世界呪縛

六月 純

2話 溢れるもの


 ガチャッ
 鍵が開いた音がした。玄関からだ。
「・・・・・・ただいまー。」
 聞こえてくるこの声に先輔は気持ちが高まる。
 この声は、父さんだ!
 先輔は、溢れていた涙を服の袖で拭い、立ち上がる。部屋を飛び出し、玄関へ向かう。
 一ヶ月だ。一ヶ月帰って来なかったのだ。やっと帰ってきた。
 先輔は、父さんに早く会いたいという思いで、家の廊下を走る。
 ドタドタと音がたつ。いつもなら母に「廊下は走るな!」と怒られるが、先輔はそのことを忘れ、無我夢中に走る。
 玄関に着くと、妹がお父さんに抱きついていた。お父さんがそんな妹の頭を優しく撫でている。そして、先輔の姿に気付き、微笑む。
「先輔。ただいま。」
 先輔も、抱きつこう、と思うが17歳で抱きつく姿は流石に恥ずかしいと思い、
「おかえり。今回の仕事は長かったね。」と短く言った。
「ああ、元気だったか?」
「まぁな。」
「にしても、本当に疲れたよ。今日はもう休みたいなー。」
 お父さんが肩をグルグル回しながら言う。
「どうだ?魔法。上達したか?」
 その質問に先輔は答えを無くす。
「・・・・・・・」
 お父さんは、その態度で察したのか、「そうか。」と短く言った。
四年も魔法が上達しないんだ。結果なんて分かってるだろ。先輔は心で呟く。
「先輔。父さん、風呂入って来るから、夜ご飯作ってくれないか?」
「・・・・・・」
 先輔は、沈黙している。
「・・・先輔?」
 先輔は呼ばれて気付く。何を言ったのかを聞いていなかったが、多分「夜ご飯作ってくれ。」であろう。帰って来ると毎回それだから。
「あ。ああ、わかった。ご飯作っておく。」
「そうか。頼んだぞ。」
 予想は当たってたな。と、先輔は心の中で呟く。
「ねー。お父さん。久しぶりだから、一緒にお風呂入らない?」
 優花が唐突にお父さんに聞いた。
「いやー。そろそろ、優花も一人でお風呂に入れる時期だと思ってたけど、まだ子供だったか。いいよ、入ろう。」
 笑顔で話しているが、おそらく冗談だ。
「こ、子供じゃないもん!やっぱり入らない!」
 優花が、手をパタパタさせて、言う。
「ハハ、そうか。優花も大人になったな〜。」
「でしょ!優花は成長してきるの!」
「そうかそうか。じゃ、お父さんお風呂行ってくるね。」
「はーい!」
 父さんは本当に優花と入るつもりはなかったらしい。俺となら入るのかな。と先輔は思う。
「いや、ないな。」先輔は台所へ向かう。
 父は、タオルを棚から出してそのままお風呂に向かっていった。




「おー。流石だな。先輔。美味いよ。久しぶりに食べるとやっぱりお前の料理は美味いよなー!」
「それは、嫌味か。」
 父さんは、料理の味が気に入ってないように見えた。
「この魚。味付けは良いが、少し焼きすぎたな。」
 やはりそうであった。
 父さんは、料理の天才である。全国のシェフやパティシエからも慕われていて、メールでよく料理のアドバイスをしている。仕事が休みだと、お店に行き、グルメを堪能して、一つ一つの感想をメモに記しているのだ。先輔の料理は、父から習ったものである。黒野家は母が仕事で特に忙しいので、主に父がご飯を作っていた。今は父も仕事が忙しく、滅多に作ることはないのだが。
「精進するよ。」
「おう。」
「そういえば、母さんは?」
 父が先ほどから姿を見せない母さんの所在を尋ねる。
 そういえば、見ていない。
「どこだろ。うーん。ごめん。わかんない。」
「・・・・・・そうか。母さんは俺が帰ってきたことを知ってるのか?」
「うーん。会ってないからわかんないな。」
「そうか。」
 母に早く会いたいから聞いたことなのか。質問の内容に違和感を覚え、先輔は疑問に思う。
 先輔が改めて父を見ると、父は黙々と先輔の作った料理を食べている。
 父が突然口を開いた。
「先輔。これ食べ終わったら、魔法の練習を一緒にしよう。」
「一緒に。って、父さんもなんか新しい魔法見つけたの?」
 父は、母に至らないが、優秀な魔術師だ。そんな父が新たな魔法の練習ということは、起源が覚醒したのだろうか。



 起源は、親から受け取っても、そのまま使うことはできず、自分で実力をつけ、覚醒させなければならない。起源というのは、その魔法を使うことができるようになるという保証であり、一定の魔力や実力を手にして、その魔法の練習をすることで、初めて魔法が完璧に使えるようになる。



「まあ、嫌ならいいが。」
 父は、口を閉ざす。
(まあ、やっても損にはならないし、久しぶりに父さんと何かをやるんだ。とりあえずやっとくか。)
「じゃあ、父さん。俺にも、風魔法のコツを教えてくれよ。」
 風魔法のコツ。母さんに聞いても、全く理解できなかったが、父さんなら、何かうまい例でもだして、コツの掴み方を教えてくれるだろう。
「そうか。なら、行くか。ごちそうさま。」
 父さんはご飯を食べ終わっていた。


 地下に降りて来る。改めて見ると、やはり広い。家が二つほど入るのではないか。壁や床は全てコンクリートで、様々な魔法を使い、十分に鍛錬できるスペースだ。
 そこには既に優花がいた。
「あ、お兄ちゃん、お父さん。どうしたの?」
 どうやら、優花も魔法の練習に来ていたらしい。必死に鍛錬をしていたのか、汗だくだ。
「魔法の練習。父さんにコツを教えてもらうんだ。」
「おー。ついにお兄ちゃんも使えるようになるかな。風魔法。」
「なるといいなー。」
 丸太を立てて、数メートル離れる。
 父さんは少し離れた所から様子を見る。優花も、先輔の魔法を見るために魔法の鍛錬を中断し、父さんの隣に座る。
 意識を集中させる。魔力を右手に溜める。
 薄く、尖らせるように。
 薄く、尖らせるように。
 頭の中で何度も復唱する。
 魔力の高まりを感じる。それが、絶頂に達する瞬間ー
 勢いよく右腕を払った。
 すると、薄い青色の魔力が弧を描き、前方、丸太の方向へ勢いよく飛んで行く。そして、丸太に命中した。
 先輔は、大きなため息をついた。



「溜めすぎだな。」
「・・・・・・溜めすぎ?」
 たった今、丸太に魔法を命中させ丸太に傷を与えた先輔に父が近づき、一言言った。
「ああ。お前は信じられないほど魔力を溜めている。溜めすぎだ。お前は、自分で考えてる以上に魔法に鈍感だ。が、才能はあるな。」
 才能がある?何を言っているんだ父さんは。
 今の風魔法を見てどこに才能の片鱗を伺えるのだろう。出来ない方の天才の 才能 だろうか。
 父が解説を始める。
「お前は、魔法を一発放つのに、全力でやっているいるだろう?」
「うん。」
「それは間違いだ。たかが魔法一発に魔力を注ぎすぎだ。出した魔力が右手から抜けている。つまり、お椀に味噌汁を注ぎすぎて、溢れている状態だ。しかも、溢れて流れ出してるのに気付かず、注ぎっぱなしだ。」
「そうだったのか・・・。」
「その証拠に、お前はもう魔力ないんじゃないか?」
「・・・ほんとだ。魔力を感じない。」
「だろ?全力で魔力を溜めてたんじゃない。お前は今まで全力で魔力を放出していたんだ。」
父の的確な指示に、先輔は正直驚いていた。どうしてダメなのかを正確にわかりやすく伝えてくれた。父が教えてくれたのは、初めてではないが、いつも母と似たようなアドバイスで全然為にならなかったのだ。
 しかも、だ。魔法の練習をしていると思っていた先輔は実は魔力をただ放出しているだけだったのだ。母さんは俺に、何をさせていたんだろう。もしかしたら、意外と母さんは教え下手なのかもしれない。
 この四年間一体俺は何をして来たんだ、と先輔はガッカリする。
 父が、先輔の肩に手を置く。
「!」
 魔力が、注がれてきた。ほんの少しだが、魔力が戻ったのがわかる。
「もう一回やってみろ。今、与えた魔力で風魔法は発動するはずだ。」
 父の姿が輝いて見えた。


 先輔は、丸太の数メートル前に立つ。そして、魔法発動の準備にうつる。
「先輔。」
 父が呼び止める。
「いいか。魔力は溜めるな。ただ魔力を放出するんだ。包丁を研ぐときをイメージして魔力を放出しろ。それだけでいい。」
 今までの教えとは、正反対のアドバイス。だが、先輔はそれに従う。
 先輔は、右手に魔力を溜めずに魔力を送り始めてすぐに、右腕を払った。
 右手から打ち出された魔力の塊は、濃い青色で、勢いよく弧を描き、標的を目指す。だが、それは今までとは全く違う感覚だった。今までの二倍のほどの速さで標的に命中。しかも、命中すると丸太が綺麗に真っ二つになった。魔法が、発動したのだ。
 先輔は、その光景に目を奪われ、しばらく止まっていた。そして、ハッ とし、慌てて父の方向へ体を向ける。
「父さん・・・。お、俺・・・・・・。」
 感動で肩が震える。
「なんだ。できるじゃねぇか。」
 父は、感動で今にも泣きそうな先輔の姿を見て、ニッと笑ってみせる。
「やった!お兄ちゃんが魔法使えたー!」
 優花がこれ以上ないほど大きな声で喜ぶ。そして、先輔の元へ走る。
「おめでとう〜 ︎」
 優花は、勢いよく先輔に飛びついてくる。先輔は飛びつかれた勢いに負け、床に倒れる。
「いたたたたた・・・。」
「あ、ごめんね!」
 優花があたふたする。
「いや、俺も、今は、感動してて・・・クーッ!やったあぁぁぁぁぁぁ!!」
先輔は、残っている力で全力で喜ぶ。両腕を上げ、のしかかる妹も御構い無しに喜ぶ。今、流れている涙は、悔し涙ではない。嬉し涙だ。先輔は、この時、これ以上にないほど最高の気分だった。



 だから、気付かなかった。座っていたはずの父が消え、目の前にいたのだ。そして、優花の腹に左手。先輔の腹に右手を置く。そして
「よくやったな。」
 と言った。二人の額に魔力が放出される。
 二人は、吹っ飛んだ。




「ぐあ!」
「あう!」
 壁にぶつかった。何があったのか二人は理解できない。すると、魔法陣が二人の下に描かれていた。
「なっ!」
 先輔は慌てて優花を抱える。
「えっ?」
 そして、魔法陣の外側に走る。よく突然の出来事に対応出来た、と母なら絶賛するであろう。
 魔法陣から抜けると、父が目の前にいた。それは突然視界に現れた、というのが正しいだろう。そして、父は足を振る。父の足が先輔の脇腹に直撃する。先輔は優花を抱えたまま吹っ飛ぶ。先輔は咄嗟に優花の頭を抱きしめ、優花を守る。ゴロゴロと先輔と優花は転がる。そして、その回転が止まったところで、先輔は、盛大に血を吐いた。
 ベチャベチャベチャッ 
 床に血が広がる。
「ゴホッ、ゴホッ」
「お兄ちゃん!大丈夫 ︎お、お父さん、ど、どういうこと?」
 優花は、まだ脳が理解できていないようで、必死に状況を理解しようとする。先輔は、血を吐くのは初めてで、苦しいと感じていた。だが、それどころではない。
 足音が近づいてくる。
「悪足掻きをするたぁ、悪い子だな。」
「わる、あがき・・・?」
「そうさ。大人しく魔法陣の中に入っていれば、楽になれたのにな。」
「「!?︎」」
 優花は、怯えている。小さな肩を小刻みに揺らし、歯がカチカチと音を立てている。
 先輔は、血を全て吐き出し、父の方へ顔だけ向け、父を睨む。そして、確信する。その姿は父だが、顔が笑っている。そして、父は笑うときにあんなニヤニヤと気持ち悪く笑ったりしない。つまり。
「お前、誰だ?」
「誰ってお前らのパパに決まってるだろ?」
 その目はゴミを見るような見下す目である。
「黙れ。父さんの顔をした化け物め。」
 そうだ。あれは化け物だ。父さんの蹴りで、こんな吹っ飛ぶなんて。俺が未熟でも、父さんはここまでの距離を蹴りで吹っ飛ばすなんて無理だ。
 30mは吹っ飛んだだろうか。
「化け物、ね。ま、実際はそうだから仕方ないか。よく見抜いたな。坊主。いい目してるじゃねぇか。」
 あっさりと、父の顔をした化け物は、自分が化け物だと言い張る。
 先ほどの蹴りの衝撃がまだ体に残っており、先輔は、苦しそうな表情をするが、それでも尋ねる。
「父さんを・・・どうした・・・?」
 化け物は答えようとしない。
「・・・どうしたんだよ・・・ ︎」
 化け物はニヤニヤ笑っている。
「どうしたか って聞いてんだよ ︎」
声を荒げる先輔に、ようやく化け物は答える。
「 私 だよ?」
 ニヤリと化け物が父さんの顔で笑う。嘘だ。嘘だ。あれは、父さんの顔を真似しただけの、化け物だ ︎
 赤い血が、真っ白なコンクリートの上に飛び散った。





「おやおやぁ・・・・・・。」
 化け物は千切れた左腕を見る。血が吹き出している。突然の事であった。化け物の左腕が、化け物の体から離れ、落ちたのだ。
「なんだ。ちゃんと来たか。逃げたかと思ったよ。」
化け物は自分の背後にいる人間に声をかける。
「大事な息子と娘置いて逃げるわけねーだろ。」
 そこには、手を縦に振った母が立っていた。母が、化け物の左腕を風魔法で切ったのだ。
「まぁ、そりゃそーか。」
「母さん!!」
「先輔。よく優花を守ったな。そこから動くな。今からこの化け物を殺す。」
 いつもの母の口調と違う。男勝りな、強気な口調だ。
「ほう。殺すか。この僕を。正直、君には無理じゃないかなぁ?」
 化け物は、挑発するように言う。
「言ってろ。すぐ殺してやる。そして、旦那を返してもらう。」
「はいはい。せいぜい頑張れ。」
 母が、右腕を横に払う。瞬間、緑色の斬撃が、化け物目掛けて放たれる。そして、化け物は、それを体を後ろに反らしてよけた。
「あはは。遅いよー。」
 母の姿が消えていた。
「!」
 化け物は スン と、鼻を鳴らす。そして、目を大きく開いて、目に見えない何かを鷲掴みにする。
「ぐぅっ・・・」
 [透明化]の魔法を使っていた母が首を鷲掴みにされ、苦しそうに唸る。
「透明人間になっても、臭いは消えなかったなー。」
 先ほどのように馬鹿にする口調で、話しながら母の首の締めを強くする。
 化け物が右手に力を入れる。
 
 ゴキッ

 低い音と共に母が動かなくなる。
「呆気ないなー。」
 化け物は笑顔になる。
 瞬間、母の体が光る。
「ほ」
 化け物が何かを言いかけるが、その前に母の体は爆発した。
「母さん!!」
「お母さん!!」
 
「なんだい?」
「「!?」」
 母は先輔達の後ろで元気そうに立っていた。
「私があんなので死ぬわけないだろ。」
 その言葉と共に、二人は安堵の声を漏らす。
 おそらく分身の魔法だろうか。母の分身の魔法は、レベルが高い。それに、わざと透明化の魔法を使って引きつけるとは。化け物に分身だとバレなかったのも頷ける。流石、母だ。
 母が先輔の上体を起こす。
「・・・もう少し、ここで待っててね。」
 爆発した場所から人影が現れる。
「いやー、全く。驚かされる。爆裂魔法まで使ってくるとは。流石は、天才魔術師。」
 ボロボロになりがらも、化け物は生き残っていた。
「・・・答えろ。化け物。」
「ん。なんだい?」
 母がいつになく真剣な顔で、化け物を睨む。
「私の夫に、 不死 の研究をさせたのは、お前か。」
 化け物が、足を止めて、驚いた表情になる。
「・・・・・・」
 不死?どういうことだ?突然のワードに、先輔と優花は、疑問に思う。
 化け物が真剣な顔つきになり、呟いた。
「まさか。そこまで調べが付いていたのか。」
「やはり、お前だったか。」
 先輔と優花は話についていけない。
 父の仕事は、一般のサラリーマンのような仕事だったはずだ。先輔は、会社の中を見学したこともある。見学すると、会社の人たちは、みんなパソコンを触り、研究のようなことは全くしていなかった。見せられなかっただけかもしれないが、少なくとも、父と母の仕事の話を聞いていても、なにかの研究に関する言葉は全く聞いたことがなかった。つまり、仕事の話じゃない?一カ月帰ってこなかったことに関係があるのだろうか。先輔は、頭の中で疑問に色を与えていく。
「何故、分かった。」
「そんなことはどうでもいい。それで、実験は?」
 母は、相変わらず真剣な顔立ちだ。
「・・・・・・。見れば分かる。」
 瞬間、化け物が優花の目の前に現れる。そして、優花に注射器のようなものを刺した。
「あ」
「優花!!」
 母が慌てて風魔法を使う。
 化け物は跳躍して、それを華麗に避ける。
「あ、ああ」
「あああああああ」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「優花!優花 ︎返事して!優花!」
「おい、優花、大丈夫か!?優花!!」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
 これは、明らかにまずい。優花は、体をガクガク震わせながら、白目を向いている。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「てめぇ!何をしやがった!!」
 母は怒り狂い、風魔法を連発する。
 化け物は、風魔法をクルクルと優雅にかわしながら、告げる。
「いや、君の娘さんには、我々の計画の完成体第一号になってもらうんだよ。」
「おい!優花!大丈夫か ︎しっかりしろ!優花!優花!!」
 先輔は、優花に話しかけ続ける。
 そして、優花の震えが止まった。
「おに、ちゃ・・・・・・」
「優花 ︎」
 優花は、苦しそうな顔をした。




          「タスケテ」





 優花の体が膨れ、爆発したかと思うと、中から黒い物体が出てきた。
 母は、それを見て、[高速移動魔法]を使い、先輔の服の襟を掴み、跳躍。優花から出てきた物体から距離を取る。
 「優花アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」






 黒い物体は膨張していく。優花の体は、膨張した黒い物体でもう見えない。黒い物体は30mほどの大きさにまで膨張し、だんだんと形を成していく。翼が生える。黒い翼だ。そして、人型に変わっていく黒い物体。
「・・・・・・優花。」
 母は、小さく呟く。その目には、涙が溜まっている。
 [異形の天使]が、地上に現れた。




 叫び声が聞こえる。
 叫び声が聞こえる。
 叫び声が聞こえる。
 この声は、誰の声だろう?ボーっとしてしまい、何もかもが分からなくなる。最後に自分が言った言葉を思い出せない。何だったか。何と言ったか。考えた。そして、思い出す。「タスケテ」だ。何故、「タスケテ」なのか、理由は忘れてしまったが、きっとあの人なら果たしてくれるはず。あの人。
 私がこの世で最も愛する人。





 どうか。私を、「タスケテ」







「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く