ボクの完璧美少女な弟子は変態すぎて手に負えません(笑)

花水木

相手からの宣戦布告です(宣)


 野村先輩にすでに勝ち誇ったかのように宣戦布告を受け、圧倒的な劣等感を抱きながら文化祭に向けて作業中のクラスに戻る。
 すると、

「おいっ、聞いたぞハル! お前、三年の傍若無人で有名な野村先輩と対決するらしいな!」

 作業などそっちのけで、桐島がボクに詰め寄ってくる。
 周りのクラスメイトもこの話に興味があるのか、手を動かしながらも聞き耳を立てている。

「なんか、話が回るのがとてつもなく早いな……」

「ん? そら、さっき誰かが校内放送をボイコットして大々的に言ってたし、こんなビラもそこら中に配ってたしな」

 そう言って手渡されたビラを見ると、そこには件の野村先輩とボクのプロフィールがつらつらと綴られ、二人が瑞希さんを求めて勝負をするという旨の話が盛り上がるように色々と脚色されていた。
 そしてその下にある日時と場所を知らせる欄を見て、目を見開いて驚く。

「うぇっ!? こんなどうでも良いような対決を体育館で全校生徒の前で披露しろということか!?」

「お前ってやつはつくづくついてないな。ぷくっくっく」

 他人事だと思い、顔をしかめるボクを前にして爆笑する。

「人ごとだと思いやがって……。それで、この野村先輩って人はどんなやつなんだ?」

「ん? あぁ、野村先輩ね。確か成績優秀、才色兼備で人当たりもいい完璧超人みたいな人だったかな」

「なんだよそれ、それじゃあボクに勝ち目なんかあるわけないじゃないか……」

 外見通りの内面の野村先輩に比べ、ボクといったら成績は中の下、顔は平凡で秀でた才能のないただの凡人。
 こんなもの月とスッポン。いいや、月下美人とすっぽんぽんのおっさんくらいの差だ。

「ま、ここからが本題なんだが、野村先輩は今まで狙った獲物は逃さない凄腕の恋愛スナイパーだってことだ」

「てことは、今その銃の照準にいる人ってのは……!」

「白石 瑞希さん、その人だろうな」

 話す前から薄々は気づいてはいたものの、はっきりわかってしまうと焦ってしまう部分がある。
 長い期間の曖昧な関係性のボクより、イケメンでなんでもそつなくこなす野村先輩と付き合っている方がいいのではないかと、なんとももっともな理論が浮かぶ。

「ハル、そう落ち込むなって。噂はこれだけじゃないんだぞ。いい噂もあれば悪い噂もある」

「ん!? なんだなんだ。どんな話だ?」

 さっきまでの落胆の姿勢はどこへやら、たちまち笑顔を取り戻し、一気に元気を取り戻す。

「それが、今まで百発百中の確率で付き合ったどんな美女とも一ヶ月以内に別れて、また違う女にいくらしい」

「んだあぁ!? そいつぁはどういった理由でだぁ!?」

 異性と付き合ったことすらないボクにとっては、脳内に怒り浸透(激おこぷんぷん丸)になるような噂だった。
 いかなる理由があっても乗り換えや浮気などは許さない。……絶対に、絶対にだ。

「い、いや。そこまでは俺も知らないんだがな」

 血涙を流さんとする勢いに若干引き気味の桐島は、ボクの肩を持ってどうどうと野獣をあしらうかのように応対する。

「がふぅ、がふぅ。そういうことなら話は早い、この情報を瑞希さんのところに持って行って直接野村先輩を振ってもらおう」

 怒りのあまり獣のような呼吸法をして、作業を何も手伝わずに教室を出て、瑞希さんの元へ向かう。



 帰ってしまったかも知れないと思い、校舎の中を走り回ってやっとのことで見つけた瑞希さんは、下駄箱の前で誰かを待っている様子だった。

「あ、あのっ。瑞希さん!」

「ハルくん。どうしたの? そんなに汗だくで。……これ、使って」

 肩で呼吸しながら息切れをして、額に汗がビッチョリなボクを気遣って、カバンから出したハンカチを渡してくれる。

「ありがとうございます。それより、あの男。野村先輩はやめておいたほうがいいです」

「えっと、それはどうして?」

「かわいい女の子を取っ替え引っ替えしてるとか、そういう噂が校内中に流れてるんです」

「へぇ、そうやって勝負する前に相手を蹴落として、不戦勝を狙うのが君の戦い方なのかな?」

「うわっ!? の、野村先輩!?」

 瑞希さんにさっき聞いた噂を聞かせていると、背後から忍び寄ってきていた野村先輩が冷えた目で睨んでくる。

「えぇっと、今のは……」

 話を聞かれていたと知って気まずくなり、言い訳の言葉に詰まっていると、野村先輩が胸を張って堂々と答える。

「ハッ、別にいいさ。確かに僕は様々な女の子と交際して別れてきたのも事実だからね」

「なっ!? なら、瑞希さんとは関わらないで他の人にしてもらってもいいですか!」

「なぜ君にそんなことを決められなくてはならないんだい? しかも女の子選びはもう終わりさ、瑞希が僕の最高のパートナーなのだからね」

「あのー、演劇のだよね?」

 瑞希さんが困ったような笑みを浮かべて、そっと問いかける。

「いいや、君は何においても素晴らしい。まさに僕にふさわしいんだ。だから文化祭の企画で九重くんと戦って勝ち、君を彼女にすると決めたんだ」

「ボクは絶対に負けません。瑞希さんの師匠ですから」

「好き勝手に言っていればいいさ。まぁ今日のところは、僕が瑞希と帰宅までの道のりを一緒に帰る約束をしていたから、ここでさよならだね」

 そのまま瑞希さんと喋る間も無く、野村先輩がエスコートをしながら校門まで歩いていく。
 途中、瑞希さんがこちらを振り返ったが、ボクは何も言わずにその場を去る他なかった。

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