Traveる
3-8 サアヤ
一方その頃、ヒナと友恵が肝試しをスタートしていた。
「いやぁ、それにしても友恵ちゃんから誘ってくれるなんて思ってなかったなぁ」
「……こちらも応じてくれるとは思っていませんでした」
「?」
ヒナはその友恵の言葉にキョトンと首を傾げる。
「え、なんで?」
「私は最初に出会った時に貴方の大切な人を疑ってしまったので」
そう言えばサアヤが王様を殺したとかなんとか吐かしやがってたな、とヒナが理解する。
「まぁ、仕方が無いよ。本当のことは誰も知らないんだから」
「知ら……ないんですか」
ヒナはどこか遠い目をしながら告げる。
「そんな噂が出始めたのも私とサアヤ、そしてもう一人の大切な団員のリカとはぐれちゃった後に出てきたから」
「音楽性の違い……?」
「いや私たち盗賊だから……」
友恵の思わぬボケにヒナは鋭いツッコミが出せなかった。
「何があったのですか?」
「王国での一件の前日くらいだったかなぁ……あんな真剣な顔をしたサアヤは初めて見たなぁ……ぐへへ」
「……ぐへへ?」
ヒナとは思えない気持ち悪い笑い声に友恵がビビる。
「もしかしてあなたも……その……サアヤさんのこと、好きですか?」
「え?当たり前じゃん!」
「愛してる?」
「当然」
「恋人になりたい?」
「ブフォッッ」
その言葉にヒナが図星を付かれ、困惑する。
「な……そんなわけ……てか、なんで私がサアヤのこと溺愛してるってことがばれたの!?まさかエスパー???????」
「いえ、その私も同じで……穂乃香のことが……」
ヒナがほーんとうなずく。
「なるほど。それで今の自分と私が被ったってことね。確かに目の前で救われちゃったら何も関係なく好きになっちゃうよね」
「その口振り……あなたも私と一緒なんですか?」
「そうだねー。家出して上手くいかなくて……どうしようもないから仕方なく家に帰ろうとして……でもそれさえできなくて……そして……」
「はぁはぁ……」
全速力で逃げた。私だって分かっていた。盗みを働いたら絶対に駄目だって。でも……そうするしか私に生きる道はなかった。一時期は自殺しようとも考えたがそんな勇気も出るはずもなく、結局このザマである。
「ゴラァまてやクソガキがぁぁーっ!?」
「……っ!?」
追っ手はまだまだ追いかけてくる。まだ小さかった私は、その体を生かしてここまで逃げてきた。が、それにも限界がある。
「うわっ!?」
追っ手が私の首根っこを掴んだ。
「……ごめん……なさい……ごめんなさい……!!でもこうするしか」
「知るかよ!そうなったのもどーせてめぇがなんかやらかしたら何じゃねぇのかよ!!甘えてんじゃねぇぞゴラァ!!」
もう終わりだと思った。なにがどうとかの前に人として終わった。こんなことをして許されるはずもないし自分でも許せない。そんなどうしようもないと自分自身でも分かっていていた。しかし私は祈ってしまった。
(誰か……助けて……)
今思えば本当に自分勝手だと思う。しかし、それよりも盗みという犯罪をしたというのにまだ心のどこかでまだ光の道に帰りたいと思っている自分がいたことが……惨めで恥ずかしく感じた。
「はいはい!そのへんにしておいてあげて!!」
しかし、そのヒナの心の声が届いてしまったのか、紫色の髪を後ろで二つに分けた少女が二人の間に割って入る。突然現れたその少女にヒナも追っ手も動揺したが、我に返った追っ手の人がその少女に怒鳴りつける。
「あ?こちとら商売でやっとんのじゃ!冷やかしならさっさと消え……」
言い終わる前にその追っ手の背後にもう一人、エメラルドグリーンの髪をした美しい少女が立っていた。
「お金なら私が代わりに払うわ。それにこの子にも私から言いつけておくから」
鋭い眼差しで追っ手を見つめる。
「なんやお前ら……俺に喧嘩売っ……」
そこまでいうと、まるで雷かと思うほど早いスピードで追っ手の首元を狙って手を突き出す。その手にはオレンジ色の花があった。
「なんの……つもりや……」
「これは薔薇。品種改良で触れればゾウでも動けなくする毒を盛ってるから、安易に動かない事ね」
「……っ!?」
そこまでほんの数秒の事だった。あまりの隙のない鮮やかな動きを横目で見て、私はその少女をかっこいいと思ってしまった。
「あと、自分の力だけじゃどうにもならない人もいるってこと。ちゃんと知りなさい。分かった?」
見ると、追っ手は恐怖のあまり泡を吹いて気絶してしまっていた。エメラルドグリーンの髪をした少女がその追っ手の手のひらに数十ピーを乗せ、こちらに振り返った。
「ひっ……」
その迫力に私は気圧されてしまう。
「君、大丈夫だった?」
「えっ……私?」
てっきり思いっきり怒られると思っていた私は呆気に取られる。
「大丈夫……だけど。あ、あの助けていただきありがとうございます。でもこんな私なんか放ってた方が良かったんじゃ……」
「そうかな?私には何か訳ありに見えたけど。やりたくて盗んだんじゃないでしょ」
そう言ってその少女は盗んだ果物を拾って私に差し出してきた。その時私は何が何だか分からなくなった。ここまで自分の気持ちを汲み取ってくれる人にあったことなどなかったから。
「うん……実は家出してて……家でいじめられてて……」
「そっか」
その人はこれ以上何も言わずに頭を撫でてくれた。
「あ……あの、貴方達は一体……?」
そう言うと、その少女は立ち上がる。
「そういえば自己紹介がまだだったね。私たちもあなたと同じよ。薔薇の盗賊団。ただの盗賊ね。それで私がリーダーのサアヤよ」
そう名乗った少女は一言で言うと凄くかっこいい人だった。肩まで伸びたエメラルドグリーンの髪に、鋭くどこか虚無を感じるが優しい目、そしてなにより一緒にいるだけでピリピリとした感覚が伝わってくるような……そんな人だった。
「それとこっちの紫色の髪のやつがリカ。私の部下ね」
サアヤと呼ばれる人物がもう一人を指して言う。
「部下よりは相棒って言って欲しかったわね」
リカと呼ばれた少女は優しくつっこむ。背は低いがどこかお姉さん基質を感じる。髪は紫色でツインテール、そして髪の一部に肌色のメッシュが入っている。
「それで、貴方は?」
「私は……ヒナって……言います」
「そんなに緊張したなくてもいいのよ」
リカがそういう風に言ってくれる。
「そうよ。あ……そうだ、ねぇヒナ。貴方、私たちと一緒に来ない?」
「……っ?」
そのサアヤの一言に私とリカも驚いた。
「ちょ……サアヤ!流石に危ないって。それに私たちがやってることもいけない事だし」
しかし、サアヤはそのリカの言葉を全く耳にかけない。
「どう?」
依然として私に聞いてくる。リカはこうなったサアヤは止められないと悟ったのかため息を吐いて喰い下がった。
「私が…?」
「そう」
「でも、私……何も出来ないし……」
「そうかな」
「今までだって……色んなことに挑戦してきたけど……何もかにも駄目駄目だったし……」
自分が情けなく感じ、目に涙が溢れる。しかし、それでもサアヤは優しく伝えてくる。
「そんなことないと思うよ。貴方は強い。さっきも言ったでしょ。ただ、環境に恵まれなかっただけだって」
「……」
そんなことを言われたのは生まれて初めてだった。今までなどただ罵倒されるだけだったから。
「大丈夫。さっき逃げてる時も見てたけど、なかなかいい逃げっぷりだったわよ」
何故こんなにも私に優しくしてくれるのだろうか……
「そうね。大抵の悪事はサアヤがやってくれるからそんな心配しなくていいよ」
私なんかを仲間に入れても絶望するだけのはずなのに……
「……なんで、……そんなに私に優しくしてくれるの?」
気がついたらその言葉が漏れていた。
「んーなんでだろうね。ま、多分昔の私と似てるからってとこかな。ほらそんなこと置いといて行くわよ。お腹すいてるだろうし、ご飯食べに行こ!」
有無を言わさず私の手を引き、連れ出していった。
(これは私の変われる最後のチャンスなのかもしれない……。もしこれでもだめならその時は……)
「いやぁ、それにしても友恵ちゃんから誘ってくれるなんて思ってなかったなぁ」
「……こちらも応じてくれるとは思っていませんでした」
「?」
ヒナはその友恵の言葉にキョトンと首を傾げる。
「え、なんで?」
「私は最初に出会った時に貴方の大切な人を疑ってしまったので」
そう言えばサアヤが王様を殺したとかなんとか吐かしやがってたな、とヒナが理解する。
「まぁ、仕方が無いよ。本当のことは誰も知らないんだから」
「知ら……ないんですか」
ヒナはどこか遠い目をしながら告げる。
「そんな噂が出始めたのも私とサアヤ、そしてもう一人の大切な団員のリカとはぐれちゃった後に出てきたから」
「音楽性の違い……?」
「いや私たち盗賊だから……」
友恵の思わぬボケにヒナは鋭いツッコミが出せなかった。
「何があったのですか?」
「王国での一件の前日くらいだったかなぁ……あんな真剣な顔をしたサアヤは初めて見たなぁ……ぐへへ」
「……ぐへへ?」
ヒナとは思えない気持ち悪い笑い声に友恵がビビる。
「もしかしてあなたも……その……サアヤさんのこと、好きですか?」
「え?当たり前じゃん!」
「愛してる?」
「当然」
「恋人になりたい?」
「ブフォッッ」
その言葉にヒナが図星を付かれ、困惑する。
「な……そんなわけ……てか、なんで私がサアヤのこと溺愛してるってことがばれたの!?まさかエスパー???????」
「いえ、その私も同じで……穂乃香のことが……」
ヒナがほーんとうなずく。
「なるほど。それで今の自分と私が被ったってことね。確かに目の前で救われちゃったら何も関係なく好きになっちゃうよね」
「その口振り……あなたも私と一緒なんですか?」
「そうだねー。家出して上手くいかなくて……どうしようもないから仕方なく家に帰ろうとして……でもそれさえできなくて……そして……」
「はぁはぁ……」
全速力で逃げた。私だって分かっていた。盗みを働いたら絶対に駄目だって。でも……そうするしか私に生きる道はなかった。一時期は自殺しようとも考えたがそんな勇気も出るはずもなく、結局このザマである。
「ゴラァまてやクソガキがぁぁーっ!?」
「……っ!?」
追っ手はまだまだ追いかけてくる。まだ小さかった私は、その体を生かしてここまで逃げてきた。が、それにも限界がある。
「うわっ!?」
追っ手が私の首根っこを掴んだ。
「……ごめん……なさい……ごめんなさい……!!でもこうするしか」
「知るかよ!そうなったのもどーせてめぇがなんかやらかしたら何じゃねぇのかよ!!甘えてんじゃねぇぞゴラァ!!」
もう終わりだと思った。なにがどうとかの前に人として終わった。こんなことをして許されるはずもないし自分でも許せない。そんなどうしようもないと自分自身でも分かっていていた。しかし私は祈ってしまった。
(誰か……助けて……)
今思えば本当に自分勝手だと思う。しかし、それよりも盗みという犯罪をしたというのにまだ心のどこかでまだ光の道に帰りたいと思っている自分がいたことが……惨めで恥ずかしく感じた。
「はいはい!そのへんにしておいてあげて!!」
しかし、そのヒナの心の声が届いてしまったのか、紫色の髪を後ろで二つに分けた少女が二人の間に割って入る。突然現れたその少女にヒナも追っ手も動揺したが、我に返った追っ手の人がその少女に怒鳴りつける。
「あ?こちとら商売でやっとんのじゃ!冷やかしならさっさと消え……」
言い終わる前にその追っ手の背後にもう一人、エメラルドグリーンの髪をした美しい少女が立っていた。
「お金なら私が代わりに払うわ。それにこの子にも私から言いつけておくから」
鋭い眼差しで追っ手を見つめる。
「なんやお前ら……俺に喧嘩売っ……」
そこまでいうと、まるで雷かと思うほど早いスピードで追っ手の首元を狙って手を突き出す。その手にはオレンジ色の花があった。
「なんの……つもりや……」
「これは薔薇。品種改良で触れればゾウでも動けなくする毒を盛ってるから、安易に動かない事ね」
「……っ!?」
そこまでほんの数秒の事だった。あまりの隙のない鮮やかな動きを横目で見て、私はその少女をかっこいいと思ってしまった。
「あと、自分の力だけじゃどうにもならない人もいるってこと。ちゃんと知りなさい。分かった?」
見ると、追っ手は恐怖のあまり泡を吹いて気絶してしまっていた。エメラルドグリーンの髪をした少女がその追っ手の手のひらに数十ピーを乗せ、こちらに振り返った。
「ひっ……」
その迫力に私は気圧されてしまう。
「君、大丈夫だった?」
「えっ……私?」
てっきり思いっきり怒られると思っていた私は呆気に取られる。
「大丈夫……だけど。あ、あの助けていただきありがとうございます。でもこんな私なんか放ってた方が良かったんじゃ……」
「そうかな?私には何か訳ありに見えたけど。やりたくて盗んだんじゃないでしょ」
そう言ってその少女は盗んだ果物を拾って私に差し出してきた。その時私は何が何だか分からなくなった。ここまで自分の気持ちを汲み取ってくれる人にあったことなどなかったから。
「うん……実は家出してて……家でいじめられてて……」
「そっか」
その人はこれ以上何も言わずに頭を撫でてくれた。
「あ……あの、貴方達は一体……?」
そう言うと、その少女は立ち上がる。
「そういえば自己紹介がまだだったね。私たちもあなたと同じよ。薔薇の盗賊団。ただの盗賊ね。それで私がリーダーのサアヤよ」
そう名乗った少女は一言で言うと凄くかっこいい人だった。肩まで伸びたエメラルドグリーンの髪に、鋭くどこか虚無を感じるが優しい目、そしてなにより一緒にいるだけでピリピリとした感覚が伝わってくるような……そんな人だった。
「それとこっちの紫色の髪のやつがリカ。私の部下ね」
サアヤと呼ばれる人物がもう一人を指して言う。
「部下よりは相棒って言って欲しかったわね」
リカと呼ばれた少女は優しくつっこむ。背は低いがどこかお姉さん基質を感じる。髪は紫色でツインテール、そして髪の一部に肌色のメッシュが入っている。
「それで、貴方は?」
「私は……ヒナって……言います」
「そんなに緊張したなくてもいいのよ」
リカがそういう風に言ってくれる。
「そうよ。あ……そうだ、ねぇヒナ。貴方、私たちと一緒に来ない?」
「……っ?」
そのサアヤの一言に私とリカも驚いた。
「ちょ……サアヤ!流石に危ないって。それに私たちがやってることもいけない事だし」
しかし、サアヤはそのリカの言葉を全く耳にかけない。
「どう?」
依然として私に聞いてくる。リカはこうなったサアヤは止められないと悟ったのかため息を吐いて喰い下がった。
「私が…?」
「そう」
「でも、私……何も出来ないし……」
「そうかな」
「今までだって……色んなことに挑戦してきたけど……何もかにも駄目駄目だったし……」
自分が情けなく感じ、目に涙が溢れる。しかし、それでもサアヤは優しく伝えてくる。
「そんなことないと思うよ。貴方は強い。さっきも言ったでしょ。ただ、環境に恵まれなかっただけだって」
「……」
そんなことを言われたのは生まれて初めてだった。今までなどただ罵倒されるだけだったから。
「大丈夫。さっき逃げてる時も見てたけど、なかなかいい逃げっぷりだったわよ」
何故こんなにも私に優しくしてくれるのだろうか……
「そうね。大抵の悪事はサアヤがやってくれるからそんな心配しなくていいよ」
私なんかを仲間に入れても絶望するだけのはずなのに……
「……なんで、……そんなに私に優しくしてくれるの?」
気がついたらその言葉が漏れていた。
「んーなんでだろうね。ま、多分昔の私と似てるからってとこかな。ほらそんなこと置いといて行くわよ。お腹すいてるだろうし、ご飯食べに行こ!」
有無を言わさず私の手を引き、連れ出していった。
(これは私の変われる最後のチャンスなのかもしれない……。もしこれでもだめならその時は……)
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