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4-8 とある二人の決闘

「お前っ……火神さんから離れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 ハルカから貰った力のポーションを飲み干し、一気に駆け抜ける。

「まって!あの人は私のっ!!」

 と、そこで凛の声が聞こえる。しかし

「黙れよ……俺は言ったよな。穂乃香ちゃんを傷つける奴ならどうするか」

 なんかちょっと違う気もしたが、今の享介には全く通じない。凛は諦め、黙ることにした。

(制限時間は六十秒。こいつのことも俺のこともどうなったっていいっ!!穂乃香ちゃんを助けることだけ考えろ!!)

「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 そして放たれる力のポーションでパフをかけられた享介の右ストレート。物凄い拳圧で空気が揺れる。しかしそんな攻撃でも内山はすんなりとかわしてしまった。

「っ……!?」
「はっ威力だけ高くても当たらなければどうということはない。こちとら当たれば即死の魔法をずっと避けて生きてきたんだ。今更お前程度の拳が当たるとでも思ってんのか!!」

 それでも享介は力強く、本気で殺す気で殴り掛かる。しかし当たらない。なんど振りかぶって殴っても楽々とかわされてしまう。享介は一歩下がり、助走を付けてスピードを上げようとする。しかしにわか仕込みのパンチは隙だらけで、逆にカウンターを食らってしまう。

「ぐっ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 しかし、力のポーションで防御力も上がっている。体制を立て直し、再び立ち向かう。

(どうすればっ……どうすればこいつに攻撃が届く……っ!?)

 これほどのパワー、スピードを持ってしても勝てない。ということは問題は享介自身にあると、本人も気づいていた。

(なにか……なにか……手を打たないと……)

 そう思い、今度はもっと距離をとる。

(最後に全力の攻撃で決めきるしかないっ!!)

 思いっきり助走を付けて地面を蹴りあげ、内山に全力で飛び掛る。

 しかし

「ん?」

 そこで享介の力が花が萎むように抜けていく。

(まさか……こんな早くっ……!?)

 それは力のポーションの効果切れを表していた。これをチャンスと見た内山は、思いっきりアッパーパンチを食らわし、享介を壁までぶっ飛ばす。

「はっ……電池が切れればただの玩具か」

(ぐ……はっぁぁぁっ……)

 腹に痛恨の一撃を決められた。口がもどかしい。拭ってみると手に血がついていた。

「なんだ?もう終わりか??不完全燃焼だな……おい、ほら?立ってみろよ。そうしねぇとお前の愛しの彼女を助けらんねぇぞ!!」

 完全に上の立場に立っている内山が享介を煽る。実際、享介の足は震えて立つことすら許さなかった。

「おら!さっきまでの威勢の良さはどこいったんだァ?」

 言いながら内山は享介に蹴りを入れる。

「ぐはぁっ」
「ほら?なんか言ってみろよ」

 しかし言葉とは裏腹に攻撃の手を緩めようとはしない。

「はぁ……はぁ……っ」

 蹴られたお腹が痛む。もはや痛いとすら感じない。熱いと言った方が適切な気がする。

「ったく、本当につまんねぇな……。それなら」

 内山は享介から目を離し、穂乃香の方へと歩く。

「待……て、何を……するつもりだッ!」

 内山はおもむろに穂乃香の胸ぐらを掴む。

「そこでぼーっとしてたら……この女がどうなるか……分かるよなァ?」
「……っ!?」

 内山はニタァッと不気味な笑みを浮かべながら穂乃香を殴ろうとする。

「やめろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」

 拳のクリーンヒットする音が部屋中に響き渡った。

「おっと、なんとか間に合ったみたいだなァ」

 享介は内山に掴まれている穂乃香を庇って攻撃を受けていた。

「ぁ……がっ」

 勿論享介の足はもう震えて動かない。なので、地面を転がり、這ってでも前に進んだ。

「んじゃあ、次の一撃。いくぜ……」
「っ……!!」

 容赦のないカウントダウンが更に続く。

(もう……体を……上手く動かせ……ない……。だけど……ここで、諦めたら……穂乃香ちゃんがっ!!)

「享介君!!」

 必死に体を動かそうとしていた享介の耳に穂乃香の声が聞こえてきた。

「ありがとう……私ならもう、大丈夫だよ……もう、無理しないで……!貴方だけでも……逃げて……!!」

 この状況を見ていられなくなった穂乃香が叫んだ。しかし、誰にも聞こえないくらい小さな声で享介が呟いた。

「嫌だ……」
「あん?」

 内山が、なんか言ったか?と、睨みつける

「……大切な人が……傷つけられそうになっているのに……見捨てて逃げるなんて……そんなこと……俺には……絶対出来ねぇ……!!」
「享介……君」

  ハッキリと聞き取れはするが弱々しい声だった。その言葉に少し内山がたじろぐ。

(何故……こいつは立ってられる……もう体は言うことを聞かねぇはずだ……)

「……っ!?ふざけるな!!この世界ってのはそういうもんなんだよ!!!!!力のあるやつがないやつから一方的に奪う。こんなふうに弄ばれながらなぁっ!!」

 内山は声が枯れるほど大きく叫んだ。まるで説得するかのように。

「……!?……確かに……そうかもしれない……。ハルカだって、ヒナでさえ……そうだったんだからな……」

 だが、と付け足して亨介は言う。

「お前に何があったか知らねぇが、……俺は絶対に諦めたりしない!!俺は絶対に言わなきゃいけないことがある。それに穂乃香ちゃんを助けなきゃならない理由もある!!!!!」

 内山は正論ばかりを述べる亨介に腹が立ってくる。

「そうかよ……あぁ分かった。二度とそんな口聞けねぇ程にぶちのめしてやる」

 そういい、ゆっくりと亨介に向かって歩いてくる。亨介としてもあんなことを言ったはいいが、策がある訳では無い。あるのは……想いだけだった。

「俺の……俺の想いは……こんなものだったのか……?大切な人が傷つきそうになっているっていうのに……それでも俺の……力はこんなものなのか……?」

 見る人によれば、それはもう諦めているようにも見えた。しかし、亨介の決意は凄かった。想いが爆発しそうに熱かった。亨介はまだやれる・・・・・

「俺は……大切な人一人守ることすら出来ないのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 享介。纏うように赤いオーラが現れる。燃えるような熱いオレンジをしたオーラだった。

(っ……なんだ……?!こいつ)

 暖かな熱が部屋全体を包み込む。その発生源は享介だった。その正体は明らかに魔法だった。享介は魔法を手にしたのだ。ただの異世界人であるはずの享介が!!

「こいつ……何をしやがった……まさか、!?想いの力……この女を守りたいという想いがやつの魔法を開花させたというのか……!?」

 内山は過去に他の異世界人が魔法を使うところを見ている。その時と状況が似ていた。

「俺は……穂乃香ちゃんに救われた。小学校の時の俺に希望をくれた……」

 そこで溢れる涙を拭って言い放つ。

「俺が虐められていた時、声をかけてくれた……それが穂乃香ちゃんだ!!あの時、俺は救われた……っだから今度は、俺が……っ穂乃香ちゃんを救ってみせるっ!!だから……絶対に逃げ出したりしねぇ……っ!!」

 その言葉に一番驚いたのは穂乃香だった。

(えっ……)

 享介が魔法を使ったとかもっと他に驚くべきところがあるはずだが、穂乃香はそのことが享介の一言で全て吹っ飛んだ。

(私を好きな理由は……一目惚れじゃない……?)

 そこで穂乃香は記憶を遡って考えてみる。すると、一つの記憶が少しだけ蘇ってくる。

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