Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

1.

20×7年現在 少し前、中田と久々に電話を通じての会話にて

≪・・・っていうかよ、つい話の流れでお前らの話聞いてたけど、俺はあの時の話を聞きたかっただけなんだが≫
受話器越しで、中田が眠たそうに欠伸をした。
「ああ、悪いな。ついどうでもいい話までしちまった」
あの日の出来事までの話をするつもりが、ついつい彼女との思い出話で盛り上がってしまった。気が付くと、時計は既に夜中の十一時を過ぎている。二時間も無駄話をしていたようだ。
≪っていうか、まさか七夕の日に告白されてたなんて思ってもいなかったぜ。その返事は返したのか?≫
中田が問うた。
「・・・ああ。返したぜ」
≪なんて?オーケーしたのか?≫
「ん・・・」
正直に言うか一瞬迷ったものの、どうせこの後話すことだ。ここはそのまま彼に話そう。
「・・・このナイフが、その返事だ、ってな」
≪・・・は?な、なに言ってんだ?≫
驚愕した様子で、中田が言った。
「そのままだ。あいつが、誰かに切られたって噂は知ってるだろ?それ、俺だから」
あっさりと俺が答えると、受話器からは何も聞こえなくなってしまった。通信が切れた訳じゃない。ただ、彼が喋っていないだけだ。
≪あの噂・・・本当だって言うのか?≫
「ああ。紛れもない事実だよ。犯人が言うんだからそうだろ」
≪お前・・・!自分で何言ってるのか分かってんのか!?人を切っただと?それも、自分を好きでいてくれた奴を?信じてくれていた奴をだ?バカ言ってんじゃねぇぞ!≫
ギリッと歯ぎしりらしい音が聞こえた。どうやら、彼の堪忍袋の緒が切れたようだ。それもそうだ。昔親友だった奴が、親しい友を切ったと言っている。当然のことだと思う。
「落ち着け。近所迷惑だ」
≪落ち着いていられるか!?っていうかテメェ!今更になってホントの事言いやがって!昔の事はもう過ぎたことだ、とかまさか言うまいな!?≫
「ホントの事を聞かずに避けてたのはどっちだ?俺は・・・俺は、ずっと誰かに相談したかった。でも、一番の親友だったお前が逃げちまっただろ?だから、あんなことがあっても俺を許してくれた、宇佐美と佐口だけが味方だったんだ」
≪ぐっ・・・。それは・・・≫
「和樹。改めて聞く。・・・今更だけど、本当のこと。聞いてくれるか?」
部屋に沈黙が走った。手汗で受話器が滑らないよう、ギュッとそれを握りしめ、彼の返事を待った。
≪・・・ああ、悪かった。分かった、話してくれ≫
「因みに、今からこの話をすると一時間コースになるけどいいか?」
≪お前・・・今この雰囲気でそれ言うか?≫
「悪いね、それが今の俺なんでね」
≪ふん。分かったから、さっさと話せよ≫
「へいへい。えっと、じゃあ話は七月九日からだな・・・」
再び俺は、彼へあの日の真実を話し始めた。
俺と彼女しか知らない、本当の事実を。

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