ボクの完璧美少女な弟子は変態すぎて手に負えません(笑)

花水木

運命を感じるようです(運)


 とある休日の昼下がり。
 いつだってやることのない暇人のボクは、夜通しして撮り溜めていたアニメを一気見し、今日はその原作本を求め、町の本屋を練り歩いていた。

「ふぁーぁ。眠い……」

 徹夜明けのせいでぼやける目を指でこすり、ここら辺で一番大きな書店に入って行く。
 っしゃいませー、とやる気の感じられない店員の声を聞きながら入店する。
 中には立ち読みしてる人がたくさんいて、その人たちを避け、目的の本を探して行く。

「えぇっと。あぁ、あったあった」

 今やっているアニメの人気のおかげか、割と見つけやすいところにあり、こんな大きな書店にもかかわらず残りは後一つしか無くなっていた。

「おっ、ラッキー。ラスイチじゃん」

 まず表紙の可愛い絵に心を奪われ、背表紙に書いてあるあらすじも読んでみようと、商品に手を伸ばすと、

「「あっ……」」

 本に触れた手に、誰かの小さな細い手が重なる。
 慌てて手を離し、横を向くと、そこには彩奈がボクと同じような表情をしていた。

「……彩奈。珍しいな、こんなところで会うなんて」

「うん。だってハル兄にこれ勧められたんだし……」

「(そういえば、テンション上がりすぎて彩奈にこのアニメについて熱弁したんだっけか)」

 深夜のノリでアニメに興味のない彩奈に無理やり熱弁したんだけど、ちゃんとみてくれてたんだなぁ、なんて感慨を抱いていると、彩奈が本を差し出す。

「私はいいから、ハル兄これ買いなよ」

「いやいや、ボクも大丈夫だよ。この後も本屋いくつか回る予定だし。後、読み終わったら感想聞かせてな」

 紳士風にそう断ると、彩奈は「そ、そう?じゃあありがとね」と、言って本を持ってレジに向かった。
 自分にしては中々上手く立ち回れたのではないかと、自身を褒めた後、次の本屋へと向かった。



 次の本屋はあまり大きくない近所の店。
 これはないかもしれないな、と思いながら店の中をぐるりと回る。

「やっぱりないなぁ。売り切れちゃったのかな?」

 帰ろうかと思い自動ドアの前に立つと、外から誰かが入ってくる影が見えたので、ボクは横に退く。
 入店してきた渋い顔のおじいさんは、一直線に店員の前に行き、話しかけている。
 そういえば、さっきの書店で立ち読みしていた人の中に、あのおじいさんもいたような気がする。

「すみませぬが。軽い小説というものはどの辺りにあるのでしょうか?」

「軽い小説?それは一体どのようなものなのでしょうか……?」

 焦った様子のおじいさんの事が気になり、一部始終をチラ見していたボクは、『軽い小説』と聞いて何となくものがわかっていた。
 店員がわかりませんと言って立ち去った後、ボクはさっきも上手く立ち回れたたので今回も上手く行くだろうと考え、うんうん唸っているおじいさんに話しかける。

「えっと、もしかして探してらっしゃるのはライトノベルというものじゃないですか?」

「おぉ、確かにそうだったような気もする。……ところで君は?」

「ボクは九重晴人っていいます。すみません困ってるみたいだったんで出しゃばってしまったんですけど」

「いやいや。ありがとう、九重君。それでそのライトなんちゃらというものは何処にあるのかのぅ?」

 満面の笑みを浮かべるおじいさんは、さっき言った言葉も言えないでいるが、ボクはまた教えてあげる。

「あの辺りいったいがライトノベルコーナーになってるので、探してみてください」

「ふむ、あそこだったか。それでは探してみるとするよ。ありがとうな……良き青年よ」

 多分この数秒で名前を忘れたこのおじいさんは、苦し紛れにそう言うと豪快に笑い、ボクの教えた場所へと歩いて行く。
 また一ついいことをしたボクは、清々しい気持ちになって、次の本屋へと向かった。


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