絶生

烈空醒

一寸先は闇

 
10月某日、部活の夜練が終わり、時刻は午後10時を回ろうとしていた。練習自体は8時半頃には終わったのだが、
お腹が空いて、友達と一緒に夕食を食べるとどうしても遅くなってしまう。この日は、同じ部活の藤川龍弥と後藤悠介と一緒に飯を共にした。久々の焼肉だっただけに、話に花が咲き、この時間まで店にいてしまった。
 二人ともレギュラーだが、1年の頃から仲が良く、よく一緒に遊んでいた。無論、他の奴とも仲はいいが。
 二人とは家の方向が全く違うため、いつも遠回りになるが、それを苦だとは思わなかった。話が面白いからだ。
この日も遅くなってしまったが、とても楽しかった。

 「じゃあな優真!」  

  「おう!じゃあな!」

二人と言葉を交わすと、俺は家の方向へ向かっていった。

 俺の家は 、飲食店や居酒屋などが多い通りを抜けた後、広い公園がある。そこからの階段を登って坂を登れば自宅に着く。この日もいつもどおり公園まで歩き、階段を登ろうとした時、心臓が凍りついた。

 外部コーチの西川英利さんが階段の上で複数の連れらしき人と一緒に一人の女性と何やら揉めているようだ。
  西川さんは、我が校バスケ部の外部コーチであり、社会人として自らも国体に出場している選手だ。普段は一流企業のエリートサラリーマンとして働いている。
 多忙な身の上のため教えに来ることは少ないが、
「来てしまった」時は練習が地獄と化す。また、表情を表に出さない主義なのか、笑っているところを見たことがない。さらに、自分の気に入った人しか名前を覚えないという主義のため、俺達は知り合って1年半以上になるが、俺はまだ、名前で呼んでもらったことがない。
 正直言って、俺は西川さんがかなり苦手だった。
圭吾なんかは1年生の最初から名前で呼ばれていたのに対してこの扱いの差ははっきり言って腹が立っていた。
 どうしても西川さんと鉢合わせたくないので、すぐそばの木の影に隠れた。

  「やめて、離して!」

女性の声らしき悲鳴が聞こえた。気になってしまった俺は木の影から覗き込むと、なんと、西川さんと女性が揉み合っていた。

 「うるせぇ女だなー、黙ってホテルまでついてくりゃいいのによぉ、」そう言って西川さんは女性を階段から投げ飛ばしてしまった。

「きゃあ!」

そう言って転げ落ちると、女性の体が俺の目の前に躍り出た。女性の額から流れ出す赤黒い液体に思わず俺は叫び声を上げてしまっていた。しかし、気づいたときには既に遅かった。

 「なんだ?今の声?!」 

西川さんの連れらしき人が恐る恐る声を上げた。

「ちょっと待ってろ、」西川さんが木の影まで来てしまった。

「あ、こいつ、俺が教えてるバスケ部の奴だわ。」

「ど、どうするんだよ、これ」

「始末するに決まってんだろ、見られちまったんだから。」

逃げようとしたが、足が震えて動かなかった。すると不意に胸ぐらを掴まれ、頰をぶたれた。

「いや〜顔見知りで良かったわ。これで安心して始末できる。」

「ていうかお前、名前なんだっけ?」

そう言って腹を思いっきり殴られた俺は、意識が遠のいてしまった。



  気づいたら俺はどこかのビルの屋上の上で寝ていた。
俺は状況が理解できなかった。胸ぐらを掴まれた俺は、勢いよくビルの下に放り出された。

「さっさと死ね 人間のクズめ」

そう言って笑っていた西川の顔は一生忘れないだろう。そしてまた、俺は自分という存在が消えてしまうということを悟った。



 「これが、死というものか、」

ぼんやりとした景色をただ見つめながら、次第に意識が遠のいていった.......


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