してくれた。
役目を追うことで、恐怖で動けない状態からみんな行動に移し始めた。
「魔物は、今どこらへんにいますか?」
「・・・距離は・・・300ほど!」
「了解。そしたら、行動開始です!」
先頭に荒灼さん。真ん中に天利と音緒と私。最後尾に華澄さんと悟がついた。
「出来るだけ隠れながら行きますよ。」
私達は物陰に隠れながら、[臨楽]を目指す。
動きは素早く、静かで、時間は掛かるが、魔物にバレずに移動出来ている。単純な指示だが、ここまで効果抜群とは!
だけど、ここで想定外の事が起きた。
私は、きっと心の中で安心していたのだろう。「大丈夫、生き残れる」と。だから油断していたのだ。
私はその時何が起きたのか全く理解できなかった。
瓦礫が積み重なった建物の残骸。その上空数メートルに、黄色い光が溢れ出す。光はやがて人型となり、そして、人になった。
「おわっ!」
少年は、何もない場所から落下した。
「痛たたたた・・・。」
意識が覚醒した瞬間落ちたのだ。俺は、しばらく何が起きたのか理解できなかった。
「ここは・・・?」
見覚えのない場所だ。だが、どうやらどこかの家の跡のようだ。2階の床や天井。屋根の残骸がまだ形を残している。そして、落ちていた残骸に目を付ける。
「かなり古い板だな・・・。」
それはそうだ。こんな家がボロボロなのだし、むしろ、これで新しい板だったら、ホームレスか誰かが生活しているだろう。
俺は、立ち上がり、服についたホコリを手で払う。
「晴れてるな・・・。」
太陽が眩しいが、それほど暑さは感じなかった。なら、今は春か秋もしくは冬であろうか。だが、寒さもあまり感じなかった。
「ここは・・・未来の世界・・・なのか・・・?だとしたら、ここは何年後の世界で、場所はどこなんだ?」
周りを見渡すが、家の残骸や家の形をした建物が建っているだけである。
「外に出ないと、わかるわけないか・・・。」
俺は、家の残骸の外へと歩いた。そこらへんに瓦礫が転がっていて、つまずきそうになる。
そして、家から出て驚愕した。
そこには、自分がよく見知っているが全く知らない世界が広がっていたのだ。
自分の住んでいた街だ。
だが、街には、コケや草が生えていて、ビルは倒壊していたり、一部が崩れ落ちていたり。
高速道路は、橋が倒れていたり、原型は留めているが、ヒビが入っていたりしている。
家は、見る影もなく、一部が残っている家もあれば、全倒壊している家もあった。
道路には、瓦礫が散らばっていたり、草が生い茂っていた。
「な、なんだコレは・・・?」
目の前に広がる光景に俺は、呆然と立ち尽くした。
「街が・・・。」
状況が理解出来なくなる。
「ここは、未来なのか・・・?街が滅びているぞ・・・。」
そして俺は、すぐに確認したい事ができる。
「家は・・・。家は・・・?」
認めたくはないが、ここは俺の住んでいた街なのだ。街の面影で分かる。と、なると自分の家の様子が気になる。
俺は、全力で走り出す。瓦礫が散乱しているが、不思議と1つも足に当たらなかった。
家の前まで来た。そこには、十字の形をした石が立ててあった。だいぶ古い物だ。
石の前まで近付き、文字が書かれていることに気付いた。俺はその前に立ち、文字を読んだ。
そこには、こう記してあった。
−黒野 莉亜 −ここに眠る。
この文字を読んで、俺はやっと理解する。
ああ、母さんは俺を未来に送って死んでしまったのか。
そう思った先輔の目に涙が溢れ出す。
「ごめん・・・母さん・・・ごめんなさい・・・!」
十字の石の前で先輔は、涙声で呟く。否、母の亡骸のある墓に向かって謝罪する。
「うぅ・・・ッ!」
「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
先輔は、母の墓の前に座り込み、大声をだして泣いた。
先輔は、改めて誓う。
必ずあの化け物を殺し、優花を取り返す。
悲しみが先輔の心に[復讐]という感情を刻みつけた。
家の中を見ながら歩いた。キッチンの物は2階の瓦礫で潰れ、地下も地面が崩れていて、入る事が出来なかった。優花の部屋は、ぬいぐるみは汚くなっていたがいくつか残っていた。だが、部屋自体は家具が倒れていたり、壁が崩れていたりと酷い有様だった。俺の部屋は窓が割れ、ベットの上に瓦礫が積もり、本棚も横倒しになっていた。
転がっている本に手を付ける。本は変色していて紙の色が白色から茶色に変化していた。
おそらく、太陽の光を長年浴びたからだろう。
「ここは、いったい俺のいた時代から何年後の未来なんだ?」
俺が元々暮らしていた時代は、2017年だ。だとすると・・・。
俺は部屋に置いてあった時計を手に取り、時間を確認する。
「流石に・・・電池切れか・・・。」
時計は普通何もしなかったら3、4年は保つだろう。つまり・・・
「4年以上の未来ってことか・・・。」
そして、先輔は、母から時計を貰ったことを思い出し、上着のポケットから時計を取り出す。そこには、時刻は針が差していたが、年の表記は無かった。というか、時計自体あの日の時刻のまま進んでいる。
今が何時か。何年なのかは分からないということだ。
時代を確認しなければいけないというわけでは決してないが、何年先に来たかで知り合いがいるかどうかも変わってくるしな。50年以上未来に来てたら知ってる人の顔もだいぶ変わってしまっているだろうし。
そもそも、街が滅びていて人は生きているのだろうか。人がいなければ情報も手に入らない。
「人を探すか・・・。」
先輔は、自分の部屋を出て、階段を降りた。
「・・・それにしても、植物の力ってすごいな・・・。4年以上でこんなに育って、街を飲み込むんだな・・・」
俺は、今でも信じ難い街の光景に、驚いていた。
そういえば、今日の朝に見た夢・・・。あの夢にそっくりな場所だ。まさか、あれは正夢だったのだろうか。
そんなことを考えていると、瓦礫に躓いた。
「おっと。」
バランスを取り戻し、フッとある考えがよぎる。
死体が・・・ない。
ここまで派手に街が壊れていたら、人の死体の1つや2つ出てくるのに、今、周りを見渡してみても、死体が見つからないのだ。
普通、普段の生活の中で死体なんて滅多に見ないだろうが、今、この状況ではおかしい。
それに、建物の壊れ方は、植物や劣化して壊れたというより、人の手によって壊されたという壊れ方だ。
ますます怪しい。
「誰かが死体を片付けたのか?」
その線が一番あり得るが、死体を片付けるならば、瓦礫も片付けるであろう。
ならば、鳥が全て死体を食べ尽くした、とも考えられるが、俺はこの時代にきてから今まで鳥を一羽も見ていない。それに血の一滴すら見ていない。
「そもそも死体がないのか・・・?」
誰も死ななかったというのもあり得るが、それだと街が壊れているのは不自然だ。
あれでもないこれでもないと先輔は考えるうちに、1つの可能性へとたどり着いた。
「いや、まさかな・・・。」
まさか、人の死体は風化しているのか・・・?
街の植物の大きさや規模、おそらく人によって壊された街、被害があったろうに、死体や血すらも出てこない。
これらのことから、推測すると・・・。
「およそ50年以上も先の未来に来たのか・・・俺は・・・?」
化け物に体を穿たれて弱っていた母さんが、膨大な魔力を使って本当に50年先まで飛ばすのか・・・?
普通、未来に飛ばすのであれば、数年先程度だろうと思っていたけど・・・。
これは、もう疑いようがない。周りの様子がこうなのだ。母さんは俺をどんだけ先の未来に送ったんだよ・・・。
だが、だとしたら、だ。仮に50年後だとしても、人類の人口は増加しているはずだ。つまり、人がいない状態はおかしいと思うのだが・・・。
俺の国は、人が少なくなってたな・・・。少子高齢化社会とかで、人口が年々減ってたな・・・。つまり、50年で、俺の国は人口が爆発的に減ったのか?
必死に、必死に思考する。自分が現在、起こっている状況を理解するために。
「ヴォォォォォォォォォォ!!!!!」
突然叫び声、いや、雄叫びのような音が聞こえた。
ビクッと飛び上がり、反射的に反応する。
「なんだ!?」
振り返るとそこには数メートル先に化け物がいるのだ。あの時の化け物とはまた違う化け物。体長は自分より2メートルほどでかくて、恐竜みたいな見た目の化け物が。ありえない話だが、本当に今、いるのだ。
「どういうことだよ・・・?」
頭が混乱する。
あの時の化け物と同じ種族のものか?この化け物が、街を壊した?というか、なんで化け物がいるんだ?
化け物が突進してくる。
「マジかよ・・・!」
先輔は、化け物の突進を咄嗟に走って避ける。だが、化け物はすぐに方向転換し、また先輔の元に突進してくる。
「ッオ・・・!?」
先輔は、間一髪でかわす。
化け物は、また方向転換し、先輔へ突進しようとする。
どうする・・・!魔法で対抗するか・・・!?だけど、効くかわからないな・・・
化け物の見た目から魔法が効くような気はしないが・・・。
体術で・・・は、厳しいな。
先輔は、体術の一通りが得意なのだが、化け物には効くはずもない。体術だけでは超一流だ、と母に言われたこともある。
「・・・・・・」
だが、その母は、もういない。先ほど大声で泣き叫んで、母の死を悔やみ、悲しんだばかりだ。母を殺したのは、紛れも無いあの化け物だ。あの化け物を殺すまで自分は死ねない。と、すればなおさらここで死ぬわけにはいかない。ここで死んだら母の死の意味が無くなる。そして、妹を助けられなくなってしまう。
そう思った先輔は、突進しようとする化け物に殺意が湧いた。
こいつを殺さなければ、俺が殺される。なら・・・殺してやる!
魔法では殺せないが、空気の刃を作れる風魔法ならば・・・!
先輔の体から青い魔力が溢れ出す。青い魔力は先輔を中心に台風のように回りだす。風が生まれ、先輔の髪を、周辺の草花を揺らす。だが、先輔の目は揺らがない。先輔の目は化け物を一点集中で見ている。
化け物が走り出す。捕食対象を今度こそ喰らってやる、というような勢いだ。
先輔は、それを見逃さず、化け物が動き出した瞬間に、自分を中心に渦巻く青色の風を一気に化け物を含む全方位に放出した。
風の渦が出来上がる。
化け物は、その渦に飲み込まれ、空へ空へと舞い上がっていく。
そして先輔は魔力放出を解除し、渦を止める。右腕を払い、[風の刃]を放つ。放たれた魔法は、地面へと落下していく化け物に命中し、その体を一刀両断した。
「案外・・・呆気なかったな・・・。」
化け物を倒した先輔は、化け物の亡骸の近くまで足を運ぶ。
先ほどの化け物は、まるで自分を喰おうとするような感じだった。
「お前らが・・・人間を・・・。」
「殺したのか・・・?」
先輔は、化け物の亡骸を睨みながら、呟いた。疑問は解消されない。だからまずは生きている人間だ。人間を探さなければ・・・。
そして、人を探すために歩き始めた時だ。
「見つけた・・・!」
それは、突然の出来事だった。1人の少年が、荒灼の元に飛び込んできたのだ。
「見つけたああああああああああ!!!!!!!」
「うおっ!?なんだなんだぁ!?」
「「「「!?!?」」」」
本来、こんな所に人はいるはずないのに・・・!
私、玄武 莉亜は、その時何が起きたのか全く理解できなかった。
空は、青い。どこまでもどこまでも青い空。雲は滅多に出てこないから雨もなかなか降らない。雨は降らないのに、植物は、すくすくと育って、街や森の緑の面積を日に日に増やしていく。
植物は、この世界で生きることをのびのびとしていて、植物にとってはもはや楽園であろう。
だけど、私達は、きっとこの世界で生きることを許されていないのだろう。
その証拠に、人間が住める環境は減り、魔物が人間を食べようと、常に世界中そこいらで歩き回ってる。人間はのびのびと生きる植物とは違い、日々生きることに必死なのだ。
私達は、魔物から私達の国を守るために作られた防衛部隊。防衛部隊とは言うが、基本何でもやる便利屋みたいなものだ。人のために働いたり、危険な魔物を倒しに行ったり、未開拓地に遠征に行ったり。壁を修理したり。
私達は、今日も壁の周辺の安全調査の為に、私達の国[臨楽]から、北の方向にある廃墟都市にやってきた。
「んー!今日もいい天気!北の廃墟都市はいいねー!空気が綺麗!それに昔の人の使ってた物が何か手に入るかも!」
そう言ったのは、うちの部隊の短気で熱血バカの 松本 悟である。
「ちょっと!そういうのやめてよね!昔の人が使ってた物は何に使うのか分からないから危ないし!そもそも昔の人のことを調べる研究にもなるんだから勝手に持っていかない!」
「えー・・・。じゃあ暇じゃん・・・俺やだよ?ただただ時間を潰すだけの暇な時間は。」
私は、悟に注意をする。悟は、短気だが、物分かりは良く、うまく説得すれば、大抵のことは聞いてくれる。
今もああ言っているが、ちゃんと廃墟都市に転がってる物に触れないよう注意して足元を見ながら歩いている。
「まあ、そんなガッカリすんな!どうだ、俺と一緒におもしれー話でもしようぜ?」
「そうだな!荒灼!そういえばさ、例のあの人のことでわかったことがあるんだよ!」
「おっ!なんだなんだ?詳しく聞かせろ!」
流石・・・。悟と気が合うだけあるなー。すぐに悟が荒灼に食いついてしまった。
彼は、関口 荒灼。茶髪でみんなから頼りにされる兄貴みたいな人。赤い鎌を背中に背負って、ワイルドな服装を着ている。戦闘の時は、あの長い鎌で、敵を次々と倒していく。そのかっこよさで男子からも女子からも彼に憧れてる人はたくさんいるらしい。
「萩野さん。周辺に敵はいる?」
「う、ううん。いないよ・・・?大丈夫・・・。」
「了解。」
「音緒。無理しないで定期的に休んでね。」
「う、うん。ありがとう・・・。じゃあ後で少しだけ休むね・・・?」
「うん。」
見張りをしている女の子は、萩野 音緒。武器は弓矢。遠距離まで見渡せる特殊な魔法を使える女の子。体力があまりなくて、すぐにバテてしまうけれど、頼りになる仲間だ。
音緒を心配していた女性は、石川 華澄。白髪でとても美人。黒い服を着ているから、白い髪が余計に綺麗に感じる。面倒見が良くて、みんなから姉みたいに慕われてる。武器は、剣で、剣術の天才。魔法は、平均以上に使えるらしいけれど、彼女だけしかもっていない特異な魔法があるらしい。
先ほどから、周辺の敵を気にしている男の子は、朝義 天利。黒い髪で緑の服を着ている。頭がすごく良くて、魔物の種類、弱点、本能とか全部暗記していて、うちの部隊の分析担当。武器は日本刀だけど、戦闘は苦手らしくて、基本は後方で[脳内会話]の魔法で、私達のサポートをしてくれてる。
「なるほどなー!そんなことになってたのか!面白味があるじゃねぇか!いい情報をもらったぜ!ありがとよ!悟!」
「いや!俺もこのこと話せてほんと嬉しいわ!いや〜共感できる人がいるって大事だなぁ!」
「ハハ!気が合う奴がいると、危険な状況でも安心できるなぁ!」
そう言って、荒灼と悟の二人は笑い出した。
一体何の話をしていたんだか。
私は、二人が何を話しているのか少し気になった。いつも二人でコソコソと話して、最後に大声で笑い出す。
何か、楽しい話なのかな?まさか、変な話、じゃないよね?
私は、首を左右に振って変な方向へと傾いた思考を消す。
危険な場所で何考えてるのよ、私。
自分に言い聞かせる。任務に集中して、任務に集中して、と。
「魔物発見です!12時の方角!距離500!」
一度音緒が休憩してから、見張りに復帰して15分後くらいのことだった。
「数は?」
「10・・・20・・・そ・・・そんな・・・」
「どうした!?数は!!」
音緒が恐怖で押しつぶされそうになっている。
「れ、レベル1級の魔物が52体・・・レベル2級の魔物が6体・・・レベル3級の魔物が1体です・・・!」
「「「「!?!?」」」」
全員の体が硬直したのが分かった。
私達は、魔物の強さをレベルで判断している。
1人で複数体相手にできるほどの大した強さでもないレベルが1級。
1人で戦って対等な強さの魔物をレベル2級。
複数人でかかっても倒せるかどうか危ういのがレベル3級。
何十人でかかっても倒せるか分からないレベルがレベル4級。
災害を起こしたり、地形を破壊したり、およそ人の手ではおえないレベル。レベル5級。
今回、レベル2級とレベル3級がいるのが一番最悪だ。
私達のような新米では、まだレベル2級1体でも複数人で倒すのがやっとなのに、レベル2級が6体。そして、私達じゃあ到底勝てないレベルの魔物、レベル3級の魔物がいる。荒灼さんと華澄さんでレベル2級は1対1で戦えば勝てると思う。だけど、レベル3は別だ。それに私達が足手まといになってしまうだろう。
正直、誤算だ。国の周辺だから、ある程度レベルの高い魔物は討伐されているかと思ったが、こんな手強いのが生き残っていたなんて。
私達は、息を呑んだ。恐怖が、私達を襲う。
「ど、どうすれば・・・。」
「こんな、こんなのって・・・!」
みんな恐怖で震えていて、その場から離れようともしない。いや、できない。
私も、予想外の出来事やこれから死ぬかもしれない恐怖でいっぱいだ。体が言うことを聞かない。
「もう、無理だよ・・・。」
私は、そんな言葉を漏らしていた。
「みんな、落ち着いて下さい。考えがあります。」
そう言ったのは、天利だ。この状況。恐怖で押しつぶされそうな中でも、必死になにかを考えてくれていたんだ。
「何か策があるの?」
「はい、単純なことですが。僕が[脳内会話]で、国の人と通話可能な場所までみんなで退避します。それで、救援を要請します。」
救援を要請するのはいいが、ここから[臨楽]までは5㎞はある。
「簡単に言うね〜。それって結構難しいよ。あいつら、走ると速いし。いざとなったら戦って足止めくらいはできるけど、すぐにあいつらにパックンされちゃうよ?」
「そうですね。だから、みなさん。陣形を組んで移動しましょう。」
「陣形って、いつもの訓練の?」
いつもの訓練では、先頭と真ん中に戦う人が配置されて、後方から支援するタイプの人は後方に、という陣形だ。
「いいえ、今回はいつもの陣形ではありません。先頭と最後尾に近距離戦ができる人を配置します。先頭は1人でいいです。残った近距離戦の出来る人は最後尾へ。これは撤退戦みたいなものです。なので一番この陣形が最適だと思います。」
「なるほどな。」
「それで、萩野さんは特に陣形の中央にいて下さい。萩野さんは、敵に僕達がバレたら弓で出来るだけ魔物を迎撃して下さい。いざという時に、敵は少ない方がいいですからね。」
「う、うん・・・。わかった・・・。」
天利は、この状況でみんなを勇気付ける最善の策を出してくれた。
役目を追うことで、恐怖で動けない状態からみんな行動に移し始めた。
「魔物は、今どこらへんにいますか?」
「・・・距離は・・・300ほど!」
「了解。そしたら、行動開始です!」
先頭に荒灼さん。真ん中に天利と音緒と私。最後尾に華澄さんと悟がついた。
「出来るだけ隠れながら行きますよ。」
私達は物陰に隠れながら、[臨楽]を目指す。
動きは素早く、静かで、時間は掛かるが、魔物にバレずに移動出来ている。単純な指示だが、ここまで効果抜群とは!
だけど、ここで想定外の事が起きた。
私は、きっと心の中で安心していたのだろう。「大丈夫、生き残れる」と。だから油断していたのだ。
私はその時何が起きたのか全く理解できなかった。
瓦礫が積み重なった建物の残骸。その上空数メートルに、黄色い光が溢れ出す。光はやがて人型となり、そして、人になった。
「おわっ!」
少年は、何もない場所から落下した。
「痛たたたた・・・。」
意識が覚醒した瞬間落ちたのだ。俺は、しばらく何が起きたのか理解できなかった。
「ここは・・・?」
見覚えのない場所だ。だが、どうやらどこかの家の跡のようだ。2階の床や天井。屋根の残骸がまだ形を残している。そして、落ちていた残骸に目を付ける。
「かなり古い板だな・・・。」
それはそうだ。こんな家がボロボロなのだし、むしろ、これで新しい板だったら、ホームレスか誰かが生活しているだろう。
俺は、立ち上がり、服についたホコリを手で払う。
「晴れてるな・・・。」
太陽が眩しいが、それほど暑さは感じなかった。なら、今は春か秋もしくは冬であろうか。だが、寒さもあまり感じなかった。
「ここは・・・未来の世界・・・なのか・・・?だとしたら、ここは何年後の世界で、場所はどこなんだ?」
周りを見渡すが、家の残骸や家の形をした建物が建っているだけである。
「外に出ないと、わかるわけないか・・・。」
俺は、家の残骸の外へと歩いた。そこらへんに瓦礫が転がっていて、つまずきそうになる。
そして、家から出て驚愕した。
そこには、自分がよく見知っているが全く知らない世界が広がっていたのだ。
自分の住んでいた街だ。
だが、街には、コケや草が生えていて、ビルは倒壊していたり、一部が崩れ落ちていたり。
高速道路は、橋が倒れていたり、原型は留めているが、ヒビが入っていたりしている。
家は、見る影もなく、一部が残っている家もあれば、全倒壊している家もあった。
道路には、瓦礫が散らばっていたり、草が生い茂っていた。
「な、なんだコレは・・・?」
目の前に広がる光景に俺は、呆然と立ち尽くした。
「街が・・・。」
状況が理解出来なくなる。
「ここは、未来なのか・・・?街が滅びているぞ・・・。」
そして俺は、すぐに確認したい事ができる。
「家は・・・。家は・・・?」
認めたくはないが、ここは俺の住んでいた街なのだ。街の面影で分かる。と、なると自分の家の様子が気になる。
俺は、全力で走り出す。瓦礫が散乱しているが、不思議と1つも足に当たらなかった。
家の前まで来た。そこには、十字の形をした石が立ててあった。だいぶ古い物だ。
石の前まで近付き、文字が書かれていることに気付いた。俺はその前に立ち、文字を読んだ。
そこには、こう記してあった。
−黒野 莉亜 −ここに眠る。
この文字を読んで、俺はやっと理解する。
ああ、母さんは俺を未来に送って死んでしまったのか。
そう思った先輔の目に涙が溢れ出す。
「ごめん・・・母さん・・・ごめんなさい・・・!」
十字の石の前で先輔は、涙声で呟く。否、母の亡骸のある墓に向かって謝罪する。
「うぅ・・・ッ!」
「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
先輔は、母の墓の前に座り込み、大声をだして泣いた。
先輔は、改めて誓う。
必ずあの化け物を殺し、優花を取り返す。
悲しみが先輔の心に[復讐]という感情を刻みつけた。
家の中を見ながら歩いた。キッチンの物は2階の瓦礫で潰れ、地下も地面が崩れていて、入る事が出来なかった。優花の部屋は、ぬいぐるみは汚くなっていたがいくつか残っていた。だが、部屋自体は家具が倒れていたり、壁が崩れていたりと酷い有様だった。俺の部屋は窓が割れ、ベットの上に瓦礫が積もり、本棚も横倒しになっていた。
転がっている本に手を付ける。本は変色していて紙の色が白色から茶色に変化していた。
おそらく、太陽の光を長年浴びたからだろう。
「ここは、いったい俺のいた時代から何年後の未来なんだ?」
俺が元々暮らしていた時代は、2017年だ。だとすると・・・。
俺は部屋に置いてあった時計を手に取り、時間を確認する。
「流石に・・・電池切れか・・・。」
時計は普通何もしなかったら3、4年は保つだろう。つまり・・・
「4年以上の未来ってことか・・・。」
そして、先輔は、母から時計を貰ったことを思い出し、上着のポケットから時計を取り出す。そこには、時刻は針が差していたが、年の表記は無かった。というか、時計自体あの日の時刻のまま進んでいる。
今が何時か。何年なのかは分からないということだ。
時代を確認しなければいけないというわけでは決してないが、何年先に来たかで知り合いがいるかどうかも変わってくるしな。50年以上未来に来てたら知ってる人の顔もだいぶ変わってしまっているだろうし。
そもそも、街が滅びていて人は生きているのだろうか。人がいなければ情報も手に入らない。
「人を探すか・・・。」
先輔は、自分の部屋を出て、階段を降りた。
「・・・それにしても、植物の力ってすごいな・・・。4年以上でこんなに育って、街を飲み込むんだな・・・」
俺は、今でも信じ難い街の光景に、驚いていた。
そういえば、今日の朝に見た夢・・・。あの夢にそっくりな場所だ。まさか、あれは正夢だったのだろうか。
そんなことを考えていると、瓦礫に躓いた。
「おっと。」
バランスを取り戻し、フッとある考えがよぎる。
死体が・・・ない。
ここまで派手に街が壊れていたら、人の死体の1つや2つ出てくるのに、今、周りを見渡してみても、死体が見つからないのだ。
普通、普段の生活の中で死体なんて滅多に見ないだろうが、今、この状況ではおかしい。
それに、建物の壊れ方は、植物や劣化して壊れたというより、人の手によって壊されたという壊れ方だ。
ますます怪しい。
「誰かが死体を片付けたのか?」
その線が一番あり得るが、死体を片付けるならば、瓦礫も片付けるであろう。
ならば、鳥が全て死体を食べ尽くした、とも考えられるが、俺はこの時代にきてから今まで鳥を一羽も見ていない。それに血の一滴すら見ていない。
「そもそも死体がないのか・・・?」
誰も死ななかったというのもあり得るが、それだと街が壊れているのは不自然だ。
あれでもないこれでもないと先輔は考えるうちに、1つの可能性へとたどり着いた。
「いや、まさかな・・・。」
まさか、人の死体は風化しているのか・・・?
街の植物の大きさや規模、おそらく人によって壊された街、被害があったろうに、死体や血すらも出てこない。
これらのことから、推測すると・・・。
「およそ50年以上も先の未来に来たのか・・・俺は・・・?」
化け物に体を穿たれて弱っていた母さんが、膨大な魔力を使って本当に50年先まで飛ばすのか・・・?
普通、未来に飛ばすのであれば、数年先程度だろうと思っていたけど・・・。
これは、もう疑いようがない。周りの様子がこうなのだ。母さんは俺をどんだけ先の未来に送ったんだよ・・・。
だが、だとしたら、だ。仮に50年後だとしても、人類の人口は増加しているはずだ。つまり、人がいない状態はおかしいと思うのだが・・・。
俺の国は、人が少なくなってたな・・・。少子高齢化社会とかで、人口が年々減ってたな・・・。つまり、50年で、俺の国は人口が爆発的に減ったのか?
必死に、必死に思考する。自分が現在、起こっている状況を理解するために。
「ヴォォォォォォォォォォ!!!!!」
突然叫び声、いや、雄叫びのような音が聞こえた。
ビクッと飛び上がり、反射的に反応する。
「なんだ!?」
振り返るとそこには数メートル先に化け物がいるのだ。あの時の化け物とはまた違う化け物。体長は自分より2メートルほどでかくて、恐竜みたいな見た目の化け物が。ありえない話だが、本当に今、いるのだ。
「どういうことだよ・・・?」
頭が混乱する。
あの時の化け物と同じ種族のものか?この化け物が、街を壊した?というか、なんで化け物がいるんだ?
化け物が突進してくる。
「マジかよ・・・!」
先輔は、化け物の突進を咄嗟に走って避ける。だが、化け物はすぐに方向転換し、また先輔の元に突進してくる。
「ッオ・・・!?」
先輔は、間一髪でかわす。
化け物は、また方向転換し、先輔へ突進しようとする。
どうする・・・!魔法で対抗するか・・・!?だけど、効くかわからないな・・・
化け物の見た目から魔法が効くような気はしないが・・・。
体術で・・・は、厳しいな。
先輔は、体術の一通りが得意なのだが、化け物には効くはずもない。体術だけでは超一流だ、と母に言われたこともある。
「・・・・・・」
だが、その母は、もういない。先ほど大声で泣き叫んで、母の死を悔やみ、悲しんだばかりだ。母を殺したのは、紛れも無いあの化け物だ。あの化け物を殺すまで自分は死ねない。と、すればなおさらここで死ぬわけにはいかない。ここで死んだら母の死の意味が無くなる。そして、妹を助けられなくなってしまう。
そう思った先輔は、突進しようとする化け物に殺意が湧いた。
こいつを殺さなければ、俺が殺される。なら・・・殺してやる!
魔法では殺せないが、空気の刃を作れる風魔法ならば・・・!
先輔の体から青い魔力が溢れ出す。青い魔力は先輔を中心に台風のように回りだす。風が生まれ、先輔の髪を、周辺の草花を揺らす。だが、先輔の目は揺らがない。先輔の目は化け物を一点集中で見ている。
化け物が走り出す。捕食対象を今度こそ喰らってやる、というような勢いだ。
先輔は、それを見逃さず、化け物が動き出した瞬間に、自分を中心に渦巻く青色の風を一気に化け物を含む全方位に放出した。
風の渦が出来上がる。
化け物は、その渦に飲み込まれ、空へ空へと舞い上がっていく。
そして先輔は魔力放出を解除し、渦を止める。右腕を払い、[風の刃]を放つ。放たれた魔法は、地面へと落下していく化け物に命中し、その体を一刀両断した。
「案外・・・呆気なかったな・・・。」
化け物を倒した先輔は、化け物の亡骸の近くまで足を運ぶ。
先ほどの化け物は、まるで自分を喰おうとするような感じだった。
「お前らが・・・人間を・・・。」
「殺したのか・・・?」
先輔は、化け物の亡骸を睨みながら、呟いた。疑問は解消されない。だからまずは生きている人間だ。人間を探さなければ・・・。
そして、人を探すために歩き始めた時だ。
「見つけた・・・!」
それは、突然の出来事だった。1人の少年が、荒灼の元に飛び込んできたのだ。
「見つけたああああああああああ!!!!!!!」
「うおっ!?なんだなんだぁ!?」
「「「「!?!?」」」」
本来、こんな所に人はいるはずないのに・・・!
私、玄武 莉亜は、その時何が起きたのか全く理解できなかった。
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