Traveる

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2-13 霊装とサヨリ

 戦いは終わった。どちらかが死ぬこともなく、傷つくこともなく平和に。

 遠くで倒れていたアツシが起き上がり、辺りを見回す。

「終わった……か」

 その事に少し安堵の息を吐き隣を見る。どうやらハルキはまだ気を失ったままのようだ。ハルカたちはもっと先にいるのだろう。

「よいっしょと」

 とりあえず合流しようと考えたアツシはハルキを担いで皆の元へと向かおうとした。しかしその行動はある人物の登場で無くなった。

「あーやっぱり駄目か……あんな使い古しのゴミを出した私が悪かったかなぁ。人を殺せないんじゃもう駒としても使えないだろうし」

 アツシはこの声をよく知っていた。

「やっぱ、あん時にキチンと殺しとくべきだったのかなぁ〜。あー失敗失敗っ!」

 その声の主はアツシの知る人物とそっくりだった。

「あの時はいろいろあったし……でももう用済みかもね……はぁ、殺すかな」

 しかし、アツシのよく知る人物はこんなことを言う人ではない。

「……サ……サヨリ……!?」

 アツシの漏らした言葉にその女が振り向く。その少女は年齢でいうと17歳ほど、白を基調とした美しいドレスに身を包んでおり、ピンク色の髪を二つに分けている。アツシはこの人物をよく知っている。

 何故なら、アツシの好きな人だったからだ。

「……ぁ。おいお前、この王国の王女様を呼び捨てかよ。はっ嫌な世の中になっちまったなぁ」
「何言ってんだよサヨリ!俺だ!アツシだ!」

 アツシは必死に話しかけるが、ピンク髪の女は全く気にかけない。

「はぁ……でも次の駒が居ねぇんだよなぁ。ちっ、代わりくらい用意しとけよな。なんでこの私が……雑雑雑雑……動かなくちゃなんねーんだよ……」
「おいっ!!サヨリ!?」

 そこで、ピンク髪の女が振り向く。その姿が昔のよく知った人物と重なり動けなくなってしまう。

「ごちゃごちゃうっせぇなあ!?」

 しかし、姿は同じでも性格が違いすぎる。サヨリと思われる女は腰に装備していた物を取り出す。

(……笛!?)

 アツシがそう気づく前には既に唇をあて、音を鳴らす体制になる。

炎の円舞曲フレイムワルツ!!」

 愉快な音が鳴り響く。するとサヨリと思われる女は、ペン回しの要領で笛をくるくると回す。ここまでの所要時間僅か数秒。それだけの動作で笛の先に巨大な火の玉が生み出され、アツシに直撃する。

「ぐっ……あぁっ」
「私に喧嘩を売ったことをあの世で精々恨みなさいな」

 一本道でぶつかるところがなかっただけかもしれないが、アツシはハルキをかばいながら盛大に吹っ飛んだ。その距離は享介たちがいる所まで届く。

「アツシ!ハルキ!」

 それにいち早く気づいたハルカが駆け寄る。

「大丈夫!?誰にやられたの?」

 ハルカが問うが、答えは後から発せられる。

「私だよ。私ですよ。私なんですよ!」

 この声はアツシと同じく、いやアツシ以上にハルカには聞き覚えがあった。ハルカが振り向くとそこには……

「……お……お姉ちゃん……?」
「ふふっ。と、その気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ」

 ピンク髪の女の豪快な蹴りがハルカに直撃する。

「えっ……」

 ドスッと重い音が館内に響きわたる。

「ハルカちゃん!!」

 その光景を目の当たりにしてしまった穂乃香はとっさにハルカに近づこうとする。しかし、その足をトモエが止め、小声で話す。

「待ってください……あの人を刺激したらもっと大変なことになります!」

 もしかしてと思い、享介は友恵に問う。

「あの人が友恵を導いてくれた的な人だったり?」
「……そうです。あの方こそ私を絶望のそこから助けてくれた人です……」

 その言葉には少しの温かみがあった。何があったのかは分からないが助けてもらったのは事実だろう。しかし

「あーあ。でもその御恩をこんな形で返されちゃうなんてなぁ……あー本っ当に失敗作。あの時殺しとくべきだったかなぁ」

 その言葉に友恵が動揺すると、サヨリと思わしき人物は腰から笛を取り出し、攻撃体制に入る。

「ま、今からでも遅くはないっか!んじゃあそーゆー理由で殺すわ。ごめんねー」

 笛の音を鳴らし、魔法を唱え、友恵を攻撃しようとする。しかしその行いはとある一人の人物の一声でかき消される。

「ねぇ。あんた。何者か知らないけどさ……。その笛、何処で手に入れたの?」

 ヒナだった。しかし様子がおかしい。普段のような軽い調子ではなく、あからさまに殺気を隠そうと必死である。

「ねぇ。なんであんたが持ってんの……?ジョウオウサマ?」

 この抑えきれていない殺気にサヨリと思われる女も少したじろぐ。

「ねぇ。それ、サアヤの物なんだけど」

 刹那、その場の空気が一瞬にして変化する。そしてヒナは、サヨリと思われる女に向かって飛びかかる。その時、ヒナは音を置き去りにした。

「……ちっ!?空間移動の円舞曲テレーポートワルツ!」

 唱えるとサヨリの姿が消える。

「……どこいったっ!?」

 移動地点はヒナの真後ろ。

氷の鎮魂歌フローズンレクイエム!」

 サヨリは死角から全力の魔法を唱える。

(入った!完全に避けられる攻撃ではないっ!)

 しかし、その攻撃をヒナは振り向きざまに切り裂く。

「なっ!?」
「ちまちまと逃げ待ってねぇーで……さっさと返せぇっ!!」
「ヒナ!落ち着いて!」

 様子があからさまにおかしいと思ったハルカが蹴られた所を抑えながら駆け寄る。

「っでも……団……長……あれは、確かにサアヤが……いなくなる前に持っていた霊装なんだもん……!」

 サアヤ。ヒナを絶望の底から助けた張本人。そして友恵が言うには薔薇の盗賊団ローズシーフのリーダーで、王国の王様を殺しただとかなんだとか。

「いやでも、元はと言えば私の為にこの笛を取りに行ったんでしょ?貴方達に依頼して」
「っ……」
「だから別にいいじゃん?私が持っていたって。てか、別に私はこんな話をするためにこんな辺境まで来たんじゃーねぇっの」

 そしてサヨリと呼ばれる女はまだ穂乃香の腕の中で泣いている友恵を見下しながら、言い放つ。

「人を殺すことすら満足に出来ないゴミに用はないから。こちらから殺してやろうかとも考えたけどあんたとヒナを同時に相手するのは流石に厳しいだろうしやめておいてあげるわ」

 ふふふっとサヨリは不敵に笑う。

「それじゃあ、私の用はそれだけだから。じゃあねーバイビー」
「あ、待って!!」

 ハルカが叫びサヨリに近づこうとしたが、サヨリは笛に唇をあて、音を鳴らそうとした。恐らく先程も使用した移動魔法で逃げるつもりだろう。しかし、その動作は途中でキッパリと止まった。

「えっ」

 そして何故か、サヨリの全身が震えだす。そのまま、足もおぼつかないまま前へ歩き出し、ハルカに抱きついた。

「……ハ……ルカ……助……け」
「っ!!?お姉ちゃ……」

 しかしサヨリのその状態は長く続かなかった。

「っち……くそっ!えぇい邪魔だっ!」

 急に性格がまた変わり、ハルカを蹴飛ばす。

「くっ……雑雑雑雑……ノイズが……殺殺殺殺……っ空間移動の円舞曲テレポートワルツ

 震える体を無理やり抑えながらサヨリは移動魔法を唱え、この場から消え去った。

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