魔術学園に響かせよ

Raise

8話 学園入学③

受験前日のイドラはドナーテから受け取った剣で能力との兼ね合いも見ながら調整をし続けた。

ちなみに、剣の名は”シュバルツ”にしたようだ。

さて、そんなこんなで受験当日となった。
しかし、街を立つときと比べてイドラは非常に落ち着いており、イルトはイドラが緊張のあまりに硬直しているのではないか、などと思ってしまうほどだった。

「随分と落ち着いているな」
「そうですね。何というか...この剣を持っていると何故か落ち着いて来るんですよ。まだ握り始めて2日しか経っていないのですが...何故でしょうか?」
「あぁ、確かにそういう感覚は感じたことがあるな。恐らく、その剣が余程お前に合っているのだろう。良かったじゃないか。」
「はい!あ、今度、改めてドナーテさんにお礼を言いに行かないと...」
「まぁ、行くとしたら受験に受かってから合格の報告と一緒に行けばいい。今は試験に集中しろ。」
「そうですね」
「おし!じゃあ行ってこい!」
「はい!父上!」

イルトは息子の切り替えの良さと成長に密かに安堵の息を漏らしつつ、受験会場へと向かって行く息子の後ろ姿を見送っていた。




さて、受験会場である学園に着いたイドラの第一印象は

「......デカい......」

そう、デカい。
正直、その一言しか出てこないくらいにデカい。
受験に受かればこの学び舎で学べるのかと思うとイドラは今からワクワクするのが抑えられなかった。

周りを見渡せば良いとこの出と思われる人や、明らかに強そうな人、様々な人が集い、皆受験に向け気持ちを整えているようだった。

そして、それから10分ぐらい後に受付が始まり、受付を終わらせたイドラは試験開始まで端の方で最後の調整をして、定刻に試験会場に入った。




「......え?」

いや、確かに聞いていた。
試験は実技のみと。

「それにしたって、在校生との一騎打ちのみって...」

あまりの脳筋テストに言葉も出なかったが、それでも覚悟を決め、イドラは自分の番を待った。




いよいよイドラの番となった。
相手はギルベルトという5回生の生徒だ。
一目見ただけでも明らかに強いと分かるその佇まいにイドラは気圧されそうになるが、それでも覚悟を決め相手の前に立つ。
一度目を瞑り、もう一度開く。

すると、イドラの視界がいつもよりクリアになった気がした。
どうやら、今日は調子が良い。
そう思うと途端に自信がつき、緊張が止んだ。

「さぁ、いこう。」

お互いに一礼をし、いよいよ開始...。

「それでは始め!」

開始と同時にイドラはシュバルツを抜き放ち、それによって鳴る音をラウドネスで増幅、ピッチで周波数を超低周波の領域にまで持っていき、牽制として放つ。
すると、かなりの威力を持って放たれた波に会場に振動が起こり、相手の体を一時的に硬直させる。
その一瞬にイドラは走り出し相手との間を詰める。
しかし、相手は5回生の強者。
そう簡単に攻めさせてはもらえない。
一瞬で硬直から回復し、接近してきたイドラに難なく反応する。
正面から剣を受けられると予測したイドラは剣を振る度に発せられる音の振動を剣に閉じ込め、簡易的な高周波ブレードを発動させ、手数で攻めだした。
相手の生徒は今まで見たことのない能力、立ち回りに非常にやりにくそうにしながらも、イドラの剣を確実に捌いていく。

(攻めきれない...)

あと数手、いや、2手違うバリエーションの攻撃が繰り出せたら、まだ付け入る隙を作れただろう。
しかし、魔術の素養の無いイドラにそれは難しかった。

そうして、斬り結び始めてしばらく経ち、膠着状態が続いていたが、年齢による体力の差からイドラの集中力が一瞬切れた隙に相手の魔術、初級雷属性魔術”ライトニング”を撃ち込まれ、そこからはもう成すすべもなくやられた。




(負けた...)

簡単に勝てるだなんて微塵も思っていなかったが、それでも悔しかった。
あと数手、自分に切れるカードがあれば、真面目に魔術についても学び、練習していれば変わっていたのではないかと考えると、後悔の念で頭が埋め尽くされた。
その日はその悔しさを吐き出すかのように大量の晩御飯を食べ、眠ることとした。

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