世界がゲーム仕様になりました
ノート
"今これを読んでいるのはどっちかな?悠?夕香?出来れば、悠に先に読んでほしいな。
これを書いている今、僕は着実に死に向かっている。単純な話、心臓病にかかってる。でも僕は病気では死なない。車にはねられて死ぬだろう。
当たってるかな?当たってると良いな。僕は自分が殺されかけてることを知っている。ある契約をしたからだ。
契約の内容は、僕が事故で死ぬ代わりに悠と夕香を育てること。母さんを守ること。
この2つを男と契約した。あの男は守ってくれてるだろうか?いつか2人が寿命で死んでから教えてくれ。
そうだ、母さんの事は恨まないで欲しい。これは僕が決めた事だ。僕が死んだ後は男の言う通りにするように言ってある。恨むなら僕を恨んでくれ。
悠、夕香。幸せになれよ。
父さんより"
「・・・・・・何だよ、それ」
"お兄ちゃんへ
夕香だよ。お兄ちゃんがこれを読んでる時、私は死んでると思います。ごめんなさい。
遺書は読んでくれたかな?あれに書いたことは全部本当の事だからね!いつかお兄ちゃんがあの男に仕返ししてね!
お兄ちゃんなら、遺書にお母さんの事を書いてないことに気付いたと思うけど、気付いてくれた?気付いてくれてたら嬉しいな。
お父さんと同じ事書くけど、お母さんを恨まないであげてね。
お母さんはいつも私とお兄ちゃんの事を心配してくれてたよ。あの男の前では言えないだけでお兄ちゃんに虐待するのも嫌がってる。
いつもあの男が居ない時に泣きながら謝ってた。
だからどうか、お母さんを恨まないで。お母さんを、助けてあげて。
私の大好きなお兄ちゃんなら、きっと私の最後のお願いを聞いてくれるよね。
これは私のわがまま。お願いします。
最後になったけどお兄ちゃん、私を守ってくれてありがとう。心配してくれてありがとう。死んじゃってごめんなさい。私はお兄ちゃんが大好きです。絶対に、幸せになってね!
夕香"
泣きながら書いたのだろうか。最後の方にいくつか滲んだ文字があった。
「・・・・・くそ。何だよ、これ。ズルいな、ほんと」
「・・・まだ、まだあるよ。最後のページに」
何故知っているのか聞きたいところだが、全ページ確認したのだろう。
まあ、とにかく開いてみるか。
"悠へ
ごめんね。どうか、私の事を恨んで下さい。
母さんより"
短い。でも紛れもなくあの人の字だ。それにこれも、滲んだ文字がある。
「・・・俺は、どうしたら良いのかな」
「・・・生きれば良いんだよ。精一杯生きて、幸せになれば良いんだよ」
「幸せに、か。俺には無理だ」
「どうしてそんな事言うの?」
「俺にはその資格がない。父さんと夕香は苦しんで死んだ。あいつは、母さんは今も苦しんでるかもしれない。死んでるかもしれない。それを全部忘れて幸せになんて、なれない」
「忘れなきゃ良いんだよ。ううん、忘れちゃダメなんだよ。全部受け入れて、その上で誰よりも幸せにならないと」
「・・・母さんは、生きてると思うか?」
「分からない。でも、きっと生きてるよ」
そうかな。そうだと良いな。なぜか分からない。分からないけど、白亜がそう言うと生きてる気がする。
こんな世界になって、初めて目的が出来たな。
危険な賭けになるけど、もし本当に生きているのなら。
「俺、生きてる前提で探してみる。もし生きて会えたら、母さんの口から直接真実を聞く。受け入れるのも、夕香の願いを聞くかどうかもそれからだ」
「お母さんを探すからパーティを抜けるなんて、言わないよね?」
「・・・やっぱりダメか?」
「言うつもりだったんだね。ダメに決まってるよ!もし本当に抜けるって言っても、私は絶対に黒鉄君の側から離れないからね!」
なんだそれ、犬かよ。・・・あ、可愛いかも。
ハッ!想像しちゃったよ。バカか俺は。
「「・・・・・」」
え、なにこの空気?あ、俺が喋んないのが悪いのか。いやでも変な想像したせいでなに言えば良いか分からないんだが。
ん、あれ?なんか顔赤くして俯いてるんだけど?どゆこと?
「ごめん、さっきの忘れて」
「さっきのって、俺から離れないってやつ?」
「〜〜〜っ!う、うん。それ。何か、よく考えたら告白みたいだったから、その、恥ずかしくなって・・・」
「コクハク?・・・告、白・・・あぁ、確かに」
「なんか、冷静だね」
「・・・まあ、俺そういうの分かんないし。そもそも"告白みたいだった"って言われなきゃ気付かないし」
犬みたいだと思ってたし。
「・・・言うんじゃなかった・・・」
ほんとに表情がコロコロ変わるやつだな。見てて飽きないし面白いから全然いいけどな。
少し前まで怒ってたのに。いや、悲しんでたのか?両方か。今は顔赤くして悶絶してる。
素直だよな。感情が真っ直ぐ表情に現れる。おかげさまで色んな表情が見られる。
でも、不思議とどんな顔しても、どんな感情をぶつけられても、どんなこと言われても不快にならない。
むしろ真っ直ぐぶつかってくれるのが心地いい。
だからと言って怒られたい訳ではない。どうせ向けられるなら、笑顔が良い。
「笑顔、か」
「え?」
「・・・俺は夕香の笑顔を、ほとんど見たことない。でも、夕香の笑顔はいつも苦しそうだった。あの時も・・・いや、あの時は・・・ああ、そういう事か」
ずっと、分からなかった。夕香が死ぬ直前、何故笑っていたのか。
ずっと、いつもの苦しげな笑顔だと思いこんでた。でも違う。あれは嬉しそうな笑顔だった。
そうだ。自分の口で言える事を喜んでいたんだ。
これで、ようやく分かった。
「分かったよ、夕香。母さんが生きていたら、どんな結末になっても良い。母さんを守る。これで良いかい?」
「黒鉄君?どうしたの?」
「夕香はさ、死ぬ直前に『ごめんね、ありがとう』の後にもう一言『お願い』って言ってたんだ。ずっと意味が分からなかったけど、このノートに答えがあった。だから、ノートを見つけてくれてありがとう」
面と向かって捻らずに本音を言うのはこれが初めてだな。
普段どれだけ捻くれてるのかよく分かった。これからは気を付けよう。たぶんきっと気を付けよう。
「黒鉄君、我慢してる?」
「え、してないけど。何で?」
マジで分からん。何故そう思ったのか。
「辛そうな顔してるから」
そう言いながら端末から手鏡を取り出し俺の方に向けてくる。
大人しく鏡で自分の顔を見たら、確かに酷い顔をしていた。
「うわ、これは・・・酷いな。気持ちに頭が付いて行ってないんだなこれ」
「えーと、つまり?」
「頭が追い付いたら壊れます。具体的には泣く。見られたいもんじゃないから部屋に戻ってくれ」
あれ?あからさまに不機嫌になったのは何故?
俺別に変なこと言ってないよね?
「嘘つき」
「・・・何で分かんの?」
「勘、かな」
「そんなもんで分かるか!」
「むぅ、分かるんだから仕方ないじゃない。それより本当の事言って」
「・・・空っぽなんだ。夕香が死んでから、俺の中身は空っぽのままなんだ。だから壊れることはない。少しの間考え込むだけ」
「どうして、空っぽのままなの?」
「それがわかれば苦労はないよ。でもたぶん、何かが足りないんだ」
その何かの正体は分かっている。でも手に入らない。俺には無縁なものだ。
「何かって?」
「・・・分からない」
「そっか。・・・じゃあ、今度こそおやすみ」
「おやすみ」
「・・・黒鉄君、どこにも行かないでね。ずっと側に居てね・・・へっ!?」
「側にいる。側にいるから、離れないで」
頭の中で、何かがプツリと切れる音がして、次の瞬間には白亜が俺の腕の中に居た。
そのまま耳元でさっきのセリフである。どこのラノベ主人公だよ。
行動とは裏腹にどこか冷静な理性が居るのだが、衝動のまま動いている体を止めようとは思わない。
今思うは、"白亜と居たい"ただそれだけだ。
これを書いている今、僕は着実に死に向かっている。単純な話、心臓病にかかってる。でも僕は病気では死なない。車にはねられて死ぬだろう。
当たってるかな?当たってると良いな。僕は自分が殺されかけてることを知っている。ある契約をしたからだ。
契約の内容は、僕が事故で死ぬ代わりに悠と夕香を育てること。母さんを守ること。
この2つを男と契約した。あの男は守ってくれてるだろうか?いつか2人が寿命で死んでから教えてくれ。
そうだ、母さんの事は恨まないで欲しい。これは僕が決めた事だ。僕が死んだ後は男の言う通りにするように言ってある。恨むなら僕を恨んでくれ。
悠、夕香。幸せになれよ。
父さんより"
「・・・・・・何だよ、それ」
"お兄ちゃんへ
夕香だよ。お兄ちゃんがこれを読んでる時、私は死んでると思います。ごめんなさい。
遺書は読んでくれたかな?あれに書いたことは全部本当の事だからね!いつかお兄ちゃんがあの男に仕返ししてね!
お兄ちゃんなら、遺書にお母さんの事を書いてないことに気付いたと思うけど、気付いてくれた?気付いてくれてたら嬉しいな。
お父さんと同じ事書くけど、お母さんを恨まないであげてね。
お母さんはいつも私とお兄ちゃんの事を心配してくれてたよ。あの男の前では言えないだけでお兄ちゃんに虐待するのも嫌がってる。
いつもあの男が居ない時に泣きながら謝ってた。
だからどうか、お母さんを恨まないで。お母さんを、助けてあげて。
私の大好きなお兄ちゃんなら、きっと私の最後のお願いを聞いてくれるよね。
これは私のわがまま。お願いします。
最後になったけどお兄ちゃん、私を守ってくれてありがとう。心配してくれてありがとう。死んじゃってごめんなさい。私はお兄ちゃんが大好きです。絶対に、幸せになってね!
夕香"
泣きながら書いたのだろうか。最後の方にいくつか滲んだ文字があった。
「・・・・・くそ。何だよ、これ。ズルいな、ほんと」
「・・・まだ、まだあるよ。最後のページに」
何故知っているのか聞きたいところだが、全ページ確認したのだろう。
まあ、とにかく開いてみるか。
"悠へ
ごめんね。どうか、私の事を恨んで下さい。
母さんより"
短い。でも紛れもなくあの人の字だ。それにこれも、滲んだ文字がある。
「・・・俺は、どうしたら良いのかな」
「・・・生きれば良いんだよ。精一杯生きて、幸せになれば良いんだよ」
「幸せに、か。俺には無理だ」
「どうしてそんな事言うの?」
「俺にはその資格がない。父さんと夕香は苦しんで死んだ。あいつは、母さんは今も苦しんでるかもしれない。死んでるかもしれない。それを全部忘れて幸せになんて、なれない」
「忘れなきゃ良いんだよ。ううん、忘れちゃダメなんだよ。全部受け入れて、その上で誰よりも幸せにならないと」
「・・・母さんは、生きてると思うか?」
「分からない。でも、きっと生きてるよ」
そうかな。そうだと良いな。なぜか分からない。分からないけど、白亜がそう言うと生きてる気がする。
こんな世界になって、初めて目的が出来たな。
危険な賭けになるけど、もし本当に生きているのなら。
「俺、生きてる前提で探してみる。もし生きて会えたら、母さんの口から直接真実を聞く。受け入れるのも、夕香の願いを聞くかどうかもそれからだ」
「お母さんを探すからパーティを抜けるなんて、言わないよね?」
「・・・やっぱりダメか?」
「言うつもりだったんだね。ダメに決まってるよ!もし本当に抜けるって言っても、私は絶対に黒鉄君の側から離れないからね!」
なんだそれ、犬かよ。・・・あ、可愛いかも。
ハッ!想像しちゃったよ。バカか俺は。
「「・・・・・」」
え、なにこの空気?あ、俺が喋んないのが悪いのか。いやでも変な想像したせいでなに言えば良いか分からないんだが。
ん、あれ?なんか顔赤くして俯いてるんだけど?どゆこと?
「ごめん、さっきの忘れて」
「さっきのって、俺から離れないってやつ?」
「〜〜〜っ!う、うん。それ。何か、よく考えたら告白みたいだったから、その、恥ずかしくなって・・・」
「コクハク?・・・告、白・・・あぁ、確かに」
「なんか、冷静だね」
「・・・まあ、俺そういうの分かんないし。そもそも"告白みたいだった"って言われなきゃ気付かないし」
犬みたいだと思ってたし。
「・・・言うんじゃなかった・・・」
ほんとに表情がコロコロ変わるやつだな。見てて飽きないし面白いから全然いいけどな。
少し前まで怒ってたのに。いや、悲しんでたのか?両方か。今は顔赤くして悶絶してる。
素直だよな。感情が真っ直ぐ表情に現れる。おかげさまで色んな表情が見られる。
でも、不思議とどんな顔しても、どんな感情をぶつけられても、どんなこと言われても不快にならない。
むしろ真っ直ぐぶつかってくれるのが心地いい。
だからと言って怒られたい訳ではない。どうせ向けられるなら、笑顔が良い。
「笑顔、か」
「え?」
「・・・俺は夕香の笑顔を、ほとんど見たことない。でも、夕香の笑顔はいつも苦しそうだった。あの時も・・・いや、あの時は・・・ああ、そういう事か」
ずっと、分からなかった。夕香が死ぬ直前、何故笑っていたのか。
ずっと、いつもの苦しげな笑顔だと思いこんでた。でも違う。あれは嬉しそうな笑顔だった。
そうだ。自分の口で言える事を喜んでいたんだ。
これで、ようやく分かった。
「分かったよ、夕香。母さんが生きていたら、どんな結末になっても良い。母さんを守る。これで良いかい?」
「黒鉄君?どうしたの?」
「夕香はさ、死ぬ直前に『ごめんね、ありがとう』の後にもう一言『お願い』って言ってたんだ。ずっと意味が分からなかったけど、このノートに答えがあった。だから、ノートを見つけてくれてありがとう」
面と向かって捻らずに本音を言うのはこれが初めてだな。
普段どれだけ捻くれてるのかよく分かった。これからは気を付けよう。たぶんきっと気を付けよう。
「黒鉄君、我慢してる?」
「え、してないけど。何で?」
マジで分からん。何故そう思ったのか。
「辛そうな顔してるから」
そう言いながら端末から手鏡を取り出し俺の方に向けてくる。
大人しく鏡で自分の顔を見たら、確かに酷い顔をしていた。
「うわ、これは・・・酷いな。気持ちに頭が付いて行ってないんだなこれ」
「えーと、つまり?」
「頭が追い付いたら壊れます。具体的には泣く。見られたいもんじゃないから部屋に戻ってくれ」
あれ?あからさまに不機嫌になったのは何故?
俺別に変なこと言ってないよね?
「嘘つき」
「・・・何で分かんの?」
「勘、かな」
「そんなもんで分かるか!」
「むぅ、分かるんだから仕方ないじゃない。それより本当の事言って」
「・・・空っぽなんだ。夕香が死んでから、俺の中身は空っぽのままなんだ。だから壊れることはない。少しの間考え込むだけ」
「どうして、空っぽのままなの?」
「それがわかれば苦労はないよ。でもたぶん、何かが足りないんだ」
その何かの正体は分かっている。でも手に入らない。俺には無縁なものだ。
「何かって?」
「・・・分からない」
「そっか。・・・じゃあ、今度こそおやすみ」
「おやすみ」
「・・・黒鉄君、どこにも行かないでね。ずっと側に居てね・・・へっ!?」
「側にいる。側にいるから、離れないで」
頭の中で、何かがプツリと切れる音がして、次の瞬間には白亜が俺の腕の中に居た。
そのまま耳元でさっきのセリフである。どこのラノベ主人公だよ。
行動とは裏腹にどこか冷静な理性が居るのだが、衝動のまま動いている体を止めようとは思わない。
今思うは、"白亜と居たい"ただそれだけだ。
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