Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~

たいちょー

2.

その日の夜

俺は自分の部屋のベッドで、無心に漫画を読んでいた。
特になにがしたいわけでもなく、特にすることもないから読む。これで読み返したのは八週目だ。流石にこれだけ読んでいると、ストーリーどころかセリフもある程度覚えてしまっている。
「ふぁあ」
大きく欠伸をして読み終えた漫画を閉じると、きちんと順番ごとに並べられた棚へと本を戻した。
「暇だなぁ」
ベッドの上に横になると、目をつむって一人呟いた。
ここのところ、いつもに増して物事のやる気が無くなっている気がする。気のせいで済ませばそれで済んでしまうことなのだが、なんだか無性に自分に嫌気がさす。
俺は、これに似た感情を前も抱いたことがある。
大切な人を守りたいのに、従うことしかできない自分。本当のことを言いたいのに、立ち向かえない勇気のない自分がもどかしい感情。
「・・・心奈」
ぽつりと呟いた。
彼女は今、どこで何をしているのだろうか?どこかでいつも通り、笑顔で過ごしているだろうか?それならそれで、俺はよかった。
「裕人ー。いるー?」
ふと、部屋の外から母の声が聞こえた。
「んあ?何?」
ドアが開き、受話器を持った母が言った。
「電話だよ。中田君から」
「は?中田?中田って、あの中田?」
「うん、あの中田君」
―何を、今更?
少しそんなことを思ってしまったが、突っぱねるのもおかしな話なので、仕方なく受話器を受け取った。
「もしもし」
≪よう、元気か?≫
受話器からは、前と変わらず、相変わらずの彼の声が聞こえた。
「まぁな。で、どうした?彼女にでもフラれて、すがりたかったのか?」
≪バカ野郎、玲奈とは今でも仲いいぞ≫
「そうですか。それはそれは」
ぶっきらぼうに答えると、俺は軽く息を吐いた。
≪・・・単刀直入に言うわ。西村に会った≫
「あ?西村に?」
≪ああ。あいつ、お前の隠してることをしりたくて、ずっと俺に連絡取れるように頑張ってたんだとさ≫
「あいつ・・・」
前に、佐口に言われた言葉を思い出した。
『いいんじゃない?別に言わなくても。今は今なんだし。彼女が気になるなら、どうせ今にも調べてるんじゃない?必死になってね』
正直に凄いと思った。やり遂げた西村も、それを言い当てた佐口も。
やっぱり女性は、やるときはやるんだなぁと、その行動力と勇気に感心してしまった。
「で、俺が話さないから、お前に中学の事を聞いてきたと」
≪そういうわけだ。一応言われる前に言っとくと、俺が知ってるお前のことは、全部話したからな≫
「そうか・・・」
別によかった。どうせいずれ、言わざるを得なくなるんだ。言う手間が省けたと思って良しとしよう。
≪・・・なぁ、聞いてくれるか?≫
「何を?」
中田が一つ、深呼吸をする声が聞こえた。
≪中学の時のこと。俺、あの噂を聞いてから、ずっとお前から逃げてたんだ。もしかしたらお前、変わっちまったんじゃないかって、怖くなってた。そしていつの間にか喋らなくなって、そのまま中学を卒業しちまった。本当に、申し訳ないと思ってる。すまなかった≫
「和樹・・・」
≪本当は、一番仲がよかった俺がそばにいてやらなきゃいけないのに、その俺が逃げちまったんだもんな。バカだよな、俺≫
中田が軽く笑った。
≪・・・教えてくれないか。何があったのか≫
「何を・・・今更」
≪中学二年の七月十三日の金曜日。お前は明月を学校の屋上に連れ出して・・・明月を切った。違うか?≫
「・・・惜しい。学校の屋上ってのは、どっかで噂の内容が変わっちまったんだろうが、場所だけ違う」
≪あ?じゃあどこだよ?≫
「俺たちだけの秘密の場所さ。でも、よく知ってるじゃねぇか。それ以上何を知りたいんだ?」
≪・・・前田来実まえだくるみ
「っ!」
≪前田とお前に、何かがあったんだと俺は考えてる。お前は、お前の意思で明月を切った訳じゃない。そうだろ?≫
流石は親友だった中田だ。俺の周りの情報をよく知っている。
「・・・仕方ねぇな。そこまで当てられたら、全部話すよ。こっちも気持ちわりぃしな」
≪っ!裕人≫
「んだよ、気持ちわりぃ。一回しか言わねぇから、よーく聞けよ?」
≪おう、どんと話してくれ≫
中田は咳払いをしてから言った。
「まずは中学一年の時だ。俺は・・・」
俺は大きく息を吸うと、中田に真実を話し始めた。

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