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3-9 城塞王国での思い出

「なるほど……何か意外ですね。あなたにもそのような過去があったとは」

 ヒナと友恵は肝試しということも忘れて夜の海岸線をのんびりと歩いていた。

「それからもいろいろあったんだよー。本当に大変だったけど……楽しかったなぁ」

 思い出に浸るようにヒナは空を見上げる。

「そのサアヤさんのところで強くなれたから今の貴方があるって事ですね」
「ま、そうだねぇ。私はどちらかというと褒められて伸びるタイプだったみたいだし」

 それにしては成長具合が高すぎるとも友恵は思ったが口には出さない。

「それでしばらく薔薇の盗賊団ローズシーフとして各地で暗躍したと」
「あの時はいろいろやらかしたわね。でもその成果が認められて王国の掃除屋になったんだけどね」
「王国の掃除屋……?」
「そう。敵対種族に牽制したり王国の美品が盗まれた時に取り返したりとか……未知の宝物を探す探検家だったりね」

 友恵は尋ねる。

「それで……良かったのですか?」
「まぁ……割とやばいことしちゃったし、別に私は三人一緒ならなんでも良かったし」




 この日、薔薇の盗賊団ローズシーフは伝説の秘宝«創造の筆クリエイティブラシ»という伝説のアイテムを盗むため、とある要塞王国に乗り込んでいた。どこにあるかなども既に把握済みなので迷うことなく突っ走る。別に兵士と出くわしてもなんら怖くはないが、事を大きくしたくなかったのでなるべく戦闘を控えながら宝の在処へと進むこの三人ほどの力があれば、
一つの王国に侵入することなど造作もないことだった。しかし宝の部屋までたどり着くと、何者かが待ち伏せしていた。

「まて」

 一人の男が物凄いオーラを放ちながら創造の筆クリエイティブラシを守るように立っていた。情報によると城塞王国最強の騎士、王国のアツシのような存在と言ってもいい。それほどの男だ。

「ねぇ、その宝。私たちに譲ってくれない?」

 しかしそれに全く臆することもなくサアヤが適当に問いかける。

「これは王家の家宝だ。盗もうものなら我が国に反逆を見なしたとしてお前達を敵と認識する」

 更に脅しをかけるが三人は歩みを止めようとしない。

「なに、怖いの?城塞王国の騎士サマがこんな無名の盗賊相手にビビってんじゃないわよ」
「……余程死にたいようだな」

 むしろサアヤは相手を挑発する。騎士の判断は早かった。手を剣を握るよう構えるとそこに魔法でできた炎の剣が現れる。

「あばよ。俺に挑んだことをあの世で後悔しな」

 騎士の全身全霊の攻撃が放たれる。熱で城の柱の金属部分が溶け始めるほどの威力だ。

「あんたが、ね!」
「……っ!?」

 しかしその攻撃を一人の少女が受け止める。しかも武器は氷の刃、炎の方が圧倒的に有利な組み合わせのはずだ。

(っ……何故だ……それに心做しか力が出ないっ!なんだ……っ、向かい風か?)

 気がつくと氷の刃の少女、ヒナの方から今にも吹き飛ばされそうな強風が吹いていた。

「ははん、気づいたわね。これが私の嵐の加護エンチャントトルネードよ」

 騎士が声のする方を見ると紫色のツインテール、リカが両手を構えていた。この魔法は味方から敵に向かって風を送り、味方には追い風として力を上げ、敵に対しては向かい風として攻撃の威力を下げる。状況が悪いと悟った騎士は、風の吹くままに一旦後ろへ下がる。しかし地面に着地したと同時に背後から物凄い悪寒を感じた。

「……っ!!」

 その覇気に、防いでも競り負けると思った騎士はとっさに横に転がる。その攻撃はサアヤの剣によるものだった。攻撃が虚空を切り裂き、衝撃波が生まれる。横目に殺意のこもったサアヤの瞳が通り過ぎる。

(強い……氷の守りと風の援護、そして確実に殺る剣……おっそろしく息の合った攻撃、俺でなきゃ殺られていたね。だがこの三竦みをどうにか崩さなければ俺にも勝機はない……)

 そう結果付けた騎士は風の少女、リカへ攻撃対象を変更し、炎の剣を振るう。

(ならば……攻撃と防御の要となっているサポートを殺ればっ!!)

 しかしそれを見越したかの如く、リカがその攻撃を受け止める。

「なん……!?」

 それは槍の両端が刃になっている昆のような武器だった。リカはその武器を振るい、騎士を押しのける。

「そう来ると思ったわ。私を潰せば、とりあえずサアヤとヒナにかかっているパフはなくなる。そうすれば勝機が見える。誰でも思いつく発想よね。ま、相手が普通の使い手ならそれで良かったかもしれないけどっ」

 リカはその武器を真ん中で切り離し、双剣として構え、騎士に向かう。

「私たちはすぐに役割を変えられる!」

 サアヤにも引けを取らない怒涛の連続攻撃が騎士を襲う。

(まずい、このままでは……)

 そこで一旦距離を取って体制を整えようと考えつく。そのために大きな一撃で一度、リカを吹き飛ばそうとした。しかし狩人はこの一瞬の隙を見逃さない。攻撃は風の力で足の速度の速まったサアヤに止められてしまう。防がれると思ってもいなかった騎士は虚をつかれ、たじろいだ。

「今よヒナ!!」

 リカの掛け声とともに騎士の背中を押すようにヒナが手を当てて魔法を唱える。

侵食する氷クロードアイス!」

 城塞王国騎士の綺麗な氷像の出来上がりだ。




「これね。伝説の秘宝«創造の筆クリエイティブラシ»ってものは」

 城塞王国の騎士を倒した一行は宝物へとありついた。なんでもこの霊装は書いたものをそのまま現実のものとしてしまう使い用によっては恐ろしい物だった。 

「これがあればご飯出し放題って事だよね!!凄い!!ねぇねぇサアヤ!早速使ってみよう!!」

 わくわくの収まらないヒナを宥めるようにリカが止める。

「そうね……でも、どこをどうすれば動くのかっ……あれ?あれれぇっ??」
「はぁ……もうしたかないわね」

 サアヤは戦い以外のことはとても鈍臭い。そんなサアヤをリカがサポートするのがいつもの流れだ。

「……どうやらこの霊装を扱うにはそれ専用の魔術師がいるっぽいね……誰でも使えるものじゃないみたいよ」

 そう言ってリカはサアヤを睨む。

「……つまり?」
「私たちが持ってても意味が無いってこと。はぁぁ……また無駄骨ってことね。サアヤもっと対象の霊装の効果をちゃんと知ってから作戦立てなさいよおぉぉーっ!!」

 リカが面倒くさそうにこちらを覗いてくる。

「いやだって、なんでも生み出せるのよ!!これが魅力的に見えない?なんでもできるのよ!!そんなの聞いたら欲しくなっちゃうじゃん!!」
「使えなきゃ意味無いじゃない!!それに今回自分達が何やったか分かってんの!?あの要塞王国を敵に回したのよ!!めんどくさいったらありゃしない」
「別に負けるよーな相手じゃないしいいじゃん。騎士も倒せたし」
「いいわけないでしょぉぉぉぉーこんなんじゃこれからおちおち寝てもられないよおおぉぉぉー。ほらヒナもなんかいって上げてぇぇー」
「私?私はまぁ、楽しかったから別に良かったけど?」

 そんなヒナの一言にリカががっくしと折れる。

「本当に危ない集団だわ……ここまでくるともう何をしても信じちゃいそう……」
「でも、そんな私たちをまとめてくれるリカがいるからこうゆうことが出来てるんだから。これからも付き合ってもらうわよ!!」
「はいはい。分かってまーす。私がいないと何も出来ないもんね!貴方達!!」

 と、こんな馬鹿馬鹿しい会話を要塞王国の玉座で喋っていると何者かの声が聞こえる。

「誰?」

 聞くと、同時にリカがその人物に全方向から風をぶつけ、動きを封じる。

「ふ……ふごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごべ……別に、貴方達に危害を与えるつもりはないです!!だから……ふごごごごぉぉぉぉーっ!」

 威厳のない情けない叫びが聞こえてきた。これにガックリと来たリカが二人に問う。

「どうする?」
「敵意はなさそうだよー。話くらい聞いてあげてもいいんじゃないかな?」
「そうね」

 ヒナの意見にサアヤが同意する。そしてリカが魔法を解く。その人物はどこか別の国の鎧を着た男の兵士だった。

「あ、ありがとうございます……」
「それで?貴方は何者?見た感じこの国のものではなさそうだけど」
「私、王国から調査にきたものです。我が国の敵国であるこの要塞王国に異変が起きたと聞いて駆けつけてきた所在であります!!」

 ちなみにこの男はハルキの父親だったりするのだが、王国での反乱までヒナとハルキは面識がないので特にどうこう言うこともない。

「へぇ。あの王国からねぇ」

 リカが考え込む。

「で、何のようなの?宣戦布告?面白いじゃない」
「ちょっとサアヤ。そうやってどこにでも敵を作らないでよ!!」

 挑発しているサアヤをリカがぶん殴る。

「いえ、そんな滅相もない。この要塞王国を倒していただいたお礼をと王様からの命令でして」
「王様……?!」
「王様ってなーに?」

 無知なヒナがリカに聞く。

「ここのような大きな国をまとめるトップね。どうするサアヤ?」

 聞くとサアヤは即答した。

「行くわ。五日後に到着するようにゆっくり向かうから、その代わりありったけの報酬を用意しなさい。つまらないものだったらその国滅ぼすから」

 小悪魔的な顔を浮かべながらそう言う。

「百も承知です」
「あー気にしないで、どーせジュース一本出てきても満足するようなやつだから……」

 リカが心配したのか助言をするが聞こえていたか怪しい。その男は颯爽と国へ引き返していった。

「さて、この国の観光でもしながら向かいますか……」
「でもこの国こんな荒らしといてなにか売ってるところ空いてるのかな?」
「大丈夫よ。こんなこともあろうかと市街地も食べ物も散らかしてないんだから。そんでリカ、ここ何が有名だったっけ?」

 確かイカさんウィンナーがどうとかという話をしながらこの街を堪能し、私たちは王国へと向かっていった。

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