ボクの完璧美少女な弟子は変態すぎて手に負えません(笑)
場違いも甚だしいです(迷)
午後の授業中は、ずっとパーティーの段取りやプレゼントのことなどを考えて過ごし、学校が終わるとボクは一目散に家へと直帰する。
午後を通して考え抜いた結果はいいものが浮かばなかったため、人生の先輩である兄さんにでも助言をもらおうと思いながら帰路をひた走る。
息が切れ、荒い息遣いのまま玄関のドアを開けると、パンツ一丁の兄さんが寝癖をつけたままこちらを睨んだ。
「なんだよ、ドア早く閉めろよ。恥ずかしいじゃねぇか」
そう言いつつも、露出された肉体を隠すことなく、唯一身にまとっているパンツの中に手を突っ込み、尻を掻く兄さん。
ボクは無言でドアを閉め、悩んだ。
今、目の前にいる青と白の縦筋模様のトランクスしか履いていない兄さんに、果たして女の子を射止める誕生日プレゼントの助言を得れるだろうか……。
そして悩み抜いた結果、
「あの、兄さん。ちょっと聞いて欲しい話があるんだけど……」
他に相談する相手などおらず、渋々兄さんに問いかけるボク。
「んぁ?そんないきなりなんだってんだ?」
「その、……誕生日のプレゼントって何を渡したらいいのかな?」
「そりゃあ、相手にもよるだろうよ。……で、その相手ってのは誰なんだ?」
肘でボクをつついて茶化すように訊いてくる兄さんに、プレゼントが瑞希さんへの物だというと、真面目に考えてくれなさそうなので、あえてぼかして答える。
「た、ただの友達だよ」
「ほーぅ、ならば俺がみんな大好きな秘伝の物を渡そうではないか」
「え、いいの?ありがとう、兄さん。恩にきるよ」
プレゼントをどうするかという問題が一気になくなったボクは、兄さんから風呂敷に包まれた何かを受け取ると、瑞希さんとの集合場所へと急いだ。
待ち合わせ場所にしていた近場の駅に着き、これからサプライズを仕掛けるということでドキドキしながら待っていると、後ろから優しい声音で僕を呼ぶ声が聞こえる。
「ハル君。早いね、もう着てたんだ」
振り向くとそこには、淡い青色のミニスカートとニーソックスの間に生まれた絶対領域が美しい瑞希さんがいた。
外は雪が降ろ積もろうかというこの季節にその格好は否応にも目立ち、周囲の視線を一気に集めていた。
「瑞希さんも早いですね。まだ時間より三十分前ですよ」
「うん。家にいたら居ても立っても居られなくて」
ボクの視線も自然と下の方に吸い寄せられるが、必死に首を振り自我を取り戻す。
「そ、そうなんですか。……それじゃあそろそろ行きましょうか」
付き纏ってくる邪念を振り切り、ボクは瑞希さんを連れてパーティー会場へと歩みを進めた。
そこは、とあるビルだった。
地図によるとここで間違い無いのだが、それは予想以上に大きく、そして見上げると首が痛くなるようなビルだったので、ボクは気圧されながらも中へと入って行く。
そしてエレビーターに乗り込み、最上階に上がっていく。
最上階に着くと大きな扉があり、瑞希さんにそれを開いてもらう。
「「「「「白河 瑞希さん。お誕生日おめでとう」」」」」
クラッカーなどの破裂音の後に、何重にも重なった声が会場中に響く。
「え?え?ど、どういうこと??」
いきなりの出来事に動揺しきっている瑞希さんに、このパーティーの企画者の神咲さんが駆け寄る。
「お誕生日おめでとう瑞希。今日は瑞希のためにパーティーを開いたから存分に楽しんでってな!」
「ええ!?そんな、私のために……」
口元を押さえ感激で目を潤ませている瑞希さんに、ボクも駆け寄っていく。
「おめでとうございます。瑞希さん」
「うん。ありがとう」
その後、瑞希さんのクラスメイトらしき人たちも続々と駆け寄ってきて、瑞希さんはもみくちゃにされる。
だけど、瑞希さんの表情はとても嬉しそうで、それを遠目に見たボクも思わず笑みがこぼれる。
瑞希さんの前に、成人男性一人分くらいの丈がありそうな特大のケーキが運ばれてくる。
その下の段にはろうそくが何本も刺さっており、執事風の身なりの人がその一本一本に火をつけていく。
火が全部につけ終えると、会場中のすべての光が暗転し、みんなの大合唱が始まる。
「「「「「ハッピバースデートューユー、ハッピバースデートューユー、ハッピバースデーディア瑞希ぃー。ハッピバースデートューユー」」」」」
みんなが拍手喝采をする中、瑞希さんは息でろうそくの火を消していく。
暗転から一気に光がともり、ワイワイと賑わいの声が増す。
そんな喧騒に包まれた中、瑞希さんがボクを見つけて手招きをしてくる。
「ハル君。にゅうとうは好き?」
「に、乳頭ですか!?」
近くに駆け寄るや否やそんなことを訊いてくる瑞希さんに、ボクは思わず聞き返してしまう。
「うん。にゅうとうなんだけど」
ふざけた様子もなく、いたって普通に問いかけてくる瑞希さんを凝視しながらボクは考える。
乳頭が好きか嫌いかなんて、それは好きに決まっているだろう。だが、もし何か試されているのだとしたら、ここは嫌いと答えておくのが安パイなのか……?
「…………好き、です」
悩み抜いた末に、ボクはそう答えた。すると、瑞希さんは羽織っていたコートを脱ぎながら言う。
「よかった。じゃあ、お願いしてもいいかな」
お願い!?お願いとはいったいどういうことなんだ!?コートを脱いで凹凸がより激しく強調されているあそこに触れろ、という意味なのだろうか?
一度そう考えてしまうと、そうとしか思えなくなってしまう。
ならばと目を見開き息を荒げ、震える人差し指を瑞希さんの上半身に近づける。
「はい。これ」
すると、瑞希さんがこちらに刀を向け、ボクは跳びのき条件反射のごとく土下座をする。
「わわぁっ!すみません、すみません。出来心だったんです、すみません」
「どうしたの?入刀してくれるんだよね?」
小首を傾げキョトンとした表情で、刀のようなナイフを手渡してくる瑞希さん。
改めてにゅうとうの意味を考えると、答えは簡単だった。
「入刀って、ケーキ入刀のことか。あぁ、なるほどなるほど」
「ハル君は、他に何のことだと思ってたの?」
「いっ、いえ。別に、何とも考えてないです」
慌てて否定するボクを不思議そうに見つめる瑞希さんだったが、何とか間違って理解していたことをばれずに済んだ。
パーティーも終盤に入り、バイキングの食事もなくなりかけている頃。
今まで主役ということで、ずっと人に囲まれていた瑞希さんが、一人でいるボクを見つけて近づいてくる。
「今日、すごいね。いろんな人が来てる」
瑞希さんは、ワイングラスに入っている葡萄ジュースを飲む。
……心なしか顔が赤い気がする。
「そうですね。ボクもここまで盛大なものだとは思いませんでした」
辺りを見渡すと学校の校長はいるわ、業界の様々なスターはいるわで、それはもうすごいことになっている。
改めて神咲さんの経済力を思い知った。
「今日はほんとにありがとう。ハル君」
「いえいえ、ボクは何もして無いですよ」
知り合い同士がガヤガヤと喋っている会場の中心を見ていると、また瑞希さんが顔を近づけてくる。
だが、同じ轍は二度と踏まないと誓ったボクは動揺なんてしない。
素知らぬ顔で澄ましているボクに、瑞希さんはそっと口を寄せ耳打ちする。
「二人で、抜け出しちゃおっか?」
瑞希さんは、魔性の笑みを浮かべながらボクの手を掴んだ。
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