Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

Memory.29

心奈は焼きそばを平らげて、秀光に礼を言うと、秀樹に呼ばれた通りに、先程の堤防へと向かった。
「来たか」
先程までとはうって変わり、悲しそうな目をしていた。その目に、心奈は何故か共感が持てた。
彼は心奈を見つけると、隣に座れと、手で地面を叩き指示する。
何も言わずに、心奈は彼の隣に座った。
「・・・お前、両親がいないんだよな?」
「え?あ、はい」
「大切な人を失うってことは、辛いことだ」
彼は何かを思いつめたように目を閉じた。
「・・・去年な。俺の彼女が、ここで自殺したんだ」
「えっ・・・?」
「突然だった。一緒に沖縄来て、昨日まで笑顔で話してた奴が、次の日に海の中から冷たい体して、無表情で俺の前に来たんだ。訳が分からなかった。あいつが自殺するなんて考えてもいなかったし、俺だって不満を持たせるような事をしていたとは思ってもいなかった。嫌なら相談してくれればいいし、それなら俺だって力になりたかった」
彼は立ち上がると、柵の前まで歩み寄り、背を向けたまま続けた。
「その後、あいつの家から遺書が見つかったんだ。『どうか、私の分まで幸せになってね。ほんの少しだったけど、楽しかったよ。今までありがとう』って」
ゴンっと鈍い音が鳴る。鉄の柵を思い切り拳で殴ったらしい。
「ふざけんなよな!なにも死ぬことあるか!?そんなに思いつめてることがあったのなら、相談してくれればよかっただろ!?俺は誰よりもあいつのことを知っていたし、もっともっと知りたかった!だけどあいつはいつも、俺に隠し事ばっかりで、ほとんど教えてくれなかった!ほんっと酷いよな。いつも俺の事バカにして、姉貴ぶってたくせによ。他人の事ばかり気にして、自分の事は抱え込んで、挙句に勝手に死にやがって・・・」
彼は泣いていた。先程の男らしさは全く無く、心奈にはとても弱弱しく見えた。
―この人も、一緒なんだ。でも・・・私とは、少し違う・・・。
「結局、あいつの親も自殺理由は分からなかった。何であいつが死んだのか、誰も分からなかったんだ」
「・・・それまでに、彼女が思いつめてる様子とか、無かったんですか?」
「ねぇよ。あいつは、他人に心配させないようにいつも笑顔で振る舞ってたんだ。誰もあいつが、悩みを抱えてたなんて気づいてなかったんだよ」
「でも・・・私、彼女さんの気持ちが、分かる気がします」
「はぁ・・・?」
彼は振り向いた。涙で濡れた今の表情が、本当に秀樹なのかと疑うくらい、別人のようだった。
「本当に大切な人だからこそ・・・自分の悩みを、知ってほしくないんです」
「・・・意味わかんねぇよ」
「大切な人ほど、迷惑をかけたくないんです。だから平然を装ってしまう。そうやって、自分でなんでも抱え込む・・・私も、そうですから」
心奈は微笑んだ。すると彼は、鼻をすすってから、へへっと笑った。
「お前のその笑顔・・・似てるんだよ、あいつに」
「私が・・・ですか?」
「ああ。小さかった頃のあいつにそっくりなんだ。幼馴染だったんだよ。俺達」
彼は両手で涙を拭うと、大きなため息を吐いた。
「さっきお前が飛び込もうとしてた時、あいつの幽霊を見たのかと思ったんだ。でもふと気がついたら、お前の事を掴んでた。まるでそっくりなんだよ。髪型も、容姿もみんな・・・いるもんなんだな、似てる奴って」
「でも、私は彼女じゃありません。明月心奈です」
「・・・そう、だな。あいつは戻ってこない。それは充分分かってるさ」
「でも・・・」
心奈は立ち上がると、彼の隣に歩み寄った。
「私なんかが代わりになれるか分かりませんけど・・・慰めるくらいなら、してあげますよ」
「・・・なんだよそれ、年下のくせに」
「えへへ、こう見えて私、男の子の扱いは慣れてるんです。私も秀樹さんに似た人、知ってますから」
「・・・そうかよ。まぁ、それなりによろしく頼むわ」
彼は心奈を通り過ぎると、背を向けたまま言った。
「なんでお前にこんなこと話しちまったのか分かんねぇけど・・・まぁいいや。んじゃ、俺は店の手伝い戻るわ。っていうか、暇だったらお前も手伝え。か弱い命を助けたんだ。まだまだ代償は払ってもらわねぇとな」
「む・・・分かりましたよ!手伝えばいいんですよね!仕方ないなぁ」
「それと・・・」
彼は立ち止まると、半身だけ振り向き、笑顔で言った。
「ありがとな、心奈」
その瞬間、胸の中の張りつめていた何かが、無くなっていくような気がした。
何が原因か。心奈はもう、それを分かっていた。
「・・・ま、いいですよ。それよりも、さっきまで思いっきり泣いてましたけど、スッキリしました?」
すると、彼は思い出したかのように、顔を真っ赤にさせた。
「なっ・・・!?てめぇ!それ思い出させんじゃねぇ!」
激怒する彼をよそに、心奈は歩き彼を横切った。
「先に向かってますよー。あ、それともまだ泣き足りないなら、一人でここで泣いてていいですよ?」
「ああん!?おいてめぇ!さっきまで死のうとしてたのはどっちだ!?ああ!!」
彼が物凄い形相で追ってくる。
「おぉ、怖い怖い。分かりましたよ、ごめんなさーい」
「謝るならもっと本気で謝れよ!もっと敬意を込めて!大体な!俺のほうが年上なんだぞ!?普通は・・・」
こうして、心奈の二泊三日の沖縄旅行は、最終日までとても充実した日々になっていったのだった。

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