ボクの完璧美少女な弟子は変態すぎて手に負えません(笑)

花水木

予想だにしない展開ですぞよ(呆)


 目を覚ますと、ボクは白いベットの上に寝ていた。周りはカーテンで区切られ、白一面のこの場所を見る限り、ここは近くの病院だろう。
 一時は死期を悟ったボクだが、何とか助かったみたいだ。
 一息つき、安堵の声を漏らすと、看護師の人と兄さんが入ってくる。

「晴人、大丈夫か?」

 今朝はずっとだらけていた兄さんだが、ボクを見るなり勢いよく駆け寄ってきてくれたので、嬉しく思いながら返事をする。

「あ、うん。案外なんともないよ」

「なぁーんだ。こういうのだからてっきり記憶喪失系の感じかと思って期待してたのに、おもしろくねぇのな」

 ボクがそう答えるなり興味を失った兄さんは、そっとそばを離れて近くにあった椅子に腰掛ける。
 そんな漫画みたいな展開を予想してくるあたり、本当に兄さんらしいというかなんというか。

「頭を強く強打されてますから、しばらくは安静になさってくださいね」

「あ、はい。わかりました」

 言われて頭に手を当てると、包帯が何重にも巻かれていてさっきの惨状の派手さを物語っていた。
 逆にこれで無事なことは、奇跡に近いということだろう。

「今日は検査入院というかたちで、ここに一晩過ごしていただいてよろしいですか?」

「はい。すみません、よろしくお願いします」

 用件を伝えた看護師さんが部屋を去ると、兄さんが手に持っていたコンビニ袋を手渡してくる。

「これ、必要そうなもの適当に買ってきてやったから」

「うん。ありがと、兄さん」

 さっきの反応で失った信頼を取り戻すかのごとく持ってきた、物で詰まったコンビニ袋を受け取る。

「ん? ていうか、なにこれ?」

 袋の面積の大半を占めていた分厚い本を取り出す。
 その本の表紙には、女子高生風を模した中年のおばさんがあられもない姿で緊縛されていた。

「なにこれって、お前。これは一番必要だろうがよ」

「こんなのどう使うのさ? 読書にしても趣味が悪いよ、兄さん」

 むくれた表情を見せながら袋に入っていた本全てを兄さんに突き返す。

「……お前、本当に大丈夫なのか? いつもなら照れてなんかしらの理由をこじつけながらも内心ウキウキで受け取るくせに」

 不思議そうな顔をしながらも兄さんがしぶしぶ本を受け取ると、ドタバタと病院には似つかわしくない音をかき鳴らしながら彩奈が部屋に入ってくる。

「ハル兄っ! トラックに轢かれたって、大丈夫なの!?」

「あ、彩奈。落ち着けって、大丈夫だから」

 彩奈は胸に苗字である九重と文字を大きく印字された体操服を着ていて、ボクを見つけるなり駆け寄ってくる。

「はぁ、はぁ。今、タク兄から連絡があって生死の中をさまよってるって聞いたから」

「そんなことないよ。見ての通りピンピンしてるさ」

 ボクが拳を握って元気なポーズを見せると、安堵からか目に大粒の涙をにじませながら飛びついてくる。

「うー、よかった。よかったよー」

「うぐっ。おい、彩奈。汗臭いからちょっと離れて。看護師さんに安静にしてとも言われてるし」

 体を密着するようにぎゅっと抱きしめてくる彩奈を、無理やり引っぺがして距離を取る。

「な、なにぃっ!? 晴人がこのラッキースケベに何も反応しないだとぉ!?」

 子供のように泣きじゃくる彩奈を落ち着かせると、今度は瑞希さんが部屋にやってくる。

「ハル君。さっきお兄さんから連絡があって、精子の中をぐるぐるさまよってるって聞いたんだけど、大丈夫だったの!?」

「あ、はい。ちょっと頭を打っただけなんで」

「あのお笑い芸人顔負けのツッコミ名人と名高い晴人が、瑞希ちゃんのシュールな性方向への間違いをツッコまないだとぉ!? おかしい。絶対におかしいぞ」

「それで、兄さんはさっきから何を言ってるのさ?」

 さっきから小声でボソボソと独り言を呟いている兄さんを睨むと、謎が解けたかのようにハッとした表情で立ち上がり、ボクを指差す。

「晴人。お前もしかして、この事故で記憶じゃなくて性知識をなくしたな!?」

「…………はぁ?」

 唐突な兄さんの意味不明な発言に、ボクは呆けた声を漏らすのであった。

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