現実の皆さん、俺はゲームに閉じ込められたけど何気ない生活を送ってますよ

かひろ先生(ケダモノ)

現実の皆さん、俺はゲームに閉じ込められたけど何気ない生活を送ってますよ

「ゲーム世界に来てからもう3ヶ月か」

 ゲームの世界とはそのままの意味だ。
 俺は3ヶ月前にあるゲームを買った。それはなんの変哲も無いただのゲームだ。そのゲームを買った後家に帰り、どんなもんかと起動したところ光が広がり、俺はこんな世界に閉じ込められていた。

 もちろんそれはプログラムのミスとかそんなことでは無くこのゲームを作ったやつの仕業だった。
 この世界にたどり着いた時、既に他の人たちも同じ時間帯に閉じ込められており丁度主催者とかいうやつの説明が始まっていた。

「さてこれで全てのプレイヤーが集まったな。これよりゲームを始めよう。ただのゲームでは無いことはもうみんなわかったはずだ。この世界からは強引な方法では出ることは決してできない。元の世界に戻りたいのであればこのゲームをクリアするしか無い。そして一つ君たちにアドバイスをしておいてあげよう。このゲームのレベル上げはとてつもなく簡単だ、こんなすぐでいいのかと言うくらいすぐに上がる。さあプレイヤー諸君、私の娯楽として君らの娯楽、君らの好きで好きで大好きでたまらないゲームで楽しませてくれたまえ! 」

そんなことを言って主催者はその場から消えた。この後どうなったかはわかるだろう。
 どうすればいいかわからず叫ぶ人、黙る人、泣く人。そんな人たちをまとめてリーダーぶる人、コミュ力がなくただオドオドしてる人、自分は特別だと叫びながら街を出て行く人。色々いた。

俺はその誰にも属さないタイプだったようだ。勿論他にもそんな奴は数名いたが
 そんな彼らを横目で見ながら俺はその場を離れその町で働ける場所はないか探し、職を見つけた。
 そしてここ、最初の町で今、暮らしている。

「おはようございます。おばさん」
「あらあら、おばさんだなんて。そんな若くありませんよ」
「いえいえ、十分お若いですよ。あれ? 今日のお肌の具合とてもよろしいですね」
「あら、わかるー? 実は石鹸変えたのよー。やっぱり高いのだと肌の調子が良くてよくて」

などというどうでもいいような世間話をしながら町を歩き職場へ向かう。
 3ヶ月も暮らしていれば流石にコミュ力が乏しくても中々話ができるようにはなる。町の人たちも大体は覚えた。

「ここの生活も悪くは無いな」

そう呟きながら歩いていると見慣れない男が傷ついて倒れているのを見つけた。町の人たちは気味悪がって近づかない。
 
「おい、どうしたんだ。こんなところに寝転がって……。こいつは」

その男に近づき首元を見ると首輪がついていた。
 この首輪はプレイヤーの証、絶対に外すことのできない楔。俺にもついているので見間違えるはずもない。
 だがおかしい。この町のプレイヤーはもう俺以外にはいないはずだ。こんなところまで戻る理由もない。

「同郷だしな。とりあえず介抱はしとくか」

俺は気絶している男を担ぐと先ほど来た道を戻り家へと帰宅していく。

「ううっ……ここは」
「目が覚めたか? 」
「あんたは」
「お前と同じプレイヤーだ」

男はベットから起き上がりふらふらとしながら立ち上がろうとする。
 それを抑えながらどうしてここにいるのかを説明をする。すると男は落ち着いて話をしだす。

 男はこの世界に来てからすぐに町を飛び出しレベル上げを始めたらしい。
 勿論レベルはすぐ上がった。とてつもないスピードで。
最初のボスを雑魚敵と同様に倒し、次々とプレイヤーたちは協力してボスを倒していった。
 しかし後半で問題が起きた。最後のクエストの必要素材がこの最初の町でしかとることのできないなんの変哲も無い素材品だったのだ。
 男は仲間とともにめんどくさがりながらも最初の町へと戻ろうとした。この世界にワープアイテムや魔法は存在しないことに今までなんとも思っていなかったがこの時その意味を男は理解した。
 敵がとてつもなく強いのだ。最初の町に近づけば近づくほど敵は強くなり歯が立たなくなる。
 仲間も敵にやられ最後のクエストを受けた町へと戻ってしまった。
 男はなんとか一人で敵の中を掻い潜り、この町まで来て急いでセーブポイントをここへ設定したがそこで力尽きたらしい。

「……というわけなんだ」
「なるほどね。ちなみにそれはこれのことか? 」

俺はバボーンと呼ばれるモンスターから取れる素材、爆散する骨を見せる。
 男は宝物を見るかのようにそれを見つめる。

「これだ! これだよ! 」
「そうか、ならほらやるよ」
「ほんとか! ありがとう! ありがとう! 」

彼は立ち上がると俺の手をがっちりと掴む。
 いやそういう趣味はないのだが……

「君! 俺と一緒に行かないか? なんでこんなところに残っているのか不思議だがこんな最初の町に戻っても仕方ないだろ? 一緒に旅に行こう! 他の町で仲間も待っているし」

俺は握られた手をゆっくりと離す。

「悪いが俺は行かない。この町が気に入ってるんだ。ゲームクリアなら勝手にやってくれ」
「そうか、わかった。このゲーム必ずクリアしてみせよう! 」
「そんな急いでもろくなことないぞ」
「善は急げさ! 」

男はそういうと家を飛び出していった。
 あんな傷だったのに果たして奴の仲間の元に戻れるのだろうか? 

「まあ、俺には関係ないな。のんびりいきれりゃそれでいいんだ。急いでもろくなことはない」

俺はその日遅刻でこっぴどく怒られてしまった。
 もしあの男に今度あったら一発ぶん殴るかもしれないな。

数日後町を歩いているとあの男がいた。
 俺は不思議に思いそいつに近づき話しかける。

「あれ? なんでこの町にまだいるんだ? 」
「……」
「おい、聞いてるのか? 」
「……」

男からは反応がない。ただ虚空を見つめている。
 もしやと思い男の首輪を確認する。

「やっぱり」

そこにはこう書かれていた。《death 1》と
 この世界では死がない。
正確には肉体の死はない。心は死ぬのだ。
いくら死なないといっても痛みは本物、直に身体に、脳に、記憶に植えつけられる。
そんなことに耐えられる人間はそうそういない。
普通のやつならこの男のようになんの感情もない、もう人と呼ばないような人形へと変貌してしまう。

「な? 急いでもろくなことないだろ? 」
「……」
「お前のせいで俺あの日遅刻したんだからな。一発殴らせろ」
「……」

俺は男の頰に一発軽いデコピンをすると男をそこに放置し仕事へと向かう。

 俺はゲームクリアなんて目指さない。
のんびり暮らせればいいのさ。



現実世界の皆さん、俺は今日も何気ない生活を送っています。

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