ボクの完璧美少女な弟子は変態すぎて手に負えません(笑)
伏線回収も楽じゃないです(苦)
「私にハル君の好きなことしてもいいよ」
深夜の部屋に二人きりのこの状況で、瑞希さんは真剣な眼差しで迫ってくる。
ボクは若干気圧され、水揚げされた魚のように口をパクパクと開く。
「いや、その、それはなんというか……」
動揺しすぎて意味のない言葉を羅列するボクに、瑞希さんは何も言わず覆いかぶさるようにして馬乗りになる。
「…………」
「あ、あのっ。み、瑞希さん?これはいったい!?」
顔を背けて壁を凝視するボクの視界に、瑞希さんの身につけていたシャツがこぼれ落ちる。
「ハル君……来て……」
「み、み、瑞希さぁああぁぁあーーん」
叫びながら上に乗る瑞希さんを押し倒し、今度はボクが上になる。
覚悟を決めたボクは、瑞希さんの顔をしっかりと見据え、ゴクリと音を立て唾を飲み込む。
「うん。いいよ」
瑞希さんはボクの首の後ろに両腕を回し、抱きかかえられるように顔を近づけてくる。
そのままそっと目を閉じ、ボクがもう少し近づければ唇が触れ合う、そんな距離感。
だが、ボクは彼女の肩を掴み、密着した体を優しく引き離す。
「すみません。瑞希さん、ボクにはこれ以上のことはできません」
「……っ!ハル君どうして」
俯くボクの真意を瑞希さんは、切ない悲壮に満ちたしゃがれた声で問いかける。
「ボクも瑞希さんがいつものように笑顔で、いつものように勘違いをして、それでいて勘違いに気づいてそれを二人で笑い飛ばせる。そんないつもの瑞希さんだったら、ボクは獣になって要求に答えられたかもしれない」
「ならっ!……なら、なんで、なんで今は私の要求に応えてくれないの?」
瑞希さんは一瞬感情をあらわにして声を荒げ、ボクの態度に憤怒する。
「それは、瑞希さんの表情が物語ってるじゃないですか」
「…………」
ボクのことを受け入れようとした時の表情は、どんよりと曇っていた。その表情がボクを冷静にさせ、思いとどまることができた。
ボクは口を固く結んだ瑞希さんに、優しく問いかける。
「瑞希さん。家出の理由、教えてもらってもいいですか?」
「…………わかった」
頭を下げて頼み込むと、瑞希さんはベットから立ち上がり、カーペットの上に正座をして理由について、ポツリポツリと語り出す。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
私、瑞希は白河家の一人娘として生まれる。
あまり裕福とは言えない家庭環境であったが、そんなことを気にせずに毎日楽しく暮らしていた。
幼少期は体が弱くて、いつも熱を出していたり風邪をひいたりしていた。
お母さんが持病を持っているので、その遺伝を危惧していくつもの病院で検査をしてもらい、可能性は低いと知って、両親ともに喜んでいた姿は今でも覚えている。
小学校に上がると体も強くなり、病気にかかるのも少なくなったが、対照的にお母さんの持病はどんどんと悪化していき、病院に入退院を繰り返していた。
その頃サラリーマンだったお父さんは、会社の重要なプロジェクトを一任され、毎晩帰りが遅くなったので、夜はお母さんと一緒に食事をしていた。
とある日の学校帰りに、私は公園に寄り道をする。
その公園は整備があまりされておらず、遊具などは錆びかかっていて子供は私以外には一人もいなかった。
そんな面白みもない公園に立ち寄った理由は、傍にひっそりと生えたシロツメクサが目に入ったからであった。その花はお母さんが好きな花で、小さい時は花を摘んで私にくれていたことを思い出す。
その頃の記憶を思い出し、最近笑顔が少なくなって来たお母さんを喜ばせようと、咲いているシロツメクサをランドセルの中にいっぱい詰め込んだ。
そんなことをしていたから、家の玄関に着く頃にはとっくに門限は過ぎ夕日も落ちかけていた。
だが、私は怒られることなど一切考えずに、ドアを開く。
「ただいまー!」
大声で声を上げたが、中からは誰の声もなかった。
不思議に思いながらも、高揚した気分が抑え切れずに、ランドセルから花を取り、リビングへ向かう。
「お母さん。あのねあのね、今日公園でお母さんの好きなお花を見つけたの!それでね花冠も作ったの!これお母さんにプレゼントするね」
リビングで布団も敷かずに寝転がっていたお母さんを呼びかける。
「お母さん?」
だが、お母さんは一向に起きる気配がない。
「ねぇ、起きてよ。どうしたの?ねぇってば!」
流石におかしいと思い、手に持っていた花冠を落として、蒼白な表情のお母さんの手を掴む。
それは、ありえないくらいに冷たかった。私はその状況に怖気付き、ただただ泣き喚く。
泣きながら仕事中のお父さんに電話して救急車が家に来たが、救急隊員の顔が険しかったのを見て、私は泣き続けた。
お母さんが死んだ。その事実を飲み込むのは、小学生の頃の私にはまだ難しかった。毎晩お母さんのことを思い出し、泣き喚いて眠れない夜などざらにあった。
また、そんな状況の中でお父さんは変わってしまった。
お母さんがいなくなって、感情をなくして仕事に専念するようになり、私はいつも家で一人だった。
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