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4-12 蘇る記憶 サアヤとヒナ

 友恵がサヨリに勝利した丁度そのころ、王室付近は最悪の状況だった。ハルカは一度、ハヤトから遠ざかって周りを見渡してみる。ヒナはサアヤと対面しており、こちらの声は全く届かない。アツシもなんとか半分ほど倒せたくらいだ。ちなみにアツシがやられればあの魔人なる者を相手できる人はいないので、それだけでこちらの負けにもなりうる。無論、ここでハルカがハヤトを倒さなければ、もしアツシが魔人に勝ってもハヤトにやられるだろう。

(私が……なんとかしないと!)

 しかし、そう思ったとしても戦況は変わらない。依然としてハヤトに弄ばれている。どうやらハヤトも一応血の繋がった者同士なのでハルカを本気で殺す気はないようだ。

 そしてヒナとサアヤはというと……

 戦いに少しづつ変化が現れていっていた。よく見るとサアヤの動きが少しずつ、ほんのわずかだが遅くなっている。そしてサアヤの周りにビリビリと感電したかのような音がなり始める。

「……サアヤ……!」

 しかし依然としてサアヤの剣はヒナに向き続ける。

「サアヤ!!サアヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 言葉が届いたかのようにサアヤの体がピクっとする。

「サアヤ!!」

 サアヤの剣を防ぎながら必死に呼びかける。しかし相手は伝説の盗賊のリーダー。いくら動きが少しくらい遅くなってもその剣さばきは衰えない。

「きゃっ!!」

 パリーン、という気の抜けた音とともに、サアヤの振りかぶった攻撃でヒナの氷の刃クリスタルナイフが真っ二つに折れる。そのままヒナを押し倒し、剣を押し付ける。

「っ……てりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

 それをバク転するように足を蹴りあげて、剣をサアヤの元から突き放す。そして今度は逆にヒナがサアヤに抱きつき、押し倒す。

 「サアヤ!!本当に……私を殺したいの?それで……サアヤは喜ぶ?それだけ……確認させて……」

 もはやヒナにとってサアヤが操られているかどうかなどどうでもよかった。どんな精神状態でもサアヤはサアヤなのだ。そのサアヤの口からきちんと[殺したい]と言ってくれれば喜んで死ねる。だから、サアヤに敵視されるくらいならもういっその事諦めた方がいい、そう思った。だが、サアヤは何も言わない。

「それじゃあ最後にこれだけは言わせて……。あの時、私を……助け……て、くれて、本当に……嬉しかったよっ!!ありがとう」

もう駄目だと察したヒナは最後の言葉をサアヤに残し、抱きしめていた手を離そうとした。しかし、

「……ヒ……ナ」

 微かに……弱々しい声だったが確かにそう聞こえた。

「サアヤ……!!」

 確認するように必死にサアヤを揺する。

「……ヒナ。辞めて……私は……あな……たを……殺したくなんかっ!!ああああああっ!!」

 そこまで言った時にサアヤの体から電流が走る。抱きついていたヒナだけでなく、その場の全員が一瞬麻痺する程のものだった。

「っ……何事だ。……まさか、魔素の災薬に抗っているというのか!?」

 確かに大事な人の前では効果の鈍る薬だが、それも普通は少しノイズが走る程度だ。こんなにも言語能力が回復するほどのことは絶対にないはずだ。

(薬に抗える、それほどの力を持っているって訳か。だが、どちらにせよ計画に支障はない。薬に抗えば抗うほど体は壊れていくからな。このままヒナを倒してくれれば万々歳だったが、仮にサアヤが死ねば悲しみでヒナは動けなくなる)

 ハヤトはそれほど深く考えず、ハルカとの戦いに意識を戻す。

 一方、間近でサアヤの電撃を食らったヒナは麻痺どころではなかった。一瞬意識は飛んだし、服も髪も少し焦げてしまっている。しかし、手は離さなかった。一瞬たりとも油断せずサアヤに抱きつき続けた。今手を離せばもう二度と掴めないと思ったからだ。

「ヒ……ナ……、リカ……は?」

 言葉を発する度にサアヤから電流が流れる。しかしそれを諸共せず、ヒナはしっかりと答える。

「ごめん。サアヤ……私のせいでリカとも……はぐれちゃって」

 悲しげに言ったがサアヤは少し微笑んでヒナの頭を撫でる。

「大……丈夫よ。あの子が、簡単に死ぬはずがない。どこかできっと生きてる。だから……あの子を探して、二人で平和に過ごして……」
「何言ってるのサアヤ!!サアヤも、サアヤも一緒だよ!!私たちずっと、ずっとずっと一緒って……約束したじゃん!!」

 目に涙を浮かべ、ヒナが訴えかける。だがサアヤはもう諦めたような顔でこちらを見つめてくる。

「もう……私は駄目……。ヒナかリカじゃなかったら……相手が誰でも意識を保てない。貴方がここで死ねば……私を止められる者はいなくなる……だから、」

 そこでサアヤはヒナにこの世で一番恐ろしいお願いをする。

「私を……殺してし……」
「っ……!?」

 心臓が止まるかと思った。

「……何言ってるのサアヤ……?そんなこと……出来るわけないじゃん。それに……助かる方法だってきっと!!」

 しかしサアヤは聞く耳を持たない。

「確かに……私を助ける手段は探せばあるかもしれない……。だけどもうそんな余裕どこにもない。それに何より、私は誰よりも……貴方が傷つく所を見たくないし傷つけたくもない!!」
「そんなの……私も一緒だよ!!」
「お願い……違うの……あなたの手で、終わらせて」

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