Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

1.

20×7年現在 少し前、中田と久々に電話を通じての会話にて

俺が喋り終わると同時に、長い沈黙が走った。
時計の針は、既に深夜の一時を越えた。説明ベタなため、色々と時間がかかってしまった。
中田はふぅっと息と吐くと、次にこう答えた。
≪まぁ・・・今から言ったら、それで正解だったのかもな≫
「そう、かな・・・?」
≪要するに、前田が率いてたのはここらの暴力団だろ?そいつら全員に明月が被害を食らうよりはマシだ。最悪、集団で・・・≫
中田が言葉を止めた。言われなくても、その後の言葉の意味は分かった。
「ああ。そして、万が一俺が前田と付き合うとなっても、恐らく結果的にその結末になると思う。あの時、縁を切っておいて正解だった」
その後は言葉通り、彼女との縁は途絶えた。というか、彼女は夏休みに入ってから、転校してしまったのだ。要するに、やり逃げだ。どこの中学校に行ったのかも定かではない。
≪警察・・・いや、中学生だし、先生にまずは連絡が行くか≫
「ああ。そしてそれも多分同じだ。結局どうしようもなかったんだよ。俺は」
≪・・・なんか、悪かったな。お前ばかり責めて≫
静かに中田は謝った。
「過ぎたことだよ。別にいい。それよりも、その後の心奈について、俺は全く知らないんだが、何か知らないか?」
俺は中田に問うた。
≪ああ。あいつ、その次の週から一度も学校来てなかったらしい。玲奈がそう聞いたらしいぞ≫
「は?マジかよ」
≪きっと、精神的に嫌になっちまったんだろ。仕方ねぇよ≫
「・・・ああ」
俺が、あいつの人生を狂わせた。それは紛れもない事実だ。
≪・・・まぁ、今色々言っててももう昔の事だ。仕方ねぇよ≫
中田が慰めるように言った。
≪とりあえず、話てくれてありがとな。久々に話して、楽しかったわ≫
「ん、ああ・・・」
≪そうそう、嫌じゃなかったら、俺の連絡先は西村から貰っといてくれ。時間もいいし、俺はそろそろ寝るわ≫
「おう、分かった。後で貰っとく。それじゃあな」
≪あいよ、また≫
彼との通話を切り、受話器の画面を確認すると、およそ四時間半も話していたらしい。とてつもない長電話だ。
俺は受話器をリビングへ戻すために、自分の部屋のドアを開けた。
「うわぁ!危ないなぁ」
突然大きな声でドアの目の前にいたらしい母が言った。
「あ、悪い」
「もう。あ、終わったの?電話。随分長く喋ってたんじゃない?」
「まぁ。久々だったし」
「そう。ちゃんと歯磨いて、早めに寝るのよ。それじゃ、お休み」
そう言うと母は部屋へと入っていった。
―久々、か。あいつとも、久々に会いたいな。
彼女の顔を思い返す。その表情は、楽しそうに微笑む彼女の笑顔だった。
・・・会えるなら、な。

20×7年現代 3月初週の日曜日

「・・・ねぇ、ヒロ君」
「何・・・?」
「会ってみない?」
西村は、決心を決めた表情でそう確かに言った。
「・・・心奈に」
「お前・・・本気で言ってるのか?」
俺は彼女に改めて聞き返した。
「本気だよ。私、心奈と会ったから」
「本当か!?元気にしてたか?」
すると彼女は、悲しそうに俯き加減で答えた。
「元気に・・・まぁ、それなりだったけど」
「そうか・・・」
ひとまず、何事もなく生活できているようで安心した。万が一彼女の身に何かがあったら、それは多分、全部俺のせいになるからだ。
「ただ・・・」
西村が呟いた。
「ただ?」
「・・・心奈、人が変わったみたいだった。何だろう。まるで、人を遠ざけてるみたいな話し方だった」
「それって・・・どんな?」
「うんと・・・。例えば、最初会った時『ごめんなさい、陽子。今はまだ、私にはあなたに合わせる顔がないの』って、結構堅苦しかったかな」
「な、なんだそれ?」
昔の彼女と比べたら、想像がつかない。あの無邪気で優しかった彼女が、どうしてそのようになってしまったのか。
色々考えていると、俺は一人のとある人物が脳裏に引っかかった。
「・・・もしかして、前田の真似してるのか?」
「前田さんの?」
「ああ。前田もちょうど、そんな感じの話し方だった。上品で、上目遣いで、他の奴を見下してるみたいな。・・・もしかしたらあいつ、人に嫌われるようにしてるんじゃねぇのか?」
「あっ・・・」
西村がハッとする。確かに、俺との騒動の後だと考えれば、それとなく辻褄は合う。
「・・・まぁひとまずそれはいい。それで、俺の事は話したのか?」
「あ、うん。でも・・・」
西村は不安げな表情で、その時の様子を語り始めた。

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