ボクの完璧美少女な弟子は変態すぎて手に負えません(笑)
新しい展開を待ち望んでいるのです(望)
それは、忘れかけていた遠い昔のこと。
小さい頃のまだ純真無垢だったボクが、丘の上で同い年くらいの女の子と手を繋ぎながら歩いていた。
女の子は覚束ない足で手を引くボクの後に必死についていこうとするが、足元の小石に躓いて転び、膝を擦りむき泣いてしまう。
ボクはどうにかして泣き止まそうと右往左往し、道の脇にあるお花で小さな指輪を作り、それを女の子に差し出す。
すると、女の子の顔がパッと笑顔に変わり、受け取った花の指輪を薬指につけた。
その太陽のような笑顔を見て、ボクは元気が出てその場にしゃがみ込み、女の子をおぶって坂を登った。
そして丘の頂上に着き、綺麗な夕日が落ちていくのを見つめながら二人は約束を交わす。
『栞は、大人になったら晴人と結婚するの! これは絶対だからね!』
『うん。わかった! ボクは栞と結婚するよ!』
幼少期に発したなんの気ない言葉が、十数年たって現実になりかけているとは思いもしなかった。
早朝の教室内で、そんなこともあったっけかなと感傷に浸っていると、桐島がやたらとハイテンションで話しかけてくる。
「おいっ、知ってるか? ハル!」
「知ってるって、なんのことだよ?」
「この学校に転入生が来るらしいぞ! それもお嬢様学校からの転入だそうだ!」
「へぇー、そいつはすごいな。……あー、それより今日って何曜だったっけ?」
ボクのあからさまに興味がない感が気にくわないのか、むすっとした表情でなんとか話に食いついてもらおうと追加情報を話し出す。
「しかも、その子はアイドルの卵らしくてその業界では一斉を風靡したくらいの超絶美少女なんだぞ! 俺だって一目でガチ惚れしちまったんだぞ!」
「……んま、まぁ。それより早く朝礼にグラウンドに行こうぜ!」
「今日は朝礼なんてないだろうが。つか、マジでノリが悪いなー、ハルは。だから友達できないんじゃないのか? ハッハッハ」
桐島が放った言葉にカチンときたボクは、なんのために話をそらしていたかを後ろにいる禍々しいオーラを放つ女子を見据えて喋る。
「ふーん。それじゃあ、その転入生ちゃんとやらはお前の彼女さんとかよりも可愛いわけだ?」
「あったりまえだろ! 転入生と美穂、それは月とスッポン。いや、太陽とすっぽんぽんくらいの差はあるわな」
などと調子に乗って意味不明なことをのたまう桐島の後ろで、その当の彼女本人である佐藤 美穂さんは般若のような面持ちで肩に手を置く。
「んだ? って、美穂ぉ!? いったいいつからそこに……」
佐藤さんは何も言わず、シャツを引っ張って廊下へと引きずっていく。その様は地獄へと誘う悪魔そのものであった。
「ボクがそれとなく話を変えてやったのに、そっちが悪態をつくからだぞ」
静かになった教室内で独り言をつぶやいていると、さっきまでうるさかった奴の断末魔が校舎内に木霊した。
「げぐぅあゎー。うんぎょぁー。んだぼらげぇ……」
……それは何語ですか?
そしてその日、桐島 光一氏が再び教室に顔を出すことはありませんでした。
話半分に聞いていた可愛い転入生とやらに内心ドキドキしつつ、担任ハゲ平の毎朝恒例となったどうでもいい話を聞く。
そして、そんなしょうもない話が一区切りついたところで、廊下からガラガラと扉をあけ、教室に一人の美少女が現れる。
その顔を見た瞬間、さっきまでの回想の女の子がパッと頭によぎり、照らし合わせて一つの結論に至る。
「……し、栞。なのか?」
「うん。晴人との約束を果たしに来たの」
栞は他校の制服に身を包み、垢抜けた色のショートカットの髪を揺らし、わき目もふらずにボクの席の隣を陣取る。
あ、そこ桐島の席なんだけど……。うーん。ま、いっか。
「う、ううん。えー、椎名くん。まず自己紹介をしてくれるかな」
可愛い女の子に対して甘々のハゲ平は、謎のキメ顔を作りながら栞に教卓の前にくるよう促す。
「えっと、成城女学院高校から参りました椎名 栞です。以後、よろしくお願いします」
案外普通の挨拶にボクは安堵のため息を漏らし、周りが浮き立って教室内がガヤガヤとしていると、
「あ、ごめんなさい。旧姓を名乗っちゃった。来年には名字が九重になるので、気軽に栞って呼んでださい!」
その一言で教室内はシンと静まり返り、少しの沈黙が経ち、場を読んだ委員長が栞にその言葉の意味を問いただした。
「あ、あー。それは、親が結婚してとかそういうこと?」
「いやいや、そこにいる九重 晴人と栞が結婚するからだけど?」
「「「……えええぇぇぇーーー!?!?!?」」」
ハゲ平はもちろんクラスメイトみんなが驚いている最中、誰よりも驚愕して目玉が飛び出さないか心配なボクに、栞は無邪気に笑いかけてくるのであった。
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