異世界の領主も楽じゃない〜うちのメイドは毒舌だけど最強です〜

長人ケッショウ

シオンの実力

活気溢れる様々な種族のわいわい賑やかな声に朝の起床を促される
月曜日を迎えたサラリーマンの気持ちがよくわかる
起きたくない、行きたくない、不満が心の中で渦めいている
起こした体を重力に従わせる様にベッドに倒し、全身を毛布で覆い、瞳を閉じて夢の中へ行こうとするが覚めた意識はもう落ちない

「はぁー、起きますか……」

「大きなため息でしたね」

「ん、あぁ、リルおはよう」

「はい、おはようございますハル様」

「あれ、シオンは?」

「今準備させているところです」

「そう」

「ハル様もそろそろご準備を」

「あぁ、わかった」


ベットの側のクローゼットを開くと黒いスーツ一式が丁寧に掛けてあった
それをハンガーから外し袖を通して、大広間に向かった

大広間ではリルとシオンがテーブルの傍で待っていた

「「改めまして、おはようございますハル様」」

2人息を揃えて深く腰を折り朝の挨拶をする

「おう、おはよう2人とも」

笑顔で挨拶し返すと、2人は笑ってもう一度深く腰を折って礼をする




「久しぶりだなこのむさ苦しい熱気は」

「そうですね」と涼しい顔で相槌を打ってくるリルはやっぱり汗ひとつもかいていなかった
……もう保冷剤通り越してエアコンかよお前

「し、師匠!僕、頑張ります!」

そう言って胸の前でガッツポーズをするシオンは無邪気な子供に思えた(実際、高校生くらいの歳なんだけどね……)

「えぇ、頑張って」

「よし、俺も頑張るか!」

「え、冗談は顔だけにして下さい」

「いや、何でだよ!」

たわいもない会話が今は少ない救いになっている
本当は胃に穴が開いてもおかしくないくらい緊張しているし、手汗もびっちょりだし、今も逃げ出したいくらいに怖い
でも、時間は待ってくれはしない

「それでは、只今よりハル・カンザキ様対ティンデッヒ・カイルーク様のサードゲームを開始致します」

そしてゲームが始まった 



「1番手の戦士はフィールドへどうぞ」

実況の声で出場を促され、シオンが元気に飛び出していった
それと同時に相手側から2メートルを超える巨体で髭ズラの男が出てきた

「へっ、坊ちゃんがこんなとこに来て大丈夫か?
泣きべそかく前にママのとこに帰っておねんねしな!」

会場が笑いに包まれた
どうやら男のジョークがうけたようだ
そんな面白くねぇっての

自分の事を馬鹿にされて頭にきてもおかしくないはずのシオンは

「おじさん、大きい見た目の割に脳みそが足りてないんだね」

笑顔で挑発をかました
まるでいつものリルの様に

「こっ、このガキ!」

「……」

男はその挑発にまんまとかかった

「勝敗はどちらかの気絶もしくは降伏です、武器の使用は可能、時間は無制限」

静かに睨み合い

「はじめ!」

男は開始の合図と共にシオンに突っ込んで行った

「は、はや!」

その巨躯からは予想だにしないスピードで突進した男は
身動きひとつしないシオンを見て笑い、勝利を確信した

「しねぇぇぇぇぇ!」

シオンと男の距離わずか30センチ
突如、男の視界からシオンが消えた

「なっ、どこにー」

「ヴァン・ストライク」

辺りを見回す男の頭上に跳んだシオンは両腕に風の魔力を纏わせ
立ち止まった男に向かって一直線に魔力を放った

「えっ」

言葉を発する間も無く男は地面に叩きつけられた
叩きつけられた衝撃で砂埃が舞い、視界が濁る
舞った砂埃がやがて晴れると巨躯の男は地面にうつ伏せに倒れたまま、動かなくなっていた

「ティンデッヒ様の戦士気絶によりハル様の戦士の勝利」

シオンは少し気恥ずかしそうにリルと俺に向かって手を振ってきた

え、あいつ強くね……

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