Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

9.

南口は休日、一人で町を歩いていた。特に用事がある訳でもなく、散歩がてらにぶらぶらと、なりゆくままに歩く。もちろんカバンには、もう一人の相棒である一眼レフカメラが入っている。流石に町中ではカメラをぶら下げておくことができないのが残念な所ではあるが、それでもこれは、南口にとって大事な時間でもあった。
―小学校、久々に来たなぁ。なんにも変わってないや。
昔通っていた、母校の前を通りかかる。相変わらずその様相は変わっておらず、南口の記憶にもあるそのままの校舎が建っていた。また中に入ってみたい気持ちもあるが、今の自分はもう部外者も当然だ。ましてや今日は休日なのだから、どうと言っても許されるはずがない。周りから少し中を覗くだけで、今日はそのまま通り過ぎた。
しばらく歩いた後、やがて南口は、踏切を渡って駅の反対側へと渡った。こちらには商店街があったり、向こうに比べて色々と充実している。自分たちの住む近辺は、どちらかといえば住宅地であり、そこらじゅうに家が建っている。おかげで外を元気に走る子供を見かけることも少なくなくて、よく公園や周辺を通る際に見かけては、自分にもそんな時期があったなと和まされる。
こんな特に変わった様子もない町だが、自分はこの町が大好きだ。心変りが無かったら、このままこの町で生活をしていきたいとも思っているし、そこは近い将来に彼と要相談かもしれない。
―ふぅ、少し疲れたなぁ。ちょっとどこかで休もうっと。
かれこれ一時間近く歩いている。写真も何枚か撮れたことだ。南口は近くにあったファーストフード店へと足を運んだ。一応自分は、こういった場所にも一人で行ける口である。レジにてオレンジジュースを一つだけ頼むと、そのまま席へと向かった。
「あれっ?」
ふと、南口は声をあげた。その声に反応した二人組は、何事かとこちらを振り向く。
「おぉ、玲奈ちゃん!」
「璃子ちゃん。この間はありがとうね」
席に向かい合うようにして座っていたのは、先週アドバイスを貰った佐口と、もう一人の男の子だった。彼は何やら髪型を思い切り上げていて、正直に言って第一印象はあまりよろしくなかった。もしかしたら、彼女が言う「バカ彼氏」なのかもしれない。
「あ、座るか?」
「いいの?」
「構わんよ。ほら」
「ありがと」
彼女は少し席をずれて、スペースを作った。彼女の隣に、南口は座る。一方、向かいに座る彼は何やら、不機嫌そうにこちらを見ていた。
「璃子。そいつ、知り合いか?」
「うん。真田君の親友の、中田君って子の彼女。南口玲奈ちゃん。一応、同じ中学だよ」
「そうなのか?んー・・・。やべぇ、全然知らねぇ」
彼はうーんと唸った後、結局答えを見つけ出せずに参ったという顔をした。佐口は呆れ顔で彼を一蹴すると、こちらを向いて彼に手を出した。
「とりあえず紹介しておくよ。ウチのバカ彼氏の、宇佐美悠介。ケンカばっかりだけど、なんだかんだ長く付き合わせてもらってるんよ」
「そうなんだ。よろしくね」
「ん、おう」
そっけなく彼は返事をすると、逃げるようにフライドポテトを何本か口に運んだ。どうやら、あまり初対面は苦手らしい。
「そうだ、璃子ちゃん。あの後ね、中田君と一緒に写真を撮りに行ったんだ。その時にお互い、今の気持ちを言い合って・・・そしたらまた、いい感じに仲良くなれた、と思うんだ」
「へぇ。直接中田君に言ったん?」
「ううん。中田君のほうから言ってきて。『マネージャーの子とは、今の関係が一番いいと思ってる。俺はやっぱりお前が好きだ』って言ってくれたんだ」
「んー・・・そうか」
ニコニコと嬉しそうに話をする南口だったが、ふとそれを聞いている佐口は、まだ何かを思いつめた表情だった。なんだ、まだ何かあるというのか?今まで嬉しさに浸っていたこともあって、彼女の鈍い反応に、南口は少し落胆した。
「なんだ?恋愛相談か?お前、よく色んな奴から受けるよなぁ」
宇佐美が佐口に向かってぼやく。すると彼女は、ふふっと可笑しいように笑った。
「こう見えて、男の扱い方は慣れてる自信があるんよ。誰かさんがバカすぎるおかげでね」
「へっ、悪かったよ。・・・でも、裕人の相談だったらまだ俺ものれたんだがな。中田の事はあんまり知らねぇからよ」
「でも、男の目線から何かアドバイスできないの?」
「いや、んなこと言われてもな。事情知らねぇし」
「そっか、じゃあ。玲奈ちゃんがよかったら、このバカにも説明してくれる?一応、こんな奴でも根は優しい奴なんよ」
彼女が笑いながら彼を見る。宇佐美は少し恥ずかしそうに目線を逸らすと、彼女に問いただした。
「・・・お前、急にそういうこと簡単に言うよな。恥ずかしくないのか?」
「別に?だって、ホントの事やろ?」
「あのなぁ・・・言われる俺の身にもなれってんだ」
「はいはい、恥ずかしがってる暇があったら、玲奈ちゃんの話を聞く」
「はぁ。はいはい」
「あ、ははは・・・。じゃあ、話すね」
南口は宇佐美に、彼との今の現状を説明した。こんな見た目だが、意外にも彼女の言うことは本当みたいだ。その見た目とのギャップに、思わず南口は感心する。
「なるほどな。で、中田は今そのマネージャーと仲良くしてるが、好きなわけではないと」
「うん」
彼は腕組をしてどこか目線を逸らしながら、しばらく考え込んでいた。そうして、一つ思いついたような顔をすると、南口と向かい合った。
「そうだなぁ・・・。男の俺として言えるとしたら・・・男はバカだって事か?」
「・・・バカ?」
ほとんど口に出したことが無い単語が、南口の口からこぼれた。
「よく言うだろ?男なんて単純だって。確かに今は、中田はそいつをただの友達だを思ってる・・・あー、いや、思い込んでるのかもしれないな」
「えっ?」
「そう自分に言い聞かせて、南口、だっけか?お前を悲しませないようにしてる。きっと今あいつは、相当悩んでるんだろうさ。マネージャーが好きかもしれない。好きになるかもしれない。でも俺には彼女がいる。ダメだ、好きになってはダメだー。・・・みたいな?でもまぁ、完全にお前に飽きてるわけではないだろうよ。でも、下手したらそっちの女に転がりかねない。話を聞く限り、中田は色々軽そうな男だからな。だからこそ、お前が中田とまだ一緒にいたいって思うなら、そのマネージャー以上に頑張らないといけないんじゃねぇかな・・・って思うんだけど」
「おぉー、悠介にしてはいいアドバイスやんね」
バカにしているのか褒めているのかは分からないが、ニコニコと手を叩きながら佐口は彼を称賛した。
「そうかよ。・・・で、俺はそんな感じに思うんだが、どうだ?」
彼が再び南口に問う。南口は俯き加減で思い返すと、一つの確信にたどり着いた。
「・・・言われてみれば、そうかもしれない。中田君、一人で抱え込むところあるから。いっつも楽しそうに笑ってるけど、結構悩んでること、多いと思う。助けたいと思っても、いつも『大丈夫』って言って話してくれない・・・」
「なんや。嫌いなところ、ちゃんとあるじゃん」
「えっ・・・?」
ビックリして、思わず隣の佐口を見る。彼女は先程とは違う、本当に心から嬉しそうに笑っていた。彼女もこんな風に笑うんだと、ふと感じてしまう自分がいた。
「玲奈ちゃん。そういうところ、今まで『中田君だからしょうがない』で片づけてたでしょ?」
「言われてみれば・・・そうかもしれない」
「ウチが言いたいのは、そういうことなんよ。どんなに些細なことでもいい。自分があの子の『ここが嫌だな』って思ったら、それがその子の悪いところ。それを彼氏彼女お互いに分かり合って、諦めるんじゃなくて、認めなきゃいけない。それの積み重ねで、時にはケンカにもなる。でも、それでも『一緒にいたい』って思えるからこそ、本当に信頼できる関係になれるんよ。今の二人には、やっぱりまだそれが見えないと思う」
「・・・・・」
「まぁ、今すぐにとは言わない。ゆっくりでもいいから、お互いにそれを認め合わないといけない。お互いの気持ちは話したんやろ?」
「うん・・・」
「なら、それが最初の一歩や。そこから、どんどん色々中田君の事を知ろうとすればいい。そうしていく中で、勝手にケンカなんてできるんよ。それが怖かったら、もう彼女失格やね」
「失格・・・」
「・・・本当に信頼できるからこそケンカができる。それはもう言ったな?ケンカを怖がってたら、いつまで経っても本当のことが言えなくなる。ずっと言いたいことを言えない関係になるなら、ちょっと頑張ってみて、何でも言い合えて相談できる、そんな関係のほうがよっぽどええやろ?だから、玲奈ちゃん。頑張ってみてほしいんよ」
「・・・そっか。私、ずっと怖がってたんだね。だから私にはこんなに魅力が無くて、中田君にも迷わせちゃって・・・」
「玲奈ちゃん。自分を魅力が無いだなんて言わんといて」
「え・・・?」
「玲奈ちゃんは、玲奈ちゃんや。たとえ人よりケンカをすることが怖かったり、自分に自信がなかったとしても、そんな玲奈ちゃんは、あんた一人しかいないんよ。玲奈ちゃんには、玲奈ちゃんの良さがある。たとえ今、中田君がそんな状況だったとしても、いいじゃない。何年も一緒にいてくれてるんでしょ?それに、玲奈ちゃんは優しくていい人や。悪い人だったら、ウチらはこんなに話はしないよ」
「璃子ちゃん・・・ありがと」
「そうそう、その笑顔や。いい笑顔やんね。その笑顔は、玲奈ちゃんにしかできひん。あんたの代わりなんていないんだから。その笑顔を好きになってくれた中田君に感謝する気持ちを忘れずにな。だから、自信を持って。な?」
「うん・・・!私、頑張ってみるよ」
「まぁ?南口がどこまでできるかは分からないけどよ。璃子みたいに人前で平気で彼氏をぶん殴られるようになったら、上出来だな」
ふと、話を聞いていた宇佐美が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら言った。それを聞いた刹那、宇佐美の頭に怒りの鉄槌が下される。
「んがぁ!?」
「・・・と、まぁこんな風に?ああでも、玲奈ちゃんは玲奈ちゃんだから、真似しなくてもええよ?でも、もしこんな風に中田君をまとめたいのなら、ウチも積極的に指導するけどな」
「あ、ははは・・・考えとくよ」
色々あるようだが、彼女ら二人はそれでもきっと、心の底から信頼し合っている。だからこそこんな風にお互いをバカにしあえたり、ケンカをできたりするんだ。ちょっと相手を殴るのはどうかと思うけど・・・でももしかしたら、知っているカップルである今の裕人と心奈よりも、信頼は厚いのかもしれない。
―でも・・・二人はどうしてこんなに、仲良くなれたのかなぁ?
ふと、南口の中でそんな疑問が生まれた。その瞬間に、その理由が聞きたいという欲に包まれる。ダメ元かもしれないが、ちょっと聞いてみるか・・・。
「ねぇ、二人はどうしてそんなに仲良くなれたの?」
南口が問う。二人は何やら顔を見合わせると、うーんとお互いに唸った。
「なんやろなぁ。やっぱり、あの時のか?」
「んー、そうじゃね?っていうか、あの時あんな目に合わなかったら、俺たち付き合ってないもんな」
「やね。玲奈ちゃん、聞きたい?」
「え、話すのかよ!?」
「ええやろー?別に。こっちが損するわけでもないんだし」
「ぬぅ・・・まぁ、いいけどさ」
「よし、じゃあ聞かせてあげるよ。私と悠介が付き合うことになったきっかけ。つまらないかもしれないけど、よろしくね」
「大丈夫。いいよ、話して」
彼女はニコッと微笑むと、彼と一度顔を見合わせてから、話を始めた。
「小学四年生の、一月だったかな。ウチが、こっちに引っ越してきた時・・・」

「現代ドラマ」の人気作品

コメント

コメントを書く