突然不死身という最強の能力に目覚めちゃいました

カナブン

VS恵比寿

「神谷さん、その恵比寿さんってのはどんな人なんスかね」

歩いている最中銀が訪ねて来た。

「どんな人かって言われてもな〜、ん〜〜ただのホームレス?別に怖い訳でも無いし、気難しい訳でもないしな、そんな構える必要ないと思いますよ。
それにほらもう直ぐそこですよ」

樹々に阻まれ姿こそ見えないが、すぐ先からは子供達の声が聞こえてくる。
まだ心の準備出来ていないせいか銀の額は眩しいほどにテカテカに汗を纏っていた。
それを見て思わず笑ってしまった。同時に観ていられなくなりある提案をしてみた。

「フフフッ!何ですかそれ、そんな緊張するんならタバコ吸えばいいじゃないですか、多少印象悪くなっても今の状態で行くよりは断然マシだと思いますよ」

「そうっスかね、分かりました、ならそうしてみます」

銀は胸ポケットからたタバコを取り出しそれを加え火を付けた。

「スーーーッ・・・・・ハァーーーーー」

深く息を吸い一気に吐いた。だが何故かその息からはタバコ特有の匂いも煙さえも出て来なかった。

「フゥーー、覚悟は決まったスよ行きましょうか」

タバコを一本吸い終わると銀はさっきまでとはまるで別人のようなスッキリとした表情になっていた。さっきまでの緊張で青くなっていた顔も凛とした自信に満ち溢れた表情へとかわっている。

タバコってスゲーんだな、たった一本で人をここまで変えられるなんて不思議なもんだよな。

玲が感心している間にも銀は恵比寿の元へと歩き出していた。
視界を遮っていた樹々を抜けるとそこには遥か上空から流れ落ち地響きを轟かす巨大な滝が現れた。
そしてその麓には飛び回っている子供達とそれを見守るボサボサの髪の男がいた。
何も知らなければ即通報する様な光景だがその男の正体に予想がつく銀はそんな事はしない。
「ゴクリっ」と唾を飲み込むと新しいタバコを取り出しそれを咥え火を付けた。 
そしてその男の元へと向かい声を掛ける。

「初めまして九条組の煙霧 銀えんむ ぎんと申します貴方が恵比寿さんでよろしいでしょうか?」

男は振り返り銀を眺めた後口を開いた。

「九条組?ヤクザが私に何の用ですか?貴方がたに眼つけられる様なことした覚えは無いんですけどね」

どうやら男が恵比寿で間違えない様だ。だが何故だか恵比寿は下手に出ている実力があるあるはずの者が下手に出る行為は銀にとって理解出来ないものだった。

「あんた強えんスよね、なんでそんな態度とってんスか?強いんならそれなりの態度とって下さいよ気張ってたこっちが馬鹿みたいにじゃないっスか」

「強いだなんていったい誰が、私なんてただのホームレスあんたらと戦う力なんて持ってませんよ」

どこまでも気弱な言葉に銀は人違いだったのでは無いかと不安になってくる。

「神谷さん本当にこの人があんたの師匠なんスか?とてもそんな風には見えないんすけど」

銀に聞かれた玲は返事を返す事なく恵比寿に話しかけた。

「えっちゃん久しぶり、相変わらず人んとこからかって、そんなことばっかやってるといつか刺されるよ」

「アレ?玲ちゃん?久しぶり、最近全然顔出してくれなかったからおじさん淋しかったよ〜〜!!」

恵比寿は右腕を目に当てあからさまな嘘泣きをし、反対の手で玲の肩を何度も叩いた。
玲は迷惑そうにその腕を払い少し強めの口調で言葉を放った。

「えっちゃん、めんどくさい!!今日そんなテンションで来てないから!!」

その言葉に恵比寿はまぶたをパチクリと動かし驚いてる。それから少しの間を空けてから今度は申し訳なさそうな表情を作り謝って来た。

「・・・すまん、久しぶりにその顔出してくれたから、ついテンション上がっちまって」

その後ショボくれた姿になんだか悪い事をした気になってしまう。確かに振り返って見ると少しきつく言い過ぎた部分もあったかもしれない。自分の中でモヤモヤさせていてもしょうがない、素直に謝ることにした。

「いや、えっちゃんは別に悪くないよ俺が強く言い過ぎたこっちこそごめん」

「・・・・ぷっ、ふふふふふ」

多少の恥ずかしさもあり目を背けて謝ってみたがそれに対し帰って来たのは以外にも、我慢しきれず吹き出した恵比寿の笑い声だった。
その声に逸らしていた目を向き合わせて見るとそこには顔ををプルプルさせ必死で笑いを堪える恵比寿の姿があった。

(ふざけやがって!!!!)

その余りにふざけた態度に腹の底から怒りが湧き上がってきた。

「ふざけんのも大概にしろよ、もう俺はアンタよりも強ぇんだぞ、あんま舐めたことしてっとぶちのめすぞ」

腹から湧いてくる怒りとは裏腹に実際には放った言葉は怒りこそ篭ってはいるが静かで落ち着いた口調だった。
その言葉に恵比寿は笑っているが銀や周りの子供達は青ざめてしまっていた。

「なんスかこの圧力、送迎の車の中での圧力とは比較になんねぇっスよ」

銀が思わず放った言葉に答えるものは誰一人として居ない。
この凍てつく様な圧力の中それを冷静に解析出来る者などいないのだ。笑顔を浮かべている恵比寿ですら内心は、かなり余裕の無い状態に陥っていたのだから。

(嘘だろなんだこの魔力量は!こんなのもはや人の領域じゃ無い、この3年の間に一体何があった)

「分かった謝るよ、済まんかった少しふざけすぎたよ、俺が悪かったからさ、一旦落ち着こう」

素直に謝ってこの場を収めようとする恵比寿だったが今までのこともありその言葉の信頼度はゼロに近いものだ。普通の人ならほとんどがそれを許さないだろう。玲もその中の1人だ本心か怪しいその言葉を信じることはなかった。

「また馬鹿にする気かよ、いつまでもおんなじ手に引っかかると思ってんのか?」

「信じてくれないか、よし!分かったなら気がすむまで殴ってくれ、今回はそれで許してくれよ玲ちゃん」

「OK死んでも後悔すんなよ!!」

玲は何の躊躇も無く右腕を大きく振りかぶった。

「おい、ちょっとまっ」

玲の強さを知っている銀は即座に「ヤバイ」と感じ止めに入るが言葉を言い終わる前に玲の拳は振り下ろされた。
地面が砕き割れる低い音が響き渡り一瞬の間に辺り一帯は砂埃で包まれた。

(ヤバイ、あの一撃をまともに食らったら人間の身体なんて跡形も残らず消えちまうあの爺さん死んじまった)

裏の人間である以上銀も人が死んでいく姿は何度か見た事があった。銀自身人を殺めた経験もある。正直「死」に対して慣れているはずだった。
だが今回は違う今までは裏社会の人間、殺す覚悟も殺される覚悟もある人間だ。それに対し今回は一般人だそれも自分が2人を合わせたばかりに起きてしまった出来事だ。2人に対しての猛烈な罪悪感が押しかかってきた。
だが次の瞬間普通ならあり得ないはずの声が砂埃の中から聴こえてきた。やられたはずの恵比寿の声だ。

「おい、おい、玲ちゃん又随分と力付けたね、一瞬死んじまうかと思ったよ」

後ろの滝が上げる水しぶきによってゆっくりと砂埃は収まっていく。
そしてその中から姿を表せたのは玲と対峙する恵比寿の姿だった。殴られたはずのその身には何故か傷一つ付いていない代わりに恵比寿の足元に隕石でも降ったかのようなクレーターが出来ていた。
その姿に銀は安堵の息を漏らす。それと同時に恵比寿身に一体何が起きたのかその力の正体に興味が湧いてきた。




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