チート・ご都合主義いらないけどハーレムいります

平涼

第八十五話 魔王の隠されていた秘密

 全力で駆け抜ける。この一撃で決めるつもりで戦うんだ。

 俺と魔王の剣が再び重なり合う。

 力はこれで互角。技はあちらが上で、速さがこちらが上といった所だろう。

 俺達は互いにいい勝負をしていた。だが、

 「マリー!危ないわよ!」

 リリアのそんな声が聞こえて後ろを振り返ると、マリーがこっちに歩いてきている。

 「おいマリー。危ないから下がってろ!」

 だけどマリーは止まらない。俺の横まで来て、

 「.......お父さん」

 「は?」

 マリーが今何か言ったが俺には理解が出来ていなかった。

 魔王は黙っている。

 「......おい。マリー、どういうことだ?」

 「.....私も自分で何を言ってるのか分からない。けど、この人懐かしい感じがするの」

 「人違いだ」

 魔王はそれだけ言って俺に突撃してきた。

 俺もそれを受け止めようとすると、マリーが俺の目の前に出てきた。

 「おい!マリー!」

 俺がマリーをどけようとするが間に合わない!

 だが、そこで不思議な事がおこった。

 魔王の剣がマリーの前で止まった。

 「なんで止めるの?」

 「.....斬る必要が無かったからだ」

 「違うでしょ!何で目を逸らすのよ!」

 マリーの叫び声に魔王は目を逸らすだけだった。

 どういう事なんだ。なんでこいつがマリーの親父さんなんだ。そんな筈はない。マリーは普通の人族だ。

 「なあ。マリーやっぱ違うんじゃないのか?」

 「いや。さっきのではっきりした。この人私のお父さんよ」

 マリーはそう断言する。

 「なぁ魔王。正直に話してくれないか?これじゃあ勝負所じゃないだろ?」

 今は勝負をする雰囲気ではない。リリア達も黙って見ている。

 魔王もその雰囲気は分かったのだろう。溜息をつきながら本気の状態を解除して元に戻った。

 「まさかこの格好で気付かれるとは思わなかったぞマリー」

 そう言って、魔王は人族に変身した。

 そこには普通の一般男性の男がいた。

 「やっぱり。どういうことか説明してくれるよね?」

 それに魔王は頷いて話してくれた。

 魔王はアンリさんやあの爺さんが働いている中自分だけがこの城で寛ぐのは嫌だったらしい。

 それで魔王はムー大陸で人族に変身して色々と探し回ったらしい。

 時に冒険者として働いたり、時に何処かお店で働いたりしていたらしい。

 そんなある日一人の女性と出会ったらしい。

 それがマリーの母親のネリカという人だったらしい。

 そんなネリカを好きになり付き合い始めた二人だったが魔王はそんな楽しい日々の中で思ったらしい。

 自分がこの姿だからこそ彼女は俺と付き合い始めたのだと。

 それに自分は魔王であり魔人だった。魔王はそんな好きになった彼女だったがもう会わないことをきちんとネリカに言って別れようと思ったらしい。

 だが魔王が別れを告げても彼女は理由なしでは嫌だと言ったらしい。それで魔王は正直に自分が魔人である事を話したらしい。

 それでもネリカはそんな魔人である魔王を受け止めてくれた。魔人でありながらもそれでも好きでいてくれた彼女と魔王は別れる事を止め、結婚したらしい。

 そしてマリーが生まれ、魔王は幸せに暮らしていた。だがマリーがある日おつかいに行った時にいなくなった。

 マリーのような容姿の子が奴隷商人の人に連れて行かれていたという情報を聞いて、二人は急いで探し回ったらしい。

 だがそこで魔王は一つ間違いを犯してしまった。

 ネリカと別れて探しても、ネリカにはマリーを取り返すだけの力は持ってなかった。

 それに後々気付いた魔王はすぐにネリカが探していた所に向かった。だが遅かった。

 ネリカは道端で血を流し倒れていた。周りにも人だかりが出来ており、そこでネリカは奴隷商人の人に殺されたという事が分かった。

 そして魔王はそこから人族を許さないことに決めた。

 マリーが何処にいるかも分からない。ネリカは死んでしまい、魔王は再び城に戻り、人族を根絶やしにすることを決め、戦争を起こしたらしい。

 「それじゃあもうお母さんはいないの?」

 「ああ。すまない。俺が不甲斐ないばかりに。ただお前が幸せに生きててくれて良かった」

 「レイのおかげよ」

 マリーは何だか照れ臭いのか話題を変えた。

 「それよりも私が学校にいたときに私の事気付かなかったの?」

 「俺もあの時少し似ていると思ったんだが、マリーは奴隷商人に捕まったからあり得ないと思ったんだ。だけどここでもう一度お前を見て、お父さんと言われたとき確信したんだ」

 魔王が学校で俺の方を見ていると思ったがあれはマリーの方を見ていたのか。

 だが俺はずっと気になっていた。

 「魔王やアンリさんがしていた仕事って何なんだ?」

 「巫女を探す事だ」

 その巫女は知っている。村長のアスロさんもその名前を言っていた。

 「まあ。それも今となっては意味が無かったようだがな」

 魔王はそう言って後ろにいるシアに目を向けた。

 俺がシアの方を向くと、

 「今日帰ったら話します」

 そう言うので俺は今は聞かない方がいいだろう。

 「これってどうするの?」

 リリアが聞いてきたが俺も実は気になっていた。何だかもう戦う雰囲気ではない。それに俺もマリーの父親を倒したくはない。親父と母がこの場にいてもそう言う筈だ。

 「もちろん戦うぞ。俺にはもう一度戦う理由が出来た。この男がマリーにふさわしいのか見てやる」

 「そんなの必要ないから」

 「いや。絶対に必要だ。俺より強くないなら結婚は認めん」

 「もう子供もいるし、結婚だってするつもりだから」

 そうなのだ。俺はまだ皆と結婚していない。全てが落ち着いたらしようという話だった。

 「子供がいるだと!?」

 魔王は今までの殺気が何だったんだと言わんばかりに恐ろしい目つきで睨んできた。

 「いるわよ。だからもう結婚はする」

 何だかマリーが幸せそうだ。

 マリーは以前俺に言った。自分は親が何処にいるかも分からないし、会えないんだと。だからこそ今ようやく会うことが出来て嬉しいんだろうな。

 俺はそう思いながら二人を見ていた。

 「お前にはまだ......」

 そう。ここにいる全員が油断していたのだろう。

 魔王が何か言う前に、

 「お父さん!!」

 魔王の胸から手が飛び出した。いや、背後にいる奴が刺した。

 魔王はその場に倒れ、その場にいる魔人らしき奴は自分の手に魔王の心臓を持っていた。

 「全然決着はつかないし、油断もして呆気ない終わりだな魔王」

 俺はその人物を見ているが、冷や汗所の話じゃない。

 こいつはやばい。気配が全く分からなかった。

 「......お前は誰なんだ?」

 自分でも若干震える声が出ていることが分かった。

 「俺は『邪神ニョルニル』だ」

 その場にいる全員が誰もが知っているだろう。今この世界で剣聖と並ぶ三大最強の一人ニョルニルだった。

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