チート・ご都合主義いらないけどハーレムいります

平涼

第百六話 師弟

 「師匠。一回ここから避難しましょう!」

 なんせ俺達に振り落とされそうになっているのは神聖級魔法だ。お伽話の中でしかないような魔法が今落とされようとしている。それはいくら強い師匠でも無理だ。

 「それは戦闘から逃げるって事か?レイ」

 師匠は隕石を見据えながら俺に言った。

 「確かに今はそうかもしれません。だけど死んだら意味が無いんです!今は逃げてもいつか勝てばいいんです!」

 親父は俺にそう言った。死んだら意味がない。死んだら全てが終わってしまうと。

 「確かにその通りだな。だけどここで俺達がこれを避けなかったらここら辺一帯の奴らはどうなる?」

 確かに危険な目にあうかもしれない。だけど死にはしない。それほどまでの攻撃ではない筈だ。確証が持てないが死ぬよりはましだ。

 「多少の怪我はしても死んだりはしません!それに俺があいつを倒さないと皆が頑張ってくれたのに意味がない!」

 俺は少し声を荒げてしまう。だけどそれも仕方ない。もうだいぶ近くなってきている。

 「お前は何か勘違いしてないか?」

 「何がですか!?」

 急がないと本当に俺達は死んでしまう。

 「俺達は別にお前の為に戦ってるわけじゃない。このムー大陸、また家族の為に戦ってるんだ。お前に託したのは確かにそうだ。だけど託されたお前が倒せなくて仲間を傷つけましたじゃ駄目だろ?」

 俺はそこで何も言い返せなかった。だけど、

 「だったらどうするんですか!これを防いであいつを倒すなんて誰が出来るんですか!」

 すると、師匠は俺の方をようやく見たと思ったら頬をぶん殴られ、胸倉を掴まれた。

 「お前がやるんだろうが!お前は家族を守りたいんじゃないのか!仲間を助けたいんじゃないのか!それが出来るのは俺じゃない!お前だろ!」

 俺はそう言ってもう一発殴られ、地面に倒れた。

 初めて俺は師匠が本気で怒った所を見た。

 そしてその言葉は俺の胸に突き刺さった。

 「ったく。ほんとに世話が焼ける弟子だ。最後の最後で喧嘩で終わるなんてよ」

 .......今なんて言った?俺の聞き間違いだ。その筈だ。

 「しょうがねえからあの隕石だけは俺がどうにかしてやる。だから邪神はお前がどうにかしろ」

 待ってくれ。そんなの。

 「最後の言葉みたいじゃないですか!」

 「ああ、その通りだ。これが最後だ」

 師匠は覚悟が決まった眼をしていた。

 嫌だ。確かに俺はそれが最善だと思う。だけど嫌だ。

 「そんなの嫌です。俺はまだ師匠に教わってない事が山ほどあります!」

 「阿保か。お前はいつまで俺に甘えてんだよ。俺から教える事なんてもう無い」

 師匠はこんな時も笑っていた。

 「.....逃げましょう。師匠」

 俺はそれしか言えなかった。

 「俺はな、昔パーティメンバーの一人が死んでから決めてんだ。もう何かを前にして逃げたりしたくはない。それに俺は本当は死んでいる人間なんだ。もしかしたらミレイアも同じ事言ってるかもしれないけどな。だからな、最後ぐらい師匠にカッコつけさせてくれよ」

 師匠はそう言って自分に水魔法を纏った。これは俺と師匠が修行しているとき、俺が教えてあげたんだ。

 「まさかここにきてお前に教えてもらったものが役に立つとはな」

 違う。俺はこんな時の為に教えたんじゃない。

 そんな俺を知ってか知らずか、師匠は笑顔で、

 「ああ。最後に師匠の教えだが、下を向くな。前だけ見て、邪神を倒せ、この三つだ」

 師匠はそう言って隕石に突撃した。

 「駄目だ!師匠!」

 「ありがとなレイ。楽しかったぜ」

 去り際にその言葉を残し、師匠と隕石は消えた。

 「......師匠はずっとカッコイイ存在でした」

 いつもピンチになったら駆け付けてきて、まるで主人公の様な存在だった。

 修行の時も俺を鍛えるとか言っていじめてくるような存在。

 だけど、それでも師匠と一緒に修行してきた日々は本当に楽しかった。

 駄目だ。下を向いたらいけない。泣いたらいけない。

 師匠は最後に俺に言った。下を向くなって。それを守らないといけない。

 俺がそう思って前を向いた瞬間、邪神は笑いながら、

 「馬鹿だ!滑稽だ!なんだあいつの終わりは。なんとも無様だ。まさか神聖級と一緒に死ぬとは」

 邪神はそう言って笑い出した。

 「.......笑うな」

 「何だって?聞こえないぞ。何も出来ないレイロード」

 邪神は心底可笑しそうに笑いながら俺に向けて言った。

 確かに俺は何も出来ない存在かもしれない。だけど、師匠は違う。

 「笑うなって言ったんだ!師匠は俺を守ったんだ!そんな奴が馬鹿な訳がない!」

 「何も出来ないお前を守った所で何になるんだ」

 そうだ。俺は何も出来ない。だけど今から出来る奴になってみせる。

 師匠は俺に託してくれたのだから。

 「今からお前を倒す」

 俺は傷だらけで起き上がれない身体が何故か動かせた。

 何でだ。何で立ち上がれるんだろうな。分からない。けどありがたい。

 「その傷だらけの体で何が出来る!」

 邪神は笑うのを止め、俺を睨む。

 「行くぞ。これが本当に最後だ」

 俺は風魔法を使って邪神に最後の勝負を挑むのだった。

 ~タマ視点~

 「どうしてご主人様は動けるニャ?動けない筈ニャ」

 私は隣にいるセルミ―に聞いた。こいつなら何か知っているのかもしれない。

 「私も確証はないんだけど、あれは極限状態。ほんとにギリギリの状態」

 「極限状態?何だのニャ?」

 私は聞いたことも無い。

 「あれは人間が限界の状態よ。今は戦えるけど一発でも攻撃を受けたら最悪死ぬかもしれない。けど相当強い力が出るわ。要するにゾーンにちょっと近い感じではあるけどリスクがデカすぎる」

 要するに最後の力をギリギリ出している状態って事ね。

 「止めないの?ほんとにやばいのよ?さっきまであんだけズタボロにされてたのに勝てると思ってんの?」

 セルミーはまだまだご主人様の事が分かってない。

 「私は見守るだけニャ。それに今のご主人様を止めれるなら止めてみるニャ」

 「......確かにそうね。なら私も見守るわ」

 見守るけど勝って欲しい。

 その時二人の思いは一緒だったろう。

 『頑張れ』

 その思いと共に二人はこの戦いを見守るのだった。

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