転移してのんびり異世界ライフを楽しみます。

深谷シロ

12ページ目「ゆえに僕は頼まれる」

「すみません、少しよろしいですか?」


そう言って王女様が宿を訪れた。


「大丈夫です。」


何か用だろうか。僕とリルの部屋へ招き入れる。今、リルはいない。また、隣の隣の国へ遊びに行っているみたいだ。


「どうぞ。」
「ありがとうございます。」


王女様の背後には既にお馴染みの騎士さんもいた。何故か騎士さんは僕を怖がって近寄ろうとしない。僕は仲良くしたいのに。


「それでご用件とは?」
「……タクトさん達には先へ進んでほしいのです。」
「……と、言うと?」
「今、お暇させて頂いている貴族が少々怪しいのですが、それを公式の調査として残せないのです。その為、私達が次の街へ訪れた事にします。」
「要するに王女様と扉の外にいる騎士さんは貴族の屋敷に再び潜入すると?」
「そういう事です。」


どうやら予想以上に貴族が裏で色々やらかしていたらしい。ハーメリアルの領主であるこの貴族は、成り上がり貴族だ。1代で領主の座についているため、周囲の貴族からは疎まれていて、成り上がった秘訣は誰も知らない。凡そ、裏で賄賂でもしていたのだろう。この貴族をハーメリアルの領主に付けることになった貴族も、ということか。貴族社会は怖いね。


「……分かりました。無人の馬車を連れていきますが、御者の役目はどうしますか?」
「それが問題なのです。何か良い案はありませんか?」
「〈闇属性〉の魔法で騙すことは出来ると思います。【注意散漫ディファース】。こんな風に。」


タクトが魔法を発動させると、タクトの存在を見失ってしまった。これは姿を隠したい本人に発動する事でこちらに視線が向かないようにする魔法だ。これで門番や住民なども気付かずに済む。御者の代わりは僕が魔法で変わり、この魔法を人形か何かに発動させて、御者席に置いておけば良い。


「た、タクトさん何処ですか?」
「あ、ごめん。【解除キャンセル】。」


解除キャンセル】は自らが発動した魔法の効果を全て解除する魔法だ。〈干渉魔法〉は自分で抵抗レジストする方法があるが、〈干渉魔法〉以外の魔法は、抵抗レジスト出来ないので、この魔法を使うのだ。但し、自分以外が発動した魔法は解除できない。因みに〈無属性〉。


「あ……現れました。」
「成功して良かったです。」
「あれ……タクトさんって魔法が使えていましたか?」
「あぁ……最近、使えるようになったんです。ここで魔導書を購入して、覚えたんですよ。」
「そうなんですか!」


何やら王女様はご機嫌な様子。どうしたのでしょうか?


「どうしましたか?」
「あ……いえ。私も魔法を使ってみたいのですが、私のスキルが邪魔をしていて……。」
「スキル……?」
「〈魔法無効〉というスキルです。魔力はあるのですが、魔法を発動できず魔法も効きません。」


確かに〈情報〉スキルで見ると〈魔法無効〉スキルがある。〈万能〉スキルが発動して、手に入れるかどうかと選択肢が出るが、保留にしておく。スキル改変の能力があったら、手に入れたいけど今はいいや。魔法使いたいし。


「それは……。」
「大丈夫です。そのために私はスキルの研究を王都でしています。王都に戻り次第、再開するつもりですので。」
「そうですか、頑張って下さい。」
「はい!」


少ししんみりとしてしまったが、気を取り直して聞くとしよう。


「それはそうと、次の街は何処ですか?」
「あ、言っていませんでしたね。次の街は遠いです。森人エルフ族が治める街……『コワウルヌ』。森人エルフ族の中でも最大の部族であるコワウル族です。森の中にある都市で自然都市としても親しまれています。ダンジョンも存在していて、冒険者がよく訪れる町ですね。」


この部族だが、エレナの部族とは違う。このコワウル族は森人エルフ族の中でも特に人間に親しい部族として知られている。樹齢が数万年とも言われている大樹……世界樹。それを囲むようにできた街だ。


ダンジョンは世界樹自体であり、構造は1層から1000層まである。最上層である1000層にはハイエルフが太古、神々と通信をしていた祭殿がある。現在、280層がクリアされたばかりである。ハイエルフが太古、どのように1000層まで行ったのか。これはこの世界の七大神秘ワールドミステリーとされている。学校の七不思議みたいなやつだ。


また、コワウルヌには〈妖精魔法〉の大魔法使いがいる。この世界に10人いる大魔法使いの、その1人だ。大魔法使いになるには〈大魔法〉と呼ばれる〈極致魔法〉を習得する必要がある。コワウルヌにいる大魔法使いは勿論、〈妖精魔法〉が属する副属性の〈精霊属性〉の極致魔法を習得している。僕は教えを乞いに行くつもりだ。


さて、この辺でコワウルヌについての話は終わらせよう。


「分かりました。では、そうしましょう。決行はいつにしますか?」
「貴族に明日と伝えています。それでどうでしょうか?」
「分かりました。コワウルヌまでは出来る限り、ゆっくりと進むことにします。その代わりに馬車を引く馬を置いていきましょう。それを追いつく為の脚にして下さい。」
「ありがとうございます。馬車はどの馬に引かせますか?」
「それは馬の牧畜をしている所を尋ねて買ってきますので任せて下さい。」
「そこまでして頂く必要は……」
「それが護衛の務めですよ?」
「……普通はそこまでしないですよ。」


バレてしまってはしょうがない。


「僕流の護衛ですのでお気になさらずに。」
「そ、そうですか?」
「ええ。」
「……分かりました。お任せします。」
「承知致しました。お姫様プリンセス。」


執事のように挨拶をしてみた。あの手を動かしながら挨拶するやつ。あれしてみたかったんだよね。


「それではコワウルヌまでの途路で再び会いましょう。」
「はい、お達者で。」
「王女様も。」


王女陛下は宿から出ていった。勿論、現在泊まっている貴族の屋敷へと。帰りざまに小さな声で「お姫様プリンセスって言って欲しかったのに。」と言っていたのが聞こえたけど、まあ、いつかまた言うとしよう。無事に追いつけたら、だけど。それにしてもこっちの世界の王女様はアクティブだな……。

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