Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

Memory.11

七月 とある日の帰り道

暑い。とにかく暑い。
今年は梅雨明けも早く、灼熱の夏はもう目の前だ。
期末テストも終わり、部活の先輩たちの大会に向けた練習相手として、最近は毎日練習試合を行っている。
嬉しいことに、裕人と中田は、二軍のキーマンとして任命された。どうやら、二人の連係プレイを、監督が気に入ってくれたらしい。
幼いころからの仲ともあって、大体お互いに考えていることが分かっている二人には、今のところ同じ一年生には敵無しであった。
だが、二人には唯一欠点がある。それは。
「ふと思ったんだけどよ」
中田との帰り道。彼がふと口を開いた。
「ん、何?」
「コーチや監督に褒められたことはいいんだけどよ、俺らのどっちかがもし、怪我とかして試合に出られなかったら、どうなると思う?」
「あー、まぁ確かに。俺らは二人で一つみたいなもんだからね。多分、いつものようにはいかないんじゃないかな」
「だよなぁ。やっぱり、連携もいいけど、個人技も練習しないとダメだよな」
「まぁ、それがこれからの課題だね」
一足早く、ミシミシとセミが鳴いている。星空が綺麗な薄暗い夜道を歩いていると、またもや中田が口を開いた。
「そういえばお前、明月と上手くやってんの?」
「へ?な、何急に?」
唐突の話題に、思わず胸がドキリとなる。
「いや、だって。お前ら、そういう関係だろ?」
「そういう関係って・・・分かんないけど・・・。まぁ、仲良くやってるよ」
「んだよ、つまんねぇな。その調子じゃ、いつまでたっても変わんねぇぞ」
「いや、そんなこと言われてもなぁ・・・」
正直なところ、まだまだそういった感情をイマイチ理解できていない裕人には、今の心境をどう説明すればいいのかが分からない。
彼女の事は好きだ。だがそれは果たして、友達としてなのか、好きな人としてなのか。裕人には答えが出せなかった。
「そこでだ。そんなお前たちに、俺様が一ついいことを教えてやろう」
「は、いいこと?」
「ああ。今週の日曜日、何があると思う?」
「日曜日?・・・ああ、七夕祭り?」
「そうだ。そこで、お前が明月を誘う。そして祭りが終わりに近づいてきたら、二人きりになってそこで!告白する。どうだ?いいプランだろ?」
「は、はぁ」
そんなに簡単に説明されても。実際に実行するにはそれなりに度胸が必要だ。っていうか、本当に自分自身が彼女をそう言った目で見られるのかが分からないのに、告白なんてしていいものなのだろうか。
「なんだ、浮かない顔だな。なんなら、祭りだけなら俺と玲奈も付いてくぜ?」
「うーん、純粋にただ祭りを楽しみたいんだけど・・・」
「バカ野郎、せっかくのいいチャンスだぜ?これを生かさないことこの上ないだろう」
多分、最近覚えたであろう言葉を使いながら、中田が裕人の背中をドンと叩いた。
「な、やろうぜ?俺もサポートすっから」
「う、うーん・・・」
ということで、中田に無理やり告白させられることになった裕人は、日曜日にみんなで七夕祭りに向かうことになった。

七夕祭り当日
この時期の事を、初夏と言うのだろうか?気温は暑いのだが、肌に当たる風はまだ心地がいい。
ちょうどいいお祭り日和の中、裕人は四人の待ち合わせ場所へと走っていた。
「遅いよヒロー!」
既に集まっていた三人がこちらに気が付くと、さっそく心奈が口を開いた。
「ごめんごめん。向かってる途中で、すれ違ったおじいちゃんが転んじゃってさ。手伝ってたら遅くなっちゃった」
息を切らしながら裕人が謝ると、中田が腕時計で時間を確認しながら言った。
「ふむ、家を出る直前まで昼寝をしていて、起きるのが遅くなったと見たぞよ」
親指と人差し指を立てて顎に当てながら、格好つけている。
「え?本当?ヒロ」
それを聞いた心奈が、思わず裕人に聞き返した。
「・・・はい。その通りでございまする」
「もーう!バカ!」
心奈が頬を膨らませる。その何気ない仕草が可愛らしい。
「ま、説教は無しにして、さっそく行くとするか」
いつも通り、中田が先導する形で、一行は人ごみの中を歩き始めた。
前にも何度か中田と来たことがあるが、相変わらず凄い人盛りだ。道の左右に屋台が並び、その中央を幾人の人々がすれ違いを繰り返している。
「うわぁ、あの人綺麗だなぁ」
ふと、隣を歩く心奈が、後ろを振り向きながら呟いた。
「ん、どうかした?」
「あの人、浴衣が似合ってて素敵だなぁって思って」
「・・・ああ、ホントだね」
長身で、清楚な雰囲気の女性が、友人であろう女性と並んで歩いている。二人とも美人で、とても浴衣が似合っていた。
「明月は、浴衣着てこなかったの?」
「うん。っていうか私、浴衣持ってなくて・・・」
「あれ、そうなんだ。明月の浴衣姿、結構似合うと思うけどなぁ」
「そ、そんなことないよ!私なんて、あんまり身長高くないし、それにその・・・」
最後のほうは、ボソボソと小さい声でよく聞こえなかったが、多くの女性が気にしているであろう単語が聞こえたため、ここはあえて聞こえなかったふりをしておこう。
「まぁ、俺は小っちゃかろうが明月はいいと思うけどなぁ」
「そ、そうかな?・・・って!何よ!小っちゃかろうって!失礼ね!」
可愛らしい笑みを浮かべたと思うと、すぐさま顔を真っ赤にさせて、心奈はぷいっと顔を背けてしまった。
「あっ・・・」
―しまった、一生の不覚だ。彼女は小さいことを気にしているんだ。俺は何を言ってしまったんだ。
裕人は自分を呪った。
「ご、ごめんって!別にその・・・そっちの話じゃなくて・・・・」
「胸が小さくてごめんなさいね!いーだ!」
すっかり機嫌をそこねてしまった心奈は、裕人の隣から歩みだし、南口の隣へ移った。
―これ、本当に告白できるのかなぁ・・・?
前を歩く三人を見つめながら、深々とため息を吐いた。

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