Traveる
4-9 救い
※作者の実話タイム(一部)www
これは二人が小学三年生の時だった。二人は違う学校に通っており、面識などあるはずがなかった。
この頃、享介は虐められていた。
虐めていたのは、今は友達の智とその取り巻きの数人。特にこれと言った出来事があったからというわけでなく、きっかけは些細なことだった。
この頃の享介は花乃とも出会っておらず、妹や親にもこのことは黙っており、完全に孤独だった。
「っ……なんで僕がこんな目に……」
それでも享介は耐え忍んだ。机に落書きをされようが、靴箱にゴミを入れられようが我慢した。しかし、それにも限度があった。少年のか細い心は簡単に折れてしまう。
そして享介は逃げ出した。放課後、帰る途中に我慢がならなくなり、一人脇道に逸れ林へと入っていった。
辛かった。なぜ自分はこんな目に合っているのか、なぜ自分なのか……全く分からなかった。そして享介は気づいたら知らない場所で体育座りをして泣きじゃくっていた。
そんな時、肩を優しく叩かれた。涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭って振り返る。
すると、見知らぬ女の子がそこにいた。優しい眼差し、サラサラの黒髪の女の子だ。
「どうしたの?」
その女の子はそう尋ねたあと、享介と同じ高さまで屈み込む。だが、幼い享介にも少しのプライドがあり、意地を張ってみせる。
「別に……」
「そうには見えないけど……」
そして続け様にこう言う。
「私で良ければ……相談に乗るよ……?」
優しかった。眩しくさえ見えた。この女の子に全てを見通されているような気がした。
「な……なんでもねぇよ……」
それでも享介は何も話さなかった。
「そっか……でも、君。泣いてるよ?」
「べ……別に泣いてねぇし……」
目をゴシゴシと拭いて、そう言い張る。
「そっか。それじゃあ、私に付いてきて!」
「はぁ?」
そういってその女の子は立ち上がる。
「ほら、行くよ!早くしないと置いてっちゃうよー!」
置いていくも何も付いてきてとお願いしたのになんなんだこいつ、と思いながらも享介はしぶしぶ立ち上がり、その女の子を追いかけた。
しばらく走り、近くの公園までたどり着く。そこにはその女の子とは別にもう一人女の子がいた。肩まで伸びた少し茶色がかった髪を持ち、前髪は揃えられている。そして花をイメージしたような髪飾りを付けていた。
「みずき〜!ごにょごにょ……」
そして黒髪の女の子が茶髪の女の子に耳打ちをする。
「あわ、あわわわわっ……なるほど。分かった!」
二人の間で何かが完結したようだ。
「よし!何して遊ぶ?」
「は?」
と、そんなことを黒髪の女の子は言い出した。
「かくれんぼがいいかな?それとも鬼ごっこ?」
「わ、わたしあれやりたい!ドバーってなってビシャーってなるやつ!」
二人が互いに意見を出し合い、笑い合っている。享介にはとても眩しく見えた。
「……ごめん。僕、そんな気分じゃないんだ。だから……もう帰るよ」
そういって来た道を帰ろうとしたが、黒髪の女の子が手を掴んで離さない。
「だーめ!ほら、貴方は何がしたい?」
この子は全く聞く耳を持たなかった。遊ばなければ返してもらえないと悟った享介はしぶしぶその女の子達と遊ぶことになった。
正直に言うと凄く楽しかった。二人共心から笑っており、享介も気がつけばつられて笑っていたのだ。
「あ、貴方笑ったね!」
「えっ」
そう黒髪の女の子に言われるまで自分でも気づいていなかった。
「やっぱり笑顔が一番だよ!さっきまでずっと難しい顔してたし。元気になって良かった!!」
そう満点の笑みで言ってくるのだ。そしてなんだか色々悩んでいたことが馬鹿らしく見えてきて
「は……ははっ……はははははっ!!」
三人で思いっきり笑いあった。
「あ、もうこんな時間……そろそろ帰らないと!」
時刻は四時半。まだ外は明るいが黒髪の女の子はそう呟く。
「ごめんねー。うちのお母さん、色々あって心配性だから早く帰らないと……」
そうか……こんな楽しかった時間ももう終わりなのか……
「ねぇまた、遊ぼ!」
そういって黒髪の女の子が手を差し伸べてくる。
「あ、うん」
「貴方……学校はどこ?……そっか、別の所なのね……」
学校が違うと、それだけで会うのは難しくなる。もしかしたら、もう会うことはないのかもしれない。
「それじゃあ……またね」
そういって走り去って行こうとする。
「待って!僕、享介!岸滝享介!!」
そう叫ぶと女の子二人も止まって振り向く。
「私は穂乃香!火神穂乃香!!」
火神穂乃香……。しっかり覚えた。享介に元気をくれた、いや笑顔を吹き込んでくれた女の子の名前。
「あ、あのっ……!!」
最後に伝え忘れた言葉を言おうとしたがもうどこかへと走り去ってしまっていた。
「あ……また、会える……よね」
享介はそう呟き、その場に立ち尽くした。
「あ、おい!享介!!」
すると、後ろから名前を呼ぶ声が聞こえてきた。振り向くとそこには智がいた。
「あ……あのその……ごめん。言い過ぎた……し、やりすぎちゃってた……本当にごめんなさい!突然居なくなったって聞いて、すぐ俺のせいだとわかった……自分のやってたことはやられたら凄く嫌だって……考えたらすぐ分かることだったのに……」
智も少し涙ぐんでいる。こいつもなんだかんだ根はいい奴だし、泣いてる智がさっきまでの享介と似ていたので、こう返事をした。
「よし!何して遊ぶ?」
満点の笑みでそう言ってやった。
これは二人が小学三年生の時だった。二人は違う学校に通っており、面識などあるはずがなかった。
この頃、享介は虐められていた。
虐めていたのは、今は友達の智とその取り巻きの数人。特にこれと言った出来事があったからというわけでなく、きっかけは些細なことだった。
この頃の享介は花乃とも出会っておらず、妹や親にもこのことは黙っており、完全に孤独だった。
「っ……なんで僕がこんな目に……」
それでも享介は耐え忍んだ。机に落書きをされようが、靴箱にゴミを入れられようが我慢した。しかし、それにも限度があった。少年のか細い心は簡単に折れてしまう。
そして享介は逃げ出した。放課後、帰る途中に我慢がならなくなり、一人脇道に逸れ林へと入っていった。
辛かった。なぜ自分はこんな目に合っているのか、なぜ自分なのか……全く分からなかった。そして享介は気づいたら知らない場所で体育座りをして泣きじゃくっていた。
そんな時、肩を優しく叩かれた。涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭って振り返る。
すると、見知らぬ女の子がそこにいた。優しい眼差し、サラサラの黒髪の女の子だ。
「どうしたの?」
その女の子はそう尋ねたあと、享介と同じ高さまで屈み込む。だが、幼い享介にも少しのプライドがあり、意地を張ってみせる。
「別に……」
「そうには見えないけど……」
そして続け様にこう言う。
「私で良ければ……相談に乗るよ……?」
優しかった。眩しくさえ見えた。この女の子に全てを見通されているような気がした。
「な……なんでもねぇよ……」
それでも享介は何も話さなかった。
「そっか……でも、君。泣いてるよ?」
「べ……別に泣いてねぇし……」
目をゴシゴシと拭いて、そう言い張る。
「そっか。それじゃあ、私に付いてきて!」
「はぁ?」
そういってその女の子は立ち上がる。
「ほら、行くよ!早くしないと置いてっちゃうよー!」
置いていくも何も付いてきてとお願いしたのになんなんだこいつ、と思いながらも享介はしぶしぶ立ち上がり、その女の子を追いかけた。
しばらく走り、近くの公園までたどり着く。そこにはその女の子とは別にもう一人女の子がいた。肩まで伸びた少し茶色がかった髪を持ち、前髪は揃えられている。そして花をイメージしたような髪飾りを付けていた。
「みずき〜!ごにょごにょ……」
そして黒髪の女の子が茶髪の女の子に耳打ちをする。
「あわ、あわわわわっ……なるほど。分かった!」
二人の間で何かが完結したようだ。
「よし!何して遊ぶ?」
「は?」
と、そんなことを黒髪の女の子は言い出した。
「かくれんぼがいいかな?それとも鬼ごっこ?」
「わ、わたしあれやりたい!ドバーってなってビシャーってなるやつ!」
二人が互いに意見を出し合い、笑い合っている。享介にはとても眩しく見えた。
「……ごめん。僕、そんな気分じゃないんだ。だから……もう帰るよ」
そういって来た道を帰ろうとしたが、黒髪の女の子が手を掴んで離さない。
「だーめ!ほら、貴方は何がしたい?」
この子は全く聞く耳を持たなかった。遊ばなければ返してもらえないと悟った享介はしぶしぶその女の子達と遊ぶことになった。
正直に言うと凄く楽しかった。二人共心から笑っており、享介も気がつけばつられて笑っていたのだ。
「あ、貴方笑ったね!」
「えっ」
そう黒髪の女の子に言われるまで自分でも気づいていなかった。
「やっぱり笑顔が一番だよ!さっきまでずっと難しい顔してたし。元気になって良かった!!」
そう満点の笑みで言ってくるのだ。そしてなんだか色々悩んでいたことが馬鹿らしく見えてきて
「は……ははっ……はははははっ!!」
三人で思いっきり笑いあった。
「あ、もうこんな時間……そろそろ帰らないと!」
時刻は四時半。まだ外は明るいが黒髪の女の子はそう呟く。
「ごめんねー。うちのお母さん、色々あって心配性だから早く帰らないと……」
そうか……こんな楽しかった時間ももう終わりなのか……
「ねぇまた、遊ぼ!」
そういって黒髪の女の子が手を差し伸べてくる。
「あ、うん」
「貴方……学校はどこ?……そっか、別の所なのね……」
学校が違うと、それだけで会うのは難しくなる。もしかしたら、もう会うことはないのかもしれない。
「それじゃあ……またね」
そういって走り去って行こうとする。
「待って!僕、享介!岸滝享介!!」
そう叫ぶと女の子二人も止まって振り向く。
「私は穂乃香!火神穂乃香!!」
火神穂乃香……。しっかり覚えた。享介に元気をくれた、いや笑顔を吹き込んでくれた女の子の名前。
「あ、あのっ……!!」
最後に伝え忘れた言葉を言おうとしたがもうどこかへと走り去ってしまっていた。
「あ……また、会える……よね」
享介はそう呟き、その場に立ち尽くした。
「あ、おい!享介!!」
すると、後ろから名前を呼ぶ声が聞こえてきた。振り向くとそこには智がいた。
「あ……あのその……ごめん。言い過ぎた……し、やりすぎちゃってた……本当にごめんなさい!突然居なくなったって聞いて、すぐ俺のせいだとわかった……自分のやってたことはやられたら凄く嫌だって……考えたらすぐ分かることだったのに……」
智も少し涙ぐんでいる。こいつもなんだかんだ根はいい奴だし、泣いてる智がさっきまでの享介と似ていたので、こう返事をした。
「よし!何して遊ぶ?」
満点の笑みでそう言ってやった。
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