転移してのんびり異世界ライフを楽しみます。

深谷シロ

19ページ目「されど僕は追い付く」

まず走り出したのは、ガリメデルスだった。ガリメデルスは〈聖・土属性〉の魔法【猛虎】を発動させる。この魔法は土で出来た虎を召喚し、それを使役する魔法だ。


召喚された三体の猛虎は、ガリメデルスを囲うように並んで並走している。【猛虎】は〈聖・土属性〉の魔法のため、猛虎がアンデッドに攻撃するだけで敵は成仏する。


ガリメデルスは前へ爆走して行った……。思わず、走っていた足を止めて見てしまった。


おっと、いけない。僕にも敵が襲ってきたようだ。僕は襲ってきた敵に回復魔法・・・・を展開する。


……成仏した。回復魔法は、アンデッドに本来とは逆の効果を作用させるようだ。少ない魔力でアンデッドを倒せる事が分かった。さて、行くとしよう。


ふと、前を見るとガリメデルスは見えなくなっていた。早い。


リルは歩いている。リルの周囲1mの範囲に入ったスケルトンや骸骨兵士スケルトンソルジャーが凍っている。恐らく範囲型の攻防一体系魔法だろう。1mの範囲以内の温度が低いのではないだろうか。


エレナは飛んでいる。本人が言ったように〈妖精魔法〉で飛んでいるようだ。妖精の力を借りれるのは嘘ではないらしい。


いや、嘘とは思ってないけどね。


僕だけが置いていかれている。仲間や契約獣にさえ、置かれていくとは。確かに単独突破を目指すように行ったけど、誰かは付いてきてくれるかと期待してたのにな。期待してた僕が馬鹿だったよ。


誰が見ても一目で沈んだ表情をしているタクトに何故か、スケルトンらが襲ってこなくなった。近づき難い雰囲気が漂っているようだ。


さらに心が沈みそうだよ。まさか、スケルトンにまで同情されるとは。なんかイライラしてきたな。


「【光速一閃スピードフラッシュ】……っ!!」


キレ気味に言った。この魔法は【一閃フラッシュ】の上位互換だ。速度が上がることで、突撃速度が上がり、威力が倍になる。〈上位魔法〉になったりする。


僕には〈上位魔法〉が未だ限界のようだ。まだまだだな……。


光速一閃スピードフラッシュ】を展開した僕は、同情の目を向けてくる──いや、目がないが──スケルトン達に突撃を仕掛ける。


スケルトンは一網打尽にされた。僕の良いサンドバッグになってくれる。


光速一閃スピードフラッシュ】の使用時間を長くするほど速度が早くなるが、制御が格段に難しくなる。


別に僕は敵の殲滅を目標にしている訳では無いので、他のみんなが向かっている方向と同じ方向……要するにガイコツ殺戮骸骨がいる方向へ突撃していった。


いとも容易くスケルトンらは飛ばされていく。いつの間にか地下には一本の線が続いていた。光の線だ。既に速度が光速よりも早いので、残像が見えているのだ。このままだと奥にぶつかりそうだな……。


そう言えば……他のみんなはどこに?……あ、いたいた。


リルとエレナはほぼ並走している。僕の100m先ぐらいを走っている────抜かした。光速だもの。一瞬だよ。リルとエレナは横を通っていた正体不明の光に驚いていた。


ガリメデルスはまだまだ先にいる。1番最初に走り出したからね。フライングで負けにしたいけど、別にそういう競技じゃないからな……。狡い。


おっと、数キロ先にガリメデルスが見えた。あそこで止まるとするか。……これ止まれるの?今のうちに勢いを殺しておこう。


まず僕は走っている足を止めた。しかし、スピードが完全に殺されずに地面と足を擦らせながら、摩擦で勢いを削りつつも、前へ進み続ける。


ガリメデルスとはあと……2km。もしかしたら止まれないかも。【光砲ライトキャノン】を前に撃つ。その反動で勢いを殺し……あ、ガリメデルスが気付いた。


……さらに足を早めたぞ。何故、契約者の僕から逃げるんだ。あ、1番になりたいのか。けど、僕には関係ない。【光砲ライトキャノン】を数十発を撃ち、止まった。靴底が擦れて、足裏が見えそうだ。いつか買い直そう。コワウルヌで買えるかな……?


「ちっ、追いつかれた。」


え……?ちょっと待ったァ!!まさか舌打ちまでされるとは?僕、嫌われてるの?悲しくなるよ?一瞬だけど悲しみで涙を流しそうになったよ。


こんな調子で僕達は暴走しつつ、前へ爆走した。


* * * * *


僕達は100kmほど進んでいる。ここまでで1週間ほど経過している。全く端に辿り着ける気がしない。皆のペースは1週間続きで不眠不休。死にそうな心地だ。残業代出してください。


「みんな、1回集合!!」


僕達は前後100mに呼び掛けた。前にいるのがガリメデルス。背後にいるのが、リルとエレナだ。リルとエレナは談笑している。余裕だね。エレナなんて寝ながら飛んでるみたいだし。


すぐに全員が集まった。しかし、来て欲しくない客も。


「君たちは歓迎していないよ。【光結界ライトスクエア】。」


スケルトンらを追い出す形で結界を展開した。これで静かにできる。


「一旦、休憩しよう。というより寝よう。」


と、僕が告げると同時に僕以外は眠り出した。眠たかったたらしい。僕も眠たいが、流石に見張り番がいる。1人誰かが起きるまで僕は寝ずに番だ。頑張ろう。


光の結界に包まれてゆっくりしていると、段々と眠たくなってきた。ここにはガイコツ殺戮骸骨も入ってこれない。影がないからだ。この結界内には影が出ないようになっている。奇襲を恐れてのことなのだろう。正しい判断だ。


眠たくなってきたな……。まあ、スケルトンらは近付けないし、いいや。寝てしまおう。


その時、地下の奥から一体の生物が歩き、通り過ぎて行った。その生物はタクト達に一瞥もくれることなく・・・・・・・・・・通り過ぎた。異様な雰囲気を放って。うたた寝をしてしまったタクトには、この生物が強敵となる事を知るよしもなかった。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く