Traveる

Nowttel

5-4 模索

 享介と穂乃香を発端とする魔法問題をとりあえず保留にした一行は各々看病に移っていた。

「サアヤ……」

 人工呼吸器を付けて眠っている女性に対し、ヒナは心配の眼差しを向けながら接する。

「……」

 不安だった。実際、元通りには戻らないとアオイは言っていた。回復しても、車椅子等を使用しなければ生きていけないかもしれないとも。恐らく、もう一緒に冒険したり出来ないだろう。

「別に……いいよ。また、サアヤと一緒にお話ができれば。ここに来るまで沢山のことを経験したし……それをサアヤに自慢したいから……だから、絶対に良くなってね」

 ヒナはサアヤの手を強く握り、祈った。




 穂乃香は目が覚めるといつも通りの天井が見えた。本当はいつも通りでもないのだが、既にこちらの方が見慣れてしまった。

(……もう、一ヶ月も経つのか……)

 時の流れを考え、家族や友達、学校の事を少し考える。

「うっ……」

 起き上がろうとすると首筋に少し痛みを感じた。

「おはよう……ございます。穂乃香」

 痛みを気にせずそのまま起き上がり、声のする方を見てみると友恵が椅子に座っていた。

「友恵ちゃん。おはよう」

 おはようと言われ、言い返してみたが、今が朝かどうか分からなかった。ついでに言うと昨日(?)夜を経験していないようなもどかしさがあった。

(あれ……私、どうなったんだっけ)

 少しだけ記憶が霞む。しかし、徐々に思い出していく。

「穂乃香、ごめんなさい。貴方を救うためとはいえ……」

 穂乃香にはなんのことか分からなかった。何故なら誰に何されたかも分からずに倒れたからだ。

「友恵ちゃん……何があったの?」

 恐る恐る聞いてみる。友恵は事の顛末を話した。享介と湖にいたこと、そこで穂乃香が魔法を使おうとしてそれを力ずくで止めたこと……

「そっか……私……享介君と同じことを……」

 穂乃香は友恵から目を逸らし、少し考え込んでから言う。

「今、享介君どうしてる?」
「今はアオイの元でカウンセリング中です」

 記憶障害など、あまり前例の多いものでは無い。何がどうなるか分からないので毎日検査だけは徹底していた。

「貴方は……もう大丈夫なの?」
「はい。お陰様で。もう普通に暮らすことくらいなら充分なほどには」

 そっか、と安堵のため息を吐いてそのまま立ち上がろうとする。

「穂乃香?どこへ……」

 もう少し二人きりで居たかった友恵が尋ねる。

「享介君のこと、少し気になっちゃって」

 こちらを振り向いてへへっと微笑みながらそういう。友恵としてはもう少し安静にして寝ていて欲しいのだが、この笑顔を邪魔するのもなんだか心苦しい。

「分かりました。私の肩を使って下さい」

 それだけ言って友恵は穂乃香を亨介の部屋へと連れていた。

「ふぅ」

 穂乃香を見送ると、友恵は近くにあった椅子に腰掛ける。

「お疲れ様。えっと、友恵ちゃん。だよね?」

 よく見知った、嫌な声。しかし前のような刺々しさの消えた、心まで澄み切った声が聞こえてきた。思わず友恵はその場から少したじろぐ。

「あ、ごめんなさい。……当然、だよね。私は……それくらいのことを貴方に命令していたそうだから……」

 そこに立っていたのはサヨリだった。

「えっ……」

 しかし、友恵はその人物が本当にサヨリだと頭で理解するのに数秒を有した。今まで見ていた彼女は本当にこの女の人が操られていた姿だったのだろうか。操られていた後遺症か、まだ少しふらついていたがそれを諸共しないほどに今のサヨリは美しかった。

「……私は貴方に取り返しのつかないことをした。それは、例え私が操られていたとしても……だから、貴方にきちんと謝っておきたかったの。本当に……ごめんなさいっ!!」

 サヨリは友恵に頭を下げる。言葉が震えていた。操られていて、本当は自分が何をしたのか分からないはずなのに。サヨリの目からは涙が溢れかけていた。そんな姿を見て、色々な情報が一気に押し寄せてきて頭が混乱しかけていた友恵も真意を悟る。

「私も……許してくださいとは、言えません。……っですが、せめての償いをさせてください!!私、何でも……します!!!」

 必死に謝るサヨリを見て友恵は安心し、少し微笑んだ。

「えぇっと、今、何でもって……?」
「え、あああっ、そのええええ、エッチなこと以外なら……なんでも……大丈夫だよ?」

 友恵は心の中でそういうことを考えるのは穂乃香にだけです、と呟いて微笑みながらこう言った。

「私と、お友達になってくれませんか」




 そんなこんなから一週間ほどたっただろうか。この看病生活にもなんだかんだ慣れてきた。そんなある日、

「一応、退院ってことにしとくが、あんまり無茶はすんなよ」
「ありがとうアオイさん。それじゃあハルカ。行きましょうか」
「そうだね。お姉ちゃん!」

 サヨリの様態が完全に回復した。サアヤと違い、魔素の災薬の後遺症が少なかったのが幸いしたらしい。が、まだ安心とは言えない。何しろ魔素の災薬は未知の存在だ。何が起こるか分かったことではない。そんな二人が今回向かうのは王国の方の城だ。出来るだけ早くサヨリの無事を国民に伝えたいという事で、今日お城で公開演説をすることになっていた。

「それじゃ、アオイ。お願い!」
「おけ。俺様に任せとけ」




 公演は無事に終わった。そして、物凄い量の人が来ていた。恐らく、国民ほぼ全員来ていると思われる。これほどまでにサヨリの信頼は熱かった。

「ふー。終わった!」

 一息ついて、お城の一際豪華な椅子に二人で座る。

「いろいろあったみたいだけど、相変わらず皆元気そうで良かった!」

 城の周りでいざこざがあっただけで城下町での変化はあまり無かったようだ。あまり、ということで完全に無いわけではなかったのだが……

「いやぁー二年の歳月がたって結構変わってっちゃってるね。カスミさんの所、子供ができていたもの!後で名前聞きに行こうかしら」
「え?お姉ちゃん……あんだけ人いたのにそんな個人で人見分けられたの!?」

 え?っとサヨリはとぼけた顔をする。

「何言ってるの?全員の顔と名前は一致してるわよ」

 ケロッとそんなことを言うのだから恐ろしい。数万は軽くいるはずなのに、だ。

「そういえば、数人見てない人がいたなぁ。心配だし、後で尋ねてみましょ?」
「はぁ。お姉ちゃんにはやっぱり頭が上がらないわ。私だったら絶対ハヤトみたく妬もうとも思わないよ。はぁ」

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