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2-8 幼い記憶

 ハルカやハルキに置いていかれた享介とヒナは水族館を適当に歩き回っていた。

「ふむふむ。とりあえずあと一時間くらいでメインイベントのイルルカショーがあるのね。どーせ皆見に来るだろうしそこで合流すればいいよね」
「そうだな」

 さっきからそうだなしか言ってない気がする。これはコミュ障の性なのか……ちなみにイルルカはこの世界のイルカの一種らしい。なんて名前してやがる……。とりあえず気まずいのでヒナにいろいろ聞くことにした。

「なぁ。さっき俺らが動物園に行ってた時にどこに行ってたんだ?」

 この問にヒナは少し目をそらす。

「あーあれね。このトーフの街は私の故郷なの。それでちょっとね」
「そうなのか」
「まぁ。あまりいい思い出はないんだけどね。物心ついた時にはもう親からの虐待を受け続けてたからさ」

 享介は血の気がサッと消えるような感じがした。ヒナはあくまでも自傷気味に話す。

「なんで……」
「さぁね。何かが気に入らなかったんでしょ。多分」
「聞きたい?」
「話してくれるのなら……勿論お前がこれ以上深追いはやめて欲しいならいいけど」

 そう言うとヒナは少し微笑んで見せた。

「そう。なら、教えてあげるわ。あたしの過去」

 そこからの話は物凄く重い話でとても軽い気持ちで聞いてはいけなさそうな内容だった。




 そう。あれはまだ私が子供の時。私の家は両親と姉と私の四人で構成されていた。姉はものすごく優秀だった。それに比べ私は魔法も初級レベルのものしかできない、運動もできない、細かな作業もできない。できない尽くしのダメな子だった。それでも、そんな私を姉のユイナだけは必死に励ましてくれたんだけど……

「ヒナ。大丈夫?少し休んで……」

 だが無慈悲にも、親は違った。少しのミスや手間取りで物凄く怒られた。恐らく優秀な姉と比べられた結果なんだと思う。

「ちっ全くこんなことも出来ねぇのかあアン?」

 パッチーンと音のなる、頬に殴られた痛みだけが残る。来る日も来る日もそんな日々が続いた。そんな中で私はただ褒めて欲しかった。私にも出来ることがあると信じていろいろなことに果敢にチャレンジした。そんなある日。私は料理に挑戦しようと思った。街を飛び出し森へ出て木の実を集めようとした。しかしその考えは甘かった。私はすぐに迷子になり泣き叫んだ。お姉ちゃんが探してくれてなんとか助かったけど、その夜の出来事は一生忘れない。

「お前。無能の癖に迷惑ばっかかけてんじゃねぇぞ」

 いつも通り叱られ殴られる。しかしその後がいつもと違った。親の怒りが姉にまで飛び火したのだった。

「おいユイナ。てめぇもちょっとヒナより魔法か使えるからってふぬけてんじゃねぇぞ。あ?んだよその顔は?お前、チョーシ乗ってんじゃねぇぞこらァ!!」

 怒りが逆上し、重い拳が姉に直撃する。

「てめぇがきっちり見てねーからこーなんだよ!分かってんのか?」
「やめて!お姉ちゃんは何も悪くない!私が……私がっ……」
「はァ?元はと言えばてめぇのせいだからな。お前が糞野郎じゃなかったらこんなことにゃなってねーよ」

 その言葉に幼い頃の私は酷く傷ついた。自分がどうとかならまだしも……他の人まで不快にしてしまう私に生きる価値なんかあるのか……そう思った翌日


  私は家出した。





「そんな……酷い。酷すぎる……なんで、なんで才能がないだけでそんな酷い目に会わなくちゃならねぇんだ!!おかしいだろ!それも含めて応援してやんのが親ってもんだろっ……!」

 ヒナとしてはあまり明かしたい過去ではなかったがここまで感情的になってくれると話して良かったなとも思う。

「でも無能な私ではその後どうすることも出来ず……結局そこら辺の大人にいじめられていたんだけどね」
「無能って……あんなに強い力を持っているのに?」
「それは全部そのあとの話。私の命の恩人であり大親友のサアヤに出会ってから私の人生は変わったの。それで今はこうして生きていけてるんだけどね」
「その人がいなければ今頃……」
「誰にも気付かれずに命を引き取っていたでしょうね」

 ヒナの顔が俯く。しかしそれでも元気を取り繕うとする。

「でもまぁこうして今はそれなりに過ごせてるし大丈夫だよ。ごめんね?こんな暗い話して」
「いやこっちこそ……なんか、ごめん」

 ここで何故かヒナは辺りを見回す。

「ところでそのサアヤって人は……」
「あ、もうすぐイルルカショーが始まるよ!」

 聞くまもなくヒナが話を逸らす。長い間話をしており、気づかなかったがもうそろそろ一時間が経とうとしていたようだ。

「でもなぁ……手ぶらでショー観るのもなんか寂しいよねぇ……(チラッ)」

 ヒナは上目遣いで見てくる。

「あーはいはい。なんかお菓子買ってくるよ」
「流石!分かってるぅ!はい。これ五百ピーね。余りは適当に貰っちゃっていいから。それじゃ私先行ってるねー」

 そういい、ショーの会場へと駆けていった。

「……あいつにもいろいろあったんだなぁ」

 あまり人には言いたくなさそうなことを打ち明けてくれたのでヒナは特に異世界人への嫌悪感などは無さそうだ。ありがたい。

「さて、なんだかんだ言われたしなんか買ってくるか」

 幸いにも少し歩いたところにちょっとした売店があるようだ。相変わらず無くしそうな丸いデザインの通貨のピーをポケットに入れて売店まで歩く。

「らっしゃいっせー」

 割と適当そうな店員から美味しそうなお菓子を複数個買い、店を後にする。因みに買ったお菓子はぷる-ぷる-ポテチ(うすしお)。なんでもこの売店の看板商品らしい。

「さーて。お菓子も買ったしショーの会場に向かいますかね」

 適当に独り言を呟くが全く浮かない。なぜなら周りに人がいないからだ。恐らく来場者全員がショーの会場にいるからだろう。しかしそうでない少女を一人見つけた。

(なんだ?あの子。)

 何故か享介の方を見てくる。ショーは見に行かないのだろうか。すっげえ見られてる。顔に何か付いているのか、それともこのお菓子が欲しいのかな?享介は話してみることにした。

「え……と。もしかしてこのお菓子、いる?」

 実はこのお菓子小分けになっているので人に譲りやすい。少女は袋を開けて食べる。あ、ほんとにこれ目当てか?

「……モチモチとした食感のポテトチップスなんてよく分からない食べ物だとは思っていましたが……。まさか見ても食べてもよく分からないとは……。何故こんなものが売れているのか理解に苦しみます」

 とか言いつつ完食するあたり美味いのは美味いのだろう。

「ははっ。変わってるよねー」

 享介は適当に話す。因みに話しかけたのは相手が14歳ほどだったからではない。決してロリコンとかそういうのではない。多分。そして背中に熊のぬいぐるみを背負った、腰まで伸びた長い金髪の少女は享介に近づきながら言う。

「あなたが岸滝享介……」
「な……なんで俺の名前を……?」
「あなたを探していました……」

 すると少女のぬいぐるみが突然、太刀のような長い刃物へと変化する。

「!?」

 鋭い一撃が放たれた。相手の反応が遅れたおかげもあり、享介はなんとか後に転がり。避けることに成功したが……

「な……」
「ある方からあなたの抹殺を依頼されました。……恨みはありませんが、消えてもらいます」

 金髪の少女の猛攻がいきなり始まった。

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