Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

3.

20×7年現代 3月初週の日曜日

俺は昨日の夜。突然西村に呼び出され、彼女の友人である香苗のスイーツカフェへと案内された。
「で、何だ?話って」
とは言ったものの、聞かれることはどうせわかっている。俺は既に決意を固めていた。
目の前に座る西村は、いつになく真剣な眼差しだ。
「・・・中田君と玲奈から話は聞いたよ」
「ああ、それか。それなら和樹から聞いた。中学の事聞いたんだろ?」
「・・・話して」
「は?」
「話して。本当のこと。ヒロ君と心奈に何があったのか。私にも教えてほしいの」
何かを決心したかのような目だった。いつもの可愛らしい目ではなく、怖さこそ感じられる目をしていた。
「私は・・・。私は、ヒロ君なら心奈を任せられると思って、色々な思いを我慢して、やっと諦められたの!それなのに、久々に会ってみたら何よ、『最近は連絡取ってない』だの、『今はどうしてるか分からない』なんて。隠さなくたっていいじゃない!私達、友達でしょう?少しくらい頼ってよ!私だけじゃない。中田君や玲奈だって、二人に何があったのかハッキリ分かってなかった!どうして元の友達を捨てちゃったの!?今の新しい友達がいいから?それとも、距離を置くため?バカじゃないの?ヒロ君は、自分で抱え込みすぎなんだよ!そうやって一人で抱え込んで、いつまでもズルズル引きずって!見てるこっちも恥ずかしいよ!」
店内に、西村の罵声が響き渡る。幸い、俺達以外誰も客はおらず(というか、一時的に入れぬよう香苗に頼み込んでいる説もあるが)、耳にキーンと言う余韻がしばらく走っていた。
「・・・信じてたんだよ?ヒロ君の事。ヒロ君だって気づいてるでしょ?心奈が本当は無理して、頑張ってヒロ君や中田君と話してたこと」
「・・・ああ」
そう。分かってた。本当は、心のどこかで気づいていたんだ。人の性格が、パッとした出来事であれほど急変換できるわけがない。
彼女は彼女なりに、自分と触れ合おうと努力をしていた。まだ気弱かった俺に、いっつもくっ付いて力になろうと頑張っていた。
「男性恐怖症」
「・・・・・」
「心奈は小さい頃、精神的に大きいダメージを負った。男の人と話すどころか、近づくことすら怖がってた。いつも私の後ろにくっ付いて、一人じゃ何もできなくて、友達も作れなかった。私と違うクラスの時は、偶々玲奈が心奈と仲良くなってくれたからよかったけど、一人で帰ることすらできなかった」
昔話のように話す彼女の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「そんな時にね?ヒロ君に出会ったの。心奈、なんて言ったと思う?『カッコいい』だって。今まで、男の人に近づけなかった心奈がだよ?これはもう、諦めるしかないなって、その時にもう思っちゃった」
てへへと笑い顔を浮かべながら、西村が目をゴシゴシと擦る。
ゆっくりと深呼吸をして、鼻をすすった。
「中学生の時の心奈は、どんな風かは分からないけど、きっとすごい頑張ってたと思う。早く男の子と話せるようにならなくちゃって、無理してでも頑張ってたと思う。それを・・・」
たっぷりと十秒ほどためると、西村は俺に目を合わせて言った。
「それを、ヒロ君が壊した」
「・・・・・」
「どんな理由があったのかは分からないけれど、教えてほしい。なんで心奈を切ったのか。他に方法はなかったのか。どうして心奈だったのか」
溜め込んでいた言葉を吐き切ると、吹っ切れたように西村が涙を流した。
「・・・ごめんね、ちょっと言いすぎた」
「いや・・・いいよ。悪いのは、俺なんだし」
ざわざわと胸が騒ぐ。とてつもない罪悪感に侵され、思うように話すべき言葉が浮かんでこない。
次に会話が再開したのは、五分程経った頃だった。俺は、たっぷりと酸素を吸い込むと、ゆっくりと口を開いた。
「あいつは・・・心奈は、嫌がらせに合ってたんだ」
「え、嫌がらせ?」
落ち着きを取り戻してきた西村が声を上げた。
「ああ」
俺は全てを西村に話した。前田来実のこと。いじめのこと。助ける方法がなかったこと。
四十分程、延々とした話を終えると、西村が一つ、息を漏らした。
「・・・そっか。ヒロ君も、辛かったんだね」
西村が俯きながら言った。
「ありがとう、話してくれて。これで、スッキリした」
「ああ・・・」
かくいう俺も、他人に話したことで、少しだけ気持ちが軽くなった気がした。よく悩みは他人に打ち明けろと聞くが、本当に楽になるんだなと実感した。
「・・・ねぇ、ヒロ君」
「何・・・?」
「会ってみない?」
西村が、少しだけ笑みを浮かべた。
「は、会うって、誰に?」
胸騒ぎがした。その先は聞きたくなかった。その言葉を口にしようとしていることが、刹那に察し取れた。
西村は、決心を決めた表情でそう確かに言った。
「・・・心奈に」
しばらく店内には、店の外を走る車の音だけが響いていた。

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