Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

8.

3月20日

いつも通りの日常。いつも通りの景色。
なんの変わり映えの無い一日を過ごしていた俺に、一報が入ったのは、夜の九時頃だった。
それとなく机の前の椅子に座り、ノートパソコンで動画を見ていると、スマートフォンが一つ、鳴った。
スマートフォンの画面を見る。そこにはトークアプリの通知にて、陽子と書かれた人物から一言「今、通話しても大丈夫?」と書かれていた。
―ああ?せっかくいいところなんだけどな。
見ていた動画も、あと数分で終わりだ。少しくらい返事が遅れても平気だろう。
俺は一旦スマートフォンを机に置き戻すと、動画の視聴を再開した。
五分程してようやく動画を見終わる。椅子から立ち上がると、大きく伸びをした。
スマートフォンを手に取り、トークアプリを開く。正直、今は誰かと会話する気分ではなかったが、彼女の頼みじゃ仕方がない。
俺は一言「大丈夫。かけるよ」と文字を打って送信すると、彼女に電話をかけた。
「おう、西村」
≪ヒロ君。ちょっとだけ時間じらしたでしょ?≫
繋がってから第一声。お見通しと言わんばかりに彼女が言った。
「え?い、いや、そんな事ないぞ?」
≪嘘。声色がそうだもん。バレバレ≫
「うっ・・・すんません」
スマートフォン越しに、頭を下げる。女というのはやはり、怒らせると怖い。
「・・・で、何?話でもあるのか?」
≪もう・・・そうやって話ずらす。まぁいいけど。それで、急なんだけど、明日の夕方会える?≫
「夕方?あー・・・一応明日、部活なんだが」
≪えー?どうせ三人しかいない、正式かどうかも分からないフットサルでしょう?一日くらい平気だよ≫
「・・・それは貶してます?」
≪ちょっとだけ。で、どうなの?他の二人に頼めば大丈夫じゃない?≫
「つってもなぁ。明日で高二最後だしなぁ」
≪高二最後でもどうせ、やることは一緒でしょう?三年生でもできるんだし、いいじゃない≫
「うーむ・・・」
今日の西村は、何やら多少強引だ。こういう時、遠回しにどうしても来てほしいと言っているのと同じであろう。断ったらどうなるかも分からないし、ここは了承しておくか・・・。
「わぁったよ。行くよ。場所は?」
≪駅前の公園≫
「・・・あれ?お前わざわざこっちに来るのか?」
≪ちょっとね。大事な話があるから≫
「ふーん。分かった。じゃあ、多分俺が先に着くだろうから、待ってるわ」
≪うん、お願い。それじゃあ、また明日≫
「おう。また」
彼女との通話を切ると、俺はスマートフォンを机の上に置いた。
「さて・・・続き見るか」
再び椅子に座ると、俺は先ほどまで見ていた動画の続きを見始めた。
明日何が起こるのか。全く予想もせずにのんびりと。

3月21日
俺は、宇佐美と石明の妬み恨みを食らいながら、やっとの思いで公園へとたどり着いた。
―ったく、あいつら。女と会うって言っただけで、どうしてあんなに色々文句を言うかな。
それは映画のゾンビ並みで、振り切っても振り切っても、その話題ばかり話してくる。帰り際までもその話題で、今日一日はとても疲れた。
「・・・それにしても」
―どうしてここなんだ?
ふと疑問に思った。それに、学校帰りに会うというのも不自然だ。昨日の強引さといい、きっと彼女は何かを隠している。それが何かは分からないが。
俺はベンチに座ると、大きな欠伸をして彼女を待った。
二十分程経っただろうか?待てども待てども、彼女はやってこない。
やはり、放課後に会おうというのが無謀だったのではないか?公園の時計を見ると、既に夕方の五時を過ぎていた。
ティン・・・。短いベルの音が鳴った。きっと俺のスマートフォンだろう。画面を確認すると、陽子と書かれた人物から一言「もうすぐ着くよー」と書かれていた。
ようやくか。呑気にそんな事を思いながら、スマートフォンをポケットに戻す。
ふと、近くで足音がした。やっと来たかと、公園の入り口を見る。
「・・・っ?」
俺は目の前の「モノ」に狼狽ろうばいした。
その懐かしい笑顔に、俺は驚愕とする。
―どうして、こいつが?
目の前に立つ人物は、ゆっくりこちらに歩み寄る。
それは懐かしくも不気味な笑みを浮かべて言った。
「久々ね・・・真田君」
彼女は前田来実。俺たちを引き裂いた張本人だ。

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