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矢崎未峻

パーティ戦闘

 学校の外に出てから約1時間。思うような成果は上げられないでいた。
 しかし、当然といえば当然だ。俺や雅人が独断専行で1人で戦えば例えゴブリンと言えども、死にかけるほどの脅威になる。
 かといってパーティ戦闘は慣れてないからぎこちない。
 それぞれがそれぞれの考えで動くから噛み合っていない。
 解決法はわかってる。誰かが司令塔の役目をすればいい。じゃあ誰がやるか。
 後衛2人は時々魔法の詠唱で指示が出せなくなるタイミングがある。
 目まぐるしく状況が変わる戦闘でそれは致命的な隙になり得る。だから後衛2人は司令塔になれない。
 じゃあ雅人は?最前線に突っ込んで行くから周りを見る余裕なんてとてもない。
 このように消去法からすれば俺しか残らない。

 できるわけないだろう。
 やったことがない上に見本やマニュアルもない。それをぶっつけ本番でやって上手く回す?無理だ。
 そんなに賢いわけじゃないんだからな。
 とはいえ、やるしかないのも確かだ。このままじゃ近いうちに誰か死ぬ。
 本来なら俺も思い切り戦いたいんだけどな・・・。
 自分を殺して仲間を生かす。って感じだろう。
 やるか。

 タイミングが良いのか悪いのか、ゴブリンと出くわした。
 ゴブリンは2体、短剣を持ってるやつと棍棒を持ってるやつ。

「雅人、棍棒の相手を。加耶、短剣を俺が牽制するから発動の早い攻撃魔法を顔面に。白亜は雅人がケガをしたら治して」

 急に指示を出したから一瞬の間はあったが、全員すぐに指示に従ってくれた。
 俺も宣言通り短剣の相手をする。もちろんわざわざ近付かない。
 魔導銃で右脚を打ち抜き、次いで右手も打ち抜く。
 短剣を落とし、動けなくなったゴブリンに

「最速の一撃を!『ホーリーアロー』」

 加耶の光魔法が炸裂した。貫通性の高い魔法だったからゴブリンは即死だった。
 相変わらずグロい光景だ。
 雅人の方はまだ終わってないらしくすぐさまフォローに回る。

 ゴブリンが棍棒を無茶苦茶に振り回しているので防戦一方となっている。
 まあ、腕を撃てば関係ないか。
 と言うわけで魔導銃で腕を撃った。正確には肩を狙ったら腕に当たった。
 攻撃が止んだので結果オーライだ。

「『ヘヴィスラッシュ』!」

 隙ができたのを見逃さず、雅人が大剣のアーツで首を刎ねて倒した。
 ちなみにこのアーツは片手剣でいうスラッシュだ。つまり初期から使える基本アーツ。

 そういえば、ここに来て初めてスムーズな戦闘ができた気がするな。
 少し前までならもっとゴタゴタしてた筈だし。

「今の、スムーズだったな」

「そうね。最初に誰が何をやるかハッキリしたからかかな?」

「私、初めて回復魔法使わなかったよ」

「これが当たり前になればいいな」

「オレ達がその域まで達するのにどのくらいかかるだろうな」

「さあな。・・・さて、暗くなって来たし、一度学校に戻ろうか」

「「「おおー!」」」

 さっきの戦闘、上手く回ってたけど、短時間だったからだよな。
 長時間になれば、指示を増やさなきゃいけなるなる。状況に合わせて変えることも踏まえてだ。
 なのにさっきの戦闘中、俺は一言も発してない。指示なんて最初だけだ。
 これじゃ大して変わってない。もっと考えないと。
 考えて、判断して、指示を出して、自分も戦って。
 やることが多いな。でも考えることが増えただけだ。指示はそれの付属品。そう考えることにしよう。
 そうでもしないと頭パンクする。

 しばらく歩くと某有名RPGのド○クエでは最弱設定のスライムが2体建物の影から目の前に現れた。
 最弱設定だと思って甘くみて痛い目にあった後だったので正直出会いたくないモンスターだ。
 スライムは実は強い。ゴブリンよりも。
 チュートリアルでなぜゴブリンが使われているのか疑問だったがこれで納得がいく。
 この世界じゃ単体のゴブリンが最弱なんだ。

「とりあえず嫌だけど戦闘準備。核があるのは1回目で分かったから雅人は足止め。加耶は核を狙って。俺は2人の補助。白亜はさっきのゴブリン戦と一緒。・・・よし、行こう」

 まず雅人が大剣の腹で1番近くのスライムを強打。
 10歳前後の人間並みの大きさのスライムはその攻撃で踏みとどまれない。
 吹き飛んだスライムがもう一体のスライムにぶつかり上手く重なった。
 そこに加耶の魔法が向かって行くが、スライムは弱点の核を自由に動かせるため、当たらない。
 そんなことは分かっていたので間髪入れず俺も魔導銃で核を狙う。避けられる。

 しばらく同じやり方で戦ってみたが、一体も倒せない。
 これはやり方を変える必要があるな。

「雅人、余裕があれば核を狙ってくれ。間違っても飲み込まれるなよ!?加耶は火魔法でスライムを焼いてみてくれ。白亜、片手剣に持ち替えて攻撃に参加!」

「了、解!」

「分かった!」

「え、あ、うん!」

 1人動揺した返事が返って来たけどまあ良いだろう。

「悠!武器を変えたい!タンク変わってくれ!」

「了解」

 雅人と交代してタンクになったは良いが、やはり切れない。
 かといって雅人みたいな打撃も出来ない。武器の大きさが違いすぎる。
 体術は飲み込まれれば溶かされるスライム相手には愚策すぎだし。
 となれば取れる対策は1つ。

「剣と銃でひたすら核を狙うしかないよな」

 剣を盾代わりにしながら銃で狙いまくる。
 次第に疲労感が出て来たのは魔力の消費によるものだろう。まだ無視できる範囲だ。

「よし、良いぞ!交代だ」

「ふぅ、なるほどな。斧か」

「加耶ちゃんの準備、もうできるよ!」

「「了解!」」

「全員、カウントするから加耶は魔法を!他は退避!3、2、1、今!」

「『デュアルファイアボール』!」

 文字通り2つの火の玉がスライムに1つずつ当たった。
 そして明らかに体積が減った。
 どうやら蒸発するらしい。

「加耶、今のもう一回!雅人は俺とタンク!白亜は俺たちの横から核を狙え!」

 雅人と俺で一体ずつ受け持ち、加耶の魔法を待つ。
 俺が相手をしてる方に白亜が横から攻撃を加え、狙ったのか偶然なのか、核にあたり一体倒せた。
 雅人のサポートに入ろうとしたタイミングで加耶の準備が出来たみたいだった。

「雅人、加耶、カウント!3、2、1、今!」

 今度は火の玉を2つ同時に当てたのでスライムはかなり小さくなっていた。
 そうなればもう簡単だった。核を逃すだけの体積がなかったため雅人が斧を振り下ろすだけで倒せた。

「お疲れさん。白亜はもう杖に持ち替えて良いよ」

 その後も何度か戦闘があったが、上手くいった言える戦闘は無かった。

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